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創刊日:2000-08-22  
最終発行日:2018-06-22  
発行周期:日刊  
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日刊デジクリ[#4591] 個人の心より以前に普遍的な心があり、それは数学である

2018/06/22



        《このレポートは哲学的ゾンビの仕業かも》


■Otaku ワールドへようこそ![282]
 個人の心より以前に普遍的な心があり、それは数学である
 GrowHair


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■Otaku ワールドへようこそ![282]
個人の心より以前に普遍的な心があり、それは数学である

GrowHair
http://bn.dgcr.com/archives/20180622110100.html
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『シンギュラリティサロン #29』聴講レポート

名称:シンギュラリティサロン 第29回公開講演会
日時:2018年6月2日(土)1:30pm〜4:00pm
場所:グランフロント大阪・ナレッジサロン・プレゼンラウンジ
主催:シンギュラリティサロン
共催:株式会社ブロードバンドタワー、一般社団法人ナレッジキャピタル
講師:津田一郎氏(中部大学 創発学術院 教授)
演題:『創発インタラクション: ダイナミクスが生み出す知の可能性』

講演概要:IoT時代のヒトを取り巻く環境は熱浴的なものではなく複雑にネッ
トワーク化されたものです。このような複雑系である環境に対して適応的に働
きかけ情報を獲得するようなインタラクションとは何でしょうか。私たちは現
在、JSTのCRESTプロジェクトにおいてこの問題に多角的に取り組んでいます。

本講演では、プロジェクトの全体構成を概説し、特に私のグループで進行して
いる研究について紹介します。鍵になる概念は典型的には脳の機能分化に見ら
れるような拘束条件付き自己組織化で、これはプロジェクト全体の骨格をなし
ます。

拘束条件付き自己組織化理論とはシステム全体に拘束がかかった時にシステム
を構成すべき部品=機能成分が自己組織する仕組みを解明する理論です。これ
は従来の自己組織化理論がミクロな原子分子の相互作用によってマクロな秩序
構造が生み出される仕組みを解明することに対比して、マクロなシステムから
機能的なミクロを生成する原理の探求であると位置づけられます。その理論構
成と具体的な応用例を紹介します。

私たちはこの問題を解決することで、自身のシステムを機能分化させることで
環境に適応していくような知的エージェントが構成されるという見通しを持っ
ています。この意味において、私たちの研究は最近の神経回路網の学習理論を
取り入れた人工知能の研究と交叉するものであり、ヒトの意識や無意識の在り
方を深く考えるきっかけを与えてくれるものと考えています。

定員:100名+α
入場料:無料
https://s-salon-29.peatix.com/
聴講者:小林秀章(記)

【タイムテーブル】

13:30〜15:00 津田一郎氏(中部大学教授)講演
『創発インタラクション:ダイナミクスが生み出す知の可能性』
15:00〜15:30 自由討論

【ケバヤシが聴講する狙い】

シンギュラリティサロンにおいて津田一郎先生の講演が実現したことそれ自体
にちょっと感激している。初っ端からたいへんずうずうしい物言いになるが、
今回のは私が聴講しに行ったというよりも、私のために津田先生が講演に来て
くださったような感覚だ。

今回の開催に至る裏話については、イントロで松田先生が明かしてくださった
ので、ここにも書いておくと、私の働きかけが奏功してこうなったのである。

津田氏の講演を最初に聴講したのは、2018年3月5日(月)のことで、3月23日
(金)のこの欄でレポートしている。
http://bn.dgcr.com/archives/20180323110100.html

『脳領域/個体/集団間のインタラクション創発原理の解明と適用』と題する
この講演会は、JST CRESTに採択されたプロジェクトのキックオフシンポジウ
ムという位置づけである。5.5か年の計画のうち、最初の半年が経過した時点
で開催され、津田氏の率いるプロジェクトの構想がお披露目された。

「意識の謎」は根源的な問いであり、謎が深すぎてかねてより悶々としてきた
私だが、それと関係がありそうな研究テーマなので、ものすごく興味があった。
シンポジウムでは、津田氏からの概要説明に続いて、招待講演や、プロジェク
トを構成する各グループの代表者からグループ紹介があった。

津田氏が登壇した40分間では、プロジェクトの概要紹介が中心で、根源的な問
いにアプローチするための核となるアイデアに関する説明が駆け足になり、私
には消化しきれなかった。けど、今までに見聞してきたものとは異なる、何か
独特なものが感じられた。

後から、著書『心はすべて数学である』を読んでみた。タイトルからして超越
的な発想を感じさせるが、中身もやや突飛な感じのする言説がてんこ盛りだっ
た。もっとまとまった時間、話を聞きたい。

シンギュラリティサロンのスタッフでも何でもない立場から差し出がましいの
は承知しつつも、主宰する松田氏に、講演者としてどうでしょうかと提案する
メールを送ってみた。一方、津田氏には、講演していただけないでしょうかと
打診するメールを送ってみた。双方からいい返事がいただけた。

お二人とも京都大学で物理学を専攻されていて、富田 和久先生から教えを受
けていたりと、近いご縁があることが判明した。富田氏の最終講義の内容が記
録されていておもしろそうだが、まだ最後まで読み切れていない。
https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/92324/1/KJ00004774396.pdf

意識の謎に対して、津田氏は創発説の立場をとる。つまり、脳神経細胞ひとつ
ひとつに意識が宿っていなくても、それらのシナプス結合の階層的な構造から、
下位になかった性質が上位階層から立ち現れるというものである。量子論に立
ち入る必要はなく、ニュートン力学の範囲内で説明可能とする。

ただし、一定の条件を満たす構造が整えば、その上に自然に意識が宿るとする
ボトムアップの発想とは逆向きなところに特徴がある。「要素が相互作用して
システムができるのではなく、システムが働くことで要素が生まれてくると考
える」。

2018年7月9日(日)と10月21日(土)にそれぞれ大阪と東京で開催されたシン
ギュラリティサロンにおいて、金井良太氏(株式会社アラヤ代表取締役)から、
意識の謎について、数理的に表現された代表的な仮説が二つあることが述べら
れた。

ひとつは、カール・フリストン氏の「自由エネルギー原理」で、もうひとつは、
ジュリオ・トノーニ氏の「統合情報理論」である。後者では、意識の正体は、
情報を統合する機能にあるとしている。脳など、情報伝達のネットワーク構造
における、情報の統合性のよさを表す指標Φを定義している。

Φは、部分の総和からは説明しきれない、ネットワーク全体から生成される内
部情報量を表す。言い換えれば、創発の指標である。

津田氏の講演はタイトルに「脳領域」、「創発原理の解明」などの語が並ぶの
に、話の中身では統合情報理論にまったく触れられなかった。質疑応答の時間
が設けられたので、そこを聞いてみた。

すると、あえて触れなかったのだという答え。あれは底が浅いのだとか。津田
氏の構想は、どちらかというと自由エネルギー原理に近い、とのこと。この質
問が出ることを見越したかのごとく、前述の著書にも答えが書いてある。「ジ
ュリオ・トノーニは意識を数式で書くことができるといって、実際にその式を
示している。しかし、内実はただの記号の羅列にも等しく、ほとんど「寿限無
寿限無」と言っているのと変わらない印象だ」。もう、けちょんけちょん。

自由エネルギー原理とも統合情報理論とも異なる、津田氏のアイデアの骨格は
「拘束条件つき自己組織化理論」にある。「あるマクロな拘束条件があって、
この拘束条件を満たす形でシステムが組織されていったときに、そこに部品が
できてくる」。

例えば、自転車を例に取ると、タイヤ、ペダル、サドル、ハンドルなどの部品
を組み上げ、完成したことをもって初めて自転車として機能するが、これはボ
トムアップな過程である。鉄やゴムなどの素材に対して、外から「自転車とし
て機能せよ、せよ」と圧力をかけると、「じゃ、私はタイヤになろう」、「な
らば、私はペダルになろう」という具合に、機能分化が自主的に起きる、とい
うのが拘束条件つき自己組織化である。

もちろん、自転車に関してそんなことは決して起きないのだが、それはたとえ
の問題であって、脳の機能分化のメカニズムはそんな具合になっているらしい。

一般に「心」と言えば、個人個人にそれぞれ内在するものというイメージで捉
えられがちだが、津田氏は、それとは別に、誰に宿るかによらない共通項とし
て「普遍的な心」があるものと仮定している。この普遍的な心が拘束条件の役
割を果たし、脳を発達させ、脳活動を変化させ、結果として個人個人の中に心
が形成されていくと考える。「私の脳に宿るものというのは、どうやら最初は
他人なのではないか」。

普遍的な心の正体は数学そのものであるという。数学は心であり、心は数学で
ある、と。「抽象化された普遍心こそ、数学者が求めているもので、数学とい
う学問体系そのものではないか」。

「脳内がカオス」と言ったら、考えがとっ散らかって、まとまりがつかない状
態を思い浮かべるかもしれないが、津田氏の提唱する「カオス的脳観」は、そ
ういうことではない。例えば気象現象などのように、決定論的であるにもかか
わらず予測ができない運動があり、これをカオスと呼ぶ。

予測ができないのは、いわゆる「バタフライ効果」のせいである。「ブラジル
で一匹の蝶が羽ばたきすると、それがテキサスで竜巻を引き起こす」とたとえ
られる。現在の状態にほんのわずかな撹乱を与えると、その撹乱が与えられな
かった場合と比べて、その後の系の状態が大きく異なっていく現象をいう。

ニュートン力学の範囲内では、物理現象は時間に関する常微分方程式で記述さ
れている。「存在と一意性の定理」というのがあり、初期値が決まると、その
後の挙動が枝分かれすることはなく、一本道で決定づけられることが保証され
る。つまり、ものごとの進行は決定論的だということになる。

ビッグバンが起きた時点で、今日、私が昼メシにカレーパンを食べることは運
命づけられていたというわけだ。偶然や自由意志の入り込む余地など、まった
くない。

ところが、計算機でシミュレーションすることによって未来を予測しようとす
ると、非常にやっかいなことが起きる。計算の過程で、ほんのわずかでも誤差
が入り込むと、その誤差がどんどんどんどん拡大していき、本来の軌道から大
きく外れてしまう。

結果、まるで見当違いの未来予測をしてしまう。誤差ゼロで完璧な計算をしな
いことには、予測が成り立たないのである。とは言え、計算機の上で実数値を
無限大の精度で扱うことはできない相談である。気象現象がそんな具合になっ
ており、天気予報が難しいとされるゆえんである。

脳内でも、このカオス現象が起きているらしい。「脳の機能はカオスの存在に
よって現れてくる」という仮説を掲げており、これが「カオス的脳観」である。
「動物はカオスが生まれているときのみ記憶をしている」。

「たとえ決定論的であっても、そこにカオスが内在していれば偶然性
(randomness)が生まれてくる。つまり、自由意志が生まれてくる。脳の中に
カオスが生じることによって私たちの心に自由度が与えられる」。えええっ、
ホントですかい?

カオスを研究していると、どうしても無限との闘いに引きずり込まれるらしい。
その構造は、「ゲーデルの不完全性定理」と似ているという。この定理は、量
子脳説を唱えるロジャー・ペンローズ氏も引き合いに出している。ペンローズ
氏は、われわれの意識は計算的ではないため、通常のノイマン型の計算機の上
に実装することはできないという。

意識のメカニズムを説明するには、どうしても量子論を持ち出さなくてはなら
ず、しかも、まだ発見されていない物理法則が発見されてからでないと、完全
に説明しきることはできないという。津田氏が同じ定理を持ち出してきたのは、
これとは文脈が異なるようだ。しかし、意識の問題を論ずるのに、この定理を
絡ませてくる発想は、どこか天才的なものを感じさせる。

著書から伝わってきた津田氏の構想はだいたいこんなところだが、字面をなぞ
った程度のものにすぎず、中身の理解にはとうてい及ばなかった。今回の講演
を聴講することで理解が進むのではないかと、非常に楽しみにしていた。

アラン・ケイ(Alan Key)氏は次のように言う。「未来を予測する最善の方法
は、自らそれを創りだすことである」。続きを私が言おう。「未来を予測する
次善の方法は、自らそれを創りだしそうな人をウォッチしていることである」。
天才ウォッチ。

【内容】

□イントロ

今回、津田氏をお呼びした経緯について松田氏から説明があった。立ち上がっ
て軽くお辞儀したら、大きな拍手が起きてしまい、身が縮む思いであった。

「今回も天才をお呼びしました」。

□自己紹介?研究歴

京都大学で、富田和久先生に師事。

物理の中でも物性。物性の中でも統計力学。物理色が弱く、どちらかというと
数学。

熱力学の中でも、非平衡系に興味があった。平衡系の近傍ではなく、うんと離
れた領域。非平衡状態を保つには拘束条件が必要と言われていた。

1960年代当時、物理でカオスの理論がなかった。しょうがないので、数学から
入る。

決定論的な原理からでも、確率論的な現象が生じうることが分かった。逆に言
えば、確率論的な現象が起きているとき、ミクロな原理は確率論的である必要
はなく、決定論的であってよいということ。

カオスは摩訶不思議なものだ、ということで、のめり込む。

カオスは情報理論的にみると、どういう性質をもっているのか。情報を生み出
す源泉になりうるのか。

ここ20年ぐらいのことだが、数学者のGelfand氏の言葉に触発された。「適正
な言語としての数学」。数学は言語である。理論を記述する言語として普遍的
なものがある。どんな分野でも、筋道を立てて発展していくためには理論が必
要。理論を記述するための分野横断的な共通言語は必然的に数学にならざるを
得ない。

□脳とインタラクション

脳は孤立していてもある程度機能するけれど、基本的には外部とインタラクシ
ョン(相互作用)している。お腹の中にいるときから脳は孤立していなくて、
すでにインタラクションが始まっている。

ましてや、生まれてからは、インタラクションがどんどん活発になっていき、
外部とコミュニケーションを通じて、個々の脳が発達していく。それぞれの脳
が自力で発達して、それから相互作用が始まるのではない。

コミュニケーションがうまくいっているときは、発話者と聞き手との間で、脳
の同じような部位が発火している。

□作業仮説:心はすべて数学である

本のタイトルは『心はすべて数学である』となっているが、もともとは逆で、
「数学は心である」と考えていた。

数学は、物理学や化学や生物学や経済学などの下請けのためにあるのではない。
外界に何も現象が起きてなくても、数学は数学として成立する。内側にあるも
のが外へ出ていったものが数学である。自然言語に近いものがある。

個々の心が形成される以前に、普遍的な心というものがあるのではないか。そ
れは数学で表現できるのではないか。

普遍的な心が生物学的器官である脳を形成する。普遍的な心が個々の脳を通過
するとき、個々の心が生まれる。

脳科学では、脳の機能を明らかにしていけば、それが心につながると考えてい
る。つまり、脳の何らかの活動が心なのではないかと考えている。

最終的にはその通りで、脳の活動がわれわれの心を表現するようになるのだが、
そうなる前の発達段階においては、まわりからみんなの心の影響を受けている。

□カオスとは何か?

決定論的な運動であっても、本来の軌道に対してほんのわずかなズレが生じた
だけで、その後の軌道がどんどん離れていくことがあり、これがカオス現象の
ひとつの特徴になっている。ちょっとの違いが、時間経過にしたがって大きな
違いになっていくことを「拡大的」であるという。

逆に、本来の軌道に対して、ある程度大きなズレが生じたとしても、次第次第
に元の軌道に漸近していき、ズレの影響が解消されていくとき、「縮小的」で
あるという。

時間の進行にしたがって拡大的であるならば、時間を逆回ししたら縮小的にな
るのか? 時を遡って元をただせば、すべての軌道がたった一本の軌道に端を
発しているのが分かるのか? そうはいかない。カオス現象においては、どの
時刻をとっても、空間が拡大する方向と縮小する方向が同時にある。時間を逆
回ししても、やっぱり拡大と縮小が共存するのである。

縮めていた両腕をだんだん横へ伸ばしていくのと同時に、伸ばしていた首と足
をだんだん引っ込めていくような感じ。

ロバチェフスキー空間(双曲空間)を使うとカオスがうまく表現できる。非ユ
ークリッド空間。時間の正の方向にも負の方向にも互いに漸近する軌道の束が
存在する。

□ものを測るとは?

フラクタル次元について。詳しく説明するのを省略するので、ネットで調べる
なりして、もし分からなかったらメールをください、とのこと。

(ケバヤシ注)カントール集合のフラクタル次元については、Wikipediaの
「相似次元」の項に解説が書かれている。

□JST CRESTのプロジェクトについて

「脳領域/個体/集団間のインタラクション創発原理の解明と適用」。

半年間の準備期間を経て、3月にシンポジウムを開いた。そこで、セーラー服
おじさんに捕まった。

このプロジェクトがうまくいけば、創発インタラクションの原理をロボットに
組み込み、複雑な局面に直面したとき、その状況に応じてロボット内の脳に、
相当する部分が自主的に機能分化して、多様な状況に柔軟に対応できるように
なる。

作れるところまで到達できるかどうか分からないけど、少なくとも青写真まで
は持っていきたい。

課題提案:

1.システムに拘束条件がかかることで機能的なシステム部品が自己組織される
原理は何か?
2.人間社会において個より機能の優れた集合知が可能か?

これらを
・数学・情報科学技術
・認知科学
・社会科学
・脳科学等
の学問分野と連携し、
・人間理解
・社会デザイン
・構成論的アプローチ
の共創により解決していきたい。

□従来の自己組織化と拘束条件つき自己組織化

上記課題提案1.は自己組織化の問題だが、従来とは考え方が少し違う。従来の
自己組織化は、ミクロな要素の相互作用によってマクロな時空間秩序が起こる
という、ボトムアップの考え方だった。

一方、拘束条件つき自己組織化とは、システム全体に外部から拘束条件がかか
ることによって、内部の未分化な構成要素が自律的に分化していき、システム
の要素やサブシステムが形成されていくという、トップダウンの考え方をとる。

細胞に対して、外から物理的に引っ張ったり振動させたりといったストレスを
かけると機能分化することがすでによく知られている。ただし、万能性を発揮
するかどうかが難しいところ。余談だが。

この拘束条件つき自己組織化という現象を数学的にモデル化したい。そんな難
しいことができるのか、という話だが、成功例がいくつかある。

拘束条件つき自己組織化理論の適用例:

1.力学系ネットワークの進化ダイナミクスから要素としてのニューロンとニュ
ーラルネットが自発生成
2.振動型ニューロンネットワークの進化ダイナミクスから構造的に異なるモジ
ュールが分化
3.非シナプス性結合における同期する進行波解の存在条件の導出
4.レビー小体型認知症患者が経験する、複合型視覚性幻覚の神経機構解明に向
けて

上記1. 2.についてもう少し詳しく述べる。

□数学でニューロンを作る

実験室で、未分化な細胞を培地の上に置いておくと、だんだんニューラルネッ
トが形成されてくる。その過程で、それぞれの細胞が神経細胞などに分化して
いく。

やればそうなるが、どうしてそうなるのか、数学的な原理原則が分かっていな
かった。われわれは、この現象を数学のモデルで再構築したい。「数学でニュ
ーロンを作る」。

1次元離散力学系を取り上げる。離散と言っているのは、時間が自然数の値を
とるということ。通常の連続進行ではなく、クオーツ時計の秒針のごとく、ポ
ンポンポンポンと飛び飛びに時間が進行するモデル。

一方、状態は実数値をとる。初期値が決まれば、時刻1のときの状態が決まり、
それが決まると時刻2のときの状態が決まり、...以降のすべての時刻における
状態が順次、決定論的に決まっていく。

最初の例では、状態が1点に向かって収束していく。外から時系列的な情報が
入ってきても、それとは無関係に内部の状態が遷移するので、外から入ってき
た情報を内部に伝えることができない系になっている。

これではしょうがないので、外から来た情報を最大限、中に伝えられるよう、
そのように機能する要素を選抜せよ、という拘束条件をかけてみる。進化の過
程を経て生き残った力学系は、けっこう安定している。別のものに差し替えて
再進化させても、結局ここへ落ちつく。

この生き残った最強の力学系は、入力信号が閾値(しきいち)よりも高いか低
いかに応じて、パルス信号を発したり発しなかったりするという性質をもち、
これはニューロンの発火と類似の興奮性を示している。

つまり、外から入ってきた情報を最大限、システムの中に伝えようとするなら
ば、結局、ニューロンと同等の機能を呈する要素に分化せざるを得ないことが
示唆された。

□機能モジュールの生成

脳の機能分化を取り上げる。。脳というのは、後頭部が視覚野に分化していき、
側頭部が聴覚野に分化していき、前頭葉は言語野に分化していく。この現象も、
数学のモデルで記述したい。

脳のモジュール間の結合は非対称。前方送り(feed-forward)と後方送り
(feed-back)が対称的ではない。

ブロードマンの機能地図に示されているように、脳のどの部位がどんな機能を
つかさどるかは、普遍的に決まっている。遺伝子に書かれている設計図どおり
に分化していく。

最近判明したのだが、脳の機能分化は遺伝子に書かれているとおりに進行する
だけではない。今現在、与えられているタスクの状況に応じて、臨機応変に機
能分化する現象が確認されている。タスクを差し替えると、また違うところが
分化する。しかし、その原理や拘束条件は未解決。

これをモデル化したい。各要素のダイナミクスをある数式で定義した。モジュ
ール1とモジュール2の間の結合を最初はランダムに設定しておくが、ネットワ
ークが発展していくにつれ、ネットワークの中で機能モジュールが創発した。

□カオス的遍歴仮説

(津田氏の脳観の中心的な仮説なのだが)説明が長くなるので、飛ばす、と。
自分が気合いを入れて取り組んだところは、どうしても説明がディテールにわ
たりすぎて聞き手を退屈させてしまいがち。あえて割愛。

□心と脳のさまざまな説

1.心脳一元論

M1 観念論:すべては心である
M2 中性的一元論:未知の中性的実体が心と脳の物理現象に分かれて現れる
M3 消去的唯物論、行動主義:心は存在しない
M4 還元的唯物論:心は脳の物理的状態の集合に還元できる
M5 創発的唯物論:心は創発的な脳活動の集合である

2.心脳二元論

D1 心脳独立論(autonomism):心と脳は独立している
D2 同時並行論:脳の物理現象と心は平行的、同時的に生じる
D3 随伴現象論:脳が心を引き起こす
D4 精霊説:心は脳を制御する
D5 相互作用論:脳は心の基礎だが、脳は心によって制御される

津田氏の考えは、D5に割と近いとのこと。一方、現代の脳科学者は、だいたい
M4かM5の立場で研究していると思う、と。

(ケバヤシのコメント)

絶望的。実績ある著名な先生方が、基礎の基礎のところでこれだけばらんばら
んなことを言っている。ということは、われわれはまだ山のふもとにいて、ど
の山に登ったら宝が埋まっているか、ぐらいのレベルのことを言い合っている
ような段階だ。真相解明まであと300年はかかるのではなかろうかという気が
どうしてもしてしまう。

□統合情報理論について

ジュリオ・トノーニ氏は、意識に関する仮説として、統合情報理論
(Integrated Information Theory; IIT)を提唱している。ネットワークに対
して、意識の量を表すΦという指標を定義している。しかし、その数式は怪し
げで、意味をなしているようにはみえないという。

大泉匡史(まさふみ)氏らは、情報幾何学を使って、統合情報量Φとはこうい
うもんだ、と言っている。これは、けっこうちゃんと意味がある。結果がすっ
きりとまとまっていて、すばらしい。

大泉氏は現在、株式会社アラヤのマネージャである。かつて、ウィスコンシン
大学でトノーニ氏と同じ研究室にいた。また、トノーニ氏はアラヤの技術アド
バイザーも務めている。大泉氏の統合情報量は、理化学研究所在籍時代に提唱
したもので、理研のウェブサイト内に2016年12月7日(水)付で解説が掲載さ
れている。
http://www.riken.jp/pr/press/2016/20161207_1/

簡単のため、ネットワークの要素が2つしかない場合を取り上げる。脳神経細
胞が2つしかない場合に相当する。

時間のステップが1だけ進む際に、2つの要素が互いに影響を及ぼしあって、そ
れぞれが自身の状態を変化させる。
 x1:第1の要素の過去の状態
 x2:第2の要素の過去の状態
 y1:第1の要素の未来の状態
 y2:第2の要素の未来の状態
とする。ベクトル表記して
 X = (x1, x2)
 Y = (y1, y2)

とする。Xはネットワーク全体にわたる過去の状態、Yは未来の状態を表す。
過去と未来を合わせた確率分布を p(X, Y) と表記する。確率分布全体からな
る多様体の中で、p(X, Y) はある1点に相当する。

次に、要素1と要素2とが分断されて、お互いに連絡がない場合を想定する。
この制約の下での確率分布を q(X, Y) と表記する。先ほどの多様体の中で、
すべてのq(X, Y) からなる空間は部分多様体をなす。この部分多様体をMと表
記する。

この系の統合情報量を、p(X, Y) の q(X, Y) に対するカルバック・ライブラ
ー情報量の最小値によって定義する。

カルバック・ライブラー情報量(Kullback-Leibler divergence; KLdivergence)
は、2つの分布どうしが似ていない度合いを表し、0以上の実数値をとる。両者
が完全に一致するときに限り、値0をとる。エントロピーのディメンジョンを
もつ量である。

「KL距離」と呼ばれることもあるが、対称律が成り立たない(A地点からB地点
までの距離とB地点からA地点までの距離とが一般に等しくならない)ので、数
学的には距離の公理を満たしていない。

統合情報量を幾何学的に言うと、次のようになる。p(X, Y) から部分多様体M
に下ろした垂線の足を q*(X, Y) と表記する。すると、先ほど定義した統合情
報量は、p(X, Y) の q*(X, Y) に対するKL情報量に等しい。

トノーニ氏の統合情報理論をあれほどけなしていた津田氏だが、大泉氏の提唱
した統合情報量については、「ここまでやってくれればすばらしい」とほめて
いた。

(ケバヤシのコメント)

大泉氏とは、3月に一度だけお会いしたことがある。津田氏が講演で大泉氏の
研究成果を取り上げた件をメールでお伝えすると、返信がいただけた。「津田
先生からお褒めいただけたとのこと、大変嬉しいです」。

津田氏と大泉氏は、昨年初めて会っているという。お互いに好印象だったよう
だ。「津田先生とは機会を見つけて、また議論させていただきたいなと個人的
に思っているところです」とのことで。そんな議論をするなら、私はぜひとも
傍で黙って聞いていたい。シンギュラリティサロンで実現したりしないかな〜、
なんて。

【所感】

2時間にわたってたっぷり話を聞くことができ、しかも、話の内容が非常に密
度の濃いものであったため、得ることのできた情報量に圧倒されていると同時
に、ものすごく満足している。

カオス的脳観、拘束条件つき自己組織化など、津田氏独特の考え方をざっと眺
め渡すことができた感じがしている。

しかしながら、深遠な思想をちゃんと消化吸収するのは容易なことではなく、
納得感をもって自分の中に取り込めたかというと、かなり心許ないものがある。
情報が入ってきたというレベルにとどまり、ちゃんと分かったというレベルに
までは至ってないんじゃなかろうか。

このレポートを書いているのも、ひょっとすると哲学的ゾンビの仕業みたいな
もんで、実は機械的に要約しただけで、中身の理解をまったく伴っていないの
ではなかろうかと若干心配になっている。

マクロなレベルの理解としては、アトラクター間を渡り歩くというカオス遍歴
とは、結局どういう現象のことを指して言うのか、一番肝心なところがつかめ
ただろうか。

また、無限との闘いという感じも、ピンと来ていない。例えば、「今度、飲み
に行こうぜ」「いいよ、いつがいい?」「いつでも」といった会話において、
「いつでも」の候補は無限大であるけれども、それについて、特に困難性を感
じない。

無限集合において部分が全体に等しいとか、無限どうしでも、可算濃度や連続
濃度など、大小の違いがあるとか、それを示すのに使う対角線論法と同じロジ
ックをゲーデルの不完全性定理の証明にも使うとか、数学においては無限との
闘いがよく生じる感覚がある。選択公理もあるし。

しかし、日常においては、それに類する闘いを意識することはまずない。意識
にのぼらなくても、脳が機能分化する過程において、無限と闘っているのかも
しれないけど、その感じ、ちゃんと分かりたいなぁ。

おそらく同じことだが、脳のメカニズムを論じる文脈で、カントール集合やら、
ゲーデルの不完全性定理やらが持ち出されなくてはならない意味がさっぱり分
かっていないと言える。ちゃんと分かりたいなぁ。

「心」からくるイメージと「数学」からくるイメージとの間には、やっぱりも
のすごく大きな乖離があって、「数学は心である」あるいは「心は数学である」
というのが、どうにもこうにも突拍子もない感じがして、中々解消できない。

ミクロなレベルでは、津田氏の提唱する数理モデルについて、数式やロジック
を追う形で、中身をちゃんと理解できていない。こういうのは一般向けの著書
や講演ではどうにもならず、やはり、論文にあたらなくてはだめなのだろう。
じっくり向き合うべし。

その時間が取れるだろうか、というのが一方にあり、いやいや、オレの立場で
それをやらなくてどうする、というのが他方にあり、自分の中で妙なせめぎ合
いが起きている。

いずれにせよ、意識の謎について答えを知りたいという格闘の中で、津田氏の
深遠な思想とは、今後長いつきあいになりそうな気がしている。


【GrowHair】GrowHair@yahoo.co.jp
セーラー服仙人カメコ。アイデンティティ拡散。
http://www.growhair-jk.com/

週末、中国に行ってきた。こんな日程で。
6月15日(金)、成田から四川航空の直行便で成都へ。
6月16日(土)、成都でイベント出演後、新幹線で重慶へ。
6月17日(日)、重慶でイベント出演後、新幹線で成都へ。
6月18日(月)、成都から四川航空の直行便で成田へ。
次回あたり、レポートしたい。


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編集後記(06/22)

●出口汪「名言の真実」を読んだ。予備校の現代文の講義でカリスマ的人気を
博した人だという。よく見たら著者ではない。監修した人。三人のライターの
名前が奥付にある。「あの名言、ことわざ、格言の真相を暴く」と銘打った小
B6判で白いスペースの多い本。あ、そうだったのと感心したのは、47件中数件。

いい企画である。名言とは歴史的人物の発言や文章から、その一部を切り取っ
たものだが、ユーザーとしては名言の前後の文脈を知らずに、自分に都合よく
使っている。名言の出典、真の意味など知らない。どのような背景、経緯で生
まれたのか、知っておいて損はない。いや、かなり好奇心を掻き立てられる。

日本の偉人のざんねん過ぎる名言、世界の偉人のカンチガイされている名言、
真相を知ると仰天することわざ、誤解されそうなことわざ(日本編)、誤解さ
れそうなことわざ(世界編)、という4パートで構成されている。一つにつき
2〜4ページ。大事なところ太字(最近こういう構成の本が少なくない)。で、
文章は短くてもメリハリがきいて、読ませる、否、ふつうに平凡であった。

それでもまあ、初めて聞く真相もあって、読んでよかったとは思う。リンドバ
ーグ「翼よ、あれがパリの灯だ!」は、おそらく後世の創作。実際には、彼は
自分がパリに到着したことに気づいていなかったらしい。着陸してから、空港
の人に「ここはパリですか?」と訊いて、はじめてパリだとわかったらしい。

エジソンの「天才とは、1%のひらめきと99%の努力である」は、「99%の努
力」が強調されがちだが、彼が伝えたかったのは「1%のひらめき」の大切さ
である。「ひらめき」がなければ「努力」はムダという意味である。そだねー。
「健全な精神は、健全な肉体に宿る」の真意は「健全な肉体には健全な魂がな
かなか宿らない」ということで、皮肉である。「宿ればいいなー」ということ。

エドワード・ブルワー・リットンの「ペンは剣より強し」は、言論は暴力に勝
るという意味ではない。その前にある「真に偉大なる人物の統治の前では」と
いう言葉が省かれている。つまり「権力で暴力を抑え込める」という意味だ。
マッカーサーの発言とされる「老兵は死なず、ただ消え去るのみ」は、自分で
考えたのではなく、元ネタは諸説あるが歌の一節からの引用であるという。

1963年、人類初の女性宇宙飛行士・テレシコワが発した「私はカモメ」は、女
性らしいロマンチックな表現として人気を呼び、当時は流行語にもなった。実
際はヴォストーク6号のコードネームがロシア語で「カモメ」を意味する「チ
ャイカ」だったというだけである。彼女は当然の連絡業務として、「こちらは
チャイカ(かもめ)号」と言っただけなのだ。50年以上前のことである。

こんなかんじで、文字組みはスカスカだから四半時もあれば楽々読める。日本
編より世界編のほうが面白かった。47の参考文献が文末に並んでいる。イージ
ーな出版企画だ。誰かが名言を吐いたときに突っこんで、蘊蓄を垂れるのに有
効だと思うが、そういう人はぜったいに嫌がられると思う。やな奴。(柴田)

出口汪監修「名言の真実」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4093885990/dgcrcom-22/


●伯母は被災。ガスが止まり、おととい開通したとのこと。一番にお風呂に入
ったそう。

私が住んでいるマンションはオール電化。ライフラインが1系統なのはどうだ
ろうと迷ったのだが、阪神淡路大震災の時にガス復旧に日数がかかったと聞い
て、オール電化でいいやと思った。

弟からは卓上カセットコンロをもらった。使いたいこともあるだろうと。お鍋
の時に重宝している。懐中電灯はあるし、アロマキャンドルもあるので、明か
りはしばらく大丈夫だ。

それからポケモンGOで遊ぶ時、バッテリー消費量が半端ないので、モバイルバ
ッテリーは常に充電して持ち歩いている。家の中のものは、ほとんどエネルー
プで、充電済みの予備電池もある。

と、そんなこと書きたかったわけではなかった。私自身は何も影響がないと思
いきや、生協の倉庫が被災したとのことで、届かない製品がちらほら。地震当
日は、スーパーの棚がスカスカ。でもこれは買い占めじゃなくて、流通が止ま
っていて入荷されなかったからだそう。          (hammer.mule)

最新のコメント

  • 名無しさん2017-04-21 21:34:20

    もじもじトーク関口様

    こういう展示会が開催中らしいです。



    印刷書体のできるまで

    活字書体からデジタルフォントへ

    http://www.printing-museum.org/exhibition/pp/170311/

  • 名無しさん2016-09-16 23:13:55

    ヤマシタさん、いつも隔週の木曜日を待ち遠しく毎回拝読しています。200回おめでとうございます&おつかれさまです。シェアハウス・タイプII、とても面白かったです。ちょっと怖いミステリーで、でも救いがある(たまにないのもありますね)のはヤマシタさんの作風ですね。ぜひ続きをお願いします。次回ではなくて、次の次かその次かさらにその次でも。楽しみです。ワクワクします。

  • 名無しさん2016-03-25 23:56:21

    ヤマシタさん。いつも読んでいます。「招かれて花見に行った女の話」はとてもとても良かったです。ありがとうございました。拙宅の書棚にもあのような物語があるといいなと思いました。感謝です。KinokuniyaBookWebで検索しました。数学の本はすべて実在の本なのですね。

  • 名無しさん2016-03-25 23:53:17

    もみのこさん。ご復帰ですね! 2014年3月以来でしょうか、二年の空白があるとはとても思えませぬ、まったく同じ作風で、しかも全開バリバリ、たいへん楽しく拝読しました。次回もワクワクです。

  • 名無しさん2014-12-15 14:37:04

    べちおさんのコラム面白い!