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[GEN 774] 宮崎口蹄疫騒動を検証する【第21回】

2010/09/17

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     世界の環境ホットニュース[GEN] 774号 10年9月17日
         ご意見・ご投稿 → このメールに返信

         宮崎口蹄疫騒動を検証する(第21回)

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 宮崎口蹄疫騒動を検証する                原田 和明

第21回 「宮崎口蹄疫禍」の発症率

国際獣疫事務局(OIE)のホームページに、農水省が提出した「宮崎口蹄疫禍」
フォローアップレポートが掲載されています。その中に、日本では公表されな
かった発症率(=有病率※そのとき異常が認められた家畜の割合)、死亡率、
致死率が牛、豚、水牛、ヤギの種別ごとに表記されています。

フォローアップレポートは発症が確認された4月20日の速報から始まって、7月
28日の第15報まで、計16報が公開されています。そのうち、患畜の報告は第10
報までです。
http://www.oie.int/wahis/public.php?page=single_report&pop=1&reportid=9155

農水省が OIEに報告した、豚と牛に関する発症率、死亡率、致死率を以下に示
します。
 
Report No.(報告日)   豚            牛
        (発症数/飼育数)     (発症数/飼育数)
        (発症率/死亡率/致死率) (発症率/死亡率/致死率)
No.1(4月23日)   0/2          12/326 
          (0%/0%/0%)      (3.68%/0%/0%)
No.2(4月28日)   5/486        13/2021
          (1.03%/0%/0%)    (0.64%/0%/0%)
No.3(5月5日)  25/31839       9/515
          (0.08%/0%/0%)    (1.75%/0%/0%)
No.4(5月12日)  45/46237      64/3375
          (0.1%/0%/0%)     (1.9%/0%/0%)
No.5(5月19日)  31/39040      76/2879
          (0.08%/0%/0%)    (2.64%/0%/0%)
No.6(5月26日)  44/22920     132/13661
          (0.19%/0%/0%)    (0.97%/0%/0%)
No.7(6月2日)  11/8628       57/9210
          (0.13%/0%/0%)    (0.62%/0%/0%)
No.8(6月10日)  22/15072      30/1404
          (0.15%/0%/0%)    (2.14%/0%/0%)
No.9(6月15日)  10/9908       18/3708
          (0.10%/0%/0%)    (0.49%/0%/0%)
No.10(6月23日)      −         4/281
                        (1.42%/0%/0%)
****************************************************************
合計      238/220369    479/40755
            (0.11%/0%/0%)    (1.18%/0%/0%)
 
ここで、致死率と死亡率とは何が違うの?という疑問がありそうです。死亡率
はその期間に死亡した割合、致死率は百科事典マイペディアの解説では、「致
命率とも。ある病気の罹患(りかん)者中,その病気で死亡する者の割合(百分
率)。伝染病統計では,1年間の患者数に対するその年の死亡者数の割合で示
す」とあるところから、ここでは、口蹄疫の患畜、疑似患畜と判定された家畜
の中で死亡した割合ということになります。死亡率は飼育されている家畜の中
で死亡した割合。

フォローアップレポートでは、家畜伝染病予防法に基づいて殺された家畜は26
万頭余りにのぼるけれども、口蹄疫そのもので死んだ家畜は 1頭もいないとい
う事実が語られているわけですが、このことは国内では公表されていません。
農水省は国内では恐ろしい伝染病のようにアピールする一方、外国向けの発表
では「今回の口蹄疫は口内炎程度の軽い病気」であることを認めているように
思われます。

そういうと、口蹄疫で死ぬ前(重症になる前)に殺処分をしたから、死に至ら
なかっただけではないか?という反論がありそうです。しかし、今回の宮崎口
蹄疫禍は殺処分数が多すぎて、順番待ちの間に症状が回復したという話は何度
も紹介しました。49頭の種牛の殺処分が遅れていることを知って山田農相が激
怒したり、仙谷官房長官 名で「6月20日までにメドをつけろ」との文書が出て
いたことが明るみに出たりと、決して殺処分は迅速に進んだわけではありませ
んでした。それでも、口蹄疫で死亡した例はないことを農水省は正式に認めた
と考えられます。

フォローアップレポートでは発症率は豚で0.1%、牛で1.2%ということですが、
PCR検査は各農場で3〜5検体しか実施していませんから、ここでいう発症数は、
獣医が見た目(臨床判定)で異常を認めた家畜の数を示していると考えられま
す。この数値も国内では公表されていません。ここでは、フォローアップレポ
ートがいう「発症率」とは、風邪や下痢なども含めた「口蹄疫類似症状」が見
られた家畜の割合と考えることにします。

では、どれくらいの家畜が口蹄疫に罹っていたのかはわからないのかというと
そうでもありません。8月25日に 農水省の疫学調査チームが、それまでまった
く隠されたままだった抗体検査の結果の一部を、中間概要の中で公表したので
す。公表された抗体検査の結果から、宮崎県の家畜が口蹄疫に罹っていた割合
を推算してみます。疫学調査チームの中間概要から以下引用。(全文は末尾に
添付)

 「4月20日の時点で既に10農場以上にウイルスが侵入していたこと、発
 生農場で感染動物の殺処分が遅れたこと、農場の密集地帯で発生したことな
 どが考えられる。また、一部の発生農場(30農場)においては抗体検査で高
 い抗体価を示す個体が認められた」(引用終わり)

ここで明記されている「30農場」は、連載第10回「隠されていた抗体検査」で
は、「抗体が確認された農場数は不明」となっていた部分です。まず、第10回
で紹介した6月26日付宮崎日日新聞の記事を再掲します。(以下引用)

 感染気付かず拡大か 数十検体から抗体確認

 口蹄疫の遺伝子検査により感染疑いが見つかった複数の農場で採取された数
 十検体から感染後1〜2週間程度でできるとされる抗体が確認されていたこと
 が25日、農林水産省が公表した疫学調査チームの検討会資料で分かった。抗
 体が確認された農場では一定期間、感染に気づかなかった可能性があり、同
 チームはそれを感染拡大の要因の一つとして推測している。 

 遺伝子検査は動物衛生研究所海外病研究施設(東京)で行われ、その後にす
 べての検体で感染の履歴を調べる抗体検査を実施する。検体は1農場当たり
 3〜5検体を送付しているが、抗体が確認された農場数は不明。(引用終わり)

今回、疑似患畜と判定された農場は 292例でした。そのうちに写真判定の分も
あるので、すべて抗体検査が行なわれたわけではないかもしれませんが、とり
あえずすべて抗体検査が行なわれたと仮定して、過去に口蹄疫に罹患した家畜
の割合(X)を推算してみます。

ここで、X はこれまでに口蹄疫に罹ったことがある家畜の割合(罹患率)をい
い、発症率(=有病率)は検体を採取した時点で発症している家畜の割合(農
水省のフォローアップレポートの数値)と区別することにします。さて、計算
上の仮定ですが、口蹄疫の抗体をもっている家畜はどこかの農場に偏在してい
るのではなく、宮崎県内に平均的に分布しているとします。

 抗体検査陽性だった農場の割合=30/292=10.3%
 ですから、抗体検査陰性だった農場の割合=1−0.103=89.7%

検体数は1農場あたり3〜5ですから、平均4検体とします。
4検体すべてが陰性である確率 [(1−X)の4乗] は、抗体検査陰性だった農場の
割合と同じになるはずですから、

  [(1−X)の4乗]=89.7%

です。すると、X=約2.5%となりました。つまり、計算上は宮崎の家畜のうち、
平均2.5%の家畜はこれまでに口蹄疫に罹ったことがある(抗体検査 陽性)と
推測されます。同様に計算すると、検査数が3検体の場合は 約3.5%、5検体の
場合は約2%の家畜がこれまでに口蹄疫を経験していたと考えられます。

都城市で、口蹄疫の終息を確認するための抗体検査が行なわれましたが、この
とき25検体中1検体で陽性でした。(朝日新聞2010年6月27日23時45分)この場
合も 1/25=4% でほぼ類似の結果だったことになります。

次に、この数値の妥当性を検証してみます。上の宮崎日日新聞には、「口蹄疫
の遺伝子検査により感染疑いが見つかった複数の農場で採取された数十検体か
ら抗体が確認されていた」とのことですから、罹患率 2.5%のときに、いくつ
の検体から抗体が確認できるかを計算してみます。

  292農場×4(1農場あたりの提供検体数)×2.5%=約30検体

となり、「数十検体から抗体が確認」との宮日の記述と矛盾しません。さらに、
OIE へのフォローアップレポートに記載されている発症率は豚と牛を合計する
と、

 (238+479)/(220369+40755)=0.27%

となりました。つまり平均して考えれば「0.2〜0.3%の家畜がこの春宮崎で口
蹄疫を含む類似の症状を発症したが、2〜3%の家畜は既にかつて口蹄疫に罹っ
たことがある」というのが今回の「宮崎口蹄疫騒動」の実態だったと推測され
ます。おそらく、これは 宮崎だけが 特別だというわけではなく、他府県でも
PCR検査や抗体検査をすれば同様の結果になるのではないかと推測されます。

今回これほどの大惨事になったのは、まず、(1)農水省が宮崎を口蹄疫ワクチ
ンの実験場に指定したこと、そして、(2)農家と獣医師が正直に報告したこと
で、農水省の想定外の規模に膨れ上がってしまったのではないかと考えられま
す。

宮崎がワクチンの実験場となった特段の理由は見当たらず、「10年前の口蹄疫
騒動も宮崎だったから」くらい程度の理由ではないかと思われます。

当然、「農水省が宮崎をワクチンの実験場にした」という説を陰謀論で片付け
る向きもあるでしょう。しかし、農水省によって宮崎が実験場とされたための
口蹄疫禍ではなかったとすると、農水省疫学調査チームは、最終報告において、
口蹄疫ウイルスがなぜ宮崎県にだけ侵入して、なぜ宮崎県から外に出なかった
のかを合理的に説明しなければなりません。

(参考)--------------------------------------------------------------

 口蹄疫の疫学調査に係る中間的整理(概要)

 1 口蹄疫発生の概要
・4月20日に宮崎県内の牛 飼養農場において確認された口蹄疫については、川
南地区を中心に発生数が増加し、えびの市等の遠隔地での発生も含め、7月4日
の発生までに292例が確認された。
・今回の発生に対しては、移動制限や殺処分を中心とした防疫措置に加え、5
月22日から川南地区及びその周辺地域で、ワクチン接種及び接種家畜の殺処分
を行った。7月5日までに発生及びワクチン接種に係る家畜の殺処分が終了し、
7月27日に今回の発生に係る全ての移動制限等が解除された。

2 分離ウイルスの性状
分離された口蹄疫ウイルスの血清型はO型で、今年香港、韓国、ロシアで分離
された株と非常に近縁であった。また、今回の発生事例から、本ウイルスに感
染した牛や豚は典型的な口蹄疫の症状を示すと考えられた。

3 侵入及び伝播経路
・これまでに得られた情報から推定される最も早い感染例では、3月中旬にお
いて既に口蹄疫ウイルスが侵入していたと考えられるが、現時点では、わが国
への口蹄疫ウイルスが侵入した経路を特定するに至っていない。今後、初期の
発生事例を中心にアジア地域からの人や物の動きについて、更なる情報収集を
進めていくことが必要である。
・今回の発生において感染が拡大した要因として、初発事例の確認が遅れたこ
とにより移動制限が開始された4月20日の時点で 既に10農場以上にウイルスが
侵入していたこと、発生農場で感染動物の殺処分が遅れたこと、農場の密集地
帯で発生したことなどが考えられる。また、一部の発生農場(30農場)におい
ては抗体検査で高い抗体価を示す個体が認められたことから、結果として異常
畜の発見に遅れがあったことも示唆された。
・農場間の伝播には人、物、車両の移動が関与したこと、発生農場から飛沫核
等によって近隣の農場へ伝播したことが考えられる。特にえびの市での発生や
ワクチン接種区域外である西都市や日向市での発生には家畜運搬車両や飼料運
搬車両が係わった可能性がある。

4 今後の疫学調査の課題
海外からの侵入経路に加え、初期の発生事例から他の農場への伝播経路や、他
の農場に比べてバイオセキュリティが高いとされる農場への侵入経路等の解明
に係る疫学調査を継続する必要がある。

5 今後の防疫対策への提言
アジア地域では口蹄疫が常在している国が多く、我が国では常に口蹄疫侵入の
危険性に曝されていることから、今後の我が国の口蹄疫対策を改善していく上
で、検討を要する点について、以下に記載する。
・アジア地域を中心に海外の発生状況を常に把握し、口蹄疫の侵入防止を徹底
すること。
・踏み込み消毒槽、動力噴霧器並びに専用の作業着及び長靴の未設置など農場
レベルでのバイオセキュリティが概して低いことから、今後はその強化が必要
であること。
・飼料や家畜の運搬などの流通業者を含む農場間を移動する畜産関係者の衛生
対策を強化すること。
・迅速な伝染病摘発のために、農家をはじめとする畜産関係者に対して口蹄疫
などの重要家畜伝染病の周知を図ること。また、家畜保健衛生所の職員を含む
獣医師を対象とした口蹄疫等に関する教育研修を実施し、本病等の的確かつ迅
速な診断を確保すること。
・口蹄疫対策の実効性を点検し、埋却地の確保や簡易診断キットなど迅速な診
断体制等必要な体制の整備に努めること。
・感染源及び感染経路の徹底的な究明は、防疫措置と併行し、発生直後から詳
細な疫学調査を行うこと。

中間概要全文は以下参照。
http://www.maff.go.jp/j/press/syouan/douei/pdf/100825_1-01.pdf

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創刊日:2003-05-12  
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  • taked47002010/10/11

    >農水省が OIEに報告した、豚と牛に関する発症率、死亡率、致死率を以下に示

    します。



    となっているが、この報告は速報であり、農場主から感染報告があった時点での数値。当然、発症直後の状態での数値だから病死している家畜はまずいない。



    >今回これほどの大惨事になったのは、まず、(1)農水省が宮崎を口蹄疫ワクチ

    ンの実験場に指定したこと、そして、(2)農家と獣医師が正直に報告したこと

    で、農水省の想定外の規模に膨れ上がってしまったのではないかと考えられま

    す。



     このメルマを書いている方は基本的に勘違いをされている。「今回これほどの大惨事になった」と分かっているのだから、前回との比較、つまり、何が違ったのかを調べないといけない。



     2000年の時と今年のもっとも大きな違いは2000年の時は積極的発生動向調査をやり、1例目以外は全て発症前に処分ができたということだ。今年はほとんど立入検査をせず、農場関係者が発症を確認するまで放置をした。この結果、感染から発症までの間にウイルスの吐出しがされ、それが感染を促進させたのだ。