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こんな映画は見ちゃいけない! 

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ヒトラーの忘れもの こんな映画は見ちゃいけない! 

2016/12/17

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☆  こんな映画は見ちゃいけない!  2016/12/17  Vol.1812   ☆
   
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 こんにちは、発行人のオテロです。

 本日、とりあげる作品は
 
             「ヒトラーの忘れもの」  です。

腹ばいになって顔を近づけ、上部の蓋をゆっくりと回してはずす。極
度の緊張に指先は震え、汗がしたたり落ちる。むき出しになった信管
をつまみ慎重に持ち上げ解体する。死は目の前にあるが、やり遂げな
ければ命はない。物語はナチスドイツ降伏後のデンマーク、海岸線に
放置された地雷原を除去するために動員されたドイツ敗残兵と、彼ら
を指揮・監督するデンマーク軍軍曹の葛藤と友情を描く。祖国を占領
したドイツ人はもちろん憎い、だが彼らは年端もいかない若造ばかり。
まるで奴隷に対するような威圧的な態度を取っていた軍曹が、彼らに
も親兄弟がいると思いが及んだ時、感情が動く。過去の恨みに寛容に
なれるか、それは人としての度量を試されているとこの作品は訴える。

ラスムスン軍曹から1時間に6個の地雷処理を命じられた11人のドイツ
兵。食料も与えられずにこき使われるのに耐えかね、家畜のえさを盗
み食いする。翌日、食中毒になった1人が地雷を誤爆させ重傷を負う。

軍曹はドイツ軍に家族を殺されていたのだろう。地雷解除は絶好の仕
返しのチャンスと、ドイツ兵につらく当たる。ところが、命令するだ
けで話し相手もいない現場で、“終わればドイツに帰れる”という希
望にすがりついて作業を進める彼らと徐々に言葉を交わすようになる。

その過程で、彼らのためにパンとポテトを調達する軍曹自身が、“こ
んなことをするなんて信じられない”と己の行為に驚きやさしさを取
り戻す。その背中は、憎悪するより理解し合う大切さを教えてくれる。

       お勧め度=★★★★(★★★★★が最高)

              「ヒトラーの忘れもの」
                         についての詳細は、

       http://d.hatena.ne.jp/otello/201600922
               
          を参考にしてください。




 本日はもう一本
 
             「ニーゼと光のアトリエ」  です。

来る者を拒むかのような塀に設えられた鉄の扉を何度もたたく女。こ
れから彼女を待ち受ける権威主義の高い壁を象徴する導入部分にいき
なり引き込まれる。物語は精神病棟に赴任してきた女性医師が、彼ら
を丁寧に扱うことで眠っていた芸術的才能を呼び覚ます過程を追う。
まだアイスピックでロボトミー手術が行われ、電気ショックが最新の
治療法だった時代、ヒロインは患者に“顧客”として相対し、観察し、
耳を傾ける。そして、汚れ放題の部屋を居心地の良い空間にあらため
て絵筆と絵具を与える。ほどなく、医療従事者に脅えていた患者たち
が生き生きと個性を発揮し、時に尋常ならざる集中力を見せる姿は、
人間の可能性はどこに隠れているかわからないと教えてくれる。

苦痛の叫びをあげる患者を実験台にする病院側のやり方にショックを
受けたニーゼは、アートセラピーを始める。当初、抽象的な絵を描く
患者たちだが、それは彼らの潜在意識の表出であるとニーゼは気づく。

暴力的性向のルシオにタオルを丸めたボールを蹴らせサッカーの真似
事をさせるニーゼ。ルシオが嬉しそうに球蹴りに興じる様子は、先入
観を捨て相手に敬意を持って接する大切さを示す。他の患者たちも次
第に記憶や願望を合成した心象風景などをキャンバスに再現していく。

彼らは決して凶暴ではない、コミュニケーションが下手なだけ。恋や
嫉妬といった感情こそが精神疾患の改善に役立つとニーゼが知るシー
ンは、愛し愛されたいという本質は患者も同じであると訴える。

       お勧め度=★★★★(★★★★★が最高)

                  「ニーゼと光のアトリエ」
                         についての詳細は、

       http://d.hatena.ne.jp/otello/20161122
               
          を参考にしてください。




 本日はもう一本
 
                「幸せなひとりぼっち」  です。

クーポンにいちゃもんをつけ、違反車を力ずくで止め、吸い殻を拾い、
ごみをチェックする。規則に厳格で、従わない者には“ばか者”と悪
態をつく。もはや文句が日常になった男は“小言ジジイ”と嫌われて
いる。物語は定年直前にリストラされた主人公が、新たな隣人と交流
するうちにやさしさを取り戻していく過程を描く。子供はなく、妻に
先立たれて生きる意味がなくなった。ところが、こんな自分を必要と
してくれる人がいると気づいた時、彼の胸に意欲が芽生える。苦虫を
かみつぶした表情が徐々に和らいでいく変化が愛おしくも共感を呼ぶ。

40年以上勤めた鉄道局を解雇されたオーヴェは自宅で首を吊るが、引
っ越してきたイラン人・パルヴァネ一家に邪魔をされた上、駐車を手
伝う羽目になる。その後も自殺を図るたびに妨害がはいる。

妊娠中のパルヴァネと不器用な夫のために、彼らに手を貸すオーヴェ。
無遠慮なパルヴァネの態度に最初はイラついていたが、気に掛けてく
れていると知ると、少しずつ言葉を交わすようになる。他の顔見知り
とも会話を始めるが、その間、新車競争のエピソードはスウェーデン
人の国産車に対する意識がうかがえて楽しい。

そして、正直を貫けと教えてくれた無口な父と素晴らしい人生を送ら
せてくれた妻・ソーニャとの満ち足りた日々、オーヴェがずっと胸に
しまっていた思い出をパルヴァネに語るシーンは、他人を寄せ付けな
い孤独な人ほど実は話を聞いてもらいたがっていると訴える。

       お勧め度=★★★*(★★★★★が最高)

                     「幸せなひとりぼっち」
                         についての詳細は、

       http://d.hatena.ne.jp/otello/20160924
               
          を参考にしてください。




 本日はもう一本
 
              「うさぎ追いし 山極勝三郎物語」  です。

来る日も来る日もうさぎの耳にコールタールを塗り、癌細胞の発生を
待つ。思ったような結果は出ず、高温多湿に弱いうさぎは次々に死ん
でいく。その間、研究者の妻はカネの苦労が絶えず、守衛部屋に泊ま
りこむうちに守衛の娘と昵懇になった助手は彼女の異変にも気づかな
い。物語は日本の癌研究の先駆けとなった病理学者の半生を追う。希
望に燃えた少年時代、勉学に励んだ学生時代、そして研究者となって
からの地道な努力と家族の支え。学校の現場で上映することを目的と
しているのだろう、登場人物はあくまで教科書的なキャラで、台詞回
しもカメラワークもしっかりと映像の意図が伝わる丁寧なつくり。時
代を感じさせない明快さは偉人伝としての風格を備えていた。

信州上田で生まれ育った勝三郎は上京して町医者の婿養子になる。東
大医学部を卒業後、病理に進み癌の原因を突き止める研究を開始、助
手の市川と共に寝食を忘れ実験に没頭するが成果は上がらない。

一方、妻・かね子との間に3児をもうけ円満な家庭生活を営むが、同時
に結核を患い体調はすぐれない。それでも、過労で倒れるまでうさぎ
の面倒を見る市川の献身と工夫のおかげで、徐々に癌化のメカニズム
がつかめてくる。

札幌農学校出身なのに病理学に転身した市川という男の、真面目だが
他人の濃やかな感情には鈍感な朴訥とした性格が、几帳面な勝三郎と
好対をなしていた。そんな男に恋をした守衛の娘の気持ちが切ない。

       お勧め度=★★★(★★★★★が最高)

                     「うさぎ追いし 山極勝三郎物語」
                         についての詳細は、

       http://d.hatena.ne.jp/otello/20161123
               
          を参考にしてください。




 本日はもう一本
 
                「フィッシュマンの涙」  です。

“夢は平凡な人間になること”、それは格差の底辺からはいあがれな
い若者の痛切な訴え。学歴がなければ使い捨てられる、一流大学卒し
か正社員にはなれない。彼の言葉は、歪んでしまった韓国社会への不
満を代弁していた。物語は新薬の副作用で上半身が魚化した青年を取
材するTV記者が、世の中にはびこる不正と戦い、真実を知ろうとする
姿を描く。主人公もまた不安定な身分から脱出するチャンスとばかり
に魚人間を利用する。魚人間の父は賠償金を目当てに、弁護士は売名
に走り回る。強者は弱者から搾り取り、弱者はさらに弱い者を踏み台
にする。そんな、つつましく生きることすら困難になった現代の閉塞
感が、魚人間の寂しげな肩に凝縮されていた。

魚人間の恋人と公言する女・ジンに接触した試用記者のサンウォンは、
製薬会社に監禁されていたパク・グの存在を暴く。魚の顔になったパ
ク・グは非道な実験の犠牲者として悲劇のヒーローに祭り上げられる。

ところが、製薬会社がでっち上げたセクハラ事件で風向きが変わると、
“神”とまであがめられたパク・グは“北の手先”といった非難まで
浴びる。すっかり人間不信に陥ったパク・グはサンウォンたちの前か
ら消えるが、それでもしばらくするとサンウォンの下に戻ってくる。

どこにも居場所がない、どこも行く当てがない。人があふれる大都会
だから一層の孤独を感じてしまう。表情の乏しいパク・グの魚顔がよ
り哀しみを際立たせる。

       お勧め度=★★*(★★★★★が最高)

                     「フィッシュマンの涙」
                         についての詳細は、

       http://d.hatena.ne.jp/otello/20161027
               
          を参考にしてください。

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        余|談|
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京都の仕立て屋が、父の遺品の中から30年前に起き迷宮入りになった
大事件に子供の頃の自分が関わっていた証拠を見つける。そんな衝撃
的な導入で始まる「罪の声」を読みました。

グリコ・森永事件をモデルにした犯行の虚実交えた描写はリアルで、
犯人グループや警察の動きもディテール豊かに再現しています。

そして事件の真相を追う新聞記者が小さな事実を組み合わせ真実を手
繰り寄せていく過程は、取材とはこうした地道な聞き込みの積み重ね
と教えくれます。

そして明らかになった全体像。「かい人21面相」と名乗った実際の犯
人たちは成功の甘き美酒に酔うことができたのでしょうか。。。

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      次回配信予定は12/22作品は
         
            「こころに剣士を」
         
              です。

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創刊日:2002-12-02  
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