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AC通信 No.689

2018/05/03

AC通信:No.689 Andy Chang (2018/5/02)
AC論説 No.689 海ゆかば

台湾で毎年の先祖のお墓参りを済ませてアメリカに戻ってきたところである。
台湾では清明節(春分の15日あと)の前後に先祖のお墓参りをする風習が
ある。私は毎年4月に台湾に行って父母のお墓にお参りする。今年の6月
で84歳になるので、何歳になるまでアメリカから台湾に旅して墓参を続ける
ことが出来るかわからない。

父母が亡くなって既に20年経った。亡くなる以前はアメリカと台湾を行き来し
て父母の世話をしていた。子供たちはまだ高校と大学生だった頃で、アメリ
カと台湾の両方を往復するのはかなり辛かったが、日本に住んでいる長男
次男と長女がみな親不孝で親の世話をしなかったので一人でやるしかなか
ったのだ。

父母が亡くなったあと、お骨をお寺の納骨堂に納め、子供たちも何回も連れ
て帰って墓参をした。親の世話を7年、親が亡くなったあと20年も墓参を続
けてきたが、私が年を取ってやがて介護が必要となったら子供たちは世話を
してくれるだろうか。私が死んだら子供たちは私の墓参りをするだろうか。子
供たちはみな遠く離れて住んでいるから親の世話も死んだ後の墓参も無理
だろう。私が父母に対してやったように私の世話をすることもできないし、私も
子供の世話になれないと覚悟している。

●墓じまい

日本では先祖のお墓を処分することを「墓じまい」と呼ぶそうである。また、日
本では一度埋葬すると勝手に遺骨を動かすことは出来ない、市区町村に書
類を提出しなければならないとも言う。死んだ人のお骨も政府が管理すると
は驚きだが、外国ではこんな法律はない。

先祖のお墓は一か所でなく方々に散在していたが、60年代に私の父が所
有農地の一郭に風水のよい所があると言われ、ここを張家の墓地と決めて
各地に散在していた6基のお墓をここに移した。その後、90年代に私が父
母の世話をしていた時にまだ移していなかった2基のお墓をここに移した。
だから張家の墓地には8基のお墓があったのである。

ところが父が亡くなった数年後、長男がこれは俺の土地だと言って、そこに
あった8基のお墓をみんな掘り出して納骨塔に入れてしまった。しかも親戚
には通知したけれど私の反対を怖れて私だけに知らせず、彼も実際にその
作業に参加せず従兄にやらせたのである。しかも情けないことに掘り返した
土地は付近の農民がゴミ捨て場として使っていたのである。先祖の遺骨は
納骨堂に納めたけれど日本の兄弟は一度も参拝したことはない。

皮肉なことにそれからまた数年経って、この土地は父が張家のお墓を作っ
た際に親戚一同に供出し、名義も付近に住む親族数名の共有と変更して
いたことがわかった。つまり長男の土地ではなかったのだ。

●樹木葬と海洋散骨

台湾に帰って親しい友人と会った時に、老人の世話や、死後のお墓造りや
子孫の墓参りの話になった。みな同じ年だから同じ問題を抱えている。私は
お墓詣りは一代か二代に限ると話したら皆も同意した。子供や孫は親の顔
を覚えているからお墓参りをしても、その下の代になると面識がないから墓
参はしなくなる。誰も来なくなったお墓は荒廃するだけ、つまり「墓の有効年
限」はせいぜい20年である。

都市に住む人は清明節に故郷に帰って先祖のお墓詣りをするのもだんだ
ん億劫になるし、たいていの人は子供と一緒に住んでいないから、父母が
耄碌しても世話はできない。我々の世代が死んでお墓を作っても墓参をす
る人はどんどん少なくなる。最近の若い人は外国に移住するので故郷は更
に遠くなる。

我々の世代が親の世話や墓参をしても死んだら樹木葬とか海洋葬でどこか
の木の下にお骨を埋めたり、海に灰を撒いたりする方がお金もかからないし
次世代の厄介にもならないで済む。友人もみな賛成だった。

●海ゆかば

この話をしていた時、突然私の頭に「海ゆかば」が浮かんできて、思わず歌
いだしたらみんなもすぐ一緒に歌いだした。

我々の年代は「海ゆかば」を覚えている、戦争末期にはほとんど毎日のよう
に歌っていたのである。あの時は戦死した英霊を讃えて歌ったのだが、将来
我々が樹木葬でどこかの木の下に埋められるか、或いは海洋葬で骨灰を海
に撒かれるかで、「草生す屍」、或いは「水漬く屍」となるだけである。この方
が納骨堂の小棚に収まって窮屈な思いをするより、千の風に乗って自由に
あちこち行ける。

覚悟はできている。「かへりみはせじ」だ。

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