文学

ほうれん草の記

ほうれん草、ゆであがりましたよ!みんなで楽しく食べましょう。世界の平和を守って。これは、私の小説です。

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どちゃらか夫婦日記

2004/03/08

   ほうれん草の記    「どちゃらか夫婦日記」第6回
  
  サンマにご飯
「あのな、宝田ってな」夫が、内緒話風に言う。
「サンマをわざわざ炭火で焼くんだよ。この方がおいしいからって。
そうして、ご飯が出て、それで献立は終わりなんだ」
「え、大根おろしも付かないの?」
「うん」
「みそ汁も?」
「付かないんだよ」
 宝田豊は、夫の姉民子の、夫である。
 彼は、若いとき、結核を患ってから、働く意欲があまりなく、家の二階を人に貸し、その収入で暮らしてきた。
 妻の民子の働いた分、給料とか年金とかは、貯まる一方。
 家事は、豊がやって来た。
 民子は、当然、食事作りもしない。
 この義姉は、定年退職してからの20年間、いったい何をしてきたのだろう?
 子供は、いない。
「あすこのうちは、旦那が料理するんだ」と兄弟の間では、有名な話だった。
 しかし、その料理が野菜やみそ汁などの全くないものだったとは、みんな、初耳である。
「それは、いけないわね」 
 宝田は、自分の食べたいものだけ、作ってきたのだろう。
 栄養学の第一歩もない。
 今、義姉民子は、腹膜炎を起こし、緑内障もあって、病院通いをしている。
「ビタミン不足だ」と夫は言う。
「宝田の野郎が、おれの大事な姉を、栄養失調にしたんだ」
「今からでも遅くはないわ。おねえさんにビタミン剤を飲ましたら?」
「ところが、飲まないんだなぁ。せっかく買ってきてやっても、自分で積極的には飲まないんだ。
 薬だって、そうだよ。病院から薬をもらっても、飲まないんだ。
『薬は飲まないように』って言われたとか言うんだ。
医者が『飲まないように』って言って、薬をくれるわけがないじゃないか」
「それは困るわねぇ。私の父も、薬を飲まなくて、脳梗塞で亡くなったのよ。
それにしても、宝田さんって、珍しい人ね。
妻に働いてもらって、自分は毎日の家事をするって」
「いいじゃないか。このごろ、そういうのよくあるじゃないか」
「それは、司法試験を受けるとか、何か資格を取りたいとか、あるいは小説とか、何か勉強があって、その間、、妻に働いてもらうっていうんじゃない?
男の人が家事だけってのは、私、他に聞いたことないわよ。
女だって、家事だけじゃないもん。みんな、仕事とか趣味とかあるもん。
第一、家事だけじゃ、時間があまるしね。
子供とか老人とかいるなら、話は別だけれどね」
「全くなぁ。やるならやるで、しっかりやれば良いんだ」
「それにしても、なぜ、おねえさんは、自分では何もやらないの?
この前、お姉さんのお見舞いに病院へ行ったとき、私がちょっとおにいさんのことを言ったら、おねえさんって、おにいさんをかばうのね。
あんなに愛し合っていて、いたわりあっているんなら、端でとやかく言うことではないわね」
「もうどちらも80歳代だしなぁ。それにしても、おれは、宝田に腹がたつ」
「それはね、栄養のことは、夫の責任もあるけれど、半分は妻の責任でしょ」
 私は、夫をたしなめる。
 しかし、定年退職してからずっと宝田家に通って、義姉の面倒を見てきた夫も、最近はやりがいがなくなっているようだ。
 以前は、家にあるトマトとか、苺とか、家にあるものを宝田家に持参して、義姉に食べさせていた夫だった。
 だから、私も協力して果物や野菜など、在庫を切らさないよう、買ってきていたのだ。
 しかし夫は、積極的には何も食べようとしない義姉に、がっかりしたらしい。
 これからさきは、どうなるのだろう?

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創刊日:2002-01-27  
最終発行日:  
発行周期:不定期  
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