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こんな映画は見ちゃいけない! 

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舟を編む こんな映画は見ちゃいけない! 

2013/04/11

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☆  こんな映画は見ちゃいけない!  2013/4/11  号 Vol.1463  ☆

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 こんにちは、発行人のオテロです。

 本日、とりあげる作品は

                 「舟を編む」  です。

書物の山に埋もれている、単語の海で溺れている。しかしそれは主人
公が自ら選んだ道。常に感覚を研ぎ澄ませ、耳慣れぬ語句に出会うと
カードに書きとめ注釈を入れる。言葉に対する好奇心と意味用例に対
する探究心は、いつしかマジメで不器用な彼を完璧を目指す編集者に
変えていく。物語は何事も辞書に答えを求めていた男が、恋という難
題に苦悶し、辞書編纂という大事業の中で成長していく姿を追う。大
量の採集カード、積み上げられたゲラの束、そしてあらゆる種類の辞
典。カビ臭く埃っぽい「紙」の匂いが漂ってくるような映像は、辞書
に魂を捧げた人々の情熱と仕事に没頭できる喜びに満ちていた。

辞書編集部に異動になった馬締は新しい国語辞典「大渡海」作りを命
じられる。新語を採用する監修者・松本教授の方針の元、さっそく作
業に着手する。ある日、下宿先に香具矢が現れ、馬締は一目ぼれする。

日々膨大な文字や書類とにらめっこして何度もチェックし訂正を加え
ていく。気の遠くなる地味な工程の連続は、当然“熱いノリ”とは無
縁。映画はあえて「頑張ってます」感を消し、頑張るのが当たり前で
結果だけを求められるプロの厳しさを描きこむ。一方で香具矢への思
いを伝える際の馬締の的外れな一生懸命さを強調して笑いを取る。

そのバランスが絶妙で、端正な語り口の中に粋を感じさせる演出は、
芒洋とした容貌の中に繊細な感情を秘めた馬締をはじめ、個性的なキ
ャラクターの面々を効果的に浮かび上がらせることに成功している。

       お勧め度=★★★★*(★★★★★が最高)

                    「舟を編む」
                         についての詳細は、

       http://d.hatena.ne.jp/otello/20130128

    を参考にしてください。




 本日はもう1本

                   「ヒッチコック」  です。

金属をこするような短く甲高い旋律に合わせて踊るように腕を振るヒ
ッチコック。スクリーンに投影された狂気と観客が体験した驚愕を、
“あのシーン”を見せずに再現し、イマジネーションを刺激する。恐
怖とは、まさに人間の想像力の産物であることを、この作品の監督は
ヒッチコック同様に熟知しているのだろう。同時に、ヒッチコック自
身が抱えていた失敗への不安を一気に払拭し、新たな試みが大成功を
収めた瞬間を見事に描き切っていた。

新作「サイコ」に着手したヒッチコックだが、映画会社は製作費を出
さず映倫の許可は出ない。自己資金で制作を始めたが妻・アルマに飲
酒美食も禁じられ苛立ちは募る。さらにアルマの浮気を疑い始める。

糟糠の妻であり最大の理解者であるアルマはヒッチコックに意見でき
る唯一の存在。陰に日向に夫を支え自ら脚本も執筆する彼女には、ス
タジオでは独裁者のヒッチコックも頭が上がらない。撮影がとん挫し
かかり、高ぶる神経を宥めるために彼女の助言を求めようとするヒッ
チコックが徐々に疑心暗鬼に陥る過程は、ヒッチコック本人が撮った
スリラーさながらの心理的サスペンスに満ちている。怒りや嫉妬こそ
創造の源、“神”と呼ばれたヒッチコックもまた繊細な感情に支配さ
れた人間だったのだ。

当時60歳、感性を常に研ぎ澄ませていれば、斬新なアイデアのひらめ
きに年齢は関係ないとこの映画、つまりヒッチコックは教えてくれる。

       お勧め度=★★★(★★★★★が最高)

                  「ヒッチコック」
                         についての詳細は、

       http://d.hatena.ne.jp/otello/20130408

    を参考にしてください。




 本日はもう1本

                   「海と大陸」  です。

人は他人のためにどれだけ己を犠牲にできるのか。救いを求めている
者に手を差し伸べるのが違法行為とわかっていても行動に移せるか。
良心と法の板挟みになった家族、映画は図らずもアフリカ難民を匿っ
た彼らの苦悩と逡巡、そして愛と勇気を描く。開発から取り残された
小さな漁業の島、自分たちが食べていくのも精一杯の生活の中で、プ
ライドが高い漁師の祖父、反感と共感の相反する感情を抱く母、自ら
責任を負う決断を迫られた若者の3人が一組の難民母子を守ろうとする
姿は、人生に大切なものを教えてくれる。

小島の漁師・エルネストの孫・フィリッポは、母・ジュリエッタと2人
暮らし。ある日、エルネストとフィリッポは漁の最中にアフリカ難民
船を発見、海に飛び込んだ妊婦と彼女の子をガレージに保護する。

無事出産した難民と彼女の子供たちに、ジュリエッタは迷惑顔を隠さ
ないが、海の男の矜持からエルネストはあくまで彼らの味方。フィリ
ッポは男らしく振舞いたいが母の気持ちも理解している。何をすべき
か、何をしないべきか、3人は人間としての価値を試されていく。その
過程で、マザコン気味で子供っぽかったフィリッポの、誰かの役に立
たなければと引き締まっていく表情がたくましく頼もしい。

レジャーボートではしゃぐ観光客と小さな筏にひしめくアフリカ人、
繁栄と貧困が隣り合わせの南地中海、その透き通る美しさは、主人公
たちが抱える矛盾と葛藤を象徴しているようだった。

       お勧め度=★★★(★★★★★が最高)

                   「海と大陸」
                         についての詳細は、

       http://d.hatena.ne.jp/otello/20130410

    を参考にしてください。

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        余|談|
        ━┛━┛

圧倒的な情報量と大胆な構成、ち密なストーリーテリングが持ち味の
百田尚樹が本屋大賞を受賞しました。今一番勢いのある作家、さらに
ブレイクするでしょう。

ただ、受賞作「海賊とよばれた男」は彼の作品の中では展開が雑。し
かしいまさら「永遠の0」に賞を与えるわけにはいかず、選考委員も苦
渋の選択だったのでは。

以前も書きましたが、彼の最新作「夢を売る男」は出版社の内幕を描
いた会心作。

今度はこの作品で直木賞をとってもらいたいものです。まあ、文芸書
の存在を否定するような内容の本を選考委員の作家たちが支持すると
は思えませんが。。。

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      次回配信予定は4/13、作品は

                「天使の分け前」

                              です。

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