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元外交官・原田武夫の金融史探訪 あなたの知らない、歴史の中からマネーを掴め!

ユーロ暴落の影に潜む知られざる構造とは?

2008/09/16

ユーロ下落を巡る諸説

欧州共通通貨「ユーロ」の暴落が止まらない。今年7月22日、ユーロは最高値である1ユーロ=171円を記録した。ところが、この原稿を書いている9月9日正午現在、1ユーロ=152円まで下落している。下落、いや「暴落」に近い現象だというべきだろう。

それではなぜ今、「ユーロ暴落」なのだろうか?専門家たちは口ぐちに言う――――曰く、第1にユーロは「米ドルに代わる金融資産」であるからだ。米ドルは今年3月から上昇の一途を辿っている。それに取って代わるようにここ1カ月半に下落の著しいのが、原油とユーロである。マーケット上で原油とユーロにこれまで流れていたマネーが、今や米ドルに移行しつつあるという見方である。

また、ある者は「欧州中央銀行(ECB)の在るドイツ経済が低迷しているからだ」と言う。ユーロ圏の中央銀行であるECBは、ドイツのフランクフルトにある。そのドイツでは、ここ数年にわたるバブル経済の後、今景気後退入りが懸念されている。いやもっと言えば、「既に景気後退が始まっている」と分析しているメディアすらあるくらいなのだ。他方、ドイツのシュタインブリュック財務相は「ドイツは景気後退局面にはない」と必死だ。しかし、いずれにせよ、ユーロ圏経済をリードするはずのドイツ経済が今や不安定な時期にあるのは事実であり、これがユーロ下落の一要因になっているというわけなのだ。

もっとも、これらの分析はいずれも的を射てはいるが、やや近視眼的なものだ。むしろここで、視点をずらして歴史の鑑を通して考えてみると、より根源的な原因が見えてくるのである。

ユーロを支えるのは良好な独仏関係

そもそも「ユーロ」は、1992年に結ばれたマーストリヒト条約によって、新しい欧州の枠組みとしての欧州連合(EU)と共に誕生した(ちなみに、それまでの欧州共同体(EC)は、経済共同体にすぎなかった。これに対してEUでは外交や軍事といった分野の協力体制も正式に含まれることになった。)。その後、1999年にはユーロ導入、そして現在ではユーロ圏は15カ国にまで拡大している。このユーロの発展を支えてきたのは、紛れもなくEUという枠組みである。では、そのEUという枠組みを支えてきたのは何かと言うと、何といってもEUの大国「ドイツ」と「フランス」なのである。

さらに歴史を遡ると、そもそもEUの前身は、ロベール・シューマン仏外相(当時)が提唱した「欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)」(1952年結成)である。この時、ロベール・シューマンは欧州における紛争の歴史を振り返りつつ、「欧州地域に平和をもたらすためには、まずドイツとフランスの対立関係を解消しなければならない」と主張したのだという。その上で、それまで繰り返し争いの元ともなっていた独仏の石炭及び鉄鋼資源を、共同で管理すべきという提案を行ったのだ。

その後、ECSCは欧州経済共同体(EEC)、欧州原子力共同体(EURATOM)と統合し、ECとなった。これがEUへと更に進化したわけだ。そうした拡大、発展の過程では、時に各国の足並みの乱れも見られたが、その中でも対話・妥結を繰り返し、前進してきたのである。そして1999年にユーロが導入されたことで、EUはますます団結したと言えるだろう。ところが、ここに来てEUの要と言うべき独仏間における対立が露呈する出来事が後を絶たないのである。

その一例が、サルコジ仏大統領が提唱し、今年7月13日に発足した地中海連合である。地中海連合構想は当初、EU加盟国でも地中海に面する国々のみを参加国としたものであり、肝心のドイツは含まれていなかった。サルコジ仏大統領は、ドイツ抜きでフランスとの関係が深いアフリカ及び中東への支援を強化し、自国の更なる影響力拡大を狙ったのだ。これに対し、ドイツが不満を爆発、EU内での対立構造が明らかになってしまった。

その後、サルコジ仏大統領は妥協案としてEU内すべての加盟国の地中海連合への参加を提案、地中海連合は何とか発足したのだった。しかし、その発足前後に、メルケル独首相はというとフランスと歴史的繋がりの強いアルジェリアと接近を図り、あたかもフランスをけん制する動きに出た。飛び散った火花は未だ余韻を残している。

また、独仏はエネルギー政策においても不協和音を生じさせている。フランスは、国家の総発電電力量の4分の3以上を原子力発電に依存している原子力大国。対するドイツは2002年に施行された法改正で、2020年までに国内にある全ての原子炉を停止することを決めている。フランスの原子力産業複合企業であるアレバはその傘下に原子炉メーカーアレバNPを抱えており、その株式はフランスのアレバ社とドイツのジーメンス社が仲良く持ってきた。しかし、2007年7月、例のサルコジ仏大統領は「ジーメンスの持つ約3割の株式をアレバが取得することで、フランス勢だけの巨大エネルギー企業を設立すべきだ」と主張したのだ。この突然の発言を脅威に感じたジーメンス社代表はメルケル独首相の下に駆け込み、訴えたといわれている(2007年7月21日付ラ・リーブル・ベルジック(ベルギー)参照)。

このように、一方ではフランスの利益を貪欲に追求するサルコジ仏大統領と、他方ではそれに対抗するメルケル独首相というパターンが幾度となく見えているのが現在のEUなのだ。こうした不安定さが頂点に達しつつある今、ユーロが崩壊の過程に入ったとしても決して不思議ではなかろう。

ユーロ暴落を予言する偽札の横行

このように、目先の「上げ」「下げ」から視線を下げ、欧州の歴史を振り返ることによってこそ、現在、ユーロを揺り動かす根本原因がどこにあるのかを知ることが出来るのである。こうした論点も含め、今後マーケットを動かすであろう主要な論点と最新の「世界の潮目」について、私は、9月20・21日に福岡・広島、10月4・5日に神戸・大阪・名古屋、10月18・19日に東京・横浜でそれぞれ開催するIISIAスタート・セミナー(完全無料)で詳しくお話できればと考えている。是非、お集り頂きたい。

ちなみに、ユーロといえば8月末、コロンビアにおいて約17億円分にも上る偽札が押収されたことが話題となっている(8月30日付毎日新聞参照)。ここで注意したいのが、偽札が大量に見つかることは、往々にしてその通貨の下落という「潮目」の予兆だということである( 原田武夫『北朝鮮vs.アメリカ――「偽米ドル」事件と大国のパワー・ゲーム』(ちくま新書)参照 )。たとえば、米ドルについては、今後の展開の中でドル安への急展開が見込まれるが、それに先立って精巧な偽米ドル(いわゆるスーパー・ダラー)が2005年頃より急に脚光を浴びてきた経緯があるのだ。コロンビアで発見されたユーロ偽造問題も、将来のユーロ暴落に対する仕掛けである可能性がある。そういった意味でも、現在ユーロは「潮目」を迎えつつあるのだ。

このように、歴史を分析するだけでも、今後のマーケット展開がここまで読み込めるのである。歴史的なシステム大転換を迎えつつある中だからこそ、そのことをとかく忘れがちな私たち=日本の個人投資家・ビジネスマンは、今一度、胸に刻み込んでおきたいものだ。


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著者:原田 武夫(はらだ たけお)

原田 武夫

1971年生まれ(36歳)。東京大学法学部中退後、外務省にキャリア外交官として入省。12年間奉職し、アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を最後に自主退職。その後、個人投資家の情報リテラシー向上を目的とした日本初の“private intelligence agency”「原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)」を立ち上げる(2007年4月に株式会社として設立登記)。現在、同社代表取締役をつとめる一方で、これまで合計16冊の著作を日本とドイツで刊行する。また、社会人や大学生を対象に無償の『情報リテラシー』セミナーを開講し、好評を博す。


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