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建築所感

世界のあちこちで見てきた建築を勝手に書きつづります。第一回はビルバオグッゲンハイム。ネタのある限り続けます。

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建築所感 35<浜辺の小屋>

2002/12/28

建築所感 35<浜辺の小屋>

名称:浜辺の小屋
場所:石川県河北郡高松町
設計:竹中松三郎
建設年代:30年くらい前
用途:小屋


目の前に古ぼけた一枚の写真がある。

白い砂浜に白い波頭。
青い海に青い空。
白いステテコに白い半そでに白いねじりはちまきの男が
鉄筋にゴザを結び付けている。
麦わら帽子の二人のガキが
その男の作業を不思議そうにじーっと見ている。
全ては色褪せていてどこか遠い風景のよう。

私のじいちゃんは大工であった。
木を切って削ってノコギリとカナヅチとカンナで家を作る大工であった。
石川県の高松町という、海の近くの小さな街に
ばあちゃんと一緒に住んでいた。
高松という街はその名前だけあってそこらじゅうに
すっごく高い松の木が生えていた。
家と一緒にあったじいちゃんの作業場からは
いつも削りたての松の香りがしていた。

幼少の頃は名古屋に住んでいた。
夏休みになるとその高松の家に行くのが
恒例の行事だった。
ほとんど丸1ヶ月、そこにいた。

よく海に連れていかれた。
歩いておよそ15分くらい。
木造が続く街並を
でこぼこしたアスファルトの道を
海の方に向かっていった。
水着はすでに家で着て、
その上にランニングシャツ、
ビーチサンダルに浮き輪に麦わら帽子。

国道の下のコンクリートの細いトンネルを抜けると
先に海が見えた。
少し坂を下って
テトラポットのでこぼこを超えると
そこから海までのしばらくは砂浜であった。
灼熱の太陽の下、砂はものすごく熱い。
否応なしに海までは猛ダッシュになる。
あちいあちいと言いながら
笑い転げて走っていった。

海はどこまでも続いていたが
砂浜もそれに負けないくらいずーっと続いていた。
岩場というものが全くないところであった。
海際は木が生えることもなく、
日ざしを遮るところがほとんどなかった。
海の家もぽつりぽつりとはあったのだが
ウチは貧乏だったのか、そのような所に連れていかれることは
ほとんどなかった。
女の人は日傘が、
他の皆は庇の長い麦わら帽子が必需品だった。

ある日のこと。
いつものように浮き輪を持って皆と一緒に
海に出かけようとしていたのだが
じいちゃんが何やらいろんな荷物を持っている。
ゴザを抱えて持っていくことはよくあったが
ひんまがった鉄筋やらロープやら。
「それ、どおするの?」と聞いたか聞かなかったか。
よくわからないけど何やら楽し気なじいちゃん。

海に着いた。
いつもなら身につけているものをかなぐり捨てて
準備体操もいいかげんに海に飛び込むのだが
その日はじいちゃんの持ってきたものが気になる。
何するんだろう・・・
頭にはちまきをしかっとしめて
持って来た鉄筋を組み立て始めた。
いつも作業をする時はカナヅチやノコギリを持ってくるのだけど
今日はそれがない。
でもヒモでゆわえられた鉄筋は立ち上がり、
そこらへんにあった流木が器用にそれにからみついていった。
持って来たゴザがその上にかぶせられ、
床に敷き詰められ、そのまわりを囲むようにはりめぐらされて
あっというまに小屋が出来た。
その時の衝撃とヨロコビは今でも忘れることはない。
海に入るのがどうでも良くて
そんなことよりもその小屋が楽しくって
小さな日陰の中こそがその日の世界だった。
じいちゃんすっげー。
避暑を思って構想を練って建てたのであろうが
そこが一番の遊び場になってしまった。
小さな小屋だ。
大人も入れば満杯で身動き取れない状態。
「海に入って来い」と言われてしぶしぶ海に行く。
海からながめた小屋もすてきだった。
熱い太陽の下、ゴザでできた小さな長四角。
大人もみんな楽しそうだった。
およそ今から30年前。

そんな時の写真が奇跡的に出て来た。
高松の海。
ガキのうちの1人は自分でもう1人は妹だ。
はちまきの男はじいちゃんだ。

今までいろいろな空間を見て来たが
私の原点となるその空間は今はその写真にしかない。
それは一瞬の一日のある夏の日の数時間。
じいちゃんはずっと前に亡くなったけど
ばあちゃんは少しボケが入ってるけど今でも生きてる。
さっき、ばあちゃんにこの写真を見せてあげた。
最初は写真の男の人のことがわからなかったが
説明してあげてじいちゃんとわかったみたいだ。
じいちゃんの着ているモノがよくわからなくて
ばあちゃんにたずねたら「ステテコ」と教えてくれた。
「今の人は着ないもんねぇ。そのうち着るか?」
と笑いながら聞いて来た。
「そおだねえ、そのうち着ようか」
おいらは似合うかな。

ではまた。



                     02.12.28  竹中アシュ

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創刊日:2002-01-27  
最終発行日:  
発行周期:ときどき  
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