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[GEN 762] 宮崎口蹄疫騒動を検証する【第9回】

2010/07/07

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     世界の環境ホットニュース[GEN] 762号 10年7月7日
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         宮崎口蹄疫騒動を検証する(第9回)

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 宮崎口蹄疫騒動を検証する                原田 和明

第9回 「都城への飛び火」に山田農相乱入?

6月9日、口蹄疫は、日本屈指の畜産地帯である宮崎県都城市に飛び火しました。
ワクチン接種が行なわれた川南町・都農町から50kmも離れた場所で、口蹄疫は
なぜ突然姿を現したのでしょうか? このときの判定の経緯には大きな問題が
ありました。

都城で発生した口蹄疫禍(280例目)の経過について、6月10日付読売新聞より
引用します。(以下引用)

 宮崎県の口蹄疫(こうていえき)問題で、農林水産省と県は6月9日、都城市高
 崎町の牛農家で、感染疑いのある牛 3頭が見つかったと発表した。10日未明
 までに、3頭を含む同じ畜舎にいた9頭は殺処分された。この農家が飼育して
 いる約250頭はすべて処分される見込み。

 農水省などによると、3頭には、よだれをたらすなどの症状が出ており、専
 門家による写真判定の結果、口蹄疫の症状と認定された。病変部から採取し
 た検体の遺伝子検査の結果は10日にも判明する。(引用終わり)

口蹄疫は症状だけでは判定できない(ウィキペディア「口蹄疫」)と言われて
いるのに、写真判定だけで 250頭の牛を処分するというのですから、農水省の
判定基準はどんどん国際標準から離れて劣化していくばかりです。ところで、
この記事からは、遺伝子検査の取り扱いがはっきりぜず、残りの 240頭あまり
の牛はただ処分される順番を待っているだけのようにも聞こえますが、宮崎県
の発表では、PCR検査の結果をみて殺処分するかどうかが決まるとのことです。
(以下引用)

 (口蹄疫の疑似患畜の確認(280例目)について=6月9日宮崎県発表)
 ・ 6月9日18時に所見から症状の見られた3頭 及び同一の牛房で飼養されて
 いる6頭の計9頭を疑似患畜と判断し、防疫措置を開始
 ・ PCR検査結果については、10日朝にも判明する予定。
 ・ PCR検査結果が陽性であった場合、同じ農場で飼養される他の241頭も疑
 似患畜とし、速やかに、殺処分、汚染物品の埋却、畜舎の消毒等を実施予定。
 (引用終わり)

280例目がそれまでと違うところは、臨床所見だけでなく、PCR検査も行なうと
いう点にあります。もともと、臨床所見だけで判定するというのは禁じ手です。
今回の騒動の発端となった事例でも、地元の獣医は臨床所見で口蹄疫ではない
と判断していました。それだけ、臨床所見だけでは判定は難しいということで
す。一方、動物衛生研究所は PCR検査だけを重視して、現地獣医の臨床所見と
の矛盾を無視しました。それが一転して、今度は臨床検査だけで診断すると言
い出したのですから、農水省も動物衛生研究所もいい加減なものです。

口蹄疫と類似の症状を示す病気はいくつもあるために最終的には、臨床検査に
加えて、ウイルスも特定しなければ口蹄疫だと確定できないというのが国際ル
ールであり、2000年の宮崎・北海道口蹄疫騒動までは日本でも当然のこととさ
れていたルールだったことを第4回(GEN 756)で示しました。今回の騒動では、
臨床検査を軽視していた農水省が突然、臨床検査だけで確定診断などと言い出
したのは、臨床所見と PCR検査の結果が一致するという科学的根拠が新たに見
出せたというわけではありません。ワクチンで発症する家畜が急増していたこ
とを急いで隠す必要に迫られたためだったと推測されます。(第8回)

従って、臨床所見だけに頼る矛盾が 露呈しないように、農水省は 臨床所見で
「陽性」と判定したら、PCR検査はやらないというのが 前提で、この都城の事
例以前(〜279例目)では、PCR(遺伝子)検査は省略されていました。PCR 検
査を行なうのは、症状が紛らわしく臨床所見では判断できない場合に限られて
いました。つまり、臨床所見かPCR検査の二者択一なのです。

従って、都城のケースで PCR 検査に及んだと いうことは、前例からいえば、
「症状が紛らわしく臨床所見では判定不能」だったことを意味します。もちろ
ん、ワクチン未接種の家畜での発症ですから、「臨床所見では判定不能」なの
は当然なのですが。つまり、「専門家による写真判定の結果、口蹄疫の症状と
認定された」(読売新聞)わけではなく、PCR 検査結果が出るまでとりあえず
の措置として 9頭だけ殺処分することにしたのだと考えられます。ところが、
急転直下、PCR 検査結果が出る前に最も大胆な決断が行なわれていました。

 「宮崎県は9日、よだれや舌のただれなどの症状を写真判定し、3頭に感染の
 疑いがあると判断。遺伝子検査の結果を待たずに10日未明にかけて、この農
 場の牛すべてを処分した。」(西日本新聞 2010年6月10日 11:21)

「臨床所見では判定不能」で、PCR 検査結果もまだ出ていないという段階で、
いったい誰がそんな判断を下したのでしょうか? 結果的に、遺伝子検査が3頭
とも陽性だったからよかったものの、こんな大胆、いや無謀な決断を下す人物
とは誰でしょうか? 6月10日の宮崎日日新聞に、その人物が登場します。(以
下引用)

 都城家畜保健衛生所から「口蹄疫の症状が見られる牛を確認した」との連絡
 が都城市へ入ったのは6月9日午後4時。午後7時ごろには長峯誠市長に山田正
 彦農相から電話があり、早急な 殺処分を行うよう指示があった。午後8時半
 ごろから市職員が道路封鎖や殺処分作業のため、慌ただしく現場近くにある
 高崎総合支所へ向かった。(引用終わり)

確かに、農水大臣の指示には従わざるをえないでしょう。それにしても、コロ
コロと判定基準を変える農水省と、「示しがつかない」発言以来暴走が止まら
ない山田農相。彼らに振り回される宮崎県はたまったものではありません。

山田農相は、農水省がワクチンの問題を隠蔽するために偽装した「写真判定法」
を、すっかり信用しきっていることを堂々と告白しています。都城市に第一報
が届く直前の午後3時から、山田正彦農相の就任 記者会見が開かれており、そ
の議事録(6月9日大臣記者会見=農水省ホームページ)を読むだけで、大臣に
就任した山田農相の高揚感が伝わってきます。写真判定に関わる山田農相の発
言は以下の通りです(以下引用)

 「例えば、今、どこかの県で、口蹄疫の発生の疑いがあると思ったら、もう、
 小平にPCRの検査を、検体を送るまでもなく、写真判定で、ほぼ100パーセン
 トできると、今、思っております。写真を送ってもらって、24時間以内に殺
 処分して埋却する。そういうシステムを急ぎ、作り上げなければ、口蹄疫対
 策は、これから先も、今回のようなことになってしまうと、そう考えたもの
 です。」(引用終わり)

写真判定の問題点を指摘するマスコミはいません。宮崎日日新聞(6月9日)も、
「本県で被害が拡大した要因に、感染した家畜の殺処分が遅れたことが挙げら
れていた。新たな仕組みが実現すれば、殺処分の判定時間が大幅に短縮される
ことになる。」と一定の評価をしています。

山田農相の自信は相当のものです。写真判定が間違っていたら、全額国が補償
すると国会で断言しています。(以下、2010年06月14日 衆院 - 農林水産委員
会より引用)

 山田正彦「小平(※動物衛生研究所の所在地)まで検体を送って検査します
 と、次の日、翌日になってまいります。今回、できるだけ早く写真で判定す
 るという形で殺処分させて いただきましたが、その際、もし、PCR検査の結
 果、陰性になったらどうなるのかというお話かと思います。
 この場合でも、疑似患畜として防疫員が認めて殺処分した以上、すべて、疑
 似患畜としての補償は全額なされます。」(引用終わり)

山田農相は、写真判定と PCR検査が矛盾することなどありえないという自信に
あふれています。宮崎県の発表では、計9頭を疑似患畜と判断したのは「18時」
で、山田農相からの電話は「午後7時頃」(宮崎日日新聞)です。「写真判定」
に絶対の信頼を寄せる山田農相はこの日、大臣就任記者会見のあと、「都城で
9頭だけをとりあえず処分」と聞いて 激怒したのでしょう。農場のすべての牛
を即刻処分するよう都城市長に直接電話で指示したと考えられます。

都城のケースの問題点は、専門家が「臨床所見での判定不能」と判断したもの
を、山田農相の一存で「疑似患畜」としてしまったということです。もとはと
言えば、農水省がやめとけばいいものをワクチンを使ってみたい衝動にかられ
て、ワクチン接種を強要したのが問題の始まりでした。そのワクチンで次々に
発症という問題に発展し、それを隠蔽するために一時しのぎの策として「デタ
ラメ臨床所見判定法」をもちだした。これに、山田大臣が飛びつき暴走してし
まったというのが、「口蹄疫が全国屈指の畜産王国に飛び火」という衝撃ニュ
ースの背景だと考えられます。なんとも、いつもながらのトホホでお粗末な話
です。

ところで、大臣の暴走で、240 頭の牛を殺処分させてしまった以上、都城の事
例が実際に口蹄疫だったかどうかは関係なく、農水省は「陽性」と発表するし
かない状況になっていたと考えられます。大臣命令が間違っていたとなると、
賠償問題になります。しかし、山田農相自身は正しいことをやっているとの認
識ですからどうしようもありません。農水省の官僚も、いきさつ上、山田農相
をいさめるわけにもいきません。

その後、西都市、日向市、宮崎市でも「疑似患畜」が見つかりますが、実際に
陽性だったかどうかに関係なく、農水省は大臣の暴走を止めるためには、自ら
暴走して、「結果判明前に殺処分開始」を指示し、「PCR検査結果は陽性」
との発表を繰り返さなければならない立場に立たされていたといえそうです。
もちろん、実際に陽性だったという可能性を否定するものではありません。

ところで、山田農相の暴走を教えてくれた地元紙・宮崎日日新聞が翌日(2010
年6月11日)には、全頭処分の方針が 山田農相ではなく、獣医師の判断だった
とする記事を掲載しています。PCR 検査結果が判断の正しさを証明していると
いわんばかりの論調です。(以下引用)

 都城市高崎町の農場で牛3頭によだれなど 口蹄疫の感染が疑われる症状が出
 た問題で、県は10日、採取した検体を動物衛生研究所海外病研究施設(東京)
 で遺伝子検査した結果、陽性反応が確認されたと発表した。同農場で飼育さ
 れた208頭はすでに殺処分された。

 県は9日、よだれや舌のただれなどの症状を写真判定し、3頭に感染疑いがあ
 ると判断。再度、獣医師が農場を確認した上で、10日未明には飼育する全頭
 を疑似患畜とし、遺伝子検査の結果を待たずに全頭殺処分を開始した。同日
 午前2時半までに殺処分を完了し、農場主所有の隣接地に埋却した。(引用終
 わり)

地元の獣医師がリーダーシップをとって、殺処分を指導したかのようですが、
これは明らかに、山田農相の暴走を隠すための情報操作だと思われます。地元
の獣医師に、遺伝子検査の結果が違った場合のリスクを負えるはずがありませ
ん。それに、地元自治体が「遺伝子検査の結果を待つ」という当初方針を変え
てまで、獣医師の判定に従うとは考えられません。やはり強い圧力があったと
考えざるをえません。この情報操作は、山田農相の暴走を隠したいと考える人
々がいたことをうかがわせます。

「デタラメ臨床所見判定法」を編み出した農水省の技術系官僚は、山田農相の
暴走を どのように受け止めたでしょうか? 苦笑? 冷や汗? 自らのデタラメ
ぶりを隠蔽するために、大臣の暴走の尻拭いはせざるを得なかったようです。
(6月11日読売新聞より以下引用)

 「これはダメだ」「残念だけど、九分九厘クロだろう」。パソコン画面上の
 写真を見て、獣医師資格を持つ農水省職員がため息をついた。10日午後、東
 京・霞が関の同省 動物衛生課。日向市から送られてきた写真で 牛の症状を
 「診断」していたのだ。

 宮崎県の口蹄疫問題を受け、農林水産省は家畜に感染が疑われる症状が出た
 場合、まずは写真を同省に送るよう都道府県に通知した。(中略)これまで
 は、現場で血液などの検体を採取し、動物衛生研究所の東京都内の施設に飛
 行機で送っていた。口蹄疫の遺伝子検査を国内で唯一行える施設だが、検査
 だけでも7〜8時間かかるうえ、検体の輸送時間も含めると、症状が出てから
 結果まで丸1日かかっていた。同省は「発見が遅れたため拡大を許した。早
 期発見のためになんでもやる」と方針を転換した。(引用終わり)

この読売新聞が伝える、臨場感溢れる猿芝居はどうでしょう? 第4回(GEN 
756)で、「一見口蹄疫に似た症状を示すので 注意する必要がある。これらの
水疱性疾病が発見された場合には,最終的には実験室内検査を実施する必要が
ある。」との農林水産省家畜衛生試験場(現・動物衛生研究所)病原ウイルス
研究室長・村上洋介の総説(1997年)を紹介しましたが、村上洋介はこの後輩
たちの姿をどういう思いで見ていることでしょうか?

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