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建築所感

世界のあちこちで見てきた建築を勝手に書きつづります。第一回はビルバオグッゲンハイム。ネタのある限り続けます。

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建築所感018<オリベッティのショールーム>

2002/05/08

建築所感018<オリベッティのショールーム>


名称:Olivettei Show Room
場所:イタリア ベネチア サンマルコ広場
   piazza S.Marco Venezia Italia 
設計:カルロ・スカルパ
   Carlo Scarpa
建設年代:1957-1958
用途:もとはコンピューター、事務機のショールーム


ベネチアについてはかねてから書きたい書きたいと思っていた。
でも今だに書けないでいる。
書く事はたくさんあると思う。
あるいはそういうつもりだけなのかもしれない。
水の上に浮いたその街について、
迷路みたいなその街について、
世界中の金持ちのジジババが集まるその街について、
かつては世界の中心であったその街について、
誰よりも知っていたいという気持ちと、
実は何も知らないんだと思う気持ちが交錯する。
今までたくさんの人がこの街について文章を作ってきた、
あるいはこの街に関わる文章を作ってきた。
そこに魅了された人々はおそらく文と文のその空白の間に
ため息をもらしたはず。
文は時に遠い。
思ったこと、気持ち、見た風景、臭い、色、風、感触、
何もかもをこの一瞬にしたためてしまいたいという欲望に
伝えるということのもどかしさを知る。


今回はそのベネチアのほんの一部。
ベネチア自身はもともとは独立国であり
長い長い歴史がある。
その中でこのオリベッティのショールームはすでにその設計者
カルロ・スカルパがすでに亡くなってるとはいえ、
新しい建物の分類に入るらしい。


場所はベネチア島内でもっとも大きな広場サンマルコ広場。
ここは日々世界中の観光客であふれている。
そして時おり、雨と大潮が重なったりすると
広場は海水の下に沈む。広場には臨時の掛け橋が出来たりして
面白いんだが、まわりの店にしたらちょっとたまったものではないだろう。
その広場のかたすみに小さく面している。


このショールームに始めて訪れたのは今からおよそ10年前。
その当時はスカルパやこの建物のことはおろか
ベネチアがイタリアにある事すら知らなかった。
ベネチア、そりゃどっかの国かあ?
確かサカモトがそんな曲作ってたよなあ。
知識も何もあったものではない。
たまたまなんだが、自分の所属していた事務所がベネチアで展示を
行うこととなり、その製作にかり出されることになってしまったのだ。
イタリアもベネチアも何も知らなかったのでほとんど興味がなかった。
よって初めて上陸した時の衝撃は凄まじかった。
その時はヨーロッパに行くこと自体も初めてであった。
”すんげえ、こんなとこがあったんかー”とすなおに驚いた。
潮風切るバポレット(水上バス)の上で大運河沿いの建物を
ナメるように見ていた、というより”こーれがヨーロッパかあー”
と単純に打ちのめされてた。大オノボリさんである。


で、今回のショールームの事なんだが、
はじめての御対面の時の印象は、
薄い。
あんまり覚えてない。
ただ、有名な人が作った建物(内装だが)であるということを
知っていたぐらい。
ふーんこれがそうなのか、ぐらいのもん。


その後、縁あって何度かベネチアを訪れる機会があった。
サンマルコ広場はこのベネチアの中心部ともいえるような
ところなので何度もこのショールームの前を通りかかることとなった。
そのうち、なんだか、これはちょっと他とは違うんだなーということを
感じはじめる。何かが違う、そうだ。
いろんなもんが組み合わさってるんだ。


もちろん、建物っていろんなものを組み合わせて出来ている。
木やら鉄やらコンクリやらガラスやらタイルやら石とかを
いろんな大きさやかたちにしてくっつけてる組み合わせてる。
けど、この建物はその素材どうしのくっつけ方や色の組み合わせや
その場の流れや空気みたいなものを
楽しんで作ったというか考えてたというか、
そんな感じがしてきた。
窓枠や階段や、床や天井、照明、手すりなどなど、建物のどこを見ても
”おらー、こんなん見た事ないだろー”みたいな、
手仕事と手仕事をかけあわせて無限の組み合わせの中のひとつを選びだしたような、
そしてそれをそこにきれいに建物の一部としちゃったような。
大きな建物じゃないんだけど、だからかえって良かったのかもしれない。
建築というより大きな工芸品みたいな。


真鍮ってなんだかいいな、と思うようになった。
みがけば金にきらきら光って、くすむとそれなりに褪せた色になる。
この建物の窓枠にそれが使われていたんだけど、
ステンレスやアルミなんかよりもよっぽど落ち着いた感じがした。
古いのか新しいのかを忘れさせるような素材だ。
もしかしたら鉄でも良かったのかもしれないけど、
何せ海に囲まれたようなとこだし、それは避けたんだろう。


あと特に面白かったのが階段。
白い石で出来てるんだけど、ただまっすぐに登るんじゃなくて
段の一部があちこちにズレてる。
そーだよなー、別にまっすぐ作んなくたっていーじゃん。
そういったズレた部分が展示台になってたりしてる。
その時は世界中の階段がマジメなものに思えた。
壁の一部が照明機具になってたのも新鮮だった。
それまでは建物を見ても太陽の光ばかり気にしていたのだけど、
ちょっと考え方を変えてみるのもいいかもな、と思った。


去年、ひさしぶりにベネチアを訪れた。
やはりあいかわらずの世界中の金持ちジジババども。
しばし時を忘れて放蕩する。
堪能できたはいいものの、宿が取れずその日は野宿。
ベネチアの駅サンタルチアの階段で一晩を明かす。
近くの酒屋でベッリーニを調達。
大階段の前には大運河カナルグランデ、
黒塗りのゴンドラがゆららしてる。
そしてその向こうパッラーディオの作った教会がでーんと構える。
目の前にはさえぎるものはない。
考えようによってはどこの一流ホテルの窓からの景色にだって負けない。
夜中の夜中にようやく人の気配が気にならなくなる。
その日にあったことを考える。


やはりサンマルコ広場も見てきた。
そしてスカルパのショールームもあったし見てきた。
ただ、たぶん持ち主が変わったのであろう、
オリベッテイの看板や内装について改装された感じはなかったが、
事務機の展示場から美術品の展示場に変わっていた。
ちょっと驚きもしたが、
残されていく事を認められた結果だろう。
価値感を伝えられるその国を少しうらやましく思った。
またここに来れるかなオレ。


             02.05.08 竹中アシュ

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創刊日:2002-01-27  
最終発行日:  
発行周期:ときどき  
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