melma! トップ > あなたの知らない、 歴史の中からマネーを掴め!

元外交官・原田武夫の金融史探訪 あなたの知らない、歴史の中からマネーを掴め!

イランから石油を獲ってきた男・出光佐三を知っているか?

2008/09/01

なぜ私たちは「イラン」を知らないのか?

マーケットとそれをとりまく国内外の情勢をウォッチし、そこで織り成される「世界の潮目」を見ていてつくづく思うことが一つある。それは、マーケットについて流されている大手メディアによる報道と、物事の実際、あるいはこれからの展開との間の「ギャップ」である。もちろん、その全てが大手メディアに生きる人たちの悪意によると断言することは出来ないだろうし、間違いというのは誰でもあることだ。しかし、90年代末から始まった「IT革命」の中で、当時は猫も杓子もといったくらいにネット株取引をしていた日本人が、ここまでマーケットから遠ざかってしまった責任の少なからぬ一端は、このギャップに「騙された!」という強い憤りがあるのではないだろうか。

そう強く思い、私はある時から日本のマーケットとそれを取り巻く国内外の歴史的な人物像について、集中的に研究を始めた。なぜなら、動いて止まない「マーケットの今」にだけ目を奪われるからこそ、こうしたギャップに騙されてしまうのである。歴史は動かない。そこにどっしりと視点をすえれば、実は絶えず揺れ動くマネーの「潮目」ですら、確かなものに見えてくるのだから不思議なものだ。

この観点で、私が最近、もっとも気になるテーマの一つがイランである。間もなく任期を終えるブッシュ政権になって以来、すっかり「悪者」扱いされているイラン。しかしそのイランについて、「本当の悪者」であるかどうか、実は日本語の書籍だけで調べることは一般に極めて困難なことなのをご存知だろうか。なぜなら、現代イラン情勢について中立的な立場からまともな研究を行い、平易に書かれた本は日本に皆無だからである。

その一方で、マーケットでますます大きな役割を果すようになっているのが、原油価格である。その原油価格を左右している「大きな要因」として大手メディアが盛んに指摘するのがイラン情勢なのである。ところが、先ほども書いたとおり、私たちはイランという国のこれまでと、これからについて、ほとんど正確に知る術を持たない。―――これを“異様”と言わずして何だろうか。

イランから石油を獲ってきた男・出光佐三

実は、戦後日本にとって、イランほど大きな役割を果した国は無かったのである。それなのに、私たち=日本の個人投資家の頭からは、普通、そのことに対する記憶がすっかり消え去ってしまっているのだ。

時は1953年4月。敗戦から8年しか経たなかったころのことである。世界から見れば名も無き日本の弱小石油業者が、当時、「石油国有化」を盾に英国と大喧嘩していたイランよりタンカー一杯の石油を買い取ってきた勇気ある日本人がいた。男の名は出光佐三、現在も続く「出光興産」の“店主”である。

出光がもぎ取ってきた石油に対し、英国勢は直ちに裁判所の仮処分申請を求めた。日本で売りさばくな、それは自分たちの石油だからというのである。アングロ・イラニアン石油(現在のブリティッシュ・ペトロリアム(BP))は、イランのモサデク首相が打ち出した「石油国有化」を認めてはいなかったのである。ところがそのイランから出光が石油を買いつけてきたというのだから大騒ぎである。

今でこそ、落日の帝国などと揶揄されてすらいる英国であるが、戦前の日本人にとって、英国とは文明開化の教師であり、世界に冠たる「大英帝国」なのであった。現に日本が最初に同盟関係を結んだのは英国だったのである。ましてや、1945年に「敗戦」となってから間もない頃のことだ。その英国をバックとした英系石油メジャーを相手に大立ち回りを演ずる出光の姿に、当時の日本人たちが息を呑んだことはいうまでもない。

しかし、それでひるむ出光佐三ではなかった。戦前、朝鮮半島、そして中国大陸と、いたるところで石油メジャーによる暴利を貪る商売を目の当たりにし、対決してきた出光佐三にとって、それは「失われた戦争の続き」であり、必ず勝たなければならないものだったのである。用意周到に国際情勢を読み、とりわけ米国勢が英国勢によるイラン石油独占を突き崩そうと動いているとの真相をつかみとったことをきっかけに、一気に買いつけに繰り出したのであった。

そして、東京地方裁判所で出光佐三は、“大演説”をぶつ。―――「ぜひとも、日本人として恥ずることのない判断をお願いしたい」 結果として、アングロ・イラニアン側は提訴を取り下げ、出光は「勝利」する。

しかし、これには裏側で生じていた「潮目」があった。出光に石油を売ったモサデク首相が、英米の情報工作機関による合同作戦でクーデターに見舞われ、逮捕・拘留されてしまったのである。もちろん、その後、日本にとって悲願の「油田確保」への道のりがさらに遠くなってしまったことは言うまでもない。

そして不屈のニッポン企業家精神は今に引き継がれる

時代は変わり、状況は変わったとはいえ、こうして歴史を、学校で真正面から学ぶこともなく、ただひたすら、イランをめぐり大手メディアが発する“勧善懲悪”論を信じ込んでいる私たちは、本当に良いのだろうか。こうした論点も含め、今後、激動が想定される“マーケットとそれを取り巻く国内外情勢”と、それに対する私たち=日本の個人投資家のあるべき対処法について、私は、9月6・7日に東京・横浜、9月20・21日に福岡・広島でそれぞれ開催するIISIAスタート・セミナー(完全無料)で詳しくお話できればと考えている。ご関心のある向きは是非ともお集まりいただければ幸いである。

最近、「IISIA歴史叢書」でこのストーリーを取り上げ、米国が最近になって公開したインテリジェンス機関作成の文書などの研究もあわせ私の考えを記したことがある。その一冊を出光興産に献呈したところ、早速、天坊昭彦社長のお名前で御礼状を頂いた。それによれば、このイランから石油を獲ってくるという大胆不敵な出来事(「日章丸事件」)は、「事業を通じて社会に貢献・寄与していく」との同社の企業精神を世に知らしめた一つの証左として、長く社内で語り継がれてきたのだという。敗戦で打ちひしがれた同胞に対し、少しでも安い石油を供給し、同時に「経済戦争」で列強の鼻を明かすという出光佐三の企ては、今でも同社の血となり、肉となっているのだ。―――ここに、本当のニッポン企業家精神の真髄と、日本経済のあるべき一つの姿を見るのは私だけだろうか。


次の記事 >>最新の記事
ブックマーク: はてなブックマークに追加del.icio.usに追加Buzzurlにブックマークニフティクリップに追加ライブドアクリップに追加Yahoo!ブックマークに登録

著者:原田 武夫(はらだ たけお)

原田 武夫

1971年生まれ(36歳)。東京大学法学部中退後、外務省にキャリア外交官として入省。12年間奉職し、アジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を最後に自主退職。その後、個人投資家の情報リテラシー向上を目的とした日本初の“private intelligence agency”「原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)」を立ち上げる(2007年4月に株式会社として設立登記)。現在、同社代表取締役をつとめる一方で、これまで合計16冊の著作を日本とドイツで刊行する。また、社会人や大学生を対象に無償の『情報リテラシー』セミナーを開講し、好評を博す。


【新刊記念講演会開催】
IISIA CEO・原田武夫が、新刊を上梓します。
2009年1月17日“東京”、その他“大阪”“名古屋”で
「新刊記念講演会」を開催!
>> 詳しくはこちらをご覧ください
【IISIAの無料セミナー】
「2009年2月7日(土)“東京”」「2月8日(日)“横浜”」
2月下旬には、“大阪”“名古屋”で開催!
>> 詳しくはこちらをご覧ください
IISIA歴史叢書【IISIAのおすすめ教材】

元外交官・原田武夫率いる原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)の公式メルマガ。どこでも聞けない本物のマーケットとそれを取り巻く国内外情勢分析は必見です!気になるセミナーや社会貢献事業など、IISIAの幅広い活動を毎日お伝えします。
>>バックナンバー
規約に同意 

バックナンバータイトル


メルマガを探す


メルマガジャンル