文学

本格派小説家のエッセー

「第三章へ」「コザが燃えた夜」「桐の小箱」を上梓した小説家が  出版前に送る珠玉のエッセー。

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小説家のエッセー

2005/04/17

  
     「恋の季節」

 桜の花弁が舞い散って湖面に漂う頃、鯉の「恋の季節」が到来する。
 今年も、そろそろ、雄鯉たちが尾鰭を湖面に打ち付けて求愛行動に出る
 ことだろう。ゴールデンウイークが終わる頃、鯉や雌鮒が浅瀬へと泳ぎ、
 産卵する。「瀬ずり」だ。寒鮒に挑戦する頃とは違って、竿の上げ下げ
 で腕がだるくなってしまう頃でもある。
  吉野山の桜が上千本の見ごろになっていく昨今、高血糖と高血圧症を
 抑えるために、隔日の午後、館長室兼書斎を抜け出て、近鉄でナンバ駅へ。
 地上に出、御堂筋の歩道を大股かつ急ぎ足で北上。信号待ちに際しても
 足踏みし、本町三丁目交差点へ。右折し、堺筋で南へと進路を変更し、
 二十年以上、本社にしていた雑居ビルの6階辺りを眺めつつ歩き、近鉄日
 本橋駅に。快速急行または急行に乗って生駒駅へ。マンションに戻り、
 額や首筋に滲んでいる汗を拭き拭き(ご苦労さんでした)と、ひとりご
 ちることにしている。月、水、金は例のエアロ。新築ビルへと移転した
 ので、ステージも浴室も一流旅館のように広くて清潔なので、気持ちが
 いい。入浴後に体重と血圧を測定している。65.5キロで135−85。
 うなずきつつジムを出ることになる。
  昨日は散歩。本町にある紀伊国屋書店で「望郷のアンビバレンス」が
 高村薫氏の新作の横に積み置きされているのを見、しぜんと頬を緩ませた。
 二ヶ月前だったか、棚差しされてあったのだが、今回は積み置き!
 ミステリー担当の美人店員に「作者です」と頭を下げるとともに、次回
 の上梓作もよろしくと言っておいた。
 「いつ頃になります?」
 「年内かな。遅くても来年の今頃には::」
 「楽しみにしてます」
  そんな彼女に、曖昧な笑顔で応えておいた。
  売れないもの書きにとって、昨日の昼下りに見た彼女の笑顔が、遅筆に
 なりがちななわたしの背中を優しく押してくるだろう。


  
  

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創刊日:2001-09-20  
最終発行日:  
発行周期:随時。  
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