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こころのお話

発行日:8/1

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メルマガ「こころのお話」   8/1/05発信

その92、「クンダリニーの覚醒」
    向後 善之

ご質問、ご意見、お問い合わせは、
( ugougokogo@hotmail.com 向後宛)まで、お願いします。

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人の心の成長には、個的な成長だけでなく、個を超え全ての存在とのつながり
を実感するトランスパーソナルな成長があります。個的な成長とは、自分と他
者との区別がつかない状態(生まれたばかりの子供は、自分と母親の区別がつ
きません)から、他者が自分と同じ独自の存在であることに気づき、自我を作
り出し、自分が何者であるかを探求し、自分の能力をいかんなく発揮する自己
実現をめざす成長過程を示します。それに対して、トランスパーソナルな成長
は、自己感(自分は独自の存在であるという感覚)を持ちながら、同時に自己
という境界を超越し、すべての存在とつながっているという統一感覚を得てい
く過程を示します。以前は、個の成長過程のゴールである自己実現の後にトラ
ンスパーソナルな成長が起こると考える人が多かったのですが、最近では、個
の成長とトランスパーソナルな成長は別々のラインであるという考え方をする
人達もでてきました。私自身は、ある程度まで個の成長が先行するものの、そ
れ以降は個の成長とトランスパーソナルな成長は相互に影響しあうと考えてい
ます。

トランスパーソナルな成長において、人は、自分が存在する意味を探求し苦悩
する「実存的苦悩」や、心身の急激な変容や、さまざまな神秘的なできごとを
体験します。これらのできごとを乗り越えることができたとき、人は、恒久的
に、完全なる内的統一性や全体性に到達したという感覚、すなわち、主観と客
観を分ける通常の区別を超越し、人間性、自然、宇宙、神との忘我的合一状態
を得、安定した至福、静穏、平和といった感情を持つことができます。こうし
た状態は、「悟り」とよばれる境地ですが、そこに至るためには、さまざまな
困難が存在します。この困難は、スピリチュアル・エマージェンシーと呼ばれ
る体験で、「神秘体験に先行する危機」、「変容のプロセスにおける危機」、
「神秘体験が原因となる危機」、「神秘体験の反動」の4つのカテゴリーに分
類されます。その4つのカテゴリーについて、以下に解説します。

(1)神秘体験に先行する危機
 人は、ある時期まで、人生をあるがままにまかせ、その意味や価値や目的が
何かを問いかけたりせず、自分の個人的欲求を満たす事に専心し、感覚的な喜
び、楽しみ、物質的安定、願望の実現を求めます。しかし、こうした「普通の
人」も、自らの内面の変化に困惑する時が来ます。普通の生活が本物ではなく、
むなしいものに感じられ、それまで自分の興味や関心のかなりの部分を占めて
いた個人的なことがらが、心理的な意味で、背景に後退してしまったように思
えてくる時が来ます。彼らは、「自分の人生の意味はなんだったのだろうか?」
と考え始め、やがて内面的虚無感と呼ばれる「ふつうの人生にリアリティを感
じることができず、失われたリアリティをとりもどそうとがむしゃらに努力し
たりするが、結局は、リアリティを失うという不安を払拭することができず、
自分の人生の大半が夢のように消えてしまったように思える」段階に至ります。
この段階では、いいようのない不安や、深刻なうつの状態になる事が少なくあ
りません。

(2)変容のプロセスにおける危機
 変容のプロセスには、クンダリニーの覚醒に至るまでの急激で激しい身体的
混乱、サイキック・オープニング、チャネリング、憑依などの非日常的体験が
当てはまると言えます。このような非日常体験は、トランスパーソナルな成長
とは直接関係はなく、変容のプロセスに付随的に起こる現象に過ぎません。し
かし、こうしたプロセスにある人達は、しばしば、これらの非日常的体験に固
執するあまり、集中的な激しい修行に過度に打ち込むなどの結果、通常の生活
にうまく対応する力が失われてしまいます。

(3)神秘体験が原因となる危機
 変容のプロセスは、やがて至高体験と呼ばれる、個人の境界の崩壊や、他者、
自然、全宇宙と一体となるような感覚に特徴付けられる神秘体験へと至ります。
至高体験において、人は、言葉で言い表せないような高揚した恍惚の瞬間を経
験します。このとき、人は、スピリチュアルなエネルギーが自分の中に満たさ
れているように感じます。しかし、その流入したエネルギーを吸収しきれない
場合もあります。そうした状況が起こる原因として、精神科医のアサジョーリ
は、?知性がうまく働いていない、あるいは、発達しきれていない、?感情や
想像力がコントロールされていない、あるいは、神経系が過敏である、?スピ
リチュアルなエネルギーの流入が猪突で強烈過ぎ、圧倒されてしまった場合を
あげています(アサジョーリ、1999, P.47)。このような場合、体験者は、至
高体験の意味を、自己愛的に過大評価し、「至高体験をした自分は、選ばれた
人間である」といった自己肥大を引き起こす時があります。例えば、コーンフィ
ールドというアメリカの心理学者は、至高体験の自己愛的解釈が、光や歓喜の
体験を自分のものと受け取って同一化してしまう「洞察の堕落」や、自らを神、
救済者などと規定してしまう「偽りの悟り」といった傲慢さを引き起こすと言っ
ています。また、至高体験により流入したエネルギーは、それまで隠れていた
パーソナリティを活気づけ、例えば、躁状態になったり、性的な耽溺にふけっ
たり、社会や他者に対する過剰な敵意を持つなどの傾向が現れる可能性があり
ます。

(4)神秘体験の反動
 至高体験は、前述したように言葉に言い表せないような高揚感、恍惚、自己
と他の存在との合一感を人にもたらしますが、ほとんどの場合、その体験は刹
那的な短時間のできごとで終わります。こうしたスピリチュアルな覚醒の影響
としては、その経験の喪失感が深刻なものになり、「神聖なホームシック」と
呼ばれる抑うつ状態に陥ってしまう場合があげられます。彼らの中には、その
圧倒的な体験を忘れられず、その結果、日常生活での不適応を起こしてしまう
場合が少なくありません。また、日常生活での不適応から、自分が体験したも
の(至高体験)の価値、さらにそのリアリティも実際に否定してしまい、全て
を幻想・空想・情緒的空想と考えてしまう場合もあります。「神聖なホームシッ
ク」に陥った人達は、失ってしまった高揚感をとりもどそうとして集中的な激
しい修行に打ち込むようになったり、薬物に依存したりする場合もあります。

このように、トランスパーソナルな成長過程では、さまざまな困難が生じます。
そして、そうした困難を乗り越えることができなかったとき、それは、成長に
向かうのではなく、破滅に向かってしまうことさえあります。例えば、10年
前に起きたオウム真理教による地下鉄サリン事件などは、破滅に向かってしまっ
た典型的な例と言えるでしょう。

私は、トランスパーソナルな成長過程が、個の成長過程より高次のプロセスで
あるとは考えていません。最初に申し上げたように、トランスパーソナルな成
長と個の成長は、別々のラインであって、お互いに影響しあうものだと考えて
います。ですから、神秘体験をしたからといって、超能力を獲得したからといっ
て、それを高次の成長の証ととらえるのは間違いです。だれでもそうした経験
をし得るわけで、体験のあるなしが、その人の優劣を示すものではありません。


向後 善之

1957年神奈川県生まれ。石油会社にエンジニアとして勤務後、渡米。カリ
フォルニア統合学研究所(CIIS)でカウンセリング心理学を学ぶ。カウン
セリング心理学修士、工学修士。サンフランシスコ市営のカウンセリングセン
ターRAMS(Richmond Area Multi-Services)等でカウンセラー。帰国後、東京両
国のニューステップ・カウンセリングオフィス カウンセラー、帝京平成大学
臨床心理学科専任講師、学生相談室カウンセラーを経て、カウンセリングスタ
ジオ「フレッテ」カウンセラー。日本トランスパーソナル学会常任理事。千葉
犯罪被害者支援センター相談員。

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