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[AC通信:No.59(2002/8/25)] Andy Chang (カリフォルニア在住)AC通信、ガンバレ台湾丸

2002/08/27

[AC通信:No.59(2002/8/25)] Andy Chang (カリフォルニア在住)
[ガンバレ台湾丸] 第十二章 歴史の逆臣:連戦と呉三桂

明朝の末期、李自成の叛乱を平定できなかったため、山海関を守備していた
明朝の呉三桂は、三海関の門を開いてヌルハチの満州軍を引き入れて李自成の
乱を平定しようと計った。ところがヌルハチ軍は李自成を平定したのちも進撃
を続けてついに明朝を滅ぼしたのだ。このため呉三桂は「漢民族の大逆臣」と
して歴史に悪名を残している。

今年(2002年)の六月、中国から金門に密航して台湾に逃げ帰った林志昇と
いう台湾商人が、八月十二日に「中国からの脱出(従中国大陸出逃)」という本
を出版し、2000年の選挙の直前に国民党の連戦がホンコンに代表を派遣して、
中国側と接触し、中国側が投票の二日前に台湾攻撃の軍事演習を行うよう要請
したことを明らかにした。もしこれが事実なら連戦は台湾史に残る逆臣である。
                                  
●台湾と中国のアイマイな関係

台湾と中国は敵対関係にあることは言うまでもないが、台湾では中国に投資
する商人も多く、また統一を主張する政客も多い。台湾人の多くは中国との統
一には反対で、統一派も共産政権が統一するのを恐れている。つまり「現状維
持」といって中国と台湾は二つの違った政権を維持しつつ統一を空約束してい
るのだ。統一派は中国の脅威を利用しているだけのことである。

統一とは外省人が台湾を統治するための主張であって、台湾が大陸を統一す
る可能性はない。中国政権が台湾を統一すれば中華民国は滅びるし、統一派も
存在しなくなる。しかし台湾人が国名を変更しても中華民国は滅亡する。だか
ら外省人は台湾と中国が現在は分離した政権であるといった、あいまいな現状
維持を主張するのだ。

また台湾商人にとって中国は安い労働力を提供する場所で、言語が通じるの
で製造業者にとっては理想的だが、業者にとっては台湾と中国が別国であるの
が先決条件で、統一されれば利益は得られない。上海の台湾商人だった林志昇
もそのよい例で、一時はなり羽振りがよかったが、やがて何かの原因で上海を
離れた。ところが林志昇は台湾のパスポートを延期していなかったので台湾入
国に問題が生じ、中国から脱出するにあたって金門へ密航してから台湾に戻っ
たのである。このため林志昇の中国に対する失望が「中国からの脱出」という
本を書かせた動機だと本人は言う。実際に何があったかは不明な点が多い。

●林志昇が会見のお膳立てをした?

林志昇の本「中国からの脱出」第一章、第四節からの抜粋によると、2000年
3月初旬のこと、つまり台湾の総統選挙が3月18日に迫ったある日、中国の中
央弁公庁(中央書記処オフイス)の曲平から林志昇に電話があって、曲平のボス
である中央書記処の副主任だった刑運明が「連戦のお役に立てることはないか」
打診したいのて、連戦の選挙事務所の副主任をしている蔡志弘と会見したいと
言った。依頼をうけた林志昇はすぐ蔡志弘と連絡をとり、蔡志弘は連戦の同意
を得て3月11日、ホンコンの大丸デパート三階にある広東料理レストランで会
う約束ができた。

この日在席した人物は、中国側からは中央書記処の曲平、刑運明ともう一人
は柯女士と名乗る人物で、台湾側から蔡志弘と林志昇、それに蔡栄華という人
物だった。昼食の席上では、まず蔡代表が中国側の関心に対して連戦から感謝
の意を伝え、数度にわたる投票前の民間調査では連戦がリードしているので、
当選は間違いないと説明した。すると刑運明は「我々は国民党の連先生が当選
することを強く望んでいる。われわれの方でなにか手助けできることがあった
ら言ってください」と言った。

すると蔡志弘はこれに答えて、「連先生は、あなた方が選挙の二日前に福建で
(台湾攻撃の)軍事演習を行うと発表していただきたいと希望しています」と
返事をした。これがあまりにも意外だったので在席した全員は驚いて、その場
の空気がとつぜん凝固したみたいになった。刑運明もこのような申し入れにど
う答えてよいかわからず、暫くの間は沈吟していたので、林志昇は隣りの蔡志
弘に「君の言っているのは本当かね?」と小声で聞いたが、蔡志弘は返事をし
なかった。

気を取り直した刑運明は「もし貴方側が一ヶ月前にこの話をもちだしたのだ
ったら、我々はやれる。しかしいまになってから(投票は18日、この会見の一
週間あとである)軍事演習を発表するのは、どうも時間的にむりだ。何か、ほか
の方法で連先生を援助することを考えてみましょう」と答えた。

蔡代表がこれに答えずにいると、刑運明は「こうしましょう。15日に(選挙
の三日前)朱鎔基総理が公式の記者会見をする予定があるから、この記者会見を
テレビで実況放送して、そのときに朱総理が厳しく警告することにしよう」と
約束した。

そして15日の記者会見で、朱鎔基がものすごい形相で台湾の選民に警告し
たことは世界中のテレビ記録に残っている。皮肉なことに朱鎔基の演出は世界
各国で批判されただけでなく、台湾人の反撥と団結を呼ぶ結果となって、逆に
陳水扁の当選に役立ったと言われている。
                                                            
●出版にたいする国民党の圧力

著者の林志昇が記者に語った話では、彼は6月に中国を脱出するとすぐ原稿
を書き始めたが、ある記者に校正を依頼して、本来は本の出版とともにある雑
誌社が連載記事として取り上げる計画だったと言う。ところが出版社の記者が
ボスに連載の許可を求めるとボスが国民党にこっそり通報したため、国民党は
すぐ林志昇に出版を差し止めるよう談判に来たと言う。彼は全部で6回の電話
交渉があったが、いわゆる「版権買い上げ」には相当な金額が提示されたにも
拘らず拒否したそうである。

版権の買い上げに失敗した国民党側は、カナダに住む出版社の社長に話をつ
けて配本の差し止めをはかったので、初日の販売は台北市では数軒の本屋だけ
が本を店頭に並べたに留まったという。もちろんこの記事がでると各書店は本
を並べるようになった。
 
●連戦と国民党の反応

十二日の新聞記事が事実とすれば連戦は逆臣または逆賊として名を残すわけ
であるが、本が出版されて記事が報道されても連戦は沈黙したままだった。も
ちろん、台湾のメディアは本人が否認すればするほど事件を煽り立てる傾向が
あるので沈黙したほうがよかったかもしれない。

しかし新聞メディアは野党が掌握しているので実質的に連戦や国民党の味方
である。もしこの本の内容が事実でなかったらメディアでは強烈な批判記事が
出ただろう。いずれにしろ史上に残る一身上の大事について本人が沈黙してい
るのはいかにも不自然である。

ニュースが報道されて半日ほど過ぎてから連戦の事務所の主任である丁遠超
がこの本の著者を「デタラメで荒唐無稽」と批判して林志昇に謝罪を要求した。
また、国民党の文化伝播物主任の呉清基も、林志昇の本は「デタラメ」、「無か
ら有を生んだ」など書き立てて林志昇は全台湾の人民に謝罪すべきである、さ
もなければ告訴すると新聞記事を発表した。

これに対して林志昇はすぐさま、このことに関する証拠はまだたくさん保留
してあるから、もしも国民党が告訴するなら法廷で一切の資料を発表して黒白
を争うと表明した。翌日十四日になって国民党は告訴に踏み切って一億元の損
害賠償を要求すると発表したが、林志昇は連戦と二人ともウソ発見器テストを
受けて真贋鑑定しようと反駁した。

ここに至っても連戦は一度も公式発表を行っていない。全ての発表は国民党
の事務所を通じて行ない、記者の質問にも答えていない。逆賊となれば子々孫々
が汚名を着ることになるが、沈黙しているのは黙認したとも受け取れる。

●証拠の検討

連戦が叛乱罪に該当するかどうかについて、金恒煒という評論家がすでに詳
細な分析をしている。金恒煒によると、連戦は刑法103条「敵に通牒、また
は人を派遣して通敵を行ない、自国に対して戦端を開きたる者は死刑、または
無期徒刑に処する」ことに該当する。また、かりに連戦が「未遂犯」であって
も三年から十年の有期徒刑に該当すると言う。以下は金恒煒の論評からの抜粋
である。

連戦に犯行の事実があったかというと、これまでに発表された資料だけでも
法廷の審査では証拠充分となるはずである。

まず「証人」の面を考慮すれば、会見に在席した六人のうち、林志昇、蔡栄
華、蔡志弘は台湾側の人物で、いずれも名前も職務もハッキリした人物である
から、証人喚問すれば一切がわかることだ。中国側の三人も官職名を知られた
人物であり、彼らは否認していないから事実を認めたといえる。

次に「時と場所」であるが、2000年3月11日、香港の大丸デパート三階の
広東料理レストランであり、当日の蔡志弘のフライト記録や、レストランのテ
ーブル予約の記録など、調べればみんなわかることである。

この会見で蔡志弘は連戦が「中国が選挙の二日前に福建で軍事演習を行う」
と要求したが、中国側は「時間がたりないから、朱鎔基が15日の記者会見で台
湾に厳しい警告」をすると約束した。その当日に朱鎔基が憎憎しい形相で台湾
に武力恫喝をしたことは事実である。

本の内容に対して連戦は単に「嘘八百」としか答えず、連戦にかわって丁超
遠が「証拠も詳しく調べないで」書いたと批判しているが、証拠を調べると言
っても原作者が会見に在席したのだから証拠歴然ではないか。

重大な事だから、陳政権は直ちにこれらの関係者全員を出国制限して事実の
解明をすべきであり、それが出来なかったら陳政権も批判を受けることになり、
台湾は危ないだろうと金恒煒は述べている。

●連戦:「皇帝」の意識形態

この事件は証拠があまりに揃っているので、荒唐無稽と否認するわけにはい
かない。だが事実としても荒唐無稽である。中国が台湾の総統選挙に「手助け」
をして彼らにとって都合のよい候補者を当選させる、これは有り得ることかも
しれない。アメリカだって各国の総統選挙に干渉している。クリントンがイス
ラエルの選挙であからさまにナタニヤフを卸してバラクを当選させたことはま
だ記憶に新しい。しかしこれは同盟国または友好国間で行われた事柄であって、
敵国との秘密会見、敵に自国の攻撃演習を要請するとなると人類の歴史始まっ
て以来の珍事である。

連戦が中国の誘いに応じて蔡志弘を派遣したのは、国民党にとっても反逆罪
と言わねばなるまい。なぜなら国民党は蒋介石時代から一貫して「漢賊不両立」
つまり国民党と共産政権は両立しないことを党是としているのだ。つまり台湾
人民だけでなく、統一を主張する国民党にとっても連戦は逆臣であり、呉三桂
と同じく歴史に悪名を残すだろう。

もちろん、蒋介石時代と現在は大いに事情が違って、台湾にとって中国は敵
であるが、同時に一部の人にとって大陸は祖父の土地であり、別の人にとって
大陸はは経済的に利用できるパートナーでもある。だから中国が秘密の会合を
持ちかけて連戦がこれに応じて蔡志弘を派遣したことも頷ける。だが「敵に軍
事演習」を要請するのはあまりにも荒唐無稽である。

しかし、連戦がこれをやったと言えば、「さもありなん」と頷く人が台湾では
半数以上である。なぜかというと連戦はよく知られるような「皇帝」のよな思
考しか持たない人間だからだ。皇帝(トノサマ)には世界が自分のために存在
するという考えしかない。国も、党も、国民も、彼のために存在する。だから
選挙に勝つために中国の助けを求めるのも、中国が彼を助けるのは当たり前だ
と思うし、台湾の人民を威嚇しても、トノサマが平気で領民を脅すのと同じで
ある。そんな人間だからこそ、落選しても責任は他人のことと思い、失敗は李
登輝の責任であると言って少しも恥じるところがないのだ。

このような皇帝思想を持った連戦には、中国側に要請した事が「台湾に叛い
た」という意識はない。彼自身は逆臣だとも思っていないだろう。なぜなら連
戦の貧弱な頭脳では、連戦あっての台湾や人民であるからだ。これだけ自己本
位で幼稚な考えは常識では判断できない。皇帝だからこそ出来るのだ。このよ
うな愚鈍さは、選挙に負けたのを李登輝のせいにして辞任を迫り、ひたすら陳
水扁が総統に当選したことを憎み、宋楚瑜と手を組んで陳水扁打倒に執念を燃
やす幼稚さが証明する。この一連の事実から見て会見は事実だった可能性が大
きいのである。

連戦にとっては党も人民も「彼のため」にしか存在しないのであって、連戦
が国民党のお金を横領した最悪の敵である宋楚瑜を許してさらに連合して陳水
扁打倒に執念を燃やすのは「皇帝」思想でしかない。つまり総統は「連戦皇帝」
がなるべき地位であるから、陳水扁が総統になったのは許せない。彼にとって
台湾の人民は存在せず、投票者のみが視野にあるということだ。

●林志昇の動機について

台湾は非常に複雑でいろいろなデマがまかり通る所であるうから、大陸に渡
って中央部の役人とも親しくしていた林志昇がなぜこのような暴露本を書くの
かという疑問がでてくる。

新聞報道によると林志昇は普通の商売人ではなく、台湾にいた頃から補習学
校を経営していたが、やがて大陸に渡って四川省の成都で補習学校を開いた。
彼はアメリカと台湾間を往来して中国の高級幹部の子女をアメリカに留学させ
る業務をやって中央書記処の刑運明や曾慶紅などとも親しくなったと言う。

そのように中国や台湾ではひとかどだった人物が、なぜ中国から金門に密航
し、しかも入国した当時は身体に百箇所以上の傷があったという。そして人知
れず病院に隠れたまま「中国でひどい目にあった」ことを本にするための原稿
を書き始めたという。連戦のことはこの本の第一章で、本の内容はタイトルに
あるとおり中国でひどい目にあって命からがら逃げ出した経緯であって、連戦
のことはホンの一部分だけと言う。読んでみないとわからないが、第一章では
彼が台湾と中国の重大事件にかかわった人物であると見せびらかしているよう
な感じを与える。

●逆臣をどう処分すべきか

金恒煒が指摘する通り、台湾では逆臣を裁判にかけるだけの気迫をもった人
はすくない。台湾では選挙二当選することがすべてと信じている「政治屋」し
かいないのは悲しいことである。

陳水扁政権は連戦の叛逆を徹底調査すべきであるが、やらない。国民党も連
戦を調査すべきなのに、かえって弁護に廻っている。宋楚瑜はいつも人民のた
め、台湾のため、漢民族のためなどと大義名分を使って政敵を罵倒するが、こ
のような大逆事件に対しては沈黙している。彼は総統の地位を狙っているので
連戦や陳水扁を批判するのはうまくても人民のことは念頭にない。宋楚瑜もま
た皇帝意識を持つ人間である。

政界が連戦の売国行為を調査しないなら民間団体が黙っていることはない。
民間でデモや政治集会を行って事件の徹底調査を要求すべきであろう。台湾の
南、中、北社はこのような事態を国民に知らせるために存在するのではないの
か?政府が善処しないなら民間で人民裁判を推し進めるべきだろう。

「連戦を叛乱罪で裁くべきか」を国民投票できめてもよいと思う。国民投票
が「人民が台湾の将来を決める」ことに使われるなら、「連戦が中国に攻撃演習を
要請したこと」は国民投票に該当する。

陳水扁の「一辺一国論」は国内で大きな反響を呼んだ。大多数の人民は住民
投票の制度化に賛成したが国民党は反対した。さらに宋楚瑜は民衆の不安を煽
るため「陳水扁の一辺一国論は国難である」とか、「アメリカが陳水辺の発言に
反対した」とか中国が攻撃してくるなどと煽動しているのだ。アメリカは陳水
辺に警告していないし、アメリカとの関係は悪化していない。つまり宋楚瑜や
連戦の「一辺一国論」に対する評論はウソである。

宋楚瑜は前回の選挙で中国の支持を得られず、中国が連戦を支持したことを
どのように思っているだろうか?おそらく宋楚瑜はこれで連戦を潰せば中国の
支持を受けられると思っているだろう。だが中国側からみればどの人物を支持
することはない。中国にとっては統一が目的であって、宋楚瑜も連戦も眼中に
ないのである。

台湾は中国の圧力に喘いでいる。外省人、台湾人、ともに中国の圧力を受け
ているのが現実である。台湾に住み、台湾が中国に併呑されることに反対する
人はすべて台湾のために努力するべきである。台湾丸の乗組員には外省人、台
湾人の差別はなく、台湾の存続を願う人たちが協力するべきであろう。

中国では2600年も前の春秋時代に「太史の簡」とか、「董狐の筆」といっ
た史実があって、自分の命を賭けてもボスが主上を弑したことを歴史に書き留
める烈士がいたのである。今日の台湾に「連戦が国に叛いた」、「党に叛いた」
と書き留める烈士はいるだろうか?■
                                   
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