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ワシントンAC通信、ガンバレ台湾丸

2002/01/20

[AC通信:No.53 国家とは何か(2002/1/11)]
Andy Chang (ワシントン在住)

◆  [ガンバレ台湾丸] 第六章 国家とは何か

田中真紀子外相の台湾問題発言についてたくさんの抗議や批判が寄せられ、
12月27日の産経新聞には「あまりにも無知、無神経」という題で社説が掲載
された。田中外相の幼稚さだけではなく、このような粗雑な人物を外相に更迭
できない小泉首相、さらに国際問題を起しても目をつぶっている日本の政治が
もっと大きな問題ではないか。田中真紀子の無知は個人問題だが一般民衆にも
「国家とは何か」といった認識が欠如しているように思われる。これを機会に
検討してみよう。

● 田中真紀子は江沢民の頭痛の種

真紀子の認識が一般人より劣ることはこれまでにあった数々事件で明らかだ
が、今回の(1)中国と台湾が同じ民族、(2)同じ民族だから統一される、
(3)台湾を香港と同じ方式で統一するといった発言や、更に「李登輝さんは
頭痛の種」と言うにいたってはもう救いがない。ある日本人が筆者に電子メー
ルを送ってきて、彼女は田中角栄の娘だから許してあげなさいと書いてきた。
しかしこれは真紀子の問題でなく国の威信の問題である。田中角栄の娘だから
中国に媚を売るのも頷けると思うのはいかにも短絡的でないか。強国にヘイコ
ラして弱小国の台湾をバカにするのは小学生のイジメと同じである。

台湾と中国は同じ漢民族だからいずれ統一される、と言えば中国が喜ぶかと
言えばそうではない。それなら日本の外交的立場は、漢民族でない新疆地区や
チベットの独立を認めることも当然となって、さらに内蒙古の独立も認めなく
てはならない。中国には58の違った民族が住んでいるのである。中国を58
民族の国々に分散しろと真紀子は言っているのか?江沢民にとって真紀子はま
さに「頭痛の種」でしかないのである。彼女が中国に媚を売ったつもりでも中
国にとっては迷惑千万だとわかっていない。

日本はこれまでにも靖国神社の参拝とか、教科書問題でも度重なる中国の抗
議に晒されてきたが、中国や韓国が日本の「内政干渉」をして首相が神社に参
拝することさえできないでいる。真紀子は外相でありながら中国の干渉に対応
できないばかりか、台湾の将来に勝手な自己判断を発表し、「ホンコンのよう
に返還されるべき」など政治干渉をする。これでは日本の外交が諸国の嘲笑を
買うだけである。小泉首相にとっても「頭痛の種」である真紀子を処分できな
いこと自体、日本政治の貧困さを表していると思える。

● 国境と民族の問題

もともと国境などはいつも変わるもので、民族だけで国が出来るのではない。
民族が国家を作るというのなら、琉球民族は日本民族とは血統も言語も違うか
ら日本は沖縄を独立させるべきであろう。それが真紀子の本意だろうか?

台湾の版図にしても、明朝の最期までは中国のものではなかった。それ以前
はオランダ人が占拠していたのである。歴史を読めばもともと中国の国境など
は千変万化であり、漢民族だけが国を築く権利があると思うのは無知もはなは
だしい。

清朝の満州族は三千年も前から漢民族と敵対関係にあった。漢民族は満州族
の侵入を防ぐために長城を築き、満州との国境には山海関という城があった。
明朝の末期になって李自成が叛乱を起し、明朝はこれに対抗できなかったので、
山海関の守将だった呉三桂が山海関の関門を開き、満州軍を引き入れて李自成
を撃滅させたのである。しかし大陸に入り込んだヌルハチの率いる満州軍は南
進をつづけて遂に大陸を占拠し、明朝は滅んだのである。このため呉三桂はい
までも「漢民族の裏切り者」とされている。清朝は満州族の創った国だから漢
民族の国ではない。それなら清朝は大陸から撤退して明朝に政権を返すべきか
と問えば、そんなバカな、と答えるだろう。つまり中国は漢民族のもの、とい
う概念が間違っているのである。外相が歴史オンチではお話にならない。

新疆地区は大陸の一部だが中国の一部とは言えない。民族も言語も違うので
ある。新疆はもとよりウイグル族の土地であった。清の乾隆帝(ヌルハチの孫)
の時代に清朝の版図に入ったとされているが、実際には臣属しただけで一貫し
て自治地区であった。20世紀になって蒋介石が保定軍官学校(日本の陸軍士
官学校を真似たもの)の卒業生である盛世才という漢人を総督に任命したが、
1944年に日本軍が戦況不利なると、盛世才は新疆独立を宣言して、甘粛から
新疆に到る唯一の交通路を封鎖してしまった。蒋介石軍は新疆に入る道が封鎖
されたので討伐軍を入れることが出来ず、馬賊の馬世英兄弟と結託し、騎馬部
隊が新疆に侵入して盛成才軍を撃破した。やがて蒋介石は毛沢東に大陸を追わ
れて台湾に逃避したが、盛世才も張学良と同じく人質として台湾に連行され、
軟禁されて出国出来ないまま70年代(不詳)に死亡した。大陸を制覇した中
国共産党は1955年になってからようやく新疆に自治区を設定した。チベット
に至っては1959年になってから軍隊を派遣して征服したためダライ・ラマは
インドに亡命した。

● 歴史を書き換えることは出来ない

ニューヨークでテロ自爆が起きた後、アメリカのブッシュ大統領は世界諸国
に「テロにつくか、自由につくか」と問いかけた。中国はアメリカのテロ事件
に無関心だったが、やがて世論がテロ撲滅に傾くと中国は新疆の独立運動をテ
ロ問題と定義してアメリカの同意を得ようとした。だがアメリカは新疆におけ
る独立運動の歴史を熟知しているので中国の主張に同意せず、中国との関係は
冷たくなった。

台湾問題についてはカイロ宣言まで遡ってみるとわかる。蒋介石も参加した
カイロ宣言では「日本は台湾と澎湖諸島の主権を放棄すべし」と書いてあり、
「中国に返還すべし」とは要求していない。無条件降伏した後で日本がサイン
したサンフランシスコ条約と日華条約(日本国条約集、第二十九、および第三
十)において、「日本は台湾と澎湖諸島の主権を放棄」したが、「中国に返還」
とは書いていない。もしも福田官房長官や田中真紀子が、日本が調印した条約
の内容を知っているなら、台湾はいずれ中国に収斂されるとか、ホンコン方式
で「返還」されるなど言える筈がない。日本国の条約を真紀子が勝手に変える
つもりなら重大事件である。

これまで何度も書いたが、アメリカは台湾を中国の一部と認めたことはない。
中国は機会あるごとにアメリカや日本に「中国は一つしたかない、台湾は中国
の一部である、台湾の独立は認めない」の「三つのノー」を繰り返し主張して
きたが、これに対しアメリカ及び世界諸国の返答は同じく「中国の主張を聞き
おく(Acknowledge)」に止めている。なぜ中国がしつこく「三つのノー」に
拘るかというと、「ウソでも百万回繰り返せばホントウだと信じる人が出てく
る」からである。しかし真紀子個人がウソを信じるのは勝手だが、日本がウソ
を認めるわけには行かないのである。

嘗てクリントンも三つのノーを「書き換えようと」したが国会や外交部から
否定された。歴史を書き換えようとするのは愚劣である。1月13日台湾の外
相・田弘茂は、ブッシュ大統領が「以後アメリカは三つのノーにこだわらない
と言った」と述べ、これは台湾外交の一歩前進であると演説した。同日、台湾
政府はパスポートに英語で「Issued In Taiwan」と表記すると発表した。

● 国家に継承権はない

歴史を見ればわかるとおり、人類の国家制度は一貫して武力で統一する方式
が近代まで行われてきた。強くなれば近隣を征服して版図を広げるといった形
式が世界で行われてきたことは、アレキサンダー大王、ローマ帝国、ジンギス
カンの蒙古帝国、ナポレオンやヒットラーなどを見ればわかる。日本も例外で
はない。神宮皇后の三韓征伐(新羅出兵ともいう)、豊臣秀吉の朝鮮出兵、19
10年の日韓併合など、三回も朝鮮半島に出兵している。さらに薩摩の琉球併合、
台湾の割譲、満州出兵と満州国の設立など、いずれも武力を使って領土拡張に
励んでいる。

中国大陸はもとより多数民族の住む土地だから、四千年の歴史をみれば統一
と分裂を繰り返してきた。大陸には一国しか存在しないと思うのは間違いであ
るし、中国の版図は昔から決った範囲にあると思うのはもっと大きな間違いで
ある。ブリタニカで中国大陸の人種分布を見ればわかるように、漢民族の住む
土地は半分もないのである。漢民族にしても日本人がいうような日本民族では
なく、いろいろな人種の混合である。ブリタニカで中国大陸における漢語の分
布を見ればやはり大陸の半分ほどである。つまり民族や血統、言語などは国を
創る要素であっても必要条件ではない。

武力で征服して創られた国の版図は、武力が衰えれば分裂することはローマ
帝国やソビエト連邦などがよい例であろう。筆者が言いたいのは、武力で国を
創ることでなく、武力で創られた国は武力で滅ぼされるという歴史の教訓であ
る。20世紀になってから人類はようやく民主主義に目覚めて、国は武力で創
るのではなく、人民が創ることに気付いた。これは大切なことで、歴史の教訓
によると武力で征服した土地はいずれ人民に取り返され、民主国家とは国のあ
り方を人民投票によって決めることである。

● 国境に権利は存在しない

日本のように、周囲を海で囲まれている国は特殊であって、中国のように大
陸のなかに60ほどの民族が犇いている土地では歴史上いつも土地の奪い合い
があり、国境などはどれを基準としてよいかもわからない。もともと「中国は
一つしかない」などと主張する方が時代遅れの覇権主義なのである。中国大陸
に限らず、ヨーロッパ大陸やアフリカでも同じで、いまのイスラエルとパレス
チナの紛争を見てもわかるとおり、取ったり取られたりしてきた土地に国境を
きめるのは至難のわざといわねばなるまい。それでも一般に土地の紛糾は歴史
に拠る解釈が多い。だが中国にように長い歴史の中で国境がたびたび替わって
きた土地には国境があやふやである。

台湾が中国のものでないことはカイロ宣言以来、住民投票が待たれる状態で
あることを意味している。民主主義が発達したいま、中国の独裁に不満をもつ
中国人が世界各国で密入国をして、日本を含む各国では中国からの密入国者が
重大な課題となっている。「漢民族だからという間違った理論で」大陸の中国
人でさえ逃げ出すような政権に2400万の台湾住民を統治させる考えは恐るべ
き人権違反である。

● 沖縄の信託統治

国が武力で創られても国民が不満ならいずれ潰される。これが中国の現状で
ある。中国人は国に不満があるからこそ日本やアメリカに密渡航するわけであ
る。国民に国を愛する気持ちがあれば逃げ出したりしない。日本人はアメリカ
に留学しても日本に戻るが、中国人がアメリカに留学すればあらゆる方法を使
って中国に帰らない。自由のない国に住みたくないのである。

 人民に選択の自由を与えるのが民主主義の真骨頂であるとすればアメリカの
沖縄占領は第二次大戦の後始末でもっとも賞賛されるべきものだった。アメリ
カは琉球王国が15世紀に薩摩に占領されたことを知っていたからである。ア
メリカは沖縄を信託統治して、人民に民主主義を教え、住民に自由選択をさせ
る筈だった。佐藤栄作はこれを熟知していたから沖縄人に「日本に返せ」と世
論操作をして遂に沖縄返還が成立したのである。沖縄が独立すればアメリカの
属国となるという思想を吹き込んだのである。

 日本人があまり感謝していない事実は、アメリカに初めから沖縄を自国の領
土とする意思がなかったことであろう。アメリカが沖縄を自国の領土にする意
図があったら返還はおそらくもっともっと困難を極めていただろう。日ロ間の
四島返還問題と比較してみればよくわかる。

 台湾にもアメリカが沖縄のように、ある期間の信託統治をしてから住民投票
させるのがよいと夢見ていた人が多くいた。しかしこれは無理である。中国が
「三つのノー」を繰り返し主張するのはアメリカの介入を防ぐ一方、台湾の住
民に中華思想を吹き込むためである。台湾の現政権は中国の脅威と、統一を主
張する外省人に挟まれた環境で綱渡りをしている現状であるが、このようなデ
リケートな時期に日本は中立を守るべきであって勝手な理論を述べるのは中国
にも台湾にもよくない。

● 独裁国家と民主国家の違い

こうして書いてくると明らかになるのは、国家には正当性などは存在しない
し、国境の継承権などもハッキリしないことがわかると思う。イスラエルやパ
レスチナのように同じ土地の上に歴史上違った国が存在していたら、正当な継
承権などは求められないのである。

アメリカは初めから現在の国境を維持していたわけではない。アメリカが独
立宣言をしてイギリスの統治から離脱した当初は現在のアメリカ東部にある
13州だけだった。当時アメリカ大陸の中部はフランス領、西部はメキシコの領
土で、アラスカはロシアの領土だった。それが現在の範囲まで広がったのはお
金で購入した部分もあるし、テキサスのように独立運動を起してから帰属をし
た個所もある。だからアメリカの歴史を見ればかなりあくどいこともやったこ
とがわかる。

しかし大切なことは今のアメリカが国民の意思によって国を創っているとい
うことであろう。アメリカは連邦制度だから、たまには連邦より離脱を主張す
る人もでてくる。たとえばカリフォルニア州の独立とか、テキサス州の独立を
主張した人もいるし、ヴァージニア州を南北ヴァージニア州に分離する案もあ
った。しかしいずれも住民投票に至る民意は得られなかった。

これが国のあり方なのだ。つまり、独裁国家は武力で国を創り、武力で国境
を維持する。これに対し民主国は国民が国のあり方を決める。覇権で維持した
国は権力者が衰えると政権交替とか革命になるが、民主主義国家では政党が代
わっても国体は維持される。

台湾では半世紀も続いた国民党の独裁政権がようやく終わりを告げて、平和
裏に政権の交替が行われた。しかし政権を失った国民党は今でも昔の独裁政治
の「うまみ」を忘れることが出来ず非協力的な態度を保っている。

特筆すべきことは李登輝元総統が外省人の国民党員に包囲された四面楚歌の
状況下で、国民党総裁、民主選挙による総統の選出など、だんだんと民主主義
を押し進めてようやく今日の民主制度を作り上げたのである。しかし民主国家
とはいえ未成熟な点は多く、民進党の陳水扁が総統に選ばれても野党の圧力は
強く政治は難航している。去年の12月に行われた立法委員の選挙で国民党は
退廃を喫したが、これは台湾の人民が国民党の独裁政治に反対したからである。
また人民が中国との統一を拒否したので、統一を主張する新党は大敗し、選出
された立法委員はタッタ一人だった。

台湾が中国から受ける外圧が強く、独立すれば武力行使に及ぶと恐喝する。
だが自由を知る台湾人民にとって中国の独裁政権に屈服することは決してない
だろう。自由民主を謳歌する世界の支持を切に望むところである。■


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アンディ・チャンの本:
「フライディ・ランチクラブ」ISBN 4-88306-955-9 新風舎
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「不孝のカルテ」ISBN4-434-00589-8 東京図書出版会
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