文学

SKIPJACK更新お知らせメール

創作小説サイト「SKIPJACK」の更新をお知らせするメルマガです。

全て表示する >

【創作小説サイトSKIPJack メルマガ】9/12号

2005/09/12

いつもご愛顧ありがとうございます。
SKIPJackの古川です。
本当に久しぶりになってしまいましたが、更新しましたのでお知らせします。

◎更新
・TOP改装
青っぽい感じにしました。はしのペンギンの写真素材がお気に入りです。
しばらくは、更新ごとに写真を変えていこうと思います。

・はじめに/同人活動/いただきもの改装
いろいろ手をくわえました。
いただきものにはZAL2ヲベ☆ロン氏からいただいたイラストを追加。

・「ハルメキアの王」更新
ようやく更新しました。大変お待たせしました。
なお、アンケートも実施しておりますので、ご協力お願いします。

・web拍手はじめました。
遅まきながら拍手はじめました。
よろしければ、何か送ってやってください。

・小説裏話
書いております。
「ハルメキア」とか次の更新のこととかです。


・裏
しょぼしょぼ日記を更新しています。


◎そのほか オフライン情報
9/23 STEP BY STEP(千葉市・千葉県労働者福祉センター)に参加します。
よろしければ、お立ち寄りください。


◎小説
8月のコミティアで配付開始した、小説ペーパー3月号(いつの話だ)を
お送りします。
かなり季節はずれのお話ですが、よろしければお読みください。


==========================================================

           サ ク ラ サ ク

==========================================================

 桜が降るとはよく言ったものだ。
 藤瀬は、舞い落ちる花びらの中でぼんやりと思った。梅でも木蓮でも、木に咲く他の花々では、こうはいかない。
 そう思いながら、背広の肩を払う。
 喪服に、淡く色づく桜の花びらは不吉な気がしていた。あの、桜の木の根元には死体が埋まるという都市伝説が藤瀬の中に深く根付いていたからかもしれない。
 今日の告別式は、さして親密な相手のものでもなかった。大学時代に講義を取っていた教授が、ぽっくりと逝ってしまったのだ。全く前触れの無い死で、前日までは補習の生徒たちに、元気に教鞭を取っていたという。
 死因を聞いた記憶があるのだが、すでに記憶の底に消え去っていた。
 弔問客は平日だというのに多かった。きっと、教授を恩師と仰ぐ学生たちが押し寄せているのだろう。そして、彼女の死を嘆き、涙しているのだ。
 藤瀬はどうしても泣けなかった。講義は取っていたが、個人的に話したことは無いし、彼女を尊敬していたわけでもない。
 彼女はただの教授だったし、藤瀬はただの学生だった。卒論などにも関係がなく、一年の時にいくつか講義をとっていただけの相手だった。
 そういえば、卒業名簿を使って告別式の連絡が来たのだが、大学時代の友達には会場で一人も会わなかった。みんな、社会人なのだ。平日のこんな時間に自由に出歩けるはずがない。
 有給を取ってまで式場に訪れたのは気まぐれなのだろうか。自分でも理解できない行動に理由も理屈もつけないまま、藤瀬は静かに学外へ続く坂を歩き始めた。
 道の両脇には桜が何本も植えられている。
 告別式は、大学の講堂で行われた。教授自身の功績もあったのだろうが、卒業式も終わって入学式もまだの時期だったためか、すんなりと利用許可が降りたらしい。お陰で、式に行く前に構内に入り込め、図書館をうろついて、部室連を外からだが眺められた。
 懐かしかった。大学時代が人生の中で一番楽しいというのは本当だ。酒も飲めるし、バイトで金も稼げる。レポートやレジュメに追われるが、自由な時間が多かった。今のように、ただひたすらに時間の全てを会社に注ぎこむようなことは無かった。
 まだ春休みなのか、帰り道には人気は全くなく、藤瀬のような黒衣の弔問客すらいない。告別式が終盤に近いとはいえ途中だったので不自然ではないのだが、違和感は感じていた。
 風が吹くと、道に散った花びらが、まだ咲き乱れる花びらが舞い飛び、視界すら埋め尽くす。
 小説の描写に出てきそうな幻想的な風景は、どことなく藤瀬の背筋をひやりとさせた。
 風が静まる。ゆっくりと、桜の嵐が治まっていく。
 世界が変換されたような気がした。
 辺りは、今まで聞こえていた喧騒すら消え、藤瀬一人を置き去りにしていた。
 自分が異質なものとなってしまった。そんな思いに囚われる。
 今まで、藤瀬は母校にいた。有給を使って会社を休み、大学時代の教授の告別式に来ていた。自分に、故人を悼む心はあるのかと思い返していた。
 考え込んでいたのはほんの数分の事だ。環境が変わるくらいの時間は経っていないはずである。
 辺りを見回す。視界には誰も映らない。それのみならず、さきほどまで坂の麓の通りをひっきりなしに横切っていた車すら姿を消していた。
 何の影響なのだろうか。
 なんとはなしに、『世にも奇妙な物語』を思い出した。あのドラマにも、似たような状況に主人公が陥った一篇があった。
 ある朝、主人公が外に出る。すると、人っ子一人見ることができない。彼の住む街には彼以外誰もいないのだ。そして、まるで界隈の人間全員が取るものも取らず、夜逃げでもしたかのように全てが置き去りにされていた。自動車も車道に止まったままだし、コンビニに寄れば商品は陳列されたままだった。
 ただ一人の世界。
 自分も同じなのだろうか。
 浮かんだ応えに、藤瀬は自虐的に笑った。
 もし、そうだとしても、ちょうどいいのかもしれない。
 藤瀬は、人生に飽きている。
 毎日、同じ繰り返される日々。変化は無く、ただ年を取るばかりで、気付けば、大学を出てからも何年も経っていた。
 それまでの時間は、まるで長すぎる一瞬のようだった。
 あれだけ学生時代を鮮明に思い出せるのに、社会人になってからのことは霞がかって上手く像を結ばない。それは、通り行くのが早すぎて記憶として残らなかったのだとしか考えられない。
 昔を懐かしがるなんて、まるで老人だと藤瀬は自嘲する。
 だが、今の暮らしはあまりにも辛く、苦しかった。
 誰かの気配を感じ、振り向く。
 女の子がいた。小学生くらいの年で、がりがりに痩せている。防災頭巾にもんぺの時代錯誤な衣装で、こちらをじっと見ていた。
 最初は、自分を見ていると藤瀬は思わなかったが、背後に他の人間の気配などなく、視線の先には自分しかいないと気付いた。
 会ったことも無い少女だ。なぜ、注視されるのか。
 何か用かと声をかける寸前で、また、藤瀬の背後に何かが現れた。
 視線を前に戻すと、少女がいた。年若い、高校生くらいの女だ。白いシャツに踝までの長いスカートの古臭い格好で、髪をお団子にひっつめて睨むようにこちらを見ている。
 誰かの面影があった。
 どこかで見た、髪型、頬骨から顎にかけてのライン、強い瞳。
 ——先生だ。
 今日の告別式の主役とも言える彼女。それが目の前にいる。藤瀬は確信した。その考えがおかしいということは自覚しているが、目の前の少女は、彼女としか思えなかった。そういえば、先ほどの女の子も、どこか彼女と通じるものがある。
 少女は、何かを叫んだ。目の前の人間に向かって発していたのだが、藤瀬に対してではないような気がした。
 恐怖は無い。
 本当は怖がるべきなのだろうが、藤瀬にはそんな感情は浮かんでこなかった。自暴自棄になっている訳ではない。例え、彼女の言葉が罵倒でも、ただ静かに受け止められた。
 また、背後に気配がする。顔だけを向ける。
 女の子は消えていて、別の女がいた。背後の少女よりは年を取っていたが、まだ中年とは言い難い年代。髪はひっつめているのは同じだ。これは先生のトレードマークだった。
 思いつめた表情で、視線を落としている。彼女のことだから、きっと藤瀬には想像もつかないことを思い悩んでいるのだろう。
 また、正面に気配がした。
 向くと、中年くらいの彼女がいた。ぼんやりとしたまま中空を眺めていた。放心状態で、全てを遮断しているように思えた。自分の置かれている状況も、立場も、周りにいる人間も、藤瀬も。彼女に何があったのか。
 そして、また背後に気配が。
 そこには、先生がいた。
 藤瀬の記憶の中にある姿のままの、生前の姿の彼女。白い髪をお団子にひっつめて、フレームの無い眼鏡をかけて、淡いピンクのスーツで。
 変わりない。
 藤瀬は、後ろに向き直った。肩越しで確認するなどせずに、彼女を正面から視界に納めた。
 彼女は、少し掠れてくぐもった声で講義をしていた。コネがあるからと、校外へ課外授業によく連れて行ってくれた。面白がってついて来た藤瀬たちにも丁寧に解説してくれた。怒鳴りつけられることもあったが、講義は熱を帯び、学生たちに真摯だった。
「先生……」
 名を呼んで何かを続けようとしたが、藤瀬の言葉は声にならなかった。いや、自分でも何を言おうとしたのか判別できない。
 先生。
 心の中で再度呼びかけた。
 胸が詰まり、声にならなかった。
 彼女は、学生である藤瀬にとって特別な存在ではなかった。例え記憶に残るような教授だったとしても、選択科目の一つを受け持っていたに過ぎなかった。それでも先生は、自分の人生の一部だったのだ。
 風が吹く。
 桜の花びらが舞い散り、当時の記憶が浮かび上がる。
 何でもない風景。出欠カードの紙の色。講義中に眠りつく友人の横顔。壇上に上がり、発表する自分から見える教室の広さ。新歓コンパ。文化祭。黒板の深く暗い緑色。大講義室の机の落書き。その一つ一つ。
 彼女と供に、もう決して戻らない時代だった。
 風を受けて、藤瀬の目元がひやりとした。知らず、涙が溢れかけていた。
 唐突に、長いクラクションの音がする。
 いつのまにか先生の姿は消えていた。
 車の排気音や人の声がし、世界は元の状態に舞い戻った。
 喧騒が藤瀬を包む。
 藤瀬の脇を、地味な霊柩車が通り過ぎていった。先生の希望で派手なものは使わないのだ、と漏れ聞いたのを思い出す。火葬場へ向かうのだろう。続いて、親族の乗るマイクロバスも坂から降りてきていた。
 前方の通りに車が行き交い、背後から幾人かの弔問客たちが藤瀬を追い越していく。
 藤瀬は目を瞑り、流れ出そうな涙を押しとめた。涙は、そのまま目蓋の裏を満たす。
 いま見たものは何だったのだろうか。
 彼女たちは、明らかに教授だった。そして、まるで年を重ねていくかのように姿を見せていた。
 なぜ、先生が現れたのか。——考えても、結局は、自分に分かりはしないのだ。
 藤瀬は思い、続けた。
 だが、彼女は時間を経ていく自分自身を見せることによって、藤瀬に何かを示唆したのかもしれない。
 いや、自己中心的な考えに過ぎない。藤瀬は想像をすぐさま翻した。この現象が深い意味すら持たない可能性だってあるのに。
 そして、この涙は、きっと先生の死を悼むためのものではなく、帰らない自分の学生時代を思い出しての感傷でしかないのかもしれない。
 そんな風に思いながら、藤瀬はまた肩の桜を払った。
 花びらは風に乗り、ゆっくりと地に落ちていく。

〈終〉



========================================================

創作小説サイト【SKIPJack】
http://skipjack.oops.jp
裏 http://skipjack.oops.jp/u.html
管理人 古川
skipjack@xj.oops.jp

規約に同意してこのメルマガに登録/解除する

メルマガ情報

創刊日:2003-04-27  
最終発行日:  
発行周期:隔週  
Score!: - 点   

コメント一覧コメントを書く

この記事にコメントを書く

上の画像で表示されている文字を半角英数で入力してください。

※コメントの内容はこのページに公開されます。発行者さんだけが閲覧できるものではありません。 コメントの投稿時は投稿者規約への同意が必要です。

  • コメントはありません。