建築

建築所感

世界のあちこちで見てきた建築を勝手に書きつづります。第一回はビルバオグッゲンハイム。ネタのある限り続けます。

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建築所感51<明治村>

2003/09/01

建築所感51<明治村>

名称: 明治村
場所:愛知県犬山市
設計:谷口吉朗(全体構想)
建設年代:1965年


8月最後の日曜日。
ヒマだった。
予定は何もなかった。
天気予報は雨だと言っていたのに
朝から太陽はぐんぐん登っていった。
このままでは一日がムダに終わりそうで。
それはなんとなく避けたくて。

明治村は自分の住んでる名古屋からは
遠くないところにある。
ライトの帝国ホテルを見に行くのも悪くなかろうと、
地図を確かめ車を飛ばした。

一度天気が悪くなった。
あ、やっぱり予報は当たったんかなあ、
それはまずいなあと思いつつも
すぐに雨は上がった。

明治村は、わりと山の中にある。
ゆるやかな起伏のある広い敷地の中に
明治時代の建物がたくさんある。
その数は50を下らない。
住宅、庁舎、監獄、酒蔵、病院、教会、学校、銀行、
風呂屋、床屋、演芸場などなど。
種類は様々多種多様。
どれもが他の地に建っていたもので
解体されてここまで運ばれて
ふたたび組み上げられたものだ。

この明治村の構想を立てたのは建築家の谷口吉朗である。
日本の高度経済成長期において、明治時代の建物は
あちこちで見る目もなく壊されていった。
その現状を見かねた谷口は、建物を移築して残していくことは
できないかと考えた。
大変すばらしいことであるが、建物を移築することも
大変である。数と大きさと距離を考えれば費用は莫大である。
これに答えたクライアントは名古屋鉄道の土川元夫。
資金があるというだけでなく、
それだけの考えを受ける器量のあった稀な人物である。
この二人の組み合わせがなければ明治村は出来なかったであろうし、
これだけの貴重な建物が残される事もなかった訳である。

詳しい事は知らない。
しかしここに来る度にこの二人の熱意を感じずにはいられない。
今、大切な事は何なのか、その思いを十分に噛みしめて
動きまわり作り上げた結果がこれなのであろう。
愛知万博を企画している諸氏には是非とももう一度ここを訪れて
何をすべきか考えていただきたいものだ。

坂道を登り下り、階段を昇り降り。
ここは言うまでもなく建築の宝庫である。
暑くてダルくて大変なんだけど、それでも歩いてしまう。
もう何度も来ているので何度も見ているはずなんだけど。

今回特に印象に残ったのは堀内家。
これはもともと名古屋の堀川沿に建っていた油問屋兼住宅だ。
木造3階建て、長屋スタイルで間口は小さくとも奥行きが深い。
入れば通り土間で、そこはいきなり3層の吹抜けになっていて
まずこれに圧倒される。思わず見上げる天井。
1階は売り場や座敷、そして中庭や炊事場風呂トイレ。
2階3階には茶室が組み込まれているのだけど
廊下の演出、光の取り入れ様、段差のある空間の使いこなし、
まるで離れでもあるかのような見立て、欄間の透かし、把手のひとつに
至るまで十分に主人の配慮が伝わってくるようだ。
そしておそらくこの建物の建設に携わった職人も
その心意気を組んだ事であろう、現場さぞは盛り上がったに違いない。
ふと、自分の現場の事を考える。
ウチは何かが足りないんじゃないだろうか。
考えはじめればタラレバばかりで、
自分の思いの甘さを痛感する。

帰りがけ。
駐車場の手前のところにライトの帝国ホテルはある。
昔、高校の時。
大学の入学試験の面接で、この帝国ホテルの事を聞かれた事がある。
「君は名古屋か。明治村の帝国ホテルについてはどう思う?」と教官。
「明治時代に出来た建物としては立派なものだと思います」と私。
「あれが出来たのは明治じゃなくて大正時代なんだがね」
「・・・」
一瞬顔が白くなったと思う。
立派ぐらいの感想しか持たない自分も自分だが
本来バカなので仕方がない。
そんなのサギだーと思ったけど、
確かに帝国ホテルが出来たのは大正の事。
その後しばらくは理由もなく
この帝国ホテルをうらめしく思っていた。
少なくとも合格通知が届くまでは。

それにしても装飾の多い建物だ。
それが嫌味な訳ではなく、
内部の繊細で重厚な空間はそれらの積み重ねによるものである。
シンプル流行りの昨今、これに匹敵する空間は出来上がるであろうか。
手間を惜しまない時代の重要な証人である。
ここにあるのはホテルの正面玄関だけだ。
もともとは東京の皇居に面するビルに囲まれた一角にあったのを
この山合まで持ってきている。
この緑に囲まれた風景をライトは想像しなかったと思うが
妙にしっくりおさまっている。
建物に意志はないと思うんだけど、
もしもあるのだったらびっくりしてるのかもしれない。
ディズニーの絵本”小さな家”を思い出した。



                03.09.01 竹中アシュ


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創刊日:2002-01-27  
最終発行日:  
発行周期:ときどき  
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