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ドキュメンタリー映画の最前線メールマガジン neoneo

映画関係者必読のメールマガジン。プロデューサー、監督、評論家、映画館支配人など、さまざまな立場からこれからのドキュメンタリー映画を熱く語ります。

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ドキュメンタリー映画の最前線メールマガジン neoneo 159号 2010.12.15

2010/12/15

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 †01 ■ドキュメンタリー映画のかたち
       中国ドキュメンタリーの現在(5−最終回)  中山 大樹
 †02 ■自作を語る
       『友川カズキ 花々の過失』  小池 直人(プロデューサー)
 †03 ■ドキュメンタリー時評
       『極悪レミー』
     (監督:グレッグ・オリヴァー、ウェス・オーショスキー) 桑垣 孝平
 †04 ■広場
      ■書籍『踏み越えるドキュメンタリー』 12月22日刊行!
      ■neoneo「わが一押しのドキュメンタリー映画2010」
       アンケート大募集!
      ■「自作を語る」などの原稿募集!
      ■上映の告知の有料化とカンパのお願い
 †05 ■編集後記  伏屋 博雄


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┃01┃□ドキュメンタリー映画のかたち
┃ ┃■中国ドキュメンタリーの現在(5−最終回)
┃ ┃■中山 大樹
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●栗憲庭電影基金の仕事

この連載の最後に、私が働いている栗憲庭電影基金について紹介しておこう。
電影基金が設立されたのは2006年のことである。それまで個人でインディペンデン
ト映画の上映活動を行っていた朱日坤が、著名な芸術評論家である栗憲庭と出会い、
インディペンデント映画を支援するための基金を作ろうという話になったらしい。
中国の現代アートは作品の値が高騰し、バブルのようになっている。栗憲庭が一筆
書けば作品の値が跳ね上がるとも言われており、彼に近づこうとする人は多い。彼
はまだ芸術家たちが貧しかった80年代から90年代にかけての反骨精神に満ちた雰囲
気が好きだったが、今は売れるものばかりが作られるようになり、彼の周囲も金の
話ばかりになっていた。そんな状況に嫌気がさし、彼は北京の中心から遠く離れた
宋荘で静かに暮らしていた。そんなとき、いつまでも貧しいインディペンデント映
画作家たちの、力強い作品の存在を知ったのだった。彼は自分が住んでいた家を電
影基金の事務所として提供し、芸術家たちに寄付を呼びかけて運営資金を集めた。

電影基金の主な仕事は3つある。1つ目は年に2つの映画祭である。毎年5月に開かれ
る中国紀録片交流週(中国ドキュメンタリー映画祭)と、10月に開かれる北京独立
電影展(北京インディペンデント映画祭)がそれで、中国における非常に重要な映
画祭である。いずれも頻繁に日本の作品を紹介してきた。例えば中国紀録片交流週
では2008年に小川紳介回顧展を、2009年に土本典昭回顧展をそれぞれ行ったし、
2010年も原一男監督を招いて『ゆきゆきて、神軍』を上映した。日本贔屓な映画祭
と言えるかもしれない。映画祭で上映された作品の一部は、武漢や重慶、アモイと
いった地方都市でも巡回上映される。

2つ目は電影資料館である。優秀なインディペンデント映画を多数収蔵し、資料館を
訪れた人たちが無料で観られるようにしている。現時点での収蔵作品数は140本ほど
で、ドキュメンタリーが中心である。これほどのインディペンデント映画をまとめ
て観られるのは中国でもここだけとあって、海外の研究者もよく訪れる。多くの人
に作品を見せるという目的だけでなく、作家たちに収蔵費を支払うことで、多少な
りとも金銭的な支援をしようという意図もある。

3つ目は昨年8月から始まった電影学校である。観せるだけでなく、インディペンデ
ント映画の作り手を自分たちで養成してしまおうという試みだ。劇映画を撮ろうと
いう学生が多いが、授業ではドキュメンタリーについても教えていて、『長江にい
きる』の馮艶も主要な講師の一人である。今のところは30〜40日のワークショップ
が中心で、すでに6期生を迎えている。このような民間の映画学校は、私の知る限り
中国でここだけである。

これ以外に、臨時でさまざまな仕事が入る。例えば今年の大きな仕事のひとつだっ
たのは、ロッテルダム国際映画祭と共同で進めたアフリカ・プロジェクトだ。これ
はロッテルダム側が資金を出し、7人のアフリカ人作家たちを宋荘に滞在させ、それ
ぞれに短編を1本撮らせるというもので、我々は機材の提供からスタッフの手配、生
活の面倒にいたるまで何でもやった。出来上がった作品は来年ロッテルダムで上映
される予定である。劇映画もあればドキュメンタリーもあり、実験映像的なものも
ある。どんな作品に仕上がっているのか、とても楽しみである。

電影基金における私の肩書きは「運営総監」だ。なんだか偉そうである。ボスの朱
日坤は「芸術総監」。彼はいつも海外の映画祭を飛び回っていて、私はいつも留守
番だ。それ以外のスタッフは2人しかいない。こんなに仕事が多いから、みな土日も
関係なく、朝から深夜まで働いている。スタッフの給与はべらぼうに安いので、好
きでなければやっていられない仕事だ。

なぜ日本人の私がここで働いているかといえば、私は日本で中国インディペンデン
ト映画祭を開催するに当たり、朱日坤と知り合い、毎回宋荘の映画祭を見に来るよ
うになったことや、『日本国古屋敷村』や『不知火海』の中国語字幕の翻訳を手伝
ったり、日本人ゲストのアテンド役を務めたりと、電影基金の仕事に関わってきた
というのもあるが、実のところは誰も働き手がいないから手伝ってくれないかと、
暇だった私に声がかかったというのが正直なところだ。言ってしまえば態のいいボ
ランティアである。私はてっきり、ここにいれば浴びるほど中国のインディペンデ
ント映画が観られると目論んで引き受けたのだが、実際には忙しくてちっとも観ら
れていない。でも、中国におけるインディペンデント映画の中心地で、世界の人た
ちと交流が持てるのが面白いから良しとしている。来年春には東京で第三回となる
中国インディペンデント映画祭を開催する予定で、そのうち5本はドキュメンタリー
映画になりそうだ。中国にいて内部事情をよく知る人間だからこそできる、深くて
面白い映画祭にしたいと思っているので、是非ともご期待いただきたい。 (了)


■中山 大樹(なかやま・ひろき)
中国インディペンデント映画祭( http://cifft.net )代表。昨年の映画祭で上映
した『ジャライノール』が来年一月に一般公開されるのに合わせ、過去2回の作品の
一部がリバイバル上映される予定。



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┃02┃□自作を語る
┃ ┃■『友川カズキ 花々の過失』
┃ ┃■小池 直人(プロデューサー)
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●友川カズキとヴィンセント・ムーン

「ヴィンセント・ムーンが撮った友川カズキを観てみたい。」これはよく酒の席で
音楽好きの友人交わす会話の一部である。

ヴィンセント・ムーンとは、欧米のインディミュージックシーンで知らぬ者はいな
いと言われている人気のミュージックビデオ配信ウェブサイト “The Take-Away 
Shows”の設立者であり、これまでR.E.M.やモグワイ、アーケードファイアなど100
以上のミュージシャンのライブ映像を撮影しインターネット上でCC(クリエイティ
ブコモンズ ライセンス)公開している今話題のフランス人映像作家だ。

そう、これはよくある妄想話、酒のアテである。少なくとも2年前までは。

その頃は特にヴィンセントの映像と友川カズキの音楽を交互に見聴きするというの
が習慣になっていて、自分でもこれはもう病気だなと思い始めたのが2008年の夏、
そしてさらに病気は進行して「これだけ私が両者を愛しているのだから彼らもお互
いが好きになるに違いない」となり、結果、ヴィンセント・ムーンに友川カズキを
撮影してはどうかというぶしつけな内容のメイルを送ってしまったのだ。

彼からの返事がない間、私は親しい友人に、「もしヴィンセント・ムーンが友川さ
んに反応を示さなかったら、彼はそこまでのクリエーター」と嘯いていたりしてい
た。その後ヴィンセントから返事を受け取るのに少し時間はかかりはしたが、その
答えは“YES, I'm coming to Japan”であった。

2008年冬、当時渋谷にあったライブハウス“アピア”に友川カズキのライブを観に
行った時のことである。
終演後いつもどおり会場は居酒屋状態になり、宴会が始まった。
しばらくすると奥の方から、「小池さん!すごいね、あれ半端じゃないね!!」
と友川さんの声。すぐ「あれ」が何かがわかった。少し前に送ったヴィンセント・
ムーンの映像のことだ。
友川さんにとってヴィンセント・ムーンは正体のわからない外国人であったはずだ
が、その反応に「さすが友川カズキ、わかってるな!ゼロベースでモノを観ている
クリエーターだ!」と勝手に喜び興奮したのを覚えている。そして、それが実質的
に映画『友川カズキ 花々の過失』制作のGoサインであったのだ。

私は即座に当時ヴィンセントが居るN.Y.へ赴き、彼と今回の映画制作ために意見を
交わした。私が燃えている以上にヴィンセントも燃えていた。その1ヶ月後の2009年
2月、ヴィンセント・ムーンは友川カズキの映画撮影のために日本に降り立った。

ヴィンセントは川崎にある友川さんのアパートや競輪場などの友川さんの日常を、
さらにあらかじめ大阪で仕込んでおいた友川カズキのライブに同行し、その一部始
終を撮影していた。友川さんはヴィンセントがほとんど休憩を取らずカメラを回し
ているのを見て、彼の好奇心が尋常じゃないと驚いていたが、私が知る限りでも彼
は撮影の間、ほとんど寝ていなかったと思う。友川さんがライブ中そうであるよう
に、ヴィンセントもとにかく「必死」なのだ。お互い即興でどこまでテンションを
高められるか、彼らのセッションを目の当たりにして、演る方も撮る方も互いの魂
をぶつけ合っているようであった。

こうしてあっという間に約2週間の撮影を終が終わり、彼が帰国の途に着いてしばら
くしてメイルが届いた。そこにはこうあった。

「僕はとにかく友川から大きな影響を受けた。最初はミュージシャンを撮るつもり
で日本に来たけど、それは間違いだった。友川カズキという類い稀にみる人間に出
会ったよ。」

病気が幸いすることもある。

☆『友川カズキ 花々の過失』
(日本・フランス/2009年/カラー/日本語(英語字幕)/デジタル/70分)
監督・撮影:ヴィンセント・ムーン、プロデューサー:小池直人
出演:友川カズキ 配給:花々の過失制作委員会
コペンハーゲン国際ドキュメンタリー映画祭2009最優秀賞(「音と映像」部門)
公式ホームページ: http://www.lafautedesfleurs.com/j/ 

12/18(土)〜新宿・K’s cinemaにてロードショー、
2011年1/2(日)〜名古屋シネマテーク、1/22(土)?大阪・第七藝術劇場、
1/22(土)〜京都みなみ会館にて順次公開

■小池 直人
1973年大阪生まれ。2005年に脱サラし、それまで趣味であった音楽制作を開始。プ
ロデューサー。
現在映画『友川カズキ 花々の過失』のほか、CD「序破急」(フランス人チェロ奏者
ギャスパー・クラウスと11人の日本人ミュージシャンのコラボレーション)が進行
中。



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┃03┃□ドキュメンタリー時評
┃ ┃■『極悪レミー』
┃ ┃■桑垣 孝平
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このドキュメンタリー映画の題材となるのは、レミー・キルミスターというロック
ンロール・ミュージシャンである。1945年12月24日イギリス生まれのレミーは、
ベーシスト兼ヴォーカリストとして参加していたバンド・ホークウィンドを、ドラ
ッグの所持容疑で逮捕されてクビになった後、75年に、彼のキャリアにおいて最大
の認知を得ることとなるバンド・モーターヘッドを結成し、様々なアーティストに
少なからぬ影響を与えながら、現在に至るまでその音楽活動を継続している。原題
”Lemmy: 49% Mother F**ker 51% Son of a Bitch”、邦題『極悪レミー』とある
ように、一度聞いていただく他に伝えようのない、うるさくて、速くて、武骨なそ
の音楽性と共に、数千人の女性を抱いたといった「伝説」や、覚せい剤の使用など
から、レミーのパブリック・イメージは所謂「セックス・ドラッグ・ロックンロー
ル」に徹するものであり、覚せい剤使用者/バイクマニアといった意味合いのある
モーターヘッドというバンド名にも、そのイメージが素直に反映されている。今年
のクリスマスイブで65才になるにも関わらず、彼の音楽性は変わらず維持され、そ
うしたパブリック・イメージも健在である。鑑賞する際は、そんな「ロック」なレ
ミーが示されるものと期待し、事実ライブ映像などがその期待に存分に答えるので
あるが、映画『極悪レミー』は何にも増して、愛についてのドキュメンタリーであ
った。

局地的な事柄で書くことがためらわれるけれども、公開から数日たった12月8日、シ
アターN渋谷で同映画の開場を待つ観客の風貌――ビス打ちのレザージャケット、破
れた黒のタイトジーンズ、髑髏のモチーフ、ピアス、髪型、ドクターマーチンの
ブーツ等々――は、さながらライブハウスにおける転換時のフロアーのようであり、
この点を書き逃しては映画『極悪レミー』について大きなものを失ってしまうよう
に思う。映画館に集まった観客は、劇中に映しだされるヘルシンキやベルリン、或
いはモスクワでのライブに赴くファンたちと変わらず、レミーを見るのであればそ
れが映画館であれ「正装」で赴き、レミーと彼の音楽に対する敬愛を示すのであり、
このレミーの「ファン」として愛は、ライブ映像やレミーの日常と並んで重要な位
置を占めるインタビュー群において、それを受ける豪華なミュージシャンたちとも
確かに共有され、この映画を支えている。

故に、インタビューにおける彼らの言葉は、レミーに対する愛で溢れている。
「ラーズは気持ち悪がられて吐かれるくらいレミーの背中を追い続けたんだ」(ジ
ェームズ・ヘッドフィールド/メタリカ)、「“レミー”という言葉は“わが道を
行く”という意味の動詞」(ラーズ・ウルリッヒ/メタリカ)、「モーターヘッド
は俺たちガンズの目標だった」(ダフ・マッケイガン/ガンズアンドローゼズ)な
ど、彼らがレミーについて語る時、それは愛の告白に似てくる。グラミー賞を9回受
賞し十分なキャリアを築きあげているバンド・メタリカとレミーの共演はこの映画
の見どころの一つである。映画の前半に、レミーの通っていた学校の生徒がまだ初
心な声をレミーのようにハスキーにして、それでも少し緊張しながら、モーターヘ
ッドの代表曲“Ace of Spades”をピアノで弾き語るシーンがあるが、レミーに対す
るこの純粋な憧れが、レミーと共演するメタリカのメンバーたちの向こう側にも感
じられるのだ。

3年半をかけてレミーを追った、グレッグ・オリヴァー、ウェス・オーショスキー両
監督のまなざしにもこうした愛がある。音楽誌での仕事を通じてレミーに熱心なイ
ンタビューもしたことがあるオーショスキーに対して、オリヴァーはレミーの大フ
ァンという訳ではなかったようであるが、撮影を通じて変化した思いについてイン
タビューでこう語っている。「レミーに限らず、これだけ長くアーティストといっ
しょだと、大嫌いになるか大好きになるか、どちらかなんだ。以前1年半追って大嫌
いになったアーティストもいた。でもレミーは音楽も人間としても大好きになった。
面白くて、スマートで、優しくて、極悪なロックンロールスターなんだ」(「シネ
マトゥデイ」、11月12日)。両氏のカメラがレミーと築こうとする関係は、決して
緊張感のあるシリアスなものではない。その関係には、ユーモアの介在する余裕が
あって、素朴で、素直で、言わば日常にありうるフレンドシップとも呼べそうなも
のだ。

それは、例えば、“生ける伝説”レミーではなく、彼の日常的な姿が、この映画に
おいて強調されているところにうかがい知ることができる。暗い室内でぼうっと光
るテレビ画面を見つめながら、レミーがひとりシューティングゲームに興じている
シーンからこの映画は進み始める。小腹が空いたのだろうか、次のシーンではゲー
ムを中断し、レミーがキッチンでフライドポテトを作っている――「極悪」なレ
ミーがこの映画で最初に見せる在り方は、セックス・ドラッグ・ロックンロールで
はなく、テレビゲームとフライドポテトなのである。彼の音楽を一度聞いてから鑑
賞すれば、冒頭から何とも可愛いらしいものを見てしまったという気になるはずだ。
このシーンに留まらず、レミーがビートルズのリマスターCDボックスをレコード屋
で探すシーンや、店員曰く「ツアーをしていない時はずっといる」カフェバー・レ
インボーでウィスキーのコーラ割を飲みながらゲームをするシーン、或いは貰った
プラモデルをいじるシーンなどは、中立的な視線で以てレミーを捉えるというより
も、「人間としての」レミーの愛おしい部分を見つめているといった感じであり、
そこでは「大好き」という精神的なコミュニケーションが優先していて、カメラを
通して両氏がレミーに投げかけるまなざしが、ファンのそれと重なり合っている。
予備知識のない観客に対して閉じているように聞こえるけれども、愛おしさに支え
られたその視線から排他的なものは感じられず、音楽より以前に、人間としてのレ
ミーに関心を抱かせるように観客を誘う。

なぜ、レミーはこうも多くの人に愛されるのだろうか。その音楽については、繰り
返しになるけれども、書けば書くほど野暮になるだけだと思うので、一度聞いてい
ただくしかない。が、彼自身が愛に溢れた人間であり、そこに魅力があるのは確か
なことだ。映画を通して示される彼の愛は、まずは音楽に対するものである。レ
ミーは16才の時にビートルズのライブを見て、彼らのファーストアルバムに併せて
ギターを練習したそうだ。正しく引用できないけれども、映画のはじめの方で、ラ
ジオにゲストとして呼ばれたレミーは、「もっとも影響を受けた音楽は何か」とい
う趣旨の質問に対して「二十歳くらいに聞いた音楽はいつになってもいい」と答え
ていた。カントリーミュージックのコーラスに対して「泣ける」と言及するシーン
もある。「極悪」と冠の付けられるレミーは、リトル・リチャードやエルビス、そ
してビートルズを好きで、その思いは今も変わっていないのである。そんな彼の音
楽に対する態度は誠実そのものであり、結成以来コンスタントに楽曲を製作し、必
ず「ウィー・アー・モーターヘッド」という自己紹介で始まるライブ活動も、怠ら
ない。

45年生まれの彼はまた、60年代、70年代を生き抜いたミュージシャンでもある。革
命の60年代後半、音楽の世界ではサイケデリックが花開いた。この映画に少し先だ
ってドアーズを題材とした『ドアーズ/まぼろしの世界』が公開されたが、時代の
寵児であったドアーズのフロントマン、ジム・モリソンは27才の若さで死に、レ
ミーがローディをしていたこともあるジミー・ヘンドリックスもまた同じ年齢で死
んだ。音楽とドラッグの関係は70年代に入っても続くが、モーターヘッドと同じく7
5年に結成されたパンク・バンド、セックス・ピストルズのシド・ヴィシャスもまた
21才の若さで死んでしまう。彼らと同じく、或いはそれ以上にドラッグと親しかっ
たレミーは、自らが生き残った事を劇中で「ラッキーだった」と語るが、彼が決し
てヘロインに手を出さないことをファンは知っている。60年代、70年代に音楽に携
わるということは、音楽に対する愛と同時に、生きることに対する愛を豊穣するこ
とでもあったのだろう。劇中で紹介される彼の収集癖や愛好家的な側面――第一次
世界大戦関連の物や、ナイフと剣、或いはマルボロとジャックダニエル、そしてフ
ァンからの贈り物――からは、今あるもの=生きることに対する愛が感じられ、
「一番大切なものは?」という質問に対して「息子だ」と答えるレミーに至っては、
夭折のロック・スターたちと同じくらい理由もないのにかっこよく、惹かれるもの
があった。

レミーを愛するファンたちと、インタビュイーたちと、音楽と生きることに対する
レミーの愛が、監督の等身大なまなざしと素直な方法によってこの映画に統合され
ている。『極悪レミー』を通して浮かび上がる「人間として」のレミーに、ファン
である人も、そうでない人も、生を肯定する態度を学べるはずである。“Ace of 
Spades”において、“I don’t wanna live forever”と歌う時、レミーは「今、こ
こ」を全面的に愛しているのだ。


☆『極悪レミー』(117分/2010/アメリカ) 
監督:グレッグ・オリヴァー、ウェス・オーショスキー
公式ウェブサイト: http://www.lemmymovie.jp/top.html 
監督インタビュー: http://www.cinematoday.jp/page/N0028357 
         (シネマトゥデイ)
シアターN渋谷、名古屋シネマテーク、シネ・リーブル博多駅などで公開中。2011年
からは各地で順次公開。
詳しくは公式ウェブサイトをご覧ください。


■桑垣 孝平(くわがき・こうへい)
87年生まれ、早稲田大学文化構想学部複合文化論系在学中。



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┃04┃□広場
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■書籍『踏み越えるドキュメンタリー』12月22日刊行!

岩波書店からシリーズ「日本映画は生きている」(全8巻)が刊行中です
( http://www.iwanami.co.jp/ )。全巻構成は、第1巻『日本映画は生きている』、
第2巻『映画史を読み直す』、第3巻『観る人、作る人、掛ける人』、第4巻『スク
リーンのなかの他者』、第5巻『監督と俳優の美学』、第6巻『アニメは越境する』、
第7巻『踏み越えるドキュメンタリー』、第8巻『日本映画はどこまで行くか』(1月
下旬刊行予定)です。
そして今月22日に、石坂健治(東京国際映画祭ディレクター)編集による第7巻が、
下記の目次で刊行されます。

〜 総論(石坂健治)/中村秀之「水俣の声と顔」/阿部マーク・ノーネス「小川
プロ、その運動としての映画における音楽性」(水野祥子訳)/友田義行「ドキュ
メンタリー作家としての勅使河原宏」/平沢剛「反作家主義、あるいは運動として
のドキュメンタリー映画」/川村健一郎「戦記映画について」/劉文兵「歴史を映
す歪んだ鏡のように」/土屋由香「占領期のCIE映画(ナトコ映画)」/吉原順
平「企業PR映画、テレビ、そして展示映像へ」/阿部嘉昭「ドキュメンタリーと
してのアダルト・ビデオ」 〜インタビュー「ドキュメンタリーの「いま」を伝え
たメディアの編集・発行者に聞く」(景山理、矢野和之、伏屋博雄) 〜エッセイ
「中国における日本ドキュメンタリーの影響」(馮艶)

石坂健治さんからのメッセージです。
「岩波書店からは「シリーズ 日本のドキュメンタリー」(全5巻)も貴重なDVD付き
で出揃ったところなので、映画史的な通観はそちらに任せて、こちらはこの一冊で
いま、何を、いかに語るべきかを考えました。結果として、(1)土本・小川・勅使河
原から集団創作・運動のドキュメンタリーまでをラディカルに問い直す「作家・作
品論」、(2)戦記映画、満映啓民映画から戦後の占領軍CIE映画、企業PR映画を経て
現代のAVまで、各時代の政治・経済・文化・ジェンダー的な支配層によって作られ
たドキュメンタリーを検証する「ジャンル論」、(3)日本の内外でドキュメンタリー
の動向を「伝える」ことに携わった人々に焦点を当てた「インタビュー&エッセ
イ」、の三部構成となりました。タイトルのとおり、既成概念に囚われずに一線を
「踏み越える」ドキュメンタリー論の数々に、請ご期待!」

ドキュメンタリーをつうじた世界認識の方法と変容に迫るものとして、激動の20世
紀から現代までをとらえた画期的な論集です。本誌編集長の伏屋博雄さんのインタ
ビューも収録されています。ぜひお読みください!(280頁、定価3150円)
お求めはお近くの書店などにて、店頭にない場合にはその書店にご注文、もしくは
岩波書店ブックオーダー係(049-287-5721)にお電話ください。


◇────────────────────────◆◇◆


■neoneo「わが一押しのドキュメンタリー映画2010」アンケート大募集!

(1)「わが一押しのドキュメンタリー映画2010」
2010年にご覧になった作品のうち、これこそ一押しのドキュメンタリー!
と思う作品とその理由。旧作でも構いません。(200字程度)

(2)「私のゆく年くる年」
印象に残った出来事、これからの抱負など、映画に限らず思うことは?
(200字程度)

上記の2問のうち1問でも構いません。お名前とお仕事を明記のうえ、
ご応募ください。締め切りは2011年1月10日です。
1月15日号に新年特集として発表します。
送信先: visualtrax@jcom.home.ne.jp
(伏屋博雄、本誌編集長)


◇────────────────────────◆◇◆


■「自作を語る」などの投稿、歓迎!
「自作を語る」欄は、監督自らが作品について語るコーナーです。制作した動機や
撮影のポイント、編集で心がけたこと等を内容に盛り込んで頂きたいと思っていま
す。その他の投稿も歓迎します。「自作を語る」は1600字程度。監督のプロフィー
ル(150字)、作品のデータ、上映スケジュール、HP等をお知らせください。
原稿締め切り:配信日(1日&15日)の5日前までに、下記に送信ください。
E-mail: visualtrax@jcom.home.ne.jp  伏屋まで


    ◇────────────────────────◆◇◆    


■上映の告知の有料化とカンパのお願い
■伏屋 博雄(本誌編集長)

neoneoの購読は無料ですが、経費を(その大部分は稿料ですが)賄うため、上映等の
告知は有料にしています。なおカンパにもご協力くださいますよう、お願い申しあ
げます。

(1)上映等の告知料は、 40字×30行(行数の空きも計算)以内につき
2,000円(税別)です。それ以上の行数の場合は比例して加算します。
(2)カンパのお願い 一口2,000円。何口でも。

送金先:みずほ銀行小金井支店、普通口座、1211958 ビジュアルトラックス
(入金を visualtrax@jcom.home.ne.jp 伏屋宛にお知らせください。)
以上、neoneoの継続ため、よろしくお願い致します。



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┃05┃■編集後記:伏屋 博雄(ふせや・ひろお)
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●中山大樹さんの連載が終わった。最終回は北京にある栗憲庭電影基金を紹介して
いる。中山さんはひょんなことでスタッフになったのだが、今では日中の映画交流
の要として、重責を担っている。収入は少なく、志がなければできない仕事である。
資金を提供した栗憲庭やリーダーの朱日坤の両氏、お二人の情熱に賛同した中山さ
んたち数名のスタッフのスクラム。それに加えて彼らに共鳴する者たちの地道な運
動は、今や大きく開花しつつある。来春は東京で3回目の中国インディペンデント映
画祭が開催する予定という。中山さんには激務にもかかわらず連載してくださった
ことに、深く感謝したい。

●小池直人プロデューサーは『友川カズキ 花々の過失』の映画の成り立ちを執筆し、
一瞬の決断が夢の実現へと至る動態を鮮やかに活写している。桑垣孝平さんの映評
は『極悪レミー』のタイトルとは裏腹に、主人公の人間性を追求した視点に共感を
寄せている。共に本誌ではこれまで取りあげなかったミュージシャンを描く作品で、
ドキュメンタリーのジャンルの広さを感じる。

●岩波書店が刊行中の「日本映画は生きている」(全8巻)の第7巻はドキュメンタ
リー編だ。年末に販売される予定である。目次を読めば、今のドキュメンタリーを
把握するうえで、タイムリーなテーマが採択され、執筆陣もこの人こそという方が
選択されていることがわかり、期待が高まる。さらに、「メディアの編集.発行者に
聞く」という項目もあり、今は廃刊になった「映画新聞」と「Documentary Box」が
取りあげられ、景山理さんと矢野和之さんのインタビューがあるのは興味深い。嬉
しいことに、「neoneo」について、私のインタビューも収録されている。今年の夏
の猛暑の日、岩波書店に趣き、石坂健治さんの質問を受けたが、「neoneo」の編集
者としての率直な気持ちを語ったつもりである。多くの方に読んでほしいと思う。

●さて、恒例の「わが一押しのドキュメンタリー映画2010」のアンケートを募集し
ます。あなたにとって、2010年がどんな映画の年であったか、皆様の応募をお待ち
します。
今年1年のご愛読を心より感謝し、来年は1月15日号から開始します。来年もよろし
くお願いします。



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創刊日:2003-09-01  
最終発行日:  
発行周期:月/2回  
Score!: 74 点   

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