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建築所感

世界のあちこちで見てきた建築を勝手に書きつづります。第一回はビルバオグッゲンハイム。ネタのある限り続けます。

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建築所感27<祇園橋>

2002/08/10

建築所感27<祇園橋>

名称:祇園橋
場所:熊本県本渡市船之尾町
設計:石屋の辰右衛門
建設年代:天保3年(1832年)
用途:橋

つい先日、ふたたび天草まで行ってきた。
この連日の猛暑、そちらとて暑いことに変わりはないのだが、
海に囲まれているからか幾分涼しいようにも感じる。
実際に天気予報で発表されるその日の気温を見ても、
夏場では天草本渡の方が熊本市内より2〜3度低く出ている。
私の住んでいる名古屋の気温はその熊本市内よりさらに暑いんだが。

打ち合わせの合間に本渡の街を歩いた。
この炎天下、わざわざ散歩もなかろうと思うが、
今回の祇園橋を見に行くという目的があった。
別に見るのは初めてではない。
国の重要文化財にも指定されていて、
本渡の街を紹介するときには必ず出て来るスポットのひとつである。
駐車施設を近くに知らず、少し離れたスーパーに車を置いて
現地まで。それでも流れる汗の量はこの上ない。
この橋についても以前から文章にしてあらわしてみたいと思ってい、
構想はあったのだが、もう一度実物を見てリアリティを
感じ取りたいと思っていた。

その祇園橋のかかる町山口川は天草島原の乱の舞台になっていた。
天草四郎の群と唐津の群とがぶつかって、川は一面血の海と化していたという。
(川なのに海というのも変だが。)
かつてそのような戦乱があった場所であるが、川は清流であり、
ボラの子が集団をなして泳ぎ、それをコサギがついばみ、
よく見ると時折カワセミが飛び交ったりもする。
こう書くとまるで自然の風景の中にあるように聞こえるかもしれないが、
実際は橋の近くは街の中心にも近いところであり、
商店や住宅が立ちならんでいるようなところである。
橋のかかっているところで川幅30メートルくらい。
海の近くであるので潮の満ち引きにより川の深さは変わるのであるが、
引いている時であれば人のひざまでもいかないような深さである。

この祇園橋は、出来たのは1832年。天草島原の乱が1637年。
乱があってから200年くらいしてこの橋は出来たことになる。
石橋であるのだが、熊本県内によくある組石のアーチ型のそれとは
かなり違う。
橋脚は見た目で3mくらいの細長い石を縦にして使っている。
本数は45本とある。
その上に桁材として同じ石を使い、
さらにその上に実際に人があるく敷石を並べている。石造桁橋と言うらしい。
巾は3.3m。人が数人並んで通ることができる程度か。
非常に簡素に見える造りである、というより簡素すぎて
これではすぐに壊れてしまうのではないか、と危惧さえしてしまう。
組石に見られるような威圧感がなく、どこかひょうひょうとした感じ。
少し強引なたとえかもしれないが、
石コロを積み上げて造ったのが組石の橋であれば
こっちは石をマッチ棒のような形にして
それを積み上げて造ったような橋である。
積み上げてと書いたが、積んだというより組み合わせたようにも見える。
ただ、組んだにしても石に凸凹を施してそれらを組み合わせたようには
見えず、接合部分はどうなっているのだろうと考えさせられる。
そんな見た目の危うさがあっても建立からは170年にもなるのだ。

こういう形になった理由を考える。
まず第一に普通の組石のアーチ造では不向きであったということである。
川巾が30メートルにもなるが、川床は浅い。
そして水面から川岸までの高低差が少ない。
これで組石とした場合、おそらく中央付近では相当の高さになり
川岸から人は登るようなことになるであろう。
ダメとは言わないが使いにくいことになる。
次に簡素化である。
あまり人手をかけず、使う石の量も少なくしてそれでいて
最大の効果を狙ったのが、かたちからよくわかる。
優秀な石工がいたからこそ、このようなことも可能であったのだろう。
この本渡には下浦というところがあるが、
そこは石工で有名であったらしい。
この橋の石もその下浦でとれた石だと説明する看板には書いてあった。
素材としては木の選択もあったかもしれないが、
海の近くではあまり長く持つことはなかっただろう。

この橋は天草島原の乱の歴史の証人ではない。
乱を示すような跡はまわりには見られないが、
その後にここに残った橋によって人の思いは自然に過去に向くであろう。
くりかえすが、まわりは現在の住宅や商店が建ち並び、
今となっては血の決戦の過去があったとは思えない。
この祇園橋はそんな現代から切り離されてふっと独立したような存在に見える。
歴史の深さをたどることの出来る場所である。


                      02.08.10  竹中アシュ

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創刊日:2002-01-27  
最終発行日:  
発行周期:ときどき  
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