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[GEN 781] 宮崎口蹄疫騒動を検証する【第28回】

2010/12/13

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     世界の環境ホットニュース[GEN] 781号 10年12月13日
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         宮崎口蹄疫騒動を検証する(第28回)

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 宮崎口蹄疫騒動を検証する                原田 和明

第28回 口蹄疫は脅威か?

今回は口蹄疫という病気そのものの脅威についての検証です。

本連載の第1回で「口蹄疫は口内炎程度の軽い病気」との日本経済新聞の記事
を紹介し、今回の宮崎でも5月のNHKの番組で、感染した牛が殺処分を待つ間に
回復したとの映像を流していたことをとりあげました。しかしながら、家畜伝
染病予防法で「感染が1頭でも見つかれば飼い主が同じ農場の家畜は全頭殺処
分」という非常にハードな対処法が採用されていることから、口蹄疫が「口内
炎程度の軽い病気」であるはずがないと考えてしまいがちです。口蹄疫は恐ろ
しい病気なのか、それとも実はそうでもないのでしょうか?

農水省は口蹄疫をどのように紹介しているのでしょうか? 農水省のホームペ
ージに「口蹄疫について知りたい方へ(一般の方向け Q&A)」というコーナー
があり、Q1に「口蹄疫とはどのような病気ですか?」とあります。
http://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/katiku_yobo/k_fmd/syh_siritai.html#q1
(以下引用)

 Q: 口蹄疫とはどのような病気ですか?
 A: (前略)口蹄疫にかかると、子牛や子豚では死亡することもありますが、
 成長した家畜では死亡率が数%程度といわれています。しかし、偶蹄類動物
 に対するウイルスの伝播力が非常に強いので、他の偶蹄類動物へうつさない
 ようにするための措置が必要です。(引用終わり)

成獣でも数%程度死亡するとなれば、一般に成獣より抵抗力の弱いと考えられ
る幼獣では死亡率はその数倍にもなるということでしょう。日本人の三大疾病
を合計しても死亡率(人口比)は 0.5%程度ですから、人と比較はできないか
もしれませんが、口蹄疫はかなり重篤な病気と言えるでしょう。しかも、「ウ
イルスの伝播力が非常に強い」というのですから、確かに要注意だと思ってし
まいます。

ところが、農水省疫学調査チームに、3月末には 感染していたと名指しされた
第6例の水牛農家は、「3月31日の検体」で遺伝子検査 陽性と判定された4月23
日の時点で、42頭すべての水牛に異常はみられませんでした。この事例は、数
%程度の死亡率や強い感染力があるという口蹄疫の解説では説明がつかないの
ではないかと思われます。

さらに、第10回では農水省が抗体検査の結果を隠し続けていることを紹介しま
した。抗体検査の結果は、公表しないだけでなく、当該農家にも開示しないと
いう農水省の頑固さが却って、農水省にとってはマズイ内容を含んでいること
を推測させました。案の定、過去に感染した経験がある家畜が多数見つかった
とのことで、これまでも、宮崎の家畜(おそらく全国の家畜も)は人間の知ら
ないところで、感染と治癒を繰り返していたことが抗体検査でわかってしまっ
ていたのです。口蹄疫の症状の重篤さも、感染力も飼い主さえ気付かない程度
だということです。 

それに Q&A の日本語、何かヘンです。脈絡がつながらない。

 幼獣では死ぬことがあるが、成獣でも数%程度が死ぬ。しかし、伝染力が非
 常に強いので対策が必要だ。

これは、次のように改めると日本語としてもすっきりします。

 幼獣では死ぬことがあるが、「成獣ではほとんどが重篤化することはない」
 しかし、伝染力が非常に強いので対策が必要だ。

農水省は最初に作成した文書(「成獣ではほとんどが重篤化することはない」
など)をインパクトがあるように、「成獣でも数%程度が死ぬ」と書き改めた
ということはないのか?と一応疑ってみたのですが、この Q&Aには動物衛生研
究所のホームページにオリジナルがありました。
http://www.niah.affrc.go.jp/disease/FMD/sousetsu1997.html

村上 洋介(農林水産省家畜衛生試験場ウイルス病研究部病原ウイルス研究室
長)「総説 口蹄疫ウイルスと口蹄疫の病性について」の概要(イントロ)に
次の文章があります。村上は、口蹄疫対策検証委員会(通称「第三者委員会」)
の委員の一人です。現在は帝京医科大学の教授ですが、この総説にある通り、
彼は動物衛生研究所の元幹部ですから、「第三者委員会」に入るべきではない
人物です。(以下引用。)

 口蹄疫による致死率は,幼畜では高率で時に50%を越えることがあるが,成
 畜では一般に低く数%程度である。しかし,ウイルスの伝染力が通常のウイ
 ルスに類を見ないほど激しく,加えて発病後に生じる発育障害,運動障害及
 び泌乳障害などによって家畜は産業動物としての価値を失うために,直接的
 な経済被害はきわめて大きいものとなる。(引用終わり)

この場合、「数%程度」の死亡率を「低い」と表現していいのか?という疑問
が残ります。そこで、「死亡率数%程度」の根拠となったデータを探してみま
した。すると、村上の総説の本文中に次の文章が見つかりました。(以下引用)

 1) 牛の症状
 幼牛は心筋炎により高い死亡率を示すが,一般の牛の死亡率は低い。

 2) 豚の症状
 細菌の2次感染がなければ7〜14日の経過で回復する。 (中略)致死率は,通
 常5%未満であるが,新生豚では心筋炎を起こしやすく,その致死率は 50%
 以上に及ぶ。(引用終わり)
 
他の病気を併発しなければ、成獣は2週間以内には回復するということですか
ら、どうも「数%程度」の死亡率というのは、50%以上にも及ぶという新生豚
など幼獣も含めての話ではないかと思われます。それを成獣(だけ)の死亡率
であるかのように「偽装」した疑いがあります。

それを裏付ける文書が鹿児島大学農学部のホームページ「口蹄疫の臨床徴候」
にあります。
http://vetweb.agri.kagoshima-u.ac.jp/vetpub/dr_okamoto/Animal%20Health/Clinical%20signs%20of%20FMD.htm

 口蹄疫診断のチェックリスト
 死亡率: 幼獣では甚急性心筋炎が「生死の引金(tiger striping)」にな
 る。幼獣の死亡は、心筋炎の発生速度が速いため、潜伏期にある成獣の臨床
 徴候の発現に先行する。

 牛と水牛
 死亡率: 成牛の死亡率は低い。併発症がない場合、数週間以内に回復する。
 しかしながら、長期的な後遺症を残すこともある。幼牛では心筋障害による
 突然死が発生する。

 水牛: 水牛(家畜化された水牛、carrabao)における病気は、基本的に牛
 と同様である。口、蹄、乳頭の病変は重度であり、作業時に跛行し、搾乳用
 水牛では乳生産が急激に落ちる。幼獣では突然死も発生する。

 子牛の徴候: 子牛において、水疱と糜爛はそれほど明確でなく、しばしば
 見つけることが困難である。他の動物種の幼獣と同様に、心筋の多発性壊死
 による死亡は珍しくない。子牛の死亡率 は50 %を超える場合がある。

 豚
 豚の口蹄疫は重篤化し易いが、感染したウイルス株、豚の感受性、ならびに、
 環境に応じて軽症だったり、臨床的に判別できないことがある。(中略)豚
 はすぐに回復し、食欲が戻り、結果としては、体重増加が一過性に止まった
 だけに終わることがある。罹患した趾の爪の腐肉形成および衰弱を伴って跛
 行が続くこともある。幼豚においては、心筋障害の結果として突然死が発生
 する。その死亡率は高いことがある。(引用終わり)

口蹄疫とは家畜にとって、とても恐ろしい病気というイメージとは違って、
「幼獣については死亡率が高いこともあるが、抵抗力のある成獣は他の病気の
併発がない限り、発症してもほとんどが短期のうちに回復する」という程度の
病気であると考えられます。そして、そのことは少なくとも獣医学の世界では
常識なのではないかと考えられます。

今回の宮崎口蹄疫騒動の報道で刷り込まれたイメージ通りの「次々に死んでい
く豚(または牛)」は、次の一件のみ新聞報道の中で見つけることができまし
た。発症109例目となった農家です。(宮崎日日新聞2010年5月22日付)

 子豚毎日40頭犠牲 森本さん切実に訴え

 (2010年5月22日付)

 「口蹄疫ウイルスに抵抗力のない生まれたばかりの子豚が、毎日40頭ずつほ
 ど血のあわを吐きながら死んでいきます」。養豚業森本ひさ子さん(60)=
 川南町川南=は、豚1200頭の殺処分が決まった今も、毎日豚舎に通い世話を
 続ける。

 口蹄疫に感染し、熱が出たり、足の水疱(すいほう)が破れて立てない親豚
 たち。豚舎で日に日に感染が広がっていくのが分かる。感染した豚はとにか
 くのどが渇くらしく、「少しでも楽にしてやり、喜ぶ顔が見たい」と、水で
 はなくスポーツ飲料を与える。口蹄疫ウイルスは「見えない敵」だが、森本
 さんら畜産農家には現実のものとして、いままさに目の前に見える。

 敷地内に埋却地を確保した。だが、獣医師ら人材の数が現場の数に追い付か
 ず、補償のための評価がまだ受けられない。殺処分や埋却の予定は立ってい
 ないという。

 死んだ子豚は21日までに 140頭を数える。腐らないように冷蔵庫で保管して
 いるのは、せめて殺処分された母豚と一緒に埋めてやるためだ。

 38年間、豚とともに生きてきた。「豚は気の小さい動物で、ブラッシングな
 どで温かく接することにより人を信用するようになる」。森本さんは、今後
 殺処分を行う獣医師に「できるだけ怖がらせないように殺してください」と
 頼んだ。

 このままでは児湯地区だけでなく宮崎、日本の畜産が崩壊すると危機感を強
 くし、今回、手紙や写真を宮崎日日新聞社に速達で送った。「口蹄疫は生や
 さしいものではない。口蹄疫の勢いを実感している者として、そのことを伝
 えたい。一刻も早い対策と終息を願う」(引用終わり)

まことにお気の毒ではあるが、この農家で死んだのはすべて子豚のようです。
このような「ウイルスが爆発炎上」という状況でも、成獣については「熱が出
たり、足の水疱(すいほう)が破れて立てない」程度に留まっています。これ
なら、成獣は村上らが言うように2週間程度で回復する可能性が高いのではな
いかと考えられます。

獣医学の世界では「成獣に関しては、口蹄疫は口内炎程度の軽い病気」という
ことが既によく知られているが、一般には「口蹄疫は恐ろしい病気」というイ
メージをもたしておきたいという学者の意図が感じとれる記事もあります。口
蹄疫が発見された日に、宮崎日日新聞が専門家にインタビューしたものです。
(宮崎日日新聞2010年04月21日より以下引用)

 人に感染しない拡大防ぐ 口蹄疫

 県内で10年ぶりに家畜の伝染病「口蹄疫」の疑いのある牛が見つかった。
 「人へはうつらないのか」「県民が取るべき行動は」など、家畜の伝染病に
 詳しい宮崎大学農学部獣医学科の後藤義孝教授(獣医微生物学)に聞いた。
 
 ―人へは感染しないのか。

 後藤 ウイルスは「種の壁」を簡単には乗り越えられないため、少々の変異
 が起きても人にはうつらない。似たような症状を起こす人の病気としては手
 足口病があるが、ウイルスは全く別物だ。

 ―家畜が死亡に至る例は。

 後藤 子牛や子豚では死亡率が上がる場合があるが、高病原性鳥インフルエ
 ンザほどではない。

 ―ではなぜ厳重に警戒しているのか。

 後藤 看病してもらえない家畜にとっては大変な病気なので、世界中で根絶
 すべき病気のリストに挙げている。日本では家畜法定伝染病に指定し、感染
 疑いの家畜をすべて殺処分することを定めており、ウイルスそのものを駆逐
 する強い意志の表れだ。(引用終わり)

なぜ、獣医学の 教授が「家畜は 看病してもらえない」などというのでしょう
か? 獣医は家畜を看病しないのでしょうか? そんなことはありません。第
1例目の農家を担当していた青木獣医師は異常が見つかってから12日間連続で
往診しています。(朝日新聞2010年5月19日 7時5分)

どうも、農水省も獣医学界も、何かの利害が関係するのか「口蹄疫は成獣の場
合ほっといても2週間程度で治る病気」ということを知りながら、殺処分を強
いる家畜伝染病予防法を敢えて放置している疑いが強く感じられます。

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