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AC通信 No.220

2007/12/15

[AC通信:No.220] (2007/12/13)
[AC論説]No. 220 台湾独立の明暗

前回の記事で書いたように、アメリカは最近になってからようやく、中
華民国は国ではない、台湾は国ではないと言い出した。では台湾の国際
的地位はどうなっているのかと言えば、未定であるとしか言わない。未
定であるなら台湾人民の住民自決で決めるわけだが、アメリカはこれに
も反対を表明している。自己矛盾である。

台湾の独立運動はすでに半世紀以上の歴史がある。当初は独立運動者は
死刑と言われていた。独立が公然と主張できるようになったのは大きな
進歩ともいえるが、実際にはそれ以上の進展はない。台湾の独立を妨げ
ているのはアメリカ、中国と台湾国内の蒋系中国人であるが、この三者
のうち、アメリカの反対が最も大きな原因となっている。

アメリカは何故反対するのかというと、中国の武力恫喝におびえて戦争
になるのを恐れるからだ。アメリカには台湾関係法と言う法律があって、
台湾有事の際には防衛しなければならないが、台湾の自国防衛が先決で
ある。台湾では統一派の反対があるので武器購買もうまく行かない、防
衛力も当てにならない。台湾が自分の国を防衛しないならアメリカも積
極的にならない。

●林志昇/ハーゼルの「暫定米国占領領土」理論

アメリカが台湾独立に反対する理由は簡単で、台湾の国際的地位は終戦
後の処理が終わっていない、アメリカが故意に処理しないからである。
終戦後のマッカーサーの戦後処理第一号命令で蒋介石の軍隊に「台湾に
おける日本軍の降伏を受理すること」を命じた。しかしこのあと蒋介石
は台湾に留まって中華民国政府が台湾を接収した。

しかし蒋介石には勝手に台湾を自国の領土に組み入れることはできない、
だから台湾はいまでもアメリカの暫定占領領土である。戦後処理が終わ
らせないで未決のまま60年も放置してきたアメリカの責任は重い。人権
無視、人権蹂躪であり、住民自決に反対するのは非人道、非民主である。

アメリカの失策を指摘したのが林志昇/ハーゼルの二人である。二年前
「アメリカよ、何をしている?(What Are You Doing, US? ;Sep 20, 2005, 
Washington Post)」と言うタイトルの抗議文をワシントンポストにだし、
続いて台湾のアメリカ大使館に228人の「暫定占領領土住民の米国パス
ポート」を申請、これが却下された後、アメリカ高等法院(つまりアメ
リカ司法部)に「米国が台湾人民の暫定占領の人民の権利を無視したこ
とは台湾人民に対する残酷かつ不公平なな処罰」であるとして米国政府
(行政部の錯誤)を告訴した。この告訴は法廷で三回の反論と再反論を
重ねたが、最終弁論は今年の8月で、判決は下りていない。林志昇/ハ
ーゼルの告訴を嘲笑する人は多いが、二年を経ても判決が出ないことは、
簡単に判決を下すことが出来ない要素を含んでいると思われる。

●無益な独立運動の派閥闘争

林志昇/ハーゼルの米国政府に対する告訴の目的は、(1)米国政府が未
処理の台湾問題の責任を承認し、(2)台湾の国際的地位は未定であると
法廷が判決を下すことである。この判決が勝訴すれば台湾独立は一挙に
中国と台湾島内の蒋系中国人の圧力を覆して大躍進を遂げる。これまで
半世紀も進まなかった独立運動が「米国の暫定占領下」にあることがわ
かれば沖縄の住民自決と同じ方式で独立を達成できるのだ。しかも暫定
占領地区であれば中国の領土宣言は無力となり干渉できなくなる。

林志昇/ハーゼルの訴訟が敗訴になればどうなるか?敗訴になればアメ
リカの最高裁に上告する。そこで敗訴になっても現在の進展しない独立
運動の状態や、未解決な国際地位に変化はないから独立運動に不利にな
ることはない。負けてもともと、勝てばバンザイだ。アメリカが台湾の
国際的地位を故意にアイマイにし、未解決なまま62年も放置していた事
実が国際的に明らかになるだけでも大きな進歩である。

ところが台湾の独立派は、林志昇/ハーゼルを歓迎しないばかりか妨害
を繰り返している。民進党も無視しているし、民進党系の新聞メディア
も黙殺しているのはまったく理解できない。

数日前の12月8日に林志昇/ハーゼルのグループが台北のアメリカ領事
館(AIT)の前で静座抗議を行ったが、この抗議に対し、日本の宮崎正弘
氏が事前に報道し、「日本の声」でも取り上げたが、デモが行われたあと
台湾のメディアはこれを封殺し、わずかにロイターが報道しただけに終
わった。民進党は自由民主を標榜しているが、国民党メディアの横暴は
許しても 独立のためのニュースを封殺するのは憤りを覚える。

●林志昇/ハーゼルに対する反対

独立運動派はなぜ林志昇/ハーゼルに反対するのかというと、以下の4
点に要約される、括弧内は筆者の反論である:

(1)アメリカを告訴しても成功しない;(告訴は既に一年以上もたち、
判決はまだ出ていないのに、勝手な負け犬評論をする必要はない)
(2)アメリカ行政部が台湾は中華民国の領土と主張すれば、独立運動
に極めて不利になる;(アメリカは中華民国は国ではないとしている)
(3)アメリカに反対すればアメリカは防衛してくれない;(台湾関係法
があるのでアメリカが簡単に防衛を止めることは出来ない)
(4)中国が武力侵攻してくる;(台湾が暫定占領地区であるなら中国が
武力を行使することは出来ない。独立派が独立宣言をしても同じように
中国の恫喝はあるので、この理由は通らない)

悲しいことに台湾人には味方を攻撃し批判する奴隷根性がある。民進党
が国民党を攻撃せず台聯党を攻撃するのと同じである。林志昇/ハーゼ
ルの訴訟は既に進行中のことであり、台湾のために努力しているのだか
ら批判や中傷は止して成否を見守ることが大切である。

●サンフランシスコ条約こそ台湾の地位の法的根拠である

台湾の国際的地位は未定であると言うのがアメリカの一貫した立場であ
る。しかしこの立場は最近の中国の勝手な主張が顕著になり、台湾も対
抗して公民投票をすることになって、これまでのようなあいまいな立場
が取れなくなりつつある。

台湾の国際的地位の歴史を簡単に述べると以下のようになる:

(1).戦後処理の際にマッカーサーが蒋介石に台湾で日本軍の降伏を受
理するよう要請した。蒋介石はそのまま台湾に居座り、台湾を中華民国
の領土の一部とした。しかしアメリカは中華民国の占領を黙認しただけ
で中国の領土とは承認しなかった。

(2).アメリカは一貫して中国の「三つのノー」を承認していない。

(3).アメリカは台湾関係法を制定して台湾を中国から保護することを
明確にした。つまり台湾の領土権は未決であり、アメリカが暫定占領か
ら台湾の帰属を決める責任がある。この際、台湾の住民に自決権がある
のは明らかである。

(4).アメリカは中華民国が台湾で政府を設置することに反対せず、
1978年まで中華民国を承認していた。しかし1979年以後は中華民国と
国交を断絶し、中華民国は存在しないとした。つまりアメリカは中華民
国が台湾で存続することにも反対なのだ。

(5).中国が「反国家分裂法」を作った時点で、アメリカは反対を表明
し、台湾の地位は未定であると再確認した。

(6).今年になって陳水扁は来年の総統選挙で「台湾名義で国連加盟」
を公民投票に付すると発表したのでアメリカは反対を表明し、台湾政府
に圧力をかけた。

(7).この際、アメリカは台湾の地位について「5つのノー」を発表し
た。それは;(A)台湾は国ではない、(B)中華民国も国ではない、(C)
台湾は中国の領土ではない、(D)台湾の独立は反対、(E)台湾の国連
加盟に反対。これでアメリカの台湾問題に対する見解がより明確になっ
たのである。これは台湾問題の解決に向けて一歩前進といえる。

●「5つのノー」で台湾の自決権は明確になった

アメリカの主張を要約すれば、台湾も中華民国も国ではないし、台湾澎
湖の権原を有していない。つまり台湾澎湖の権原はアメリカの暫定占領
地区として保有していることである。中国は台湾を中国領土の一部と主
張しているが、国際法に基づいて言えば中国は中華民国ではないし、中
国が台湾を領有した事実もない。サンフランシスコ条約で日本が台湾澎
湖の権原を放棄したが、国際的地位は未定のままである。

それでは誰が台湾の地位を決めることが出来るかといえば、台湾の住民
が決める、すなわち、「台湾の権原」は台湾人にある。アメリカは独立に
反対を表明しているが、アメリカには暫定占領権があるから強大な影響
力はあっても、「アメリカには台湾澎湖の権原はない」。国際法によれば
アメリカは台湾澎湖の帰属問題を「処理すべき責任」があるが、「米国領
土に編入」することは出来ない。米国領になるかならぬかは、沖縄の帰
属問題と同じく住民自決で決めるのである。

それでは何故アメリカが台湾独立に反対を表明しているのかというと、
中国の武力恫喝に怯えているからだ。アメリカには台湾問題で中国と対
立する余裕がないから反対を表明しているのであって、現状では反対を
賛成に変えることは難しい。しかしイラク、イラン問題が緩和してアメ
リカが東南アジア問題に参与する余裕が出てくれば別である、それまで
は現状維持政策を採る、アメリカが繰り返し言っていることだ。

アメリカには台湾人民の公民投票に反対できないが、投票の内容に干渉
することは出来る。アメリカの懸念は中国の反対だけでなく、投票に付
されても住民が独立賛成とは限らない、そうなれば逆に独立意識は打撃
を受け、統一派と中国の圧力が増大する。

現今の台湾の公民投票法では投票が簡単に通らないようになっている。
アメリの反対は決して中国に加担しているのでなく、台湾の民意が未熟
であり、投票法が悪法であるからだ。

●結論

アメリカの台協會理事主席薄瑞光(Raymond Burghardt)が述べた5
つのノーのなかで「台湾の独立に反対」があったことで独立運動派は大
きな失望を味わったという。しかし筆者はそうは思わない。独立運動は
半世紀も続いていて、進展がなかったのは事実であり、いまさらアメリ
カが反対したからといっても後退したわけでもない。もともと台湾の独
立運動は「中華民国を棄てて台湾国を作る」、つまり中華民国から独立す
る運動だった。Burghardtの声明によって、独立運動の目標が変わって、
アメリカから独立を勝ち取る方式に変わったことは大きなプラスである。
住民自決の大義名分と、アメリカから独立する名目を与えてくれた
Burghardt氏に感謝しなければならない。

前に書いたABCDEの五点とは、つまり台湾澎湖の地位はアメリカが決定
権を握っていると言うことだ。アメリカの行政部門が曖昧政策を採って
いるなら、林志昇/ハーゼルの司法部門による台湾の地位問題を明確に
することが肝要であり、アメリカの暫定占領地区であることがわかれば
台湾澎湖の権原は台湾人民が決めることであり、住民自決で決めること
になる。アメリカも中国も蒋系中国人もこれには反対できない。

今の独立運動にとって最も大切なのは中華民国から独立するこれまでの
方針を変更して林志昇/ハーゼルの主張に沿って住民自決でアメリカの
暫定領土から独立するように努力すべきである。台湾には独立運動でい
ろいろな違った理論や主張があるが、互いに攻撃しあうのは止めて独立
に努力して欲しい。

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