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AC通信 No. 536

2015/03/25

[AC通信:No.536 Andy Chang (2015/03/24)
[AC論説] No.536 リー・クアンユーの功罪

有名人が死ぬと「蓋棺論」と言う死者の評価が盛んになる。歴史の
評価はいろいろな蓋棺論が出回った後々で決まる。23日死去したシ
ンガポールのリー・クアンユー元首相は賞賛と批判の両極である。

シンガポールは小さな資源のない島だ。リー・クアンユーはシンガ
ポールを英国の植民地から解放するためマレーシア連邦に加入しよ
うとしたが、数週間でマレーシア連邦政府から追い出された。仕方
なく独立せざるを得なかったリー・クアンユーは1965年から現在の
2015年までの50年で素晴らしい国を作り上げた。この偉大な功績
は誰も否定できない。しかしリー・クアンユーはエリート政治(貴
族政治)でシンガポールを統治し、エリート人材を家族に取りこん
でリー帝国を作ってしまった。

ジュリアス・シーザーは偉大な政治家、軍人だった。シーザーは周
辺諸国との戦争に勝ってローマの版図を広げたが、そのあと皇帝に
なろうとしたため数人のセネター(議員)に殺された。リー・クア
ンユーはイギリス植民地だったシンガポールの雑多な人種と物資欠
乏の土地を立派な国に仕立てたが、エリート政治から独裁政治にな
り、王国になってしまった。

シーザーは独裁者となったため殺されたがリー・クアンユーは寿命
を全うした。リー・クアンユー死後のシンガポールはどのような変
化を遂げるだろうか。

●資源のない国

60年代はマレーシア、インドネシアで排華運動が盛んだった時代で
ある。多くの華僑が外国に逃げ出した時代だったから、シンガポー
ルをマレーシア連邦に取りこむのは困難で、シンガポールは数週間
でマレーシア連邦から放り出され、排華運動のため華僑は外国やシ
ンガポールに脱出した。

シンガポールは小さな島で資源がない。食料も水もマレーシアから
輸入しなければならない。物資はすべて輸入品で税金がかかるから
シンガポールは生活費が高い。そのような先天的困難を背負いなが
ら今日のシンガポールの発展を見ればリー・クアンユーの功績は世
界でも類のないものと言わざるを得ない。

マラッカ海峡を通る船舶は世界航海業の半数近いと言われる。欧州
や中東からアジアにやって来る船はすべてマラッカ海峡を通る。シ
ンガポールはマラッカ海峡を通る船舶の停泊と補給のおかげで海運
業センターとなった。このほか現在のシンガポールは教育、科学研
究、医学などの諸方面で世界一流の地位を保っている。特筆すべき
はシンガポールがスイスやホンコンと肩を並べるほどの世界の金融
中心となったことであろう。

●雑多な人種、言語と宗教

シンガポールの人種構成は華僑(漢民族やその他)、マレーシア人、
インド人(タミル族が多い)、インドネシア人その他である。言語、
宗教、生活習慣、いろいろ雑多である。このような複雑繁多な人種
構成をコントロールする政治は困難だから強権政治に陥りやすく、
仕方がないと言える。

リー・クアンユーの政策はこれらの人種構成を維持して、華人80%、
マレーシア人10%、インド人10%(大体の数字)の比率を維持し、
生活、公務員、産業などで同等の比率を保ってきた。シンガポール
政府は多くの公営団地を建築したが、アパートの住民も人種構成と
同じ比率で経営している。このような「強制的平等」は多くの批判
もあるが、人種雑多な国では仕方のないことかもしれない。

●エリート政治の成功と結果

シンガポール成功の要因はエリート政策である。優秀な人物を育て、
人材を使って公務員、政治家に仕立てた。その結果として政治はエ
リート貴族政治を作り上げたが、落し穴もあった。彼の家族がエリ
ートだからリー王国になってしまったのだ。

リー・クアンユーの息子たちは英国留学のエリートだから自然に後
継者となった。リー・クアンユーの長男リー・シェンロンはシンガ
ポール総理だし、二男はシンガポール航空局の局長で、元はシンガ
ポール電信の総裁だった。リー・シェンロンの妻は政府の投資企業
テマセクのCEOである。リー・クアンユー二代目が政治、企業、投
資会社の総裁となったらリー王国である。

資源のない、人種雑多で教育程度が低いシンガポールを50年でゼロ
から一流の国に仕立てた功績は偉大である。しかしこの偉大さには
独裁の影が付き纏う。

●民主平等はあり得ない

シンガポールでは民主平等は本物でない。強制的平等である。人種
的分配で公務員から大企業などのエリート政治を採れば強権政治と
いわれ、不平等であり人民の不満が起きる。真の民主は複雑な人種
構成、複雑な教育程度では達成できない。

リー・クアンユーの特筆すべき功績はシンガポールの大多数(80%)
を占める中国人の汚職と悪習慣を除去したことである。シンガポー
ル政府は汚職を追放するため公務員の待遇を大幅に引き上げ、汚職
を防止した。また中国人の悪習、ゴミのポイ捨て、ところ構わず痰
唾を吐く、麻薬と博打などの悪習を除去することに成功した。この
業績の偉大さは現在の香港、台湾でいくら頑張っても中国人の汚職
を追放できないことと比較すればよくわかる。

また、シンガポールは外国の人材を取り入れ、外国企業の参与を歓
迎したため、世界有数の金融センター、海運業センターのほか、医
学、科学の分野でも成功を収めた。その代り優秀な人材のほかに労
務者も取り入れる必要があった。エリート人材には最高のサラリー
で招致し、労務者はシンガポール人より低い賃金で雇うと言う不公
平さが目立っている。貧富の格差が増大しているのである。

●今後のシンガポール

リー・クアンユーは偉大な政治家だったが、強引さと家族政治で批
判された。近年になってシンガポールでは民主運動が活発になり、
リー・クアンユーの独裁政治に反対するものが増えた。

民主政治は全民参与の政治であり独裁政治に反対する。民衆の教育、
知識程度が上がれば民主政治の要求がいや増すのは当然である。し
かしシンガポールのような複雑な要素が多い国で民主運動が活発に
なればシンガポールの将来の発展に翳が差すのではないか。後継者
リー・シェンロンの政治は困難度を増すであろう。

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