文学

ほうれん草の記

ほうれん草、ゆであがりましたよ!みんなで楽しく食べましょう。世界の平和を守って。これは、私の小説です。

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どちゃらか夫婦日記

2004/08/01

    ほうれん草の記    ーどちゃらか夫婦日記ー 
   第13回  軽井沢をめぐる3人の男たち

「町子に何も遺す物がないと、横山さんにもうしわけなくて……」と、生前、母は嘆いていた。
「確かに、お姉ちゃんは、遺産はいらないと言っているわね。でも、それが、本心かしらね……?
いずれにしても、私からお姉ちゃんによく言っておくから、ママは心配しなくていいよ」
と私は母をなだめ、姉にも言った。
「お姉ちゃん、天下の軽井沢だよ」
 そして、母は遺言を遺し、「われ、宇宙の塵とならん」と詠んで、逝った。
 以前高校の教師をしていた母の遺産は、自分の家と、次女である私一家の住んでいる家、三女の妹一家の住んでいる家(家と言っても、みな、どれも集合住宅であるが)、そして軽井沢の山荘である。
「冬に住む別荘がほしい」「南房総なら」と母はお金を貯めていた。その夢はかなえられなかったが。
 母の死後、私たちは父母の住んでいた家は売り(父は先に他界している)、私の家は私が、妹の家は妹が相続した。 
 軽井沢の山荘は、名古屋にいる姉には遠すぎたが、これしかないのでしかたがない、姉に相続させた。
 実は姉の夫は、何軒もの貸家を持ち、マンション経営までしている資産家である。
「でも、私の物は何もないもん」と姉は言う。
「何もなくても、軽井沢に別荘があれば、世間の人たちは、みな、うらやましがるよ」と私。
 昨年、夏の7月、8月にはこの避暑地を訪れなかった姉夫婦が、9月のある日、突然義兄の車で別荘に到着。
 一泊だけして、とんぼ返り。
「お姉ちゃん、横山さんも、そんなにママからもらった山荘を自分の物だと確認したいなら、もっと暑いときに来て、二泊はしなさいよ」と私は電話する。
 姉の夫、横山氏は、お金は使わない主義。
 薬剤師として勤めていた病院を定年退職して、理容学校で化学を教え、他の日には、ドラッグストアで働いている。
「何もそんなに2ヶ所で働かなくても、いいでしょうに」
「あのね、ドラッグストアは、健康保険をくれるのよ。
それがないと、国保では、うちは家族の分もふくめて月に25万円も払わなくちゃならなくなるのよ。
収入が多すぎて。うちの人は、その25万円がおしくて、働いているの」
「まぁ、そうですか」
「うちの人の代で財産を少なくすると、横山家が困るのよ」
「え、横山家ってなぁに? おじいちゃんもおばあちゃんももうとっくの昔に亡くなっているじゃない」
「でも、自分がいるから」
「自分? 自分が横山家?」
「そう」
「へぇぇ……」
 金持ち、金を使わず。
 けちん坊で気の小さい男、私の義兄。
 もう一方の義弟(妹の夫)はどうかと言うと、こちらは本好きのアマチュアカメラマン。58歳。
 定年を目前にして、リストラの嵐の中で、がんばっている。
 本が好きで、本の問屋に就職したが、昨今の出版不況で、苦労している。
 ここは妹も働き、共稼ぎなので、なんとか生活して、一人娘の姪を、大学にやっている。
 それはそうとして、義弟は、軽井沢が大好きだ。
 カメラを向けて撮る物がどっさり無尽蔵にあるので、彼は春や秋にも来ている。
 ところで、私の夫は?
 夫はゴルフが大好き。夫婦二人で山荘に来ても、自分は近くのゴルフ練習場に行ってしまう。
 夏の避暑地、軽井沢も、都会のように便利ではない。私たちは車で遠くのスーパーへ行く。
 その車中での会話。
「あのね、山荘には私の本がいっぱいあるでしょ。
あれはね、私も本が好きで、いっぱい買って、狭い家が本だらけになったので捨てようとしたら、ママが、本を捨ててはダメ、山荘に送りなさい、と命令したのよ。
ところが、この前、義兄さんが見に来て、『あの本、ゴミの山、処理するのが大変だぞう』ってお姉ちゃんに言ったんだって」
「みみっちい男だなぁ。本なんて、電気製品でもあるまいし、いくらでも捨てられるじゃないか」夫は笑っている。
 彼は朝の散歩に出て、近所の住人と親しくなり、『向井』というレストランが安くておいしいと聞きつけて来た。
「あ、ここにあるじゃないか」
 テレビの上に、『向井』という名の箸袋が置いてある。電話番号も、印刷されている。
 きっと義弟が置いて行ったのだろう。
「まったく気が利かない男だなぁ。簡単な地図でも書いて置いてくれればいいのに」
 いろいろと文句の多いのは、全く、うちの夫である。

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創刊日:2002-01-27  
最終発行日:  
発行周期:不定期  
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