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AC通信 No.207

2007/07/06

[AC通信:No.207] (2007/07/05)

[AC論説]No.207 台湾人意識を明確にせよ

「睦五郎へのへのもへが逃げそびれ − 継昭」

十年前の私の句である。ムツゴロウは目玉の飛び出した硬骨魚で、
干潟や泥海で胸鰭と尾鰭を使って這いまわる魚。

最近の「台湾の声」論説に伊原吉之助さんの「謝長廷への誤解」文
中に「しかし、謝長廷の深謀遠慮を理解しない知識人が多いようで
す。民進党熱烈支持者の曹長青は「和解共生」批判論を連発しまし
たし、米国に帰化した台湾人アンディ・チャンは、謝長廷の「憲法
一中・和解共生・中間路線」を中共恐怖症と断定し、これを放棄し
て独立路線に切換えぬ限り、海外の台湾人票は半減するぞと脅しま
す。」とあった。

突然自分の名前が出てきたので驚いたが、私や曹長青の誤解だった
ら問題はない。私は謝長廷を誤解しているとは思っていない。彼を
支持しないのではない。支持するからこそ、「和解共生」を主張すれ
ば得票が半減することを怖れているのである。

私は「海外台湾人の票は半減する」と書いたけれど、台湾国内でも
彼を「信用ならない」と見る人が多い。黄昭堂氏も「明日への選択、
七月号(平成19年)」で書いている(P.19-20)。日本の読者はすぐ
に「明日への選択」を買って読むとよい。

●玉虫色の謝長廷

謝長廷の言論は「ムツゴロウのへのへのもへ」のようにヘロヘロ変る。伊原氏の書いた謝長廷の「憲法一中、和解共生」の釈明も前から読んで知っている。

この「新釈明」が出る数ヶ月前、つまり民進党内で候補者争いをしていた時、その前の四月末に彼がアメリカに来た時などは、「一中憲法を維持する、和解とは種族和解と政党和解、共生とは中国と台湾の共生、現状維持」と演説して批判され、その後の釈明で伊原氏の書いた「一中とは一つの中国政策を棄てる、和解共生とは党内の和解と中間派の共生」となった。

しかし、謝長廷の過去の主張が誤解された、新釈明が正しいのかと
いえばそうではなく、新釈明がなされた数日後に、馬英九と共同で
行った外国記者会見で、謝長廷は英語で「多数党派や種族と和解、
中国や諸国と共生する。これが私のパーソナル・フィロソフィーで
ある」とカメラの前で述べた。謝長廷のフィロソフィーは変ってい
ない。前の主張に逆戻りしただけでなく、あちらではあのように言
い、こちらではこのように言う。これでは詭弁を弄しているとしか
思えない。ムツゴロウのように右へ左へと変化する説明を聞いてい
ると、黄昭堂氏が言ったように信用ならない感じがする。

われわれは彼を支持しないのではない。「台湾人は台湾人に投票す
る」に変りはない。しかし謝長廷が総統になって和解共生路線を採
るなら台湾の将来に何の進展も見られない。和解共生は多くの人が
疑問視しているから投票率が下がる。人民の欲するスローガンを出
さなくては台湾人の票は得られない。

96年にはじめて行われた台湾の民主選挙で李登輝は、「人民が国の
主人公であり、総統は人民に仕えるものである」と述べた。人民が
国の主人公なら候補者は主人公の求めるものを理解し、主人の理想
を成し遂げる努力をすべきである。個人の哲学より、台湾人の求め
るものを達成すること、台湾人の信頼を得て投票数を増やすこと、
これが大切なのだ。

よく民進党の人たちから、謝長廷や陳水扁を批判してはならないと
言われる。批判すれば敵に利用されるという。しかし選挙前に人民
の希望を「建言」しても聞く耳をもたない。人民が信用しない路線
を押し付けるのは宮廷政治、独裁政治である。

●北米台湾人教授会

6月22日から24日にかけて、シンシナティで北米台湾人教授会の
2007年大会が開催され、「国家意識の強化、故郷台湾へ貢献」と言
う主題で討論会が行われた。

北米台湾人教授会とはカナダ、アメリカで学位をとった大学教授、
高級研究員、学者の会合である。カナダ、台湾、アメリカなど各地
から集まったメンバーはみんな博士号をもち、それぞれの分野で立
派な貢献をしている、つまりエリート台湾人中のエリートである。

この討論会で講演した人々がみんな2008年の総統選挙に危機感を
持ち、謝長廷の支持を表明すると同時に、謝長廷の路線に疑問を持
ち、圧力団体を作って謝長廷を監督し、「和解共生、現状維持」を放
棄させると主張したのである。つまりエリート学者みんなが謝長廷
の中間路線に反対で、強い警戒心を持っているのだ。私がこれまで
書いてきたのと同じことを参加したエリートが講演したので非常に
心強く思った。

三日の討論会が終わった6月25日、「教授会の成果を声明書として
発表し、謝長廷や人民に呼びかけよう」という私の提案が全員一致
で採択され、6月26日に声明書が発表された。

この声明書は謝長廷の批判ではなく、「和解共生」のスローガンでは
投票率が下がる。人民が希求する「台湾人意識」、「台湾人は台湾人
に投票」、「台湾を愛する候補に投票」などをスローガンにせよと書
いてある。大切な点は人民に謝長廷へ投票を呼びかけたことである。

●台湾人の危機感

本来なら人口の85%を占める台湾人が選挙で中国人に負けるはず
がないのだが、過去毎年の選挙では台湾人候補者が惨敗している。
その理由はいくつかある。国民党の賄賂選挙、中国の圧力などのほ
かに台湾人意識の薄弱と、民族意識を前向きにしない民進党策略の
愚劣さである。

2008年の選挙が台湾人と中国人にとって天下分け目の戦いとなる
が、馬英九と謝長廷の両方にそれぞれ有利、不利な点がある。

馬英九は公金横領で起訴されているので非常に不利だが、国民党は
市町村の首長を使って金銭選挙をやれるし、馬英九がイケメンで女
性にもてる、メディアが宣伝、支持するなどの利点がある。

謝長廷はクリーンで台湾人の支持を得ているが、人民の意向を無視
して二度も失敗した中間路線を主張するので、失望して投票に行か
ない人が増える惧れがある。これを「含涙不投票」と呼ぶ。今回の
選挙は「中国人と台湾人の戦い」である。台湾人意識を呼びかけれ
ば人民の独立期待が膨らみ、投票率は上がる。それなのに謝長廷は
独立を言わず和解を主張するから失望を招くのである。

●「含涙投票」と「含涙不投票」

多くの台湾人は謝長廷に投票しないのではなく、投票したいが彼の
「和解共生、パーソナル・フィロソフィー」が「究極的に亡国」だ
と思うから「含涙不投票」なのだ。馬英九に投票したくないが、謝
長廷にも失望しているからどちらにも投票しない。これが「含涙不
投票」である。この反面、謝長廷の路線には賛成しないが馬英九が
勝てば台湾は大変なことになるから涙を呑んで投票する人も多い。
これを「含涙投票」という。

過去二十年の選挙の結果から得た資料では、投票率が高いときは謝
長廷に有利で、低いときは馬英九に有利と言う試算はすでになされ
ているので、謝長廷の路線に異議があっても「含涙投票」せよとよ
びかけているのだ。つまり台湾人が多数で中国人は少数だから、投
票率が高ければ台湾人に有利ということだ。

●「統独二極」の対立に中間選民はない

台湾人民の心理には不可解なことが多い。中国が一千発のミサイル
に照準を台湾に向け武力で恫喝しているのに、統一や和解を主張す
るのはおかしい。みんなが今回の選挙は「統一と独立の戦い」と知
っているのに和解を主張する必要はない。台湾人政治家が独立を主
張できないのは明らかに中国に対する恐怖心のせいである。

謝長廷の説明によると、台湾には政党に属していない中間選民がい
て、独立を主張すれば中国が武力攻撃すると恐れているから現状維
持を願っている、だから独立でなく和解を主張すれば中間選民が彼
に投票するという。この主張で二度も敗けている。

2008年の選挙は統一派と独立派の選挙であることは明らかで、独立
を言わないのは自らハンデをつけていることである。馬英九が当選
すれば中国と統一に向けて動き出すのは明白だから、独立派が独立
を言わないのは怯惰ではないか。相手が統一を主張するのにこちら
が和解を主張しても究極的には統一されるだけである。今回の選挙
は統独の二者択一であり、中間選民は存在しない。

投票率が高ければ謝長廷に有利で低いなら馬英九に有利というが、
つまり多くの中間選民と呼ばれる選民は口に出して言わないけれど
も心の底では独立を望んでいる、独立を主張する指導者を期待して
いるのである。

謝長廷は現状維持派とも呼ばれるが、前にも書いたように現状は不
変ではなく年々不利になっていくのである。現状維持派の主張とは
中国が攻撃しない、アメリカが守ってくれることを続ける期待であ
る。中国が本気で攻撃するかはわからないが、アメリカが台湾を守
ってくれるなら、アメリカの不快を怖れず独立を主張しても台湾を
見捨てることはない。正にルーズベルトの言う「真の恐れとは怖れ
る心」である。

●中国人は妥協も和解もしない

和解を主張する人は、国民党本土派も中間選民だから和解で国民党
本土派の票を取るという。捕らぬ狸の皮算用、国民党が強大な時に
利権に聡い連中が寝返ることはない。この理論こそ過去の選挙で敗
北した原因なのに、今でもまだ夢を見ている。

中国人は60年以上も台湾人を奴隷視し掠奪を続けてきたのである。
中国人が妥協するなら統一を棄てて台湾人に帰化するはずで、それ
がないのは「外地人」が妥協しない証拠である。

中国人の本質とは「中華思想」であり、独善的である。妥協とは中
国人に勝ち味のない時に用いるウソである。10年前の中国はアメリ
カに妥協と友好を唱えてきたが、アメリカや日本が姑息な態度で中
国を援助し続けてきた結果、今では友好など口にしなくなり、傲慢
な反日反米になった。

●台湾人意識を明確にすべき

来年の選挙は正に「台湾の関が原」である。この重要な選挙に和解
路線を唱えるのは間違いで、とるべき政策は国民の台湾意識を鼓舞
し、独立を明確に打ち立てることである。多数派が少数派に膝を屈
して和を乞うことはない。

台湾が平和になる日は台湾を認めず中国人を名乗る「外地人」が消
滅する日である。戦後62年たって、台湾で生まれ育った「外地人」
が台湾を中国に引き渡す手引きをしていることを思えば腸が煮えく
り返る。それなのに一部の政治家は和解を主張している。これでは
台湾を導くリーダーとなれない。今こそ「台湾精神」を鼓舞すべき
である。

最後に「明日への選択」を送ってくださった茅野幸雄先生に深甚の
謝意を表します。

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