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ドキュメンタリー映画の最前線メールマガジン neoneo

映画関係者必読のメールマガジン。プロデューサー、監督、評論家、映画館支配人など、さまざまな立場からこれからのドキュメンタリー映画を熱く語ります。

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ドキュメンタリー映画の最前線メールマガジン neoneo 174号 2011.9.1

2011/09/01

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 †01 ■ドキュメンタリー映画のかたち
       東日本大震災を撮影して―『大津波のあとに』制作の経緯(1)
         森元 修一
 †02 ■ワールドワイドNOW ≪ニューヨーク発≫
       アメリカの学校の未来  東谷 麗奈
 †03 ■ドキュメンタリー時評
       「全貌フレデリック・ワイズマン」を読む  水野 祥子
 †04 ■広場
     ■上映告知:「場外シネマシリーズ3
      轟轟烈烈!中国インディーズ・ムービー パート1:北京のざわめき」
      9/17 『老人』『この冬』(大津幸四郎さんのトークあり) 渋谷・光塾
     ■「自作を語る」などの原稿募集!
     ■上映の告知の有料化とカンパのお願い
 †05 ■編集後記  伏屋 博雄


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┃01┃□ドキュメンタリー映画のかたち
┃ ┃■東日本大震災を撮影して―『大津波のあとに』制作の経緯(1)
┃ ┃■森元 修一
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●撮影するまで

私は十代のころを静岡県で過ごし、東海大地震は明日来てもおかしくないと言われ
続けながら育ちました。
しかしそんな警告も繰り返されているうちに、心のどこかではそう簡単に起こるも
のではないだろうと都合よく楽観していた気がします。
いつ来るかわからない災厄だったら、くよくよして自ら気持ちをふさぐよりもいっ
そのこと忘れてしまおう。そんな心境だったかもしれません。

しかし、3月11日、東京の自宅で震災に遭遇したとき、これまで経験のない巨大な振
動の中にあって
「ついにその日が来た」という声が聞こえた気がしました。
「ずっと目をそらしてきたかもしれないが、もう元にはもどれない」。
そんな声を振り払うようにテレビまで走りスイッチをつけると、震源地は宮城県沖、
沿岸部は津波に注意
という第一報が流れています。
宮城県沖?それで東京がこんなにゆれたなら震源に近いところはどうなったんだ?
あわただしくチャンネルを変えながら目をこらしているうちに、やがて津波が
大地を浸食していく映像が中継され始めました。

家を、木々を、路上に連なる車を、そして人々を押し流していったあの禍々しく黒
い津波。
あっ、逃げて、はやく、はやく!テレビの前のそんなうめき声が届くはずはなく、
傍観することしかできないことの強烈な無力さにおそわれながら、同時に目の前の
映像がいまこの瞬間、地続きの大地で起こっていることだとは容易に実感できない
自分もいました。
目にしているもの、心で感じていること、頭のなかで考えていること、すべてがバ
ラバラで、認識のずればかりが広がっていく感覚のまま、それでもテレビから目を
そらすことができませんでした。

やがて宮城県石巻市にも甚大な被害が出ていることが報道されました。
これまで何度か訪れたときお世話になった民宿のご家族は無事だろうか。電話をし
ても通じることはありませんでした。三人の小さなお子さんたちを育てるご夫婦が
経営する居心地のいい宿でした。
その後の数日間、家にこもってテレビを見続けました。ネットのニュースを検索し
続けました。
震災による死亡・行方不明の方々の数が日々刻々と跳ね上がっていくなか、知り合
いの報道カメラマン、新聞・雑誌記者、フリーライター、テレビディレクターたち
が続々と被災地に入り、それぞれの視点、手段で発信を始めていました。
東京にいる私は相変わらずテレビやネットから情報を拾うしかない日々。石巻の民
宿とは相変わらず連絡が取れません。
自分の中にざわざわとした思いが蠢いているのを感じ始めていました。

そして震災から10日後、東京を出発しました。
仙台、東松島をへて石巻にいたる単独行でした。
道中、私はただ目の前の光景に打ちのめされて、言葉を失っていました。
もし同行者がいたとしても、交わす言葉を見つけられた確信はありません。
結果として一篇の映画というかたちになりましたが、東京を離れた時点ではドキュ
メンタリー映画を撮影するために被災地に赴くということは考えていませんでした。
そういうことが可能だとすら思っていませんでした。

『大津波のあとに』は3月23日から4月1日までの私が目にした被災地の風景と、そこ
で出会った被災者の方々の証言をまとめたものです。
試行錯誤の末、撮影順に編集された映像にはテロップもナレーションも音楽もない、
非常に簡潔なスタイルの映画になりました。
それは、あの巨大な地震と津波が人の住む世界にもたらした惨禍を効率的に情報化
したり解説することに躊躇と強い違和感を覚えたからでした。  (つづく)


■森元 修一(もりもと・しゅういち)
1970年鹿児島生まれ。自衛官だった父の転勤にともない静岡、沖縄などで育つ。東
洋大学印度哲学科卒業。
アニメ制作会社をへてフリーの助監督として活動。小林政広、サトウトシキ、瀬々
敬久などの作品に参加する。
『大津波のあとに』の上映はアップリンクで9月1日(木)と2日(金)、19時半から。
岩手県大槌町出身の大久保愉伊監督が被災した自らの家族と故郷を描いた『槌音』
と同時上映されます。
  http://www.uplink.co.jp/factory/log/004107.php 



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┃02┃□ワールドワイドNOW ≪ニューヨーク発≫
┃ ┃■アメリカの学校の未来
┃ ┃■東谷 麗奈
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今年も休暇をとらないまま夏が終わりそうだ。このところ多くの時間を割いている
のは、フィラデルフィアの学校でのトレーニングビデオの制作だ。テレビのドキュ
メンタリー制作の他に、教育機関や非営利団体のためにビデオを制作するのも会社
の収入源のひとつなのだが、実はこうした仕事をすると、アメリカの社会について
学ぶことがあり、おもしろい経験をすることがよくある。

私もこの仕事をするまでよく知らなかったのだが、アメリカには公立でも私立でも
ない半官半民で運営する学校というのが存在する。ことの背景はこうだ。日本と異
なり、アメリカでは貧富の差があまりに大きく、住む地域によって公立学校で受け
る教育の質に大きな差が出ている。つまり、低所得者層の多く住む地域の公立学校
での教育レベルが非常に低いのだ。一方で高所得者層の住む地域では、私学に通わ
せるよりも、むしろ公立学校でかなり高いレベルの教育を受けることができる。こ
れから子供を育てていく夫婦が、少し高い税金を払っても、よい学校に無料で行か
せられるからと、学校区を考えて住む地域を選ぶのはニューヨークではごく一般的
なことだ。どの学校区にある住宅かによって、家の不動産の価値まで変わってしま
うぐらいなのだ。

もちろん、日本でもどこの学校がどこの学校より良いということはある。それでも、
生徒の半数以上が中途退学し、その多くが犯罪を犯して刑務所に入ってしまうよう
な公立学校はないと思う。アメリカでは、地域によっては、そういった状況が冗談
ではなく存在しているというのだから、この国の公営の教育システムが破綻してい
ると言われているわけだ。低所得者はまともな教育を受けることもできず、中途退
学し、その結果いつまでも経済的に自立できないという悪循環を繰り返している。

こうした公立学校の行き詰まった状況を打開すべく、1992年から始まったのがチ
ャーター・スクールという半官半民で運営される学校だ。民間で立ち上げた学校が、
州の認定を受けて、公的な資金によって運営する。対象となるのは、小学校、中学
校、高校の全てである。民間経営で独自のカリキュラムを導入することができるの
で、私立レベルの質の高い教育を提供できる。そして公的資金で運営されているの
で、公立学校と同じように授業料は無料だ。つまり、私学と公立のよいところをそ
れぞれもらってできた学校システムというわけだ。

私達が撮影しているフィラデルフィアのチャーター・スクールは、2001年にあるビ
ジネスマンによって設立された。使命は、地域で最低のランキングにある公立学校
を引き受け、州の学力試験で大学進学可能なレベルにまで生徒たちのスコアを引き
上げることだ。校舎と生徒は同じだが、教員及びカリキュラムを一新することで大
改変が果たせるかという試みだ。結果は目を見張るものだった。わずか数年で、数
学の理解度を14パーセントから70パーセントに引き上げ、校内暴力が8割以上減少、
高等教育への進学率が100パーセントになった。まさに大改革だった。オバマ大統領
からも成果を認められ、テレビのトーク番組の人気ホストでチャリティ活動に積極
的なオプラ・ウィンフリーからも多額の寄付を受け、その数を次々と増やし、現在
は7校を運営している。今年も数校を引き取る予定で、百人を超える教員を新たに雇
うというから、この不景気にまさに破竹の勢いだ。

私達の撮影は、生徒たちが登校する早朝に始まる。フィラデルフィアの美しい町の
中心部から約20分ほど郊外に運転すると、やがて空き家や、塗装のはがれ落ちた古
い家が軒を連ねるような地区にやってくる。家の前の階段に、昼間から仕事のない
男性たちがたむろしていて、通りすぎる車を一台ずつじっと見ているようなところ
だ。そんな一角に立つ学校は、グラウンドもなく殺風景で、校舎も外観は薄汚れて
いて決して美しいとは言えない。しかし、一歩中に入ると、雰囲気はがらりと変わ
る。受付の女性の明るい笑顔で迎えられ、生徒たちのにぎやかな声が廊下に響く。
きちっと制服を着た生徒たちが、通りすがりに私達のカメラを見て満面の笑顔で元
気に手を振ってくる。ギャングたちもここに入ってきてはいけないという暗黙の了
解があるかように、学校が近隣で唯一の安全な場所を提供しているようだ。もっと
も、撮影準備が長引いて校舎を出たのが夜7時を過ぎただけで、学校の前に停めてい
た私達スタッフの車のガラスが割られていたぐらいだから、こうした学校の聖域が
保たれるのは、子供たちが校舎にいる限られた時間だけのことかもしれない。

いくつもの教室を訪ねて、授業風景を撮影していると気づくことがたくさんある。
何より、先生たちが圧倒的に若い。20代のエネルギーあふれる先生たちばかりだ。
ある小学校では、校長先生が30才になるかならずというから驚いてしまった。目標
は大学に進学すること、そのためには何の言い訳も許されないをモットーに、各教
室には、先生たちの出身大学のバナーが、そのまま生徒たちの目標のように掲げら
れている。生徒たちが積極的に参加することが求められ、居眠りをする隙がない。
姿勢が少しでも崩れ始めると、すぐに先生が気づいて注意する。小さなことに早く
気づいて修正することで、より大きな問題に発展する前に未然に防ぐという教育方
針だ。

しかし、決して扱いやすい生徒たちばかりではない。どのクラスにも、一人から二
人はアルファベットの文字すら読めない生徒がいる。注意が極端に散漫だったり、
すぐに感情的になって喧嘩を始める生徒もいる。片親の子供がほとんどだから、両
親が一緒に住んでいる生徒がむしろ珍しいぐらいなのだろう。親が刑務所に入って
いたり、兄弟がドラッグディーラーやギャングだったりという家庭の子供たちもい
る。それでも、そんな生徒たちがみんな行儀良く座り、まっすぐ前を見て真剣に勉
強をしている。何よりも、生徒たちみんなが生き生きとして楽しそうだ。先生が質
問をすると、先を争うように手を挙げて得意になって質問に答える。これまでどう
せだめだ、馬鹿だ、能力がないと機会さえ与えられなかった子供たちが、先生に褒
められてうれしそうな表情をしている。泥の中に宝石の原石がゴロゴロと転がって
いたのを見つけたような気分だ。

学校のスタッフが言った。小学校を引き取るのは比較的やりやすいが、中学や高校
の生徒を引き取り、教育方針を全く変えて一から教え直すのはかなりたいへんだと
言う。しかし、それでも機会を与えられて伸びることのできた生徒たちは、それま
で考えることもできなかった大学進学を実現して、家庭に自信と希望をもたらして
いるという。大学に進学すること、その先にあるのは仕事につき生活を向上させる
ことだ。教育レベルの向上が、犯罪の低下につながるという方程式に思わず納得す
る。

しかし、一方で比較的新しいこのチャーター・スクールの試みには、批判もたくさ
んある。先生たちは、 生徒たちの州学力試験の成績結果で評価されるため、公立学
校で長年働き収入を保証されていた教員たちは、20代の新米教師たちと同等に扱わ
れることを嫌って辞めてしまう。その結果、経験豊かな教師の数が圧倒的に少ない
のだ。また、公的資金が少人数制(一クラス25人)のチャーター・スクールに流れ、
公立学校に十分資金がまわらなくなる。チャーター・スクールに入れる人数には限
りがあるので抽選制でもれる生徒も多い。さらに、学校の外で、子供たちがさらさ
れる家庭や近隣での暴力や犯罪に対してのカウンセリングなどの取り組みはまだま
だされていない。自分自身が教育を満足に受けたことない親を相手にして、親の教
育への意識を変えることも、大きな課題だ。また、学力テストだけでは計れない子
供の能力にも、いずれは対応していかなければならない。それでも、このチャー
ター・スクールの試みは、改革のよい始まりであることに違いはない。

撮影の後、私達が片付けをしているときに、掃除のおばさんが話しかけてきた。彼
女は、学校がチャーター・スクールに引き取られる前、公立学校だった頃から掃除
婦として働いているという。小学校であるにもかかわらず、以前はトイレにはコン
ドームが落ちていて、校舎のあちこちがひどい落書きとゴミだらけだったそうだ。
生徒は授業中でも廊下を大騒ぎで走り回っていて収拾がつかなかった。それが、チ
ャーター・スクールに引き取られ、一体何が起きるのかと半信半疑だったが、同じ
生徒たちがみるみるうちに全く変わってしまった。生徒たちが教室で座って静かに
勉強している今の状況など、以前は全く考えられなかったという。彼女は学校の経
営者が変わったことで、まもなく掃除婦の職を失うとのことだ。しかし、この学校
の変化を実際に目にして、未来に希望を感じることができただけで満足だと語って
くれた。

この仕事では、全部で100本を超えるビデオを作ることになっている。もうあと一年
ほど続くプロジェクトだ。先は長いが、私達の作るビデオが、低所得者層の地域に
希望をもたらす大改革に使われるのだと思うと、頑張らねばと思うのだ。


■東谷 麗奈(ひがしたに・れいな)
先日、ニューヨークで地震がありました。地震にあったことのないアメリカ人の同
僚たちは大騒ぎでした。地震などありえないと思っていた東海岸ですが、油田や天
然ガス採掘で地中破壊を続けていることと何か関連があるのではと思ってしまうの
は私だけでしょうか。



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┃03┃□ドキュメンタリー時評
┃ ┃■「全貌フレデリック・ワイズマン」を読む
┃ ┃■水野 祥子
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8月の終わりに出版された本「全貌フレデリック・ワイズマン」に収録されているイ
ンタビューにおいて、ワイズマンはこう述べている。「わたしがやろうとしている
のは、アメリカ社会に広く共通している施設・組織を通し、アメリカ人の生活を見
つめることだ。アメリカ人の生活の万華鏡のようなものであり、さまざまなモザイ
ク模様や印象的なイメージが浮き上がってくる」(185頁) 幾度となく繰り返され
たであろうこの表現は、45年も同じスタイルで映画を作っている作家が、何度も繰
り返すことで研鑽された、自作を語るためのことばである。

これを読んで驚いたのは、「モザイク模様」という表現をワイズマンが使っている
こと。70年代に某る映画研究者がワイズマン作品の構造をあらわすのに使った批評
言語である。彼の作品を形容するのに大多数が使うシネマ・ヴェリテという表現を
「大げさ」と吐き捨て、「全貌フレデリック・ワイズマン」においては、自分が言
い出した「リアリティ・フィクション」という言葉すら「ジョークだった」と言い
のけてしまうところは苦笑した。当時は真剣だったに違いないのに、広く使われて
しまっている今日には冗談にしてしまうなど、狡猾きわまりない。他方では気に入
った批評家の表現はすっと取り入れ自作を語るのである。映画批評は無駄ではない
と思った。言い表すことの難しい映画を理解するためのことばを作り出してきてい
ることは確かである。

土本典昭・鈴木一誌編「全貌フレデリック・ワイズマン」(岩波書店)は日本で出
版された初のワイズマン本になった。612頁の冒頭を飾る長いインタビューも圧巻で、
興奮の連続である。思いがけない情報が宿り、率直で的確な表現が繰り返され、聞
き手と語り手二人の感性と知性を通した鋭い駆引きも見える。デビュー当時から
「アメリカ映画界きっての知性」と謳われ、自作の公開差し止めを妥協することな
しに三〇年以上争った人物でもあり、かたくなに自分のスタイルを貫く緻密な構成、
ブラックユーモアや皮肉が溢れる映画の作り手である。いかにインタビューそのも
のが大仕事であったかがうかがえる。インタビュアーである映画監督の船橋淳氏は、
各作品についての質問を画面から抜き出したような具体的な映像を挙げながら、と
きには否定もされ、あるときは逆に質問されながらも、堂々と自分の見解を述べて
おり、その結果、複雑な「モザイク模様」を紐解いてくれる、生きた映画の撮影現
場とワイズマンが見たアメリカ社会が抱える問題が明らかにされている。笑いがこ
ぼれるほど面白い部分もたくさんある。

第二章と三章を構成する各論考も、ここで紹介できないのは残念だが、映画批評は
もちろん、文学研究、文化人類学、法制史、生体心理学、舞踊研究など、さまざま
な専門分野の研究者から斬新な視点が提示されており、それぞれの論点は非常に刺
激的で明確だ。ワイズマンをアイドルと崇めながらも自作となると完全な距離を置
き、独自の主題、スタイルを確立した映画監督の想田和弘氏、エロール・モリスの
批判的文章も面白い。食事の席で、ワイズマンの息子からあんな退屈な映画を見る
のかと聞かれたモリスの前で、むっとしていた巨匠のエピソードも笑いを誘うが、
このエッセイには彼が長くあるべきと思う理由が述べられており、アプローチはま
ったく違うが「素晴らしい映画監督」と前出のインタビューでワイズマンが認める
次世代の作家の視点がうかがえる。

第四章は、ワイズマンと同時期に日本で映画を撮りはじめた土本典昭、久保田幸雄、
大津幸四郎の三氏の鼎談(ていだん)であるが、それぞれの立場や信条からワイズ
マン作品が分析され、彼等自身の映画やアプローチについても多くが語られており
大変興味深い。映画を見る人、連動する社会変革をクリアに想定し、同じ対象を情
熱的に長い、長い時間をかけて追って行った土本氏がワイズマン作品をどうとらえ
ているか、安易にワイズマンの真似をするなと言いたくなるという彼の分析を一読
いただきたい。編者であるのに、「この本にふさわしくない」と言ってしまう土本
氏のことばに笑いを誘われた。

この本には、すでに、ワイズマン作品のナレーション、字幕、音楽、インタビュー
の不在を一言であらわす「四無い主義」ということばが頻繁に登場している。私は
長い間ワイズマン作品に関する調査をしてきたが、英文でこの言葉にあたる表現は
みあたらなかった。日本で生まれた表現なのかはわからないが、新しい観客を前に、
この本と、来たるレトロスペクティブが起爆剤となって、新しいワイズマン作品を
語る言葉が生まれ、再評価が始まることだろう。多くの鋭い読みが展開されること
を期待してやまない。


■水野 祥子(みずの・さちこ)
映画研究。8年越しの「全貌フレデリック・ワイズマン」をようやく読了。自分が書
いた部分にはため息をつきながら赤ペンを握りしめてましたが、冒頭から浴びるよ
うにワイズマン映画、その他触れられている作品が片っ端から見たくなる本です。
鈴木一誌氏と岩波編集者の田中朋子さんの情熱に感服です。
  http://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/02/3/0258130.html 



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┃04┃□広場
┃ ┃■「場外シネマシリーズ3
┃ ┃  轟轟烈烈!中国インディーズ・ムービー パート1:北京のざわめき」
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ワン・ビンやロウ・イエだけじゃなかった! 2000年頃の中国で、映画のための表
現じゃなく、表現者がビデオカメラという新しい武器と出会って生まれた、挑戦の
跡としての作品たち。政府の統制に背を向け、個人の眼差しで映像を撮れる驚きの
中で、彼らは現代中国の何を見つめたのか? わたしたちの"映画"をくつがえす、
ビデオ世代が生んだニューウェーブ。中国の映画の独立=インディペンデントを、
ここに宣言する!
映画館ではかからない映画を上映する、場外シネマの第3弾をいよいよ開催します。

<日時> 2011年9月17日(土曜)
<会場> 渋谷 光塾(渋谷区渋谷3−27−15 光和ビル地下1階)
    http://hikarijuku.com/ 
<スケジュール>
13:00〜 『老人』
      中国/1999/中国語/カラー/ビデオ/94分
      監督・撮影・編集・製作:楊天乙(ヤン・ティエンイー)
90年代後半の北京の街の片隅で、毎日集っている老人たちをカメラが静かに見つめ
る。季節の移ろいを感じながら、戸惑いつつも変わらずに佇む彼ら。ジャ・ジャン
クー監督『プラットフォーム』出演の女優がはじめて撮った一作。

14:45〜 映画キャメラマン・大津幸四郎さんとトークセッション
近年、北京宋荘芸術村のドキュメンタリー映画祭に招かれ、前回の山形国際ドキュ
メンタリー映画祭でも中国の作家たちと交流を深めていた大津さんの視点を通して、
中国インディーズ作品に何が写し出されているかを語り合います。

16:00〜 『この冬』
      中国/2001/中国語/カラー/ビデオ/90分
      監督・撮影・提供:仲華(チョン・ホァ)
      編集・録音:向純(シァン・チュン)
北京の武装警察部隊の青年4人が、除隊を目前にしてそれぞれに抱える思いを、かつ
て同じ部隊にいたという監督が近い距離から写し出す。中国の一大国家組織の中に
いる等身大の"男の子"の姿と、カメラの介在が引き起こす感情を描く。

<参加費> 1500円(入れ替えなし・中国茶付き)
      *メールにて予約を受け付けます(特典付き!)

<WHAT'S 場外シネマ>
映画なのに映画館では見られない!レンタル店にもない!そんな劇「場外」作品と
その作家をピックアップ、参加者と共に映画を問い直す上映シリーズ企画。今まで
出会ったことのない表現に、新しい見方で向き合おう。不定期で出現します。

<主催> 場外シネマ研究所(中村のり子・佐藤杏奈)
     予約・お問い合わせ: jougaicinema@gmail.com 


     ◇────────────────────────◆◇◆    


■「自作を語る」などの投稿、歓迎!
「自作を語る」欄は、監督自らが作品について語るコーナーです。制作した動機や
撮影のポイント、編集で心がけたこと等を内容に盛り込んで頂きたいと思っていま
す。その他の投稿も歓迎します。「自作を語る」は1600字程度。監督のプロフィー
ル(150字)、作品のデータ、上映スケジュール、HP等をお知らせください。
原稿締め切り:配信日(1日&15日)の5日前までに、下記に送信ください。
E-mail: visualtrax@waltz.ocn.ne.jp  伏屋まで


     ◇────────────────────────◆◇◆    


■上映の告知の有料化とカンパのお願い
■伏屋 博雄(本誌編集長)

neoneoの購読は無料ですが、経費を(その大部分は稿料ですが)賄うため、上映等の
告知は有料にしています。なおカンパにもご協力くださいますよう、お願い申しあ
げます。

(1)上映等の告知料は、 40字×30行(行数の空きも計算)以内につき
3,000円(税別)です。それ以上の行数の場合は比例して加算します。
(2)カンパのお願い 一口2,000円。何口でも。

送金先:みずほ銀行小金井支店、普通口座、1211958 ビジュアルトラックス
(入金を visualtrax@waltz.ocn.ne.jp にお知らせください。)
以上、neoneoの継続ため、よろしくお願い致します。



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┃05┃■編集後記:伏屋 博雄(ふせや・ひろお)
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●東日本大震災直後から多くの映画人が被災地に駆けつけ、被害の状況や被災者の
様子をカメラに記録した(今なお継続している方もいる)。
今号から連載する森元修一さんもそのうちのひとりである。当初は石巻に住む知人
の安否を確認したくて現地入りしたのだが、そこは映画人魂に火がついたのであろ
う。カメラが回り始めた。
次回以降は、被災地で森元さんが目の当たりにした実態、被災者の様子や言葉を、
さらに撮影できなかった事柄を含めて率直に報告していただくことになる。なお、
大震災を記録した作品群は、今年のヤマガタで上映する企画が用意されている。

●これまで東谷さんの原稿を読むと、アメリカの未知の部分を気づかされたり、何
気なく素通りしていた事柄に再考を迫られることがよくあった。今回の「半官半民
で運営する学校」の存在も、低所得者層の子供にもレベルの高い教育を受けさせよ
うとする考えに基づいていて、学校のあり方に可能性を感じさせる文章である。問
題点も多々あるようだが、果敢に挑戦しようとするアメリカの優れた点を知らされ
た。

●今号から水野祥子さんには「ドキュメンタリー時評」の執筆者として健筆を奮っ
ていただくことになった。長らくアメリカで映画研究をされていて、本誌の「ワー
ルドワイドNOW」のロス発の担当者だったが、日本での生活を始められたことにより、
鞍替えしていただくことになったのだ。
これで「ドキュメンタリー時評」欄は萩野亮、中村のり子、桑垣孝平の3名に加えて
水野さんが入り、より一層充実した布陣でスタートすることになる。

さて水野さんの第1回目の「ドキュメンタリー時評」は、久しく望まれていた本、
「全貌フレデリック・ワイズマン」についての書評である。600頁におよぶ大部に
相応しい圧倒的な内容を備えた本であることが伝わってくる。編集には土本典昭監
督と鈴木一誌さんが担当されているが、土本さんは晩年に、ワイズマンの方法論と
の明らかな違いを口にしていた(それは批判的でさえあった)。
ワイズマンがインタビュー不在の立場を取ることに対して、土本さんは「もっと知
りたいからどんどん質問したくなる」と言っておられたが、両者の方法論の決定的
な差異を知ることは、ドキュメンタリーを考えるうえに、とてつもなく大きな示唆
を与えられるに違いない。

●中村のり子さんが「映画館ではかからない映画を上映する、場外シネマの第3弾」
として、中国インディーズ・ムービー2本の上映を準備をしている。
草の根的な運動は地道な努力に支えられている。



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創刊日:2003-09-01  
最終発行日:  
発行周期:月/2回  
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