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ワシントンAC通信、ガンバレ台湾丸

2002/07/12

[AC通信:No.57(2002/7/06)] Andy Chang (カリフォルニア在住)  

                                   

◆[ガンバレ台湾丸] 第十章 God、or Gold?

            

前章では台湾から中国に敵前逃亡した男の「蝙蝠の忠誠心」を取り上げたが、アメリカではサクラメント近郊の男が、小学校で「神かけて国旗に忠誠を誓う」ことが憲法違反だとカリフォルニアの第九連邦控訴裁判所に提訴して、法廷は国旗に対する誓いは憲法違反だと判決した。これについてブッシュ大統領が行き過ぎであると批判し、国会でも裁判官の判定を覆す必要があると決議し、各州で抗議が相次いでいる。抗議を提案したマイク・アントノビッチ参事官は「憲法の礎でもある国旗への忠誠を違憲とする判決は、アメリカの歴史を否定するにも等しい」と怒りをあらわにした。

 

同じ時期の6月にはアメリカの大通信会社ワールドコム(WorldCom、Inc.)が400億ドルにも登る粉飾決算をしたことが明るみに出て、個人、会社、国家の威信が疑問視されるようになった。この問題は全世界に大不況を及ぼす恐れがあるように見える。政界や経済界で人間が不正がおこること、つまり忠孝仁義の道徳観の低下が現代社会の混乱をきたす原因でないか。

                                  

●国の忠誠を「神」に誓う

 

問題の起点は小学校で学生が国旗に対して誓う、「忠誠の誓い」にある。アメリカでは低学年の生徒が教室で星条旗に対して「私は国に忠誠を尽すことを神に誓います」と誓うことを教える。これが「神に誓う」となっているので、サンクレメンテに住むある男が「教育と宗教は分離すべきであり、私の娘は誓いを拒否する権利がある」と提訴した。そして第九連邦裁判所の裁判官は彼の言い分を認めて、忠誠の誓いは違憲であると判決をくだしたのである。

 

これを聞いたブッシュ大統領は直ちに「こんなバカなことがあるか。忠誠の誓いが違憲であるとすれば、それに付随していろいろな問題が起ってくる。たとえばアメリカの紙幣には“In God We Trust” 『神を信ずる』と明記してあるが、これも違憲なのか」とコメント。全国でも次々に判決にたいする抗議が相次いだ。新聞は「この判決はカリフォルニア第九連邦法廷の権力範囲以内でのみ有効であると報道し、続いて同法廷でも判決を三ヶ月遅らせて複数の裁判官が審査にあたると発表した。四十五日以内に連邦最高裁の審理で決定が覆されない場合には、アラスカ、アリゾナ、カリフォルニア、ハワイ、アイダホ、モンタナ、ネヴァダ、オレゴン、ワシントン、グアム諸島の各州で適用される。

 

●誓いとは厳粛なる約束である                      

 

誓いとはなにか?簡単に言えば誓いとは個人または国家など、ある特定グループが外部に対して行う厳粛な約束ごとである。たとえば法廷で証言をする前に宣誓を行うが、これには「私は一切の真実、そして真実のみを述べることを誓います」と言うが、普通アメリカでは聖書に手をかけて行う。キリスト教信者でない場合は聖書でなくても手を挙げて神に誓う。この場合、神とは本人の信じる神であればいい。アラーでも仏陀でも構わない。

 

アメリカの紙幣には神を信じることが明記されているが、これは1950年代に国会で決めたのであると新聞の解説があった。しかし法律で決めたかどうかは別として、古いアメリカのコインにも同じようにイン・ゴッド・ウイ・トラストと彫ってある。神の名を使っていない諸国の通貨も多い。

 

つまり誓いとは、ある事を背くまいと約束することで、一般には神仏に対して誓いを立てることであるが、ここでいう神またはGODとは別に特定の神様でなくてもよく、アメリカの生徒がGODに誓うといえばそれがキリストではなくてもよい。またアメリカの通貨がGODにたいしてこれはアメリカの通貨であると誓えば、アラーの国や仏陀の国でも通用する。

                                                           

●誓いの信憑性                            

 

 誓いとは約束することであり、それは人と人との間、人と公衆の間で交わされる法廷証言や政治宣伝や、国が交わす条約、国の通貨すなわち経済活動の価値スタンダードなどにも用いられる。

 

それでは約束ごとが守られなかったらどうなるか?誓いを立てるとは、すなわち絶対に約束を守ると言うことだが、その人の言葉はどれだけ信じられるだろうかという問題が生じる。子供の指きり、唾をつけて握手する、政治家の公約、血判を押す、法廷の宣誓など、いろいろな方法がある。どのようにして他人に信用させるのかが誓いの基本であろう。「個人の名誉にかけて」誓っても、相手がウソツキだったら名誉など役に立たない。

 

西洋では神の名のもとに誓いをする。東洋では「雷に打たれて死ぬ」とか、「悲惨な死に方をする」、「子孫が滅びる」など、個人の生命、または子孫の生命を賭けて誓う事もある。つまり約束に代償とか処罰の条件を入れることにより信憑性を増すのである。台湾では政治家が道教の廟で「鶏の首を斬る」誓いをすることがある。台湾や中国でなくても、神またはサタンに対する誓いに鶏を使うのは有名な三船敏郎の「価値ある男」にも出てくるし、「トム・ソウヤーの冒険」にもこのような場面がある。鶏こそいい迷惑だ。

 

ここで問題になるのは誓いに背いた場合の「処罰」であろう。誓いに背いたらどうなるか?法律では偽証を行ったことが証明されれば「偽証罪」で処罰される。神に誓った場合は神罰を受けることになるが、神の裁きは現世の人間がきめるわけではない。

 

つまり宣誓というものは「法律と道徳の境界」を綱渡りしているようなものでないか。昔はよかったというわけではないが、近頃の人間は道徳的に頽廃が見られ、ウソを吐いても処罰されないケースが増えたようである。これを政治面、経済面、社会面などから検討してみると道徳観の推移が見られる。

 

●クリントンの大統領罷免はアメリカの威信を損ねた

 

クリントンはルーインスキーのスキャンダルで二度三度と偽証を行ったが、破廉恥にもウソを詭弁で言いぬけようとしたのである。彼女との関係を問われて「ない」と答えた。これは偽証である。ウソが発覚したときクリントンは平気で「ない、と言ったのは“今はない”ということ(IsとWas)の違い」だからウソではないと答えた。また、性関係があったかと聞かれて「絶対にない」と強調し、精液の付着したドレスが証拠物件として報道されると、「オーラルセックスは本当のセックスではないから、ウソは言っていない」と答えた。明らかな詭弁である。

 

クリントンを罷免出来なかった上院は、アメリカの威信を著しく損ねたと思う。民主党系の上院議員が罷免に反対票を投じたのである。彼らの理由は「クリントンは偽証したが、大統領を罷免するほどの罪ではない」というのだった。罪を裁けなかったら法律は無に等しい。偽証は大罪だが、大統領だから罷免されないなら、アメリカの法律は平等でない。独裁国家と違わない。

 

事件が落着してからNBCのトム・ブロコフのインタビューで、「貴方は今回の事件でどのような感想がありますか?歴史は貴方をどのように評価するでしょうか?」と問い掛け、クリントンは「私は憲法による大統領罷免のあり方を国民に見せることが出来たのを誇りに思います」と誇らしげに答えたのである。後悔のカケラもないのである。こんな男が「サダム・フセインはウソツキだ。金正日はウソツキだ」といっても嘲笑されるだけだ。アメリカの威信を損ねた責任はクリントンを「法律でもって」罷免しなかったアメリカの民主党上院議員にある。

 

アメリカの国法はクリントンを裁けなかったが、神はクリントンを裁くだろうか?GODに対する誓いは無きに等しいとわかったら、神に対する誓いも意味をなさない。

 

●金銭(GOLD)至上主義になった現代社会

                                   

「われ神仏を尊び、神仏に頼らず」とは有名な宮本武蔵の言葉だが、神仏に頼れなかったら、人間は何を頼りにするのか?人に相互の信頼がないと誓いなど意味をなさない。これが今回のワールドコム会社の粉飾決算にみられる。ワールドコム、エンロン、ゼロックスなど大会社が粉飾決算や不正取引を行っていた。しかもアーサー・アンダーセン経理監察会社はそれを見抜けなかったか、または粉飾に加担した疑いがある。会社も経理も信用できないし、監察会社も信用できないとなると、信じられるものがなくなってしまう。アメリカの大会社が信じられなかったら株式投資はやれない。こうしたマクロ面の経済影響は世界に波及して大不況を招く恐れが出てきている。このためブッシュ大統領は慌てて会社の経理に厳しい監察制度を作るよう演説した。アメリカだけでなく、全世界の恐慌を避けるための緊急処置である。

 

ここで強調したいのはエンロン、ワールドコム、不正、粉飾などがアメリカでまかり通るようになったのは山本七平のいう「空気」、つまりクリントンのような悪者が罰されないため、道徳の頽廃を招いたということである。

 

エンロン社は電気や水を相場として取り引きし、不当な買占めによって大会社にのし上がったが、このため一般家庭が高い電気代をはらうことになった。しかしワールドコム社は会社の高層が400億ドルの粉飾をして株を吊り上げ、大会社になったのである。結果としてエンロンもワールドコムも、数十ドルもした株価が一夜にして無価値になり、株式市場に大きな損失を残したのである。投資者の損失もさりながら、もっとマクロな面からみれば、不正やウソが発覚した瞬間に株式市場から何千億という投資者のお金が「消えて」しまったのである。これに連帯して株式全般は大幅に下がり、投資者はエンロンやワールドコム以外の会社にも疑問を抱くようになった。こうして悪性スパイラルの株下落が始まり、会社は一般市場からの醵金が難しくなったばかりか、会計帳簿への不信から借金さえも困難になった。さらにアンダーセン経理監察会社も責任を問われることになった。

 

●アメリカの財政危機は世界の財政危機を招く

 

これまでアメリカ政府は国内の財政を補うために二つの政策を取っていた。ひとつはドルの信用を維持することであり、もう一つは金利を高くして世界各国から金集めをしていたのである。たとえば日本ではゼロ金利が数年も続いたため預金者がドル買いに走っていたが、ヨーロッパでもドイツ以外の国は金利が低く、アメリカに投資するものが多かった。だがドル不信が高まるとドルがアメリカから外国に流出してアメリカの財政危機を招く。ところが日本にドルが還流してもゼロ金利ではお金の行き所がない。金を買ってドル安を待つという方法は利息を生まないから一種の賭けにすぎない。

 

これまで台湾では政情の不安定とか、不景気になるとすぐドル買いに走っていた。ところ報道によるとワールドコムのスキャンダルが明らかになった直後には、一週間だけで実に40億ドルが台湾に還流したという。ドルが台湾に還流して、お金があり余っているのに景気は好転せず、株も土地不動産も低迷したままである。多くの投資者は中国への投資を考えているらしいが、これは恐らく最も危険な投資だろう。なぜなら台湾人の中国投資は「持ち込みだけが許されて持ち出しは禁止されている」からである。しかも中国は「支払い不能なローン」が潜在的な問題になっていて、アメリカや日本と同じく不払いローンが顕在化すれば一気に恐慌が起こる。

 

つまりアメリカで今になってから不正が発覚したが、諸外国では不正がかなり前からあったのだ。ドル不信が自国通貨の信用を増すことに繋がらない。また、ドルが還流しても経済が好転するとも限らぬのである。むしろアメリカで不正が発覚すれば自国でも同じようなケースが発覚するかも知れぬのだ。

 

●アジア諸国の不良債

 

どこの国でも悪性負債が生じると政府が救済に乗り出すことになるが、政府は万能でないし、無制限に国民の税金を使って会社や銀行の救済をやるわけに行かない。エンロンやワールドコムのような大会社が破産すれば金銭上の損失だけでなく、一夜にして解雇された人員が路頭に迷うことになる。トゥー・ビッグ・トゥ・フェイル、破産したら大事になるといって大会社の処分を遅らせるとどんどん悪くなる。

 

エルンスト&ヤング、アジアウイーク、ムーディースなどの報告によると、現今のアジア諸国は成績不良、または回収不能のローン(NPL-Non-Performing Loan)が多く、これを処分すれば国が危なくなると言われている。アジア諸国のNPL対GDP比をみれば、中国44%、タイ国41%、日本26%、韓国25%、台湾20%、など、いずれもたいへん危ない状況になっている。いつ、どの国で経済危機が訪れるか、その波及効果はどのようなものか、まったく予測もつかない状態である。

 

もう一つの懸念はNPLが増える一方で、これらの国が「ワールドコムのような」粉飾報告を行っていないか、ということであろう。そのよい例が中国で、この国の一貫した新聞報道をみるかぎり景気はよく、GNPは上昇していてその他のアジア諸国のような不況は発表されない。そのため日本や台湾は中国の安い労働力を頼って生産線を中国に移すことが不況対策の唯一の方法みたいに思っている資本家や政治家がいて、中国一辺倒の状況を呈している。しかしエルンスト&ヤングの報告書をみればわかるように、NPL対GDP比が最悪の44%もある中国はいつ破産してもおかしくない。粉飾決算が発覚したら中国ばかりでなく日本や台湾も道連れになるだろう。中国のモラルスタンダードがアメリカより良好だとは誰も考えていないはずである。

                                   

●ドル不信は金(Gold)本位体制に戻るか?

 

アメリカの政治や経済面で不正直なことが相続いたため、やがて世界大恐慌を誘起する可能性はドルの流出だけではない。これまでアメリカは世界の貧乏国を援助してきたのであった。アルゼンチン、南米とかアフリカ諸国の経済は行き詰まってアメリカが支えているのが現状である。実情を知らない人はアメリカの世界制覇だとか、アメリカの独裁、またはユダヤ人の侵略などと危険視する向きも多い。しかしアメリカの支援がなくなれば南米諸国はドミノ現象で経済危機に陥るかもしれないのである。ドル危機は日本に有利に動かないばかりか、大恐慌になったら日本は現状から抜け出せなくなるか、抜け出すためになおさらアメリカに頼らざるをえない。

 

世界では自国の貨幣に信用を持たせるため、ドルペッグといってアメリカドルに直結した為替制度を維持していた国がたくさんあった。通貨が安定していないと外国から借金できないからである。しかし国全体が不払いローンを抱えている状態になった国はどうすればよいのか?これをアメリカとかユダヤ人の経済侵略と決め付けても、国が経済的に立ち直れないから不払いが生じるのであってアメリカが悪いというのはおかしい。

 

だが多くの国の貨幣はドルによって支えられてきたのである。アメリカのドルは「In God We Trust」と明記して自国の貨幣に責任を持っていることがわかる。別面、他国のドルペッグは言葉を変えて言えば「ドルを信ずる、In Dollar We Trust」と言うことになる。それでも支払い不能になればブラジルやアルゼンチンのようにドルペッグを棄てて通貨の切り下げをせざるを得ない。通貨切り下げはつまりドル単位で行った借金が更に増えることを意味する。

 

中国はドルペッグのお蔭で世界一安い労働力を誇っているが、ドルペッグを外せばたちまち賃金が上がりインフレとなる。こうなると中国は競争力を失うばかりか、国内でもインフレを消化できなくて政情不安になるのではないか。また、ドルペッグなしに中国の貨幣が信頼できるのか。

 

アメリカでもドルを金本位に戻すことを提唱している学者がいるが、これは政治的にも経済的にも無意味である。現在の世界経済は世界の金の総額をはるかに上回っているので、金体制にもどることはできないし、これでは産金国だけ得をすることになる。だからやはりドルは世界経済の基本となっているわけで、いまさら金本位体制に戻ることはないだろう。

 

これでこそアメリカのドルが神によって保証されていることが大事になってくる。ドルは「In God We Trust」、そして他国の通貨はドルに頼る、つまり「In Dollar We Trust」である。

 

GOD、or GOLD? 貴方はどう思うか?■                  

                                   

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