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建築所感

世界のあちこちで見てきた建築を勝手に書きつづります。第一回はビルバオグッゲンハイム。ネタのある限り続けます。

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建築所感21<リヨンのオペラ座>

2002/05/26

建築所感21<リヨンのオペラ座>

名称:OPERA DE LYON
場所:フランス リヨン市内
   France Lyon
設計:ジャン・ヌーベル
   Jean Nouvel
建設年代:1990代だと思う
用途:オペラ座


「負けた。」
これが正直な感想だ。
ジャン・ヌーベルが設計したリヨンのオペラ座。

勝ち負けなんて意識したことなんてないのだけど、
それでも自然と沸き上がった感情だ。
私なんて駆け出しもいいところで、ヌーベルみたいな巨匠と
勝負するどころの話ではない(土俵は同じなんだが)。
そのオペラ座を詳しく見たわけではない。
正直なところ、見に行った日は何の上演予定もなく、
ホールや観客席まで入れなかったのだ。
だったら何を見たというのか?
外観とエントランス、ただそれだけである。
建物の中心部を見ていないのだ。
しかし、これはかなわない、と思った。

ヌーベルの建築を見たのはこれが初めてではない。
パリであまりに有名なアラブ研究所や
集合住宅のネモウサスは見たことがあった。
ただ、どっちも”だから何なの?”程度の感想しか出てこなかった。
アラブ研究所については建築業界のみならず一般にも評価の高い建物だと思う。
カメラのしぼりを応用したような窓が壁前面に取り付けられ、
それが建築の特徴となっている。
太陽の光の具合によって調光が行われるらしい。
内部はアラベスクの模様のような光が入り込む。
かっこいいのかもしれない。
ただ、私には”ふうん”程度にしか思えなかった。
金かかってるよなあ、でも何が面白いの、って感じ。

ネモウサスは集合住宅だ。場所は忘れた。
外観は集合住宅の様相ではない。
2つ並んだ金属の棟でなんだか動きだしそうな気をさせる。
まだこっちの方がマシかな、なんて思った。

でリヨンのオペラ座だ。
もともとその建物が見たくてリヨンに立ち寄った訳ではなく、
たまたま、旅の途中でリヨンで泊らなくてはならなくなった。
大きな街であることは知っていたが、特に見たいと思うものもなく、
街中をブラついていた、チョコレートがおいしかったのを今でも
覚えている。

歩いていて、なんとなく気になるポスターがあった。
オペラ座のポスターであった。
ちょうどそこに来る前にミラノに行ってたのだが、
初めてオペラというものを見て感動していた後だった。
今日、何かやってればなあ、と思ったがあいにく公演がない日であった。
まあ、いいや、暇なんだし、建物の近くでも行ってみよっか。
てくてく歩く。いろんなお店があって楽しい。
おかげでいらん物をたくさん買ってしまった。
なんてことしてるうちにオペラ座に近付く。
あ、これ、何か、見た事あったな、建築雑誌で。
確か、古い建物を改装して作り直した奴じゃん。
ヌーベルだったよなあ。
建物の上の方はボールト状の屋根がのっている。
やっぱ面白くなさそうな建物だよなあ。
でも近くまで来てわかった。

これ、ただもんじゃない。

何がか?
全て黒なのだ。

エントランスを入ると床も黒、壁も黒、天井も黒なのだ。
どこもかしこも真っ黒。
素材は石やメタルや塗装だったりしたが、それでも全部黒なのだ。
ついでに受け付けの人の服装も黒だった。
徹底して黒だったのだ。
負けた、どうしてここまでやりきれるのだろう。
ジャン・ヌーベルの想像力もさることながら、
それを受け入れた施主、おそらくはリヨンの市長か誰かだろうか、
思いきりというか、思想というか、そういうものを受け入れるだけの
能力なり文化なり土壌があったのだ。
仮設的なものであれば今まででもこういうものはあったと思うが、
常設でここまでやりきったものは見たことがなかった。
考えてみればこれ以上にオペラにふさわしいエントランスも
ないのかもしれない。
黒の床に天井からのライトが当たる。
この妖艶さはなかなか表現できるものではない。
まさしく夜の社交のための場所である、
と同時にそれを理解し受け入れるだけの文化がここにはある。
かっこ良すぎる。
おそらく日本では同じことは出来まい。
というより同じことをしても同じ雰囲気にはなり難いと思う。
もし勝負しようとするのであれば違う方向からものを見る必要がある。
すぐに歌舞伎や能とは言わないが、文化的脈絡を持たねば相応の空間は
成り立たない。

受け付けのお姉さんに”あのーなんとか観客席の方に入りたいんですけどー”と
交渉してみる。返事は”ノン”であった。まあ、仕方がない。
今、考えるとあきらめが良すぎたのかもしれない。
ち、それにしてもよお、こりゃすげえわ。
名残りおしくその場を去る。

外を見た。
リヨンの空が青かった。
ここはもともとがオペラ座だったのであろうか、
それとも改装してそうなったのか。
いずれにしろ、最初に見た時とは印象が異なっていたように思う。
古い部分のアーチの下には真っ赤な街灯がぶら下がっていた。
その街灯も、もともとあったものなのか、
新たに付け加えたものなのかはわからなかったが、
赤と黒という最高の演出がそこにはあった。




           02.05.26 竹中アシュ

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創刊日:2002-01-27  
最終発行日:  
発行周期:ときどき  
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