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元外交官・原田武夫の金融史探訪 あなたの知らない、歴史の中からマネーを掴め!

実は“資本主義の先進国”だった戦前日本

2008/09/08

日本は“資本主義の後進国”だったのか

2007年5月1日、日本で三角合併が会社法上制定され、解禁された。「日本の商法の近代化」と銘打って鳴り物入りで行われた“金融ビッグバン”を含む規制改革。これは世間一般でもしばしば言われているように、実は米欧の“越境する投資主体”たちが日本人の国富をつかみ取りできるようにするための仕掛けなのであった。しかし、そうではあっても、いかにも“日本のため”であるかのような理由をつけてくるのが米欧勢である。対する日本といえば、「近代化」「自由化」と言われて、素直に従ってしまう。なぜなのだろうか。

とどのつまり、日本は経済大国といわれるほどまでに成長した今でも、欧米の資本主義制度に引け目を感じているところがあるのだろう。だからこそ、ちゃんと機能している国内体制に口を挟まれても、「もっと近代的なやり方がある」と甘い文句を囁かれれば、結局は応じてしまう。このようにして、“騙す米欧、騙される日本”という構造が出来上がってきたのだ。

他方、日本においても、ここに来てさすがにそのような現状を前に危機を唱える声が高まってきている。しかし、そんな今を生きる私たち=日本人にとってモデルとなるべき存在はいるのだろうか?

ここで、思い出さなければならないのが、何を隠そう、私たち=日本人自身がつむいできた歴史なのである。今から約60年前、外国勢の圧力にひれ伏すことなく、日本独自の方針を貫いた人物たちがいた。しかも、敗戦したばかりで米国=GHQの言いなりにならざるを得ない状況の中においてだ。

独自の電力再編モデルを貫いた松永安左エ門

その一人が、当時の日本で「電力王」と呼ばれていた松永安左エ門である。1910年に九州電気株式会社を設立して以来、九州をスタート地点としつつ東に向かって電力会社の統廃合を行い、やがて現在の9電力会社体制を作り上げた人物だ。ちなみに不思議なことだが松永安左エ門は、最初から電力に興味を持っていたわけではない。そんな彼がいかに「電力王」に君臨し、ついには戦勝国=米国=GHQと渡り合うようになったのだろうか。

松永安左エ門は慶応義塾に進学後、最初は株投資を行って小遣い稼ぎをしていた。このことからも、彼が学生だった1890年代の頃から、既に日本では立派な資本主義体制が整っていたことが分かるだろう。大学中退後、日本銀行に就職するが1年で退職。まずは相変わらず株投資や材木商、石炭業といった仕事で「儲けるための日々」を送っていた。しかし、松永安左エ門はやがて、利潤を追求するためだけの仕事よりも、社会の発展に繋がる仕事がしたいと考えるようになる。

その思いが適ってか、1909年、松永安左エ門は九州・博多の市電を経営する福博電気軌道の創立に参加。その後、電車を動かす「電力」に強く関心を抱くようになった。松永安左エ門は「この道」と決めるとすぐにでも動く人物だったようだ。翌年の1910年には九州電気株式会社を設立し、早くも広滝水力発電との合併を行っている。それから先、松永安左エ門は九州を中心に次々と電力会社を合併、次第に東方へと進出し、ついには九州・関西・中部・関東の電力会社を傘下におさめるに至ったのだ。今の言葉でいえば「M&A王」だろう。

そんな松永安左エ門の凄さを何よりも物語るのが、GHQとの交渉である。日本は戦前である1939年以降、ファシズム体制の“潮目”の中で、国家が電力をコントロールする「国家電力管理時代」へと突入した。松永安左エ門は健全な資本主義を守るため、「電力の国家管理などとんでもない」と猛反発。当然、政府は彼を抑え込み、敗れた松永安左エ門は中央財界から姿を消した。

しかし、戦後になってやってきた米国=GHQはこれぞ「独占だ」と問題視。国家の管理下にあった「日本発送電」とその傘下にあった配電会社を解散させ、地域ごとに発送電を一貫して行う電力会社を設立することを提案した。ところが、これに戦前日本の「国家管理」で甘い汁を吸っていた日本人たちが猛反発。事態は収拾しないかに見えた。

ここで復活したのが、孤高の人・松永安左エ門だ。松永安左エ門は、独自に「民営による地区別9社の発送配電一貫経営」という案を提示した。日本でこの案を唱えたのは松永安左エ門のみで、電気事業再編成審議会においても全くの少数意見であった。しかし、松永安左エ門はここで、GHQを直接説得しにかかったのだ。説得は数回に及んだ。最終的には、あのGHQでさえも「電力王」の前にひれ伏し、松永安左エ門の提案をそのままGHQポツダム政令として発したのだ。このように、松永安左エ門が戦前から進めてきた“健全な資本主義を守るべし”という哲学は、米国が口を挟む隙を与えないほど発展していたものだということが出来る。戦前の日本人は、既にそれだけ資本主義のことを知っていたのだ。

電力戦国時代の再来か

このように、戦前日本の資本主義史を駆け抜けた私たち=日本人の先祖たちは、資本主義の舞台で欧米各国と堂々と渡り歩いてきたのである。その日本の今を生きる私たちが、そうしたM&Aを受け継いでいないはずもなく、米欧に後ろ盾をされる筋合など、本来はないのである。この論点も含め、今後、激動が想定される“マーケットとそれを取り巻く国内外情勢”と、それを私たち=日本の個人投資家が考える際に必要な日本資本主義史のトピックについて、私は9月20・21日に福岡・広島、10月4・5日に神戸・大阪・名古屋でそれぞれ開催するIISIAスタート・セミナー(完全無料)で詳しくお話できればと考えている。ご関心のある向きは是非ともお集まりいただければ幸いである。

また、「IISIAマンスリー・レポート」では、松永安左エ門が中心となって現代の電力セクターが作り上げられた歴史を取り上げ、更にはその延長線上で現代日本における電力セクターを巡るポイントについても分析を施してみた。金融不安の際には、過去、常に動いているのがエネルギー・セクターである。中でも、筆頭格である「電力」は正に揺れ動きつつあるのだ。是非こちらもご参照願いたい。

ちなみに電力といえば、2008年1月に英国の投資ファンド、ザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンド(TCI)が、“電源開発”の株買い増しを経産省に申し出たことは記憶に新しい。しかしこの申し出に対し、経産省は日本の公益に危険性を及ぼすとして、中止命令を出した。これは日本政府が外資規制を強めた動きとして当時は捉えられた。「日本は外資を締め出そうとしている」と大騒ぎになったのである。

更に、より大きくエネルギー・セクター全体を見ると、「仙台市ガス」の民営化に伴い巨大な動きが見られることを御存知だろうか?2010年に民営化する仙台市ガスの買収に、東京ガスと並んで東北電力と国際石油ガスが手を挙げたのである。昨今では欧州における電力、ガス、水道など様々なセクターのエネルギー関連企業同士の大規模な買収劇が続けられている。ここに来てついに、日本においてもその流れが始まったのだ。

一見して電力セクターは安定感を保っているように見える。しかし、今後、このセクターへ外資勢が乗り込んでくることは、世界的なエネルギー再編という「潮目」の中で実は大いにあり得る話なのである。そのような中、新しい日本資本主義の神、“平成の松永安左エ門”が誕生する時はやって来るのだろうか?


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著者:原田 武夫(はらだ たけお)

原田 武夫

1971年生まれ(36歳)。東京大学法学部中退後、外務省にキャリア外交官として入省。12年間奉職し、アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を最後に自主退職。その後、個人投資家の情報リテラシー向上を目的とした日本初の“private intelligence agency”「原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)」を立ち上げる(2007年4月に株式会社として設立登記)。現在、同社代表取締役をつとめる一方で、これまで合計16冊の著作を日本とドイツで刊行する。また、社会人や大学生を対象に無償の『情報リテラシー』セミナーを開講し、好評を博す。


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