建築

建築所感

世界のあちこちで見てきた建築を勝手に書きつづります。第一回はビルバオグッゲンハイム。ネタのある限り続けます。

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建築所感24<海の博物館>

2002/06/24

建築所感24<海の博物館>

名称:海の博物館
場所:三重県鳥羽市浦村町
設計:内藤廣建築設計事務所
建設年代:1985-1992 後に増築
用途:博物館

この建築を訪れたのは二度目だ。
前回はおよそ10年も前であろうか。

大学の研究室を出て、
フランスくんだりまで行って就職あきらめて日本帰ってきて、
さあ、これからどしたら良いだろうか、と悩んでた時だ。
まだ独立しようとはしていなかった。
どこかで、もう少し実施をともなった訓練が必要だと思った。
しかしどこに行けばいいのか、というより
どこに行きたいのかさっぱりわかっていなかった。
右往左往の毎日。ぐるんぐるん。
何でもいいから職に就きたいという願望もどこかにはあった。
そんなとき、たまたま友人から
”内藤事務所、新建築で社員募集してるよ。”と言われた。
と言われても、あんまりピンときていなかった。
正直なところ、その時内藤さんの作品で知っていたのは
渋谷にあるギャラリーTOMぐらい。
他は何を作っているのかも知らず、
もちろんどんな人かも全く知らなかったが、
こうして教えてもらったのも御縁だろうか、
一度この人の建築を調べてみよう、と思った。

建築雑誌のバックナンバーをたよりに図書館で本を積み上げる。
なるほど、住宅を中心に手掛けてらっしゃる。
悪くはなさそうだなあ。
その中でどうやら、これが代表作かな、
と思えたのが今回の海の博物館であった。
三重県の鳥羽で、古い木造船や漁具を展示するための施設らしい。
一度、見ておこっか。
見てから応募するかどうか考えてもいいわけだし、
見ずに決めるというのはあんまり良くはないよな。
ちょっと遠いけど仕方ないよな、って思った。

東京から電車とバスを乗り継いで三重まで。
けっこう遠かった、最後のバスはきつかった。
道がくねくねしていて、
目的地に辿り着いた時はへろへろになっていた。
でも不思議と建物が見えると元気になる。

最初に見たのは黒くて大きな建物だった。
屋根はすべて瓦葺き。
棟のところがトップライトになっている。
わかりやすそうなたてもの。
入場料を払って内部に入ると
そこは木組みで出来た広くて大きな空間であった。
外の黒に対して内部はほとんどが木の素材そのままの色である。
きりかえがはっきりしてる。
建物の構造は内部でむき出しであり、
柱から梁、棟にむけて力の流れを目で追う事ができる。
トップライトからはルーバーを通して光がおちてくる。
そのルーバーもよく見ると
現場で使われる鉄の足場板だったりして
面白いな、と思った。

建物はひとつだけではなくて、いくつもあった。
ために移動する毎に外に出ることになる。
瓦屋根でできた建物の間は池があったり芝生があったり
石段があったりする。そんなに古い建物ではないはずだが
馴染んで見えるのはそれらの素材故だろうか。

ここは展示を目的とした建物であるが
中でも”収蔵庫”と呼ばれているところがある。
全体の中で、少し奥まったところに入口が構えられている。
プレキャストコンクリートという、工場で成形したコンクリート塊を
現場で組み上げるという手法で作られたという。
しかし外観において屋根は瓦が葺かれ、
壁が白く塗装が施されているそれからはコンクリートは見えない。
しかし入ってみてわかったが、
これが異様な建物だった。

収蔵庫は3つの建物がひとつのホールで組み合わされている。
入口部分は天井が低い。すこし押さえ付けられている感じもする。
まわりはしっくいで塗り固められている。
導入からして、少し緊張させるような空間である。
そこを経て収蔵庫内部に入る。
入ったとたんに、周囲の状況の変化を五感で知る。
日の光のほとんどない薄暗い空間、たちこめる湿気、かすかな潮の香り、
換気扇の無機的にガラガラまわる音、ザラついたムキ出しの素材、
そして目の前に迫る船、船、船。
何かの工場か倉庫とも思えるようなその空間に
使命を終えたであろういくつもの木造船が集結していた。
まさにそこは船が中心であり、
人はそこの場所に居させてもらってるというような感じだ。
何か、見てはいけないものを見てるような気さえする。
考えてみれば、船はもともと海の上に浮かんでいるものであり、
船底は見えていないものである。
それらがまるまる、陸の上で、なおかつ空間の中にある。
この風景だけでも異様であるが、
ムキ出しのコンクリートの壁と天井が
その様相をさらに増幅させる。
むっとしているのは床がタタキ土間になっていて、
その湿気がたちこめているからだろうか。
実際に手を触れると確かな湿り気がある。
日の光がほとんどなく、天井から吊るされた光源が周囲を照らし、
もののかたちは把握できるものの
闇のイメージから抜け出すことはない。
建築は光によってできるものとそれまで考えていたが、
ここではその最初の一歩を問い直しているようであった。
否、私が問われていたのだろう。

家に帰ってから、社員応募の手続きをした。
しても良いと思った。
どうなるかはわからない、おそらく大勢の人が応募するであろう。
ただ、不思議と落選することは考えていなかった。

そんな経験をしてからもうずぐ10年になる。
私自身や周囲の状況はいろいろ変わったが
ふとしたきっかけがあり
ふたたび鳥羽まで出かけることとなった。

晴れた気持ちのいい日だった。
もしかして緑はより濃くなっていたかもしれないが
同じ姿で博物館はそこにあった。
10年しても同じというのは当たり前のようで不思議なことだ。
世の中の動きは言うまでもなく早い。
しかしここには以前と変わらない静謐があり、
船が沈黙する空間はそのままであった。
建築は長生きする可能性がある。
人もものも移り変わるが、この質感を伝えていくのは
ここでのみ可能なことである。
変わらないものを前にして、自分をもう一度問うてみた。



                     02.06.24 竹中アシュ





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創刊日:2002-01-27  
最終発行日:  
発行周期:ときどき  
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