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[GEN 783] 宮崎口蹄疫騒動を検証する【第30回】

2011/01/25

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     世界の環境ホットニュース[GEN] 783号 11年1月25日
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         宮崎口蹄疫騒動を検証する(第30回)

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 宮崎口蹄疫騒動を検証する                原田 和明

第30回 「口蹄疫は感染性が低く治る病気」は誤解?

岡本嘉六・鹿児島大学農学部獣医学科教授は、口蹄疫対策について色々提言を
されており、本連載を続ける上で大いに参考にさせていただいています。その
岡本教授がウェブ上で公開された「口蹄疫問題と危機管理体制」の中で、「口
蹄疫は感染性が低く治る病気だという誤解」が広がっていることを懸念されて
います。最初から「口蹄疫はほっておいても治る病気」との見解で進めてきた
本連載でも、その見解は依然として否定されていないと考えていましたので、
岡本教授の反論にはとても関心があります。

岡本教授の「口蹄疫問題と危機管理体制」はここで読むことができます。
http://vetweb.agri.kagoshima-.ac.jp/vetpub/dr_okamoto/Animal%20Health/KagoshimaVet.htm
イントロ部分を紹介します。(以下引用)

 殺処分の様子ばかりが報道される一方、緊急避難した種牛が1頭のみの感染
 で済んだことなどから、口蹄疫は感染性が低く治る病気だという誤解が広が
 り、「何故殺すのか」、「種牛は治療すればよい」、「抵抗力を持った品種
 を育成する」といった質問や意見が私の下へも届いている。そのようなこと
 が現時点の科学技術で可能ならば殺処分は不要であるが、現実には全世界で
 殺処分政策が採用されており、口蹄疫が最も怖い家畜伝染病であるという認
 識は世界共通のものである。その理由を正確に把握し、畜産物の消費者であ
 る一般国民に理解してもらうことが重要である。(引用終わり)

「現時点の科学技術で治療が可能ならば殺処分は不要である」ことを岡本教授
も認めておられます。ところが、私の見解は「現時点の 科学技術」も不要で、
「口蹄疫はほっておいても2週間程度で治る病気」というものです。そのよう
な私の理解を、専門家である岡本教授が木っ端微塵に粉砕してくれそうな導入
部です。この中で、「口蹄疫が家畜伝染病の中でとくに脅威とされている主な
理由」が4つあげられています。伝播力が強い、致命率が高い、ワクチンでは
防げない、甚大な畜産被害の4つです。その4点について検証してみたいと思
います。

 (岡本教授の解説=以下引用)
 伝播力が強い: 1997年の台湾における豚の流行では、3月中旬に疑い事例
 が発見され5日後に確定したが、わずか半月の間に山脈西側全域に広がった。
 1300農場で23万頭余が発症し、疑似患畜として30万頭が殺処分された。備蓄
 ワクチン300万ドーズが山脈東部地域で接種されたが流行は止まらず4月中に
 全土に広がり、5月初旬に緊急輸入された1,000万ドーズの接種によってよう
 やく下火に向かった。総飼養頭数1068万頭中約100万頭が発症し、385万頭が
 殺処分されるという悲惨な事態に陥った。豚の呼気中ウイルスは牛の3000倍
 とされ、空気感染が起きるとペストやインフルエンザと同様に制御不能な状
 況に陥る。(引用終わり)

残念ながら、岡本教授の解説が「伝播力が強い」という説明になっているとは
思えませんでした。「わずか半月で23万頭余が発症」なんだから、十分「伝播
力が強い」という説明になっているじゃないかというかもしれません。しかし、
このときの感染の経緯が問題です。

ことの経緯については動物衛生研究所のホームページに、台湾農水省が OIEに
送った最終報告書(Dr. Happy K. Shieh DVM, Ph.D.「台湾の口蹄疫 発生の最
新情報」1997.5.22)の和訳が掲載されています。それによると、台湾 家畜衛
生研究所(TAHRI)でウイルスが検出され、暫定的に血清型 01 と Asia 1型が
同定されたのは3月19日でした, ほぼ同時期(あるいはウイルスが同定される
ちょっと前?の)3月中旬、台湾政府は300万ドース(300万頭分)の O/Asia 1
の2価ワクチンを確保。3月末までにすべて使い切っています。
 
宮崎ではワクチンを使い始めた5月末以降、発症したすべての家畜はワクチン
接種されたものばかりでした。1997年の台湾も豚→豚の感染ではなく、ワクチ
ンによる感染拡大の可能性を無視できないと考えられます。台湾西部で始まっ
た口蹄疫は3月末には「台湾を南北に走る中央山脈」をあっさり越えてしまい
ましたが、ワクチンが 感染源だと 考えると納得できます。何しろワクチンが
「台湾東部の口蹄疫感受性動物のすべての種、他の地域の乳牛や価値の高い種
豚群で使用された。」(最終報告書)とのことですから。

さて、台湾政府が入手したワクチンは「O1 については O BFS、O Philippines、
O Manisa の3株を含有していた」とのことですので、その後発症した豚の遺伝
子検査が行なわれていたら、感染源がワクチンだったかどうかも特定できたこ
とでしょう。ところが、最初の3例のウイルス株を同定しただけで、「台湾家
畜衛生研究所は診断作業でパニック状態になった。野外では、たいていの症例
は 臨床症状から診断された」(Dr. Happy K. Shieh DVM, Ph.D.「台湾の口蹄
疫発生の最新情報」=台湾からOIEへの最終報告書 1997.5.22)とのことです。
ワクチン接種後はどの型のウイルスが流行したのか政府も把握していないとい
うことです。

これでは、ワクチンが感染源だったかもしれない、その可能性は否定されませ
ん。しかし、それ以上のことが言えないのは残念です。それにしても、「暫定
的に血清型01とAsia 1型が同定された」とほぼ同時に同じ型の混合ワクチンが
300万頭分も確保できたというのはどんな奇跡が起きたのでしょうか? 今回の
宮崎でも初期(4月)に流行したウイルスは、たまたま農水省が 70万頭分購入
していたワクチンの型と同じだったという奇跡が起きています。「東アジアで
起きた2度の大流行とも、政府が保有するワクチンと同じ型のウイルスが蔓延
した」という事実からは、奇跡を信じるか、陰謀を疑うかのどちらかでしょう。

関連はまったく不明ですが、この台湾口蹄疫事件発生の直後、アジア通貨危機
と呼ばれたアジア各国の急激な通貨下落(減価)現象が起きています。「この
通貨下落は米国のヘッジファンドを主とした機関投資家による通貨の空売りに
よって惹起され、東アジア、東南アジアの各国経済に大きな悪影響を及ぼした」
(wikipedia「アジア通貨危機」)のですが、中国と台湾には 影響がなかった
とのことです。しかし、台湾ではこの口蹄疫事件で畜産業は壊滅的な打撃を受
けています。関連があるのかどうか明らかになることはないと思われますが、
気になるところです。それはひとまずおいて、次に「致命率が高い」について。

 (岡本教授の解説=以下引用)
 致命率が高い: 上記の流行の発症数と死亡数を上げると、3月中では23万
 頭余中56000頭余(23.9%)、全体では101万頭余中184000頭余(18.2%)と
 なるが、口蹄疫による死亡率はこの数値からは判らない。この数値から、3
 月の致命率23.9%、全体18.2%ではと 単純計算できないのは、385万頭が殺
 処分されているからである。これらの重度の病状に陥った、あるいは、その
 可能性が高い個体は死亡前に殺処分されていることから、見かけ上の致命率
 は低くなっている。そのことは殺処分が遅れていた3月中が23.9%と 全体を
 通した18.2%より高いことからも判る。哺乳豚はほぼ100%死亡したと され
 ているが、それより大きな子豚は口腔内の潰瘍による食欲廃絶、脚の爪の脱
 落による歩行不能、ウイルス増殖による心筋炎などにより急死した。(引用
 終わり)

まず、致命率と死亡率の違いについて。

 致死率(致命率)=ある病気Aの死亡者数÷ある病気Aの患者数
 死亡率     =ある病気Aの死亡者数÷総人口

例えば、「B国でエボラ出血熱の死亡率は50%だった」という場合には、「B
国国民の総人口の半数がエボラ出血熱で死んでしまった」ということになって
しまいます。「B国でエボラ出血熱の致死率(致命率)は50%だった」という
ことであれば、「B国ではエボラ出血熱患者の半数が死亡した」ということに
なります。(横浜市衛生研究所のHP)

従って、23.9%とか18.2%は致命率ということになりますが、口蹄疫で死ぬ前
に殺された豚が多いはずだから、実際の致命率はもっと高いに違いないという
主張のようです。3月よりも全体の方が、致命率が低くなっているのも、殺処
分が遅れていたからだと解釈しておられます。

しかし、致命率の分母は「患者数」ですから、発症数が爆発的に増大し、かつ
死亡数の増加がわずかなら、致命率は下がります。5月3日までに台湾政府は
1000万ドーズのワクチンを購入していますから、新規ワクチンで新たに発症数
が急増し、かつ死亡数の増加が発症数に比べ少なめだった場合でも致命率は下
がり、致命率が高いことの傍証にはなりません。

ところで、3月25日と4月10日の二回に分けて台湾農水省が世界の口蹄疫データ
センターであるパーブライト研究所(英国)に送った62検体中49検体はO型と
同定され、Asia 1は検出されませんでした。そこで、台湾政府は「5月3日まで
にO ManisaあるいはO Camposのどちらか一株を成分とする O1ワクチン1,000万
ドーズを入荷した」(最終報告書)つまり、97年の台湾も2010年の宮崎も同じ
O型ワクチンが感染源と考えられる感染爆発が起きた可能性があります。

すると、同じO型ウイルスでありながら、97年の台湾も2010年の宮崎とで、死
亡数の傾向がまったく違うのはなぜかという疑問がわきます。台湾では多数の
豚が殺処分前に死亡していたが、宮崎ではほとんど死んでいない。わずかに森
本ひさ子さんの農場で40匹あまりの子豚が死んだという投書がありましたが、
その他では殺処分を待っている間に回復したという報告が多数ありました。発
見が遅れたと批判された6例目の水牛農家も発見時は全頭回復した後でした。
この違いは何なのでしょうか?

当然、ウイルスの型には様々な亜種がありますから、その違いが原因だという
かもしれません。それでは、宮崎の農家に強要した、農水省が備蓄していたO
型ワクチンは亜種の部分まで一致していたのでしょうか?

あるいは、宮崎では殺処分がスムーズに進んだから、家畜が死ぬ前に殺処分が
行なわれたのだという主張もありましょう。しかし、菅内閣が誕生した直後の
6月中旬には、殺処分のメドがたっていない家畜が10万頭もおり、そのうち、7
万頭弱はワクチン接種を受けた家畜でした。(朝日新聞2010年6月14日0時54分
配信 第24回)一方、ワクチン接種は5月24日までに全体の98%が終わってい
ます(2010.5.25 宮崎日日新聞)ので、7万頭弱は3週間も放置されていたこと
になります。決して、宮崎で殺処分がスムーズに進んだわけではありません。

あるいは、ワクチンが効果を発揮したから、発症しても死ななかったのでは?
というかもしれません。しかし、いち早くワクチン接種を決断した台湾で死亡
した豚がたくさん出たということは、やはりワクチンに問題があった可能性を
排除できないのではないかと思われます。

 (岡本教授の解説=以下引用)
 ワクチンでは防げない: 口蹄疫ウイルスには7種の血清型が存在し、それ
 ぞれに複数の亜型があり、さらに実際の流行株では抗原変異があるため、事
 前に準備したワクチンでは感染を完全に防ぐことはできない。台湾の場合で
 も、備蓄ワクチンでは山脈東部地域への侵入を防ぎ切れなかったのであり、
 終息後 年2回の ワクチン接種を継続しているが 1999年、2001年、2009年、
 2010年と発症例が確認されており、「ワクチン接種している清浄国」の資格
 を維持することの困難性を示している。それは、感染しても症状が軽いため
 見逃され、それでいてウイルスを排出するという防疫上難しい状況が生まれ
 るからである。(引用終わり)

「事前に準備したワクチンでは感染を完全に防ぐことはできない」とはどのよ
うな意味なのでしょうか? 同じ型なら亜種にもそれなりに効果はありそうだ
ということなのか? 「年2回のワクチン接種を継続」という台湾政府の政策
と、台湾で何度も口蹄疫が発生していることとの間に因果関係はないのでしょ
うか? ワクチンを打ち続けているから、それが原因となって口蹄疫がたびた
び発生しているのではないかというようなことは考えられないのでしょうか?

「感染しても症状が軽いため見逃され、それでいてウイルスを排出する」とい
う状況は、まさにワクチンが口蹄疫の終息しない原因になっているのではない
かと思われて仕方ないのですが。

 (岡本教授の解説=以下引用)
 甚大な畜産被害: これについては記すまでもないだろうが、台湾は豚肉の
 輸出国として日本の輸入量の40%を占めていたが1997年以降はゼロとなり、
 養豚業はかつての面影を失っていることを強調しておきたい。英国の2001年
 の流行では羊525万頭、牛76万頭、豚45万頭が犠牲になったが、その内230万
 頭は疾病制御のためではなく、移動制限地域内では牧草を食い尽くして飼料
 の確保ができなくなったことなどによる安楽死であった。子羊の死亡率は40
 〜94%とされ、生産の継続性が保てなるだけでなく、感受性の高い牛や豚へ
 の波及も考えなければならない。成羊の発症率は5%未満であることが逆に
 災いし、発見時には家畜市場を介して既に広範に広がってしまっていたこと
 が大惨事を招いた。(引用終わり)

「甚大な畜産被害」の原因は、口蹄疫がもたらす症状の重篤性であるというふ
うには読めませんでした。殺処分に偏向した対策が「甚大な畜産被害」をもた
らすと考えていますが、岡本教授の説明も、2001年に英国で起きた被害の半分
近くは「飼料の確保ができなくなったための安楽死」であったことを認めてい
ます。つまり、「移動制限という口蹄疫対策」が原因であって、口蹄疫そのも
のによる被害でないことを認めているように読めます。

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