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こんな映画は見ちゃいけない! 

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リンカーン こんな映画は見ちゃいけない! 

2013/04/18

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☆  こんな映画は見ちゃいけない!  2013/4/18  号 Vol.1465  ☆

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 こんにちは、発行人のオテロです。

 本日、とりあげる作品は

                  「リンカーン」  です。

彼が何を成し遂げたかは誰もが知っているが、目的にたどり着くまで
の苦難の道のりはあまり語られていない。奴隷解放と内戦の終結、二
つを達成するために知略と謀略を駆使し、議会をまとめるために泥臭
いまでの戦術を取っていた事実が描かれる。結局、英雄も人間、ロビ
イストを使って、政敵をなだめ、すかし、買収し、時には脅迫まがい
に共鳴者を増やしていく過程で、生臭い政治の世界を再現する。

リンカーン大統領は、奴隷制度廃止を謳う憲法修正案を通過させるた
め下院での多数派工作を国務長官に命じる。奴隷解放を南部諸州にも
徹底したいリンカーンは、あくまで早期に修正案の成立を目指す。

戦場で銃を取り命を張る黒人兵と気軽に言葉を交わすリンカーン。そ
んな姿は民主主義の理想と崇められているが、実際は権謀術数に長け
た駆け引きと妥協の達人。もちろんそれは現実を見なければならない
大統領という立場によるのだが。一方で、黒人家政婦を妻にする急進
派の奴隷解放論者であるスティーブンス議員に自重を求めるなど、当
然すべての人々がリンカーンに賛同しているわけではない。

米国民主主義の頂点に立つ者が民主主義の手続きに足元を絡め取られ
自由に動けない。その自縄自縛もまた民主主義であることをリンカー
ンは身をもって証明する。肖像写真から抜け出たようなメイクで彼を
演じたダニエル・デイ=ルイスの圧倒的な存在感が、スクリーンから
緊張感を漲らせていた。

       お勧め度=★★★*(★★★★★が最高)

                      「リンカーン」
                         についての詳細は、

       http://d.hatena.ne.jp/otello/20130218

    を参考にしてください。




 本日はもう1本

           「カルテット!人生のオペラハウス」  です。

貴族の屋敷と見まがう田園風景の中で威厳を保つレンガ造りの壮麗な
建物。そこは引退した音楽家たちが余生を過ごす老人ホームだ。洗練
された家具調度に囲まれ、医師と看護師が常に健康状態をチェックし、
健やかで清潔な暮らしが保障されている。入居金や月々の支払いがい
ったいいくらになるのかと想像してしまう優雅な施設、入れるのは使
いきれないほどカネを稼いだ成功した音楽家だけなのだ。だからこそ
彼らはここでも音楽家であり続け、演奏と歌を日課にしている。映画
は名プリマドンナが新たに入居することで起きるひと悶着を追う。

元オペラ歌手のウィルフ、レジー、シシーはかつて同じステージで「
リゴレット」を演じた仲、今でもホーム内で親しくしている。ある日、
ホームにレジーを深く傷つけたの元妻のジーンが入居してくる。

折しも、財政難に苦しむホームは、資金集めのコンサートでジーンを
加えた四重奏をハイライトにしようとする。ウィルフたちはあの手こ
の手でジーンを誘うが、もはや歌に自信を無くしているジーンは頑な
に断る。その過程でいかにジーンが人として常識はずれだったかが明
らかになっていく。

「現役時代の肩書やキャリアをひけらかさないのが老後を豊かにする
コツ」という日本の老人ホームとは決定的に異なっていて、実は狭い
人間関係に死ぬまで、いやきっと死んでからも縛られるだろう彼らの
現実が興味深かった。

       お勧め度=★★★(★★★★★が最高)

               「カルテット!人生のオペラハウス」
                         についての詳細は、

       http://d.hatena.ne.jp/otello/20130223

    を参考にしてください。




 本日はもう1本

                   「コズモポリス」  です。

ネズミを通貨にすれば、“持てる者”はネズミ算式に資産を殖やして
いく。しかし、増えすぎたネズミは人間の暮らしを脅かし、屋台骨を
食い荒らしてしまう。そんなたとえ話に自ら首を突っ込んだような青
年の破滅に至るまでの長い一日は、皮肉と暗喩にあふれた禅問答のご
とき抽象的で難解な言葉の羅列とともに、マネーゲームという虚業の
勝者の空疎な実態を象徴する。すべてはカネで買えると信じて欲望を
満たしてきた主人公がたどり着いた底なしの絶望と虚無。行き過ぎた
資本主義の希望なき未来を映画はシニカルに描く。

28歳にして巨万の富を築いたエリックは、オフィスを兼ねたストレッ
チリムジンで散髪に出かける。だが道路は大渋滞、走れないリムジン
に部下や医師、愛人などが訪ねてくる一方、妻には敬遠される。

リムジンに積み込まれたパソコンから指揮を執るエリック。小さな空
間から経済を動かし、今や“サイバー資本”と呼ばれ、民衆からそれ
こそネズミ並に嫌われている。中国元取引で致命的な損失を出し己の
栄華の終焉が近いと知っているにもかかわらず、エリックはバブリー
な生き方を省みない。

街では貧困に耐えかねた民衆が暴発寸前にまでフラストレーションを
ため込んでいる。深刻な社会格差、リムジンの内と外はドア1枚しか隔
てられていない。その薄さがエリックの帝国の足場がいかにもろいも
のかを饒舌に物語る。

       お勧め度=★★(★★★★★が最高)

                       「コズモポリス」
                         についての詳細は、

       http://d.hatena.ne.jp/otello/20130417

    を参考にしてください。




 本日はもう1本

                「桜、ふたたびの加奈子」  です。

愛娘の死を受け入れられない母親は、娘がまだ生きていると言い張っ
て夫を困らせる。後悔と自責、深い苦悩はさらに他人が産んだ子供を
わが子の転生と彼女に信じさせてしまう。物語はそんなヒロインが徐
々に壊れていく姿を丁寧に追う。妄想が頭から離れない、そして真実
に思えてくる、彼女が普通の暮らしの中でふとした瞬間に見せる狂気
が胸をかきむしるバイオリンの音色と共に再現され、揺れ動く心を象
徴する不安定な映像は極限にまで張りつめた糸のよう。もはやサスペ
ンスともいえる演出は恐ろしいまでの緊張を見る者に強いる。

娘の加奈子を交通事故で失った容子は、偶然知り合った女子高生・正
美の出産に立ち会う。生まれた赤ちゃん・菜月に加奈子と同じ場所に
あるホクロを発見、容子は菜月が加奈子の生まれ変わりだと言い出す。

その後も執拗に菜月に付きまとい手なずけようとする容子。シングル
マザーで育児ノイローゼ気味になった正美は容子の好意と疑わず、菜
月の世話を容子に任せたりする。少し大きくなった菜月が加奈子とは
全く違う嗜好の持ち主だと判明しても、容子の妄信はとどまるどころ
か増大していく。そのあたり、暴走しそうになる気持ちを必死で抑制
する容子のアンバランスさを広末涼子がリアルに演じ切っていた。

ただ、終盤の突然の転調には開いた口がふさがらなかった。幽霊の電
話などというオチまでついているが、やっぱりこの作品はホラー映画
だったのか???

       お勧め度=★★(★★★★★が最高)

                 「桜、ふたたびの加奈子」
                         についての詳細は、

       http://d.hatena.ne.jp/otello/20130415

    を参考にしてください。

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        余|談|
        ━┛━┛

死ぬことばかり考えるほど思いつめた友人たちからの絶縁。その理由
を探る旅に出る主人公の心の彷徨を描いた村上春樹の新作「色彩を持
たない多崎つくると、彼の巡礼の年」を読みました。

相変わらず豊穣な比喩の数々に、日本語にはこれほどまでに美しい表
現があるのかとページをめくる手が止まりません。

ただ、今回は主人公の身の上に不思議なことが起きるのは夢の中だけ。
もちろん彼の周りの人間は様々な体験をしているのですが。

それでも、孤独で内省的なことをを決して否定的にとらえず、浮つい
た現実を少し斜めから見るような視線は健在。自分の分身のような気
がしました。。。

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      次回配信予定は4/20、作品は

                「容疑者X 天才数学者のアリバイ」

                              です。

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