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こんな映画は見ちゃいけない! 

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完全なるチェックメイト  こんな映画は見ちゃいけない! 

2015/12/25

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☆  こんな映画は見ちゃいけない!  2015/12/25  Vol.1714    ☆
   
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 こんにちは、発行人のオテロです。

 本日、とりあげる作品は
 
            「完全なるチェックメイト」  です。

常識にとらわれない。それは奇想天外な攻め手だけでなく、対局以外
のあらゆる時間に及ぶ。マネージャーに無理難題を吹っかけ、試合会
場に文句をつけ、聞き入れられるまでダダをこねる。物語は米ソ冷戦
下、最強の棋士を目指した男の波乱の半生を描く。生活のすべてをチ
ェスに捧げ、起きている間は棋譜しか頭にない。そんな、常に脳をフ
ル回転させ数十手先を読む日常に、次第に精神が蝕まれていく。やが
て雑音にさえ過敏になり、被害妄想に駆られるようになる主人公。天
才であるのは間違いない、だが彼の過剰なわがままには嫌悪感を覚え、
社会主義国のライバルたちがよほど紳士的だという皮肉が、伝統的ヒ
ーロー像が歪み始めたニクソン時代の米国の空気を象徴していた。

独学でチェスを覚えたボビーは、NYのチェスクラブに入門、十代で全
米チャンピオンになる。そしてカリフォルニアに遠征中のソ連チーム
と対戦、次々と強敵を破るが、スパスキーには一蹴される。

共産党員をアパートに連れ込む母を追い出したのを皮切りに、弁護士
のポールをマネージャーにしてからは理不尽な要求をだすボビー。ま
るで周囲がどこまで言いなりになるかを試す行為は、もちろんベスト
コンディションでチェスに臨むためなのだろう。

ところが、どんな些細なことにも妥協しない姿は一方で寂しさの裏返
しにも見え、上手なコミュニケーションの取り方を教わらずに大人に
なったボビーの、他人に理解されない孤独が凝縮されていた。

       お勧め度=★★★★(★★★★★が最高)

                「完全なるチェックメイト」
                         についての詳細は、

       http://d.hatena.ne.jp/otello/20151027
               
          を参考にしてください。




 本日はもう1本
 
              「神様なんかくそくらえ」  です。

夢や希望はどこにあるのか。いや、そもそも自分の住む世界にそんな
概念が存在すると知らずに育ってきたのだろう。あるのは、ちんけな
ジャンキーへの偏った気持ちだけ。愛というほどの優しさはない、恋
というほどロマンティックでもない。死ねと言われれば手首を切り、
邪険にされてもまとわりつく。生きる意味など考えたことはなく、た
だ街を歩き続けるヒロイン。物語はNYで路上生活を送る若い娘の魂の
彷徨を描く。立ち直ろうとしてもすぐにドラッグに手を出し、それで
も何とかなる大都会の裏側。あんな男を好きになる感情は消しきれな
かった彼女の、ヒリヒリとした思いがスクリーンに張りつめる。

恋人のイリヤにフラれたハーリーは自殺未遂で入院する。退院後、ド
ラッグ売人のマイクの世話になるが、やっぱりイリヤを忘れられない。
ある夜、イリヤがオーバードーズしたと聞き現場に駆けつける。

ホームレス同士の連帯感なのか、困っていると誰かが声をかけてくれ
る。マイクはハーリーにドラッグやスマホを与えるなど、特に“オレ
の女”でもないのにいろいろ面倒を見る。その間、ハーリーはドラッ
グの仲買人についていったり、マイクとイリヤのケンカを煽ったりと
情緒が不安定なまま。イリヤに荷物を捨てられたりもする。

このあたり、彼らが大切にしているものが友情なのか愛なのかそれと
もカネなのか、行動の動機が不可解。むしろ、それらの価値観に執着
しないからこそ社会からドロップアウトできたにちがいない。

       お勧め度=★★*(★★★★★が最高)

                「神様なんかくそくらえ」
                         についての詳細は、

       http://d.hatena.ne.jp/otello/20151126
              
          を参考にしてください。




 本日はもう1本
 
   「DENKI GROOVE THE MOVIE? 石野卓球とピエール瀧」  です。

「あまちゃん」のすし屋のオヤジ、「凶悪」の死刑囚、「進撃の巨人」
の駐屯兵etc. 画面に登場するだけで強烈な印象を残し、完全に主役
を喰ってしまう圧倒的な存在感をみせるピエール瀧。セリフが少なく
ても、人物名を覚えていない小さな役でも、なぜか苦虫をかみつぶし
たような顔は忘れられない。善人を演じれば他人に言えない過去を持
つ苦労人、悪人に扮すれば寡黙さの裏に死の腐臭を発する人殺し、ど
んなキャラでも抑制のきいた感情表現で場を引き締めている。映画は
彼の本職であるテクノ系音楽ユニット・電気グルーヴの誕生から現在
に至るまでの紆余曲折を記録映像と知人たちの証言で綴る。

高校の同級生だった石野卓球とピエール瀧は、バンド・人生を結成す
る。卒業後メンバーの入れ替えを経て1989年電気グルーヴとしてデビ
ュー、さまざまなジャンルの音楽を取り入れたライブは人気を博す。

その後、メジャーへの階段を駆け上がっていくが、ラジオとライブが
主な活動の舞台となる。いち早くヒップホップやユーロサウンドを取
り入れ日本人受けするようにアレンジする先見性、既成の価値観に挑
戦し続ける反骨精神、TVで普遍的になるよりもライブでとんがったま
までいたいという親近感を信条にファンを開拓していく。

その中で、創作の苦悩や試行錯誤、メンバー同士の方向性の違いから
くる葛藤といった人間的な面は極力撮影させず、カメラの前ではあく
まで電気グルーヴの石野卓球とピエール瀧であり続ける。

       お勧め度=★★*(★★★★★が最高)

       「DENKI GROOVE THE MOVIE? 石野卓球とピエール瀧」
                         についての詳細は、

       http://d.hatena.ne.jp/otello/20151030
               
          を参考にしてください。




 本日はもう1本
 
          「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」  です。

息子にとって、父とは乗り越えなければならないライバル。では、娘
にとってはいかなる存在となのか。時は流れ世代は下っても、能力を
継承する者の運命はドロイドによって動き出す。物語は、生き別れた
父との再会を信じるヒロインの葛藤と成長を描く。まだ己が何者かわ
からない。教えてくれる親もメンターもいない。それでも偶然の出会
いが重なって必然となり、なすべき目標を見つけていく過程は「エピ
ソードIV」を思い出させる。そしてハリソン・フォードが演じる密輸
業者の、“永遠の冒険者”ぶりに胸が躍る。正義や大義のために命を
懸けるなどというヒロイズムとは一線を画した利己的な行動理論こそ
が彼の魅力であり、やっぱり父親の苦悩は似合わない。

戦乱尽きぬ時代、ルークの隠棲場所を記した地図を託されたBB-8は砂
漠でレイに拾われる。レイはファースト・オーダーの脱走兵・フィン
と共に逃げ回るうちにハン・ソロと合流、辺境の惑星を目指す。

ダース・ベイダーを崇拝するカイロ・レンはファースト・オーダー軍
の司令官として最高指導者に仕えているが、いまだ怒りをコントロー
ルできない未熟者。ダークサイドに染まり切れない自分に苛立ってい
る。レジスタンスの将軍である母に父も加勢した今、すべきことはひ
とつ。ダース・ベイダーの遺志を継ぐ彼に絶好のチャンスが巡る。

30年ぶり登場のレイアとハン・ソロの、相変わらず“愛しているけど
信頼できない”微妙な距離感に懐かしさを覚えた。

       お勧め度=★★★(★★★★★が最高)

           「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」
                         についての詳細は、

       http://d.hatena.ne.jp/otello/20151221
               
          を参考にしてください。




 本日はもう1本
 
              「あの頃エッフェル塔の下で」  です。

命がけで愛すると言ったのに、いつしか気持ちは冷めていく。抑えき
れない思いを綴った手紙を何通も認めたのに、他の異性からのアプロ
ーチを断りきれない。物語は故郷の小さな町で美しい少女と付き合い
始めた青年が、遠距離交際の果てにお互いの未来を見失っていく過程
を描く。詩のような表現をちりばめた知的な文章を書く彼に対し、高
校卒業後は夢も目標もなく享楽的に生きる彼女の返信はいつも平易な
筆致。都会に進学した者と地元から抜け出せない者の格差が垣間見え
る。愛を存続させるには、価値観が同じ相手と手の届くところにいて
常に存在を確かめ合いメンテナンスを続けなければならない。恋愛と
は、男女双方の共同作業なのだ。

入管でパスポートの問題を指摘されたポールは、スパイ容疑で尋問さ
れる。事情を説明するうちに彼の脳裏に蘇ったのは、反抗的な子供時
代から、ソ連での冒険、そしてエステルとの甘く切ない日々だった。

ユダヤ人の親友に協力して、“運び屋”としてソ連に飛び、役目を果
たすポール。監視もゆるく、鉄のカーテンの向こうという感じがしな
いのは、ペレストロイカ時代の地方都市だからだろうか。

そこでユダヤ人の若者にパスポートを譲ったことからその後の運命が
変わるとまだ気づいていない。このあたり、もう少しサスペンスを盛
り上げる演出がほしい。エステルとのパートも特にオチもヤマのない
散文的なエピソードが漫然と羅列されるばかりだった。

       お勧め度=★★(★★★★★が最高)

                「あの頃エッフェル塔の下で」
                         についての詳細は、

       http://d.hatena.ne.jp/otello/20151223
               
          を参考にしてください。




 本日はもう1本
 
    「映画ちびまる子ちゃん イタリアから来た少年」  です。

三世代6人の仲のいい家族、個性的だが友達思いのクラスメイト、登場
人物はみな親切で、親身になって相談に乗ってくれる。何も変わって
いないこの作品のキャラクターと舞台、平和でのどかなユートピアの
ような世界観に浸っていると、懐かしくあたたかい気持ちに満たされ
ていく。物語は、日本に短期留学してきた小学生のひとりを自宅で面
倒を見るヒロインが、彼の願いを叶えてやろうと「西奔東走」する姿
を描く。おっちゃんおばちゃんがおせっかい焼きな大阪、失くした財
布を修学旅行生が一緒に探す京都。地元以外の旅先でも人々の善意に
助けられて成長していく少年少女の背中は、いまや良質なアニメが日
本人の美徳を伝えていく重要な役割を担っていることを示す。

花輪くんの家に来た6人の外国の小学生は、それぞれ別の家庭にホーム
ステイする予定。イタリア人のアンドレアはまる子の家に来る。アン
ドレアは亡き祖父が世話になった大阪の老夫婦に会いたがっていた。

大阪に一泊旅行に行くまる子とアンドレアたちは道頓堀界隈で祖父を
知る男から話を聞くが、老夫婦は東京に引っ越し消息は分からない。
そのあたり、アンドレアよりも、まる子やおじいちゃんの方が落胆し
ている。遠来の客の要望に応えられない己のふがいなさを恥じる人情
の深さが、逆に「お・も・て・な・し」の精神を象徴していた。

自分の事より相手の事情をまず考える、そんな心遣いを忘れてはいけ
ないといったメッセージがかえって新鮮だった。

       お勧め度=★★*(★★★★★が最高)

       「映画ちびまる子ちゃん イタリアから来た少年」
                         についての詳細は、

       http://d.hatena.ne.jp/otello/20151224

               
          を参考にしてください。




 本日はもう1本
 
              「海難1890」  です。

深手を負った人々が目の前にいたら、どれほどの自己犠牲を示すこと
ができるだろうか。重傷者、溺れる者、行方不明者……、台風に巻き
込まれた軍艦に無傷の者はいない。貧しい漁村では漁師も医師も女房
も子供も女郎までもが一丸となって生存者を看護し、死者を弔う。物
語は19世紀末、日本で遭難したトルコ艦の乗組員と救出活動に従事し
た村人の交流を描く。海から引き揚げても収容する場所が足りず、ま
ともな医師もひとりだけ。それでも体の冷えた者は人肌で温め、負傷
者になけなしの食料を与え、回収した遺品のクリーニングまで行う。
生き残った罪悪感に苛まれる士官が村人たちの誠意と美徳に癒されて
いく過程は、人間としての誇りは生活環境が育てると教えてくれる。

訪日の帰路エルトゥールル号は和歌山沖で座礁、地元の村人たちは総
出で60名以上の命を救う。だが、医療設備もない田舎、医薬品が不足
する中、医師の田村と助手のハルは徹夜で治療にあたる。

暴風雨の中、漁師は身の危険を顧みず荒れ海に飛び込み、医師は不眠
不休で手術する。一方で女郎屋で遊興にふけるオッサン。この対比は
何を意味するのか。また、トルコ側の主人公・海軍大尉のムスタファ
の胸中も、日本側のヒロイン・ハルの思いも通り一遍に触れるのみで、
芽生えた感謝の念や無事を祈る気持ちなどにも深く切り込まない。

このあたり、事件を俯瞰的にとらえるのではなく、体験者の目を通す
構成にしていればもう少し登場人物に感情移入できたはずだ。

       お勧め度=★★(★★★★★が最高)

                「海難1890」
                         についての詳細は、

       http://d.hatena.ne.jp/otello/20151221

               
          を参考にしてください。

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        余|談|
        ━┛━┛

今年も1年間ご愛読ありがとうございました。本年の配信はこれで最後
です。というわけで2015年のベスト10です。

1:イミテーション・ゲーム
http://d.hatena.ne.jp/otello/20150212

2:きみはいい子
http://d.hatena.ne.jp/otello/20150427

3:アメリカン・スナイパー
http://d.hatena.ne.jp/otello/20150126

4:クリード チャンプを継ぐ男
http://d.hatena.ne.jp/otello/20151204

5:ソロモンの偽証 前篇・事件
http://d.hatena.ne.jp/otello/20141227

6:セッション
http://d.hatena.ne.jp/otello/20150420

7:最後の1本 ペニス博物館の珍コレクション
http://d.hatena.ne.jp/otello/20150529

8:ホワイト・ゴッド
http://d.hatena.ne.jp/otello/20150815

9:妻への家路
http://d.hatena.ne.jp/otello/20150109

10:ナイトクローラー
http://d.hatena.ne.jp/otello/20150824

それでは、よいお年を!


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      次回配信予定は1/7作品は
         
        「ブリッジ・オブ・スパイ」
         
              です。

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なお、相互紹介の依頼は受け付けておりません。

最後までお読みいただきありがとうございます。
それでは、よい一日を!

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創刊日:2002-12-02  
最終発行日:  
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