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AC通信 No.621

2016/12/04

AC通信:No.621 Andy Chang (2016/12/03)
AC論説 No.621 トランプ流商法の破綻

二月にメキシコへ生産工場を移転すると発表した米国の空調装置の
製造会社キヤリア(Carrier)社は11月29日、本社の所在地インデ
ィアナ州に1000人の雇用を維持する事でトランプ次期大統領と合
意したと発表した。

トランプは米国の製造会社が外国に拠点を移して米国の雇用に影響
を与えるなら外国に拠点を移した会社の製品に35%の関税を課する
と恫喝した。今回は米国の雇用を守ることが出来たとトランプは得
意になっていた。しかし二日後に詳細が出るとトランプの勝利では
なくキヤリアの勝利だったとわかった。

キヤリア社は本社の2300人の雇用を800人に減らし、1300人をメキ
シコに移すとした。その代償としてトランプはキヤリア社に向こう
10年間に700万ドルの減税を約束した。つまり工場は計画通りメキ
シコに移転するが、本社の社員2300人を800人までリストラする。
キヤリア社は計画通りリストラを実行し、工場をメキシコに移転し
た上に政府の減税を勝ち取ったのだ。キヤリア社の大勝利である。

トランプは商売人だから「飴と鞭」で相手と交渉する。トランプは
外国に拠点を移せば輸入品に対し35%の関税を課すると恫喝した。
しかしこの恫喝は実際的に不可能である。大統領と言えども特定の
輸入品に35%の関税を課することはできない。関税はNAFTAやWTOの
条約によって決められ、大統領には輸入品に特別課税を命じる権利
はない。これは常識である。大統領がこのような命令を下せば米国
は外国政府と交渉しなければならない。そもそも関税は北米自由貿
易協定(NAFTA)で合意したものでトランプが勝手に一つの物品にイ
チャモンをつけることはできない。

大統領が会社に恫喝を加え、命令に従わなければ処罰するという。
これは独裁者のやることだ。会社が独裁者トランプに服従すれば他
の会社もトランプに服従するかもしれない。民主国家アメリカでこ
んなことが通るはずがない。しかもトランプが交渉で勝ち取ったの
は2300人のうち800人、3分の1の雇用を守っただけなのだ。

アメリカですべての会社が外国に拠点を移すことについて大統領の
許可を得なければならないとしたら事は厳重である。大統領に特権
があるとなったらすべての会社はキヤリア社のようにトランプと個
別に交渉し、トランプの「許可を得る努力」をしなければならない。
外国に拠点を移転するためトランプの「お墨付き」を得なければな
らないとしたら徳川幕府の朱印船貿易と同じではないか。

まだある。トランプは商売人である。世界各国に投資をしている。
トランプに有利な条件を示せば許可が出るとしたら大事だ。ヒラリ
ーの国務長官時代に外国の政治家や業者がクリントン基金に献金し
たのと同じようなことが起きて、外国企業がトランプ企業に有利な
条件を与えるかもしれない。

●貿易協定とは政治交渉である

トランプはNAFTAやWTOが米国に不公平だから再交渉すると言った
が、すでに発効した貿易協定に米国が異議を唱えても諸国が同意す
るかは疑問である。たとえ再交渉に同意してもトランプの言いなり
になるとも限らず短期間で終わるはずがない。トランプはTPPにも
反対だが、NAFTA、WTOなどの貿易交渉が難航するだろう。

貿易協定とは政治交渉である。日本のお米は米国産のお米よりも高
い。米国産のお米を輸入すれば農家が破産する。だから関税をかけ、
税率の交渉をする。しかし米国産の米の輸入を禁止するのではない。
お互いの国内生産者の意見を尊重しなければならない。

●労働賃金の格差

米国では労働者の賃金が高い。工場を外国に移せば労賃が低いから
製品が安くなる。代りに米国では失業者が増える。だから輸入品に
関税をかける。トランプはキヤリア社に高い関税をかけると恫喝し
て800人の雇用を保存したが工場の移転を中止できなかった。

問題は製品の品質と労賃の格差である。外国で同品質の製品を作る
ことが出来ればアメリカはコストで競争に負ける。ただし製品の品
質が違えば競争に勝てる。トランプはアメリカの雇用を保護すると
言う恫喝でキヤリアの移転を止めたと自慢したが、すべての製造業
を恫喝するわけにはいかない。トランプは交渉に成功したと自慢す
るが恫喝は独裁者の手段である。アメリカは独裁に反対である。

●貿易協定に反対するトランプ

貿易協定はアメリカが主催して諸国が同意した協定である。だから
今更トランプが反対すること自体おかしい。トランプは外国が彼に
叩頭しなければ貿易をやめると宣言したに等しい。貿易戦争になれ
ばアメリカが鎖国するか、諸国が降参するかである。鎖国はアメリ
カに不利、諸国にも不利で、中国の覇権進出を許し、ロシアの影響
力が増すだけだ。

アメリカの問題は労賃の高騰にあり、アメリカが競争に負けている
証拠である。労賃にはハイテク業、財テク業、製造業、生産業、サ
ービス業など違った分野がある。アメリカはハイテク業と財テク業
で諸国に比べ数十倍の賃金を得ている。つまり知的産業においてア
メリカは世界をリードしているのだ。しかし製造業や生産業のよう
な労働産業が知的産業と同じ労賃を払うことは不可能である。

これがアメリカの困難である。労働者の雇用をアメリカに保留する
と言うトランプの公約には無理がある。アメリカは知的産業に重き
を置き、労働産業を外国に移す趨勢をたどるべきである。高圧的な
手段や税金の軽減など、効果は薄いし不公平さが問題になる。

トランプは傲慢な商売人だが、政治に「飴と鞭」は期待できない。
恫喝で雇用や貿易交渉に介入すれば国外と国内において反撥され、
拒絶されるのは避けられないだろう。

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