文学

ほうれん草の記

ほうれん草、ゆであがりましたよ!みんなで楽しく食べましょう。世界の平和を守って。これは、私の小説です。

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どちゃらか夫婦日記

2004/09/14

    ほうれん草の記   どちゃらか夫婦日記
     第18回  わが息子、新太郎よ

 電話がなった。
「今、パパ、いる?」
 息子だ。
「いるけれど、何か用?」
「うん、今、そっちへ行くから」
と言って、彼は電話を切る。
 そらっ! お金の無心だ。
 それとも、再婚の話? 彼は、今はやりのバツイチである。
「ね、来週の火曜日まで、40万円貸してほしいんだ」
 やって来た息子は、父親に言う。
 彼はサラ金を経営していて、その運転資金に今ちょっと40万円いるのだそうだ。
 私は、心配だ。
「ヤミ金融じゃない」
「免許は持っているよ」
「へぇ……。でも、自営業なんて、お前にそんな能力はないよ。
人に使われて、サラリーマンやってなさい」
「ない」
 就職口はない、と言う。
 現在32歳の彼は、高校卒業後の14年間、さまざまな職業に就いてきたが、どこも長続きしなかった。
 フリーターから正社員になっても、肝心の会社が倒産してしまう。そんなことばかりだった。

 私は、33歳のとき、結婚した。相手は5歳年上で、妻と離婚しており、当時4歳になる男児がいた。
「子供を捨てる女なんて」
と、兄嫁は言う。
 先妻は、まだ赤子の新太郎を残して、不倫相手の許に走った。夫は、
「おれは、別に捨てられたんじゃない」
と言うが。
 さて、4歳の新太郎はかわいかったが、幼稚園から小学校、中学校と、進級するにつれ、私の悩みも深くなった。
 新太郎は、5段階評価の1ばかり並んでいる通知票を持ってくる……。
 成績が悪い。
 勉強をみてやっても、理解力が鈍く、記憶力も悪い。
 『教育ママ』全盛の時代で、私と息子は、まるで社会の外に取り残された親子だった。
 人は、知っているのだろうか。『教育ママ』でいられることが、どんなに幸せなことか。
 息子は、中学を出て、日本中で一番偏差値の低い高校にやっと入り、そこの授業にもついていけなくて、不登校になる。
 やっとのことで、高校卒業。
 その後、職業を転々として、なんと19歳で『できちゃった結婚』をする。
 夫と私は、団地内に一戸、家を買って、息子夫婦を住まわせた。
「なんという甘い親」
と、皆にあきれられたが、これは正解だった。
 息子は、まもなく離婚したが、その後も自分の家で暮らし、私たちの所へ来ることはめったになくなった。
 初めのうちは、お金を借りに来ていたが、やがてそれもなくなった。
 私は、それで安心していたのだ。

「うちはお金、ないよ。パパが働いていたときはともかく、今は、定年退職して、収入は年金だけなのよ。年金では、生活費ギリギリいっぱい。お前に貸す金なんて、ありません」
 私は、がんばったが、夫が、
「明日のお昼ごろ、金を用意しておくから、取りに来い」
 なんて言う。
 この甘い父親め!
「ところで、お前、40万円のお金がなくて、よく金貸しできるね?」
「あのね、おれんとこのお客は、40代、50代で、1万円とか、2万円とか、借りに来るんだ」
「へえぇ……」
 不況の時代では、そんなこともあるのか。
 学業がダメでも、この子には、そういう生活力はあるのか。
 私は、新太郎を、少し見直した。

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創刊日:2002-01-27  
最終発行日:  
発行周期:不定期  
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