文学

本格派小説家のエッセー

「第三章へ」「コザが燃えた夜」「桐の小箱」を上梓した小説家が  出版前に送る珠玉のエッセー。

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小説家のエッセー

2004/06/17


           忘れられない人々
       わたしのメメント・モーリ
         4 司馬遼太郎氏

  佐治敬三氏、山村徳太郎氏、山本富三氏ともそれなりに面識があったが、こ
 のシリーズの最後に登場していただく司馬さんとは一度もお会いしたことがない。
  だが、氏は、もの書きの端くれである私に、しかも、対岸へと旅立たれようと
 しておられる最中に、直筆での激励文を書いてよこされた。
  司馬遼太郎さんも、私にはいつまでも忘れる事の出来ない人である。
 「小説家は処女作に向かって成長する」という。私のそれは本名での「第三章へ」
 で、佐治さんをはじめ大勢の著名人、作家のかたがたにも謹呈した。佐治さんから
 は丁寧な礼状が届いた。難波利三氏も「頑張ってください」と、直筆の葉書をよこ
 してくださったが、期待して待っていた作家からの返信はいただけなかった。
  二作目を謹呈さ瀬て貰った際にも、難波さんは「ゆっくり読ませてもらいます」
 と書いてよこされた。若くして世にでられたのではない。雌伏されること多年、一
 流作家群に仲間入りされた、苦労人なのである。
  司馬さんにはその二作を贈呈させてもらわなかったが、三作目「桐の小箱」は送
 らせてもらった。直ちに葉書による返信があり、「力作と窺えます。じっくり読ま
 せてもいましょう。これからも頑張ってくださいね」と書かれてあった。
  繰り返し、繰り返し、読ませていただいた。
  二週間も経たない酷暑の或る朝、その司馬さんが不帰の人になられた。
  愕然とした。
  司馬さんの人となりについては、元東大寺別当・新藤普海氏の奥さん(大阪外国
 語大学蒙古学科で机を並べておられた仲)を通じて知っていたし、数々の名著の行
 間からも人情の機微に通じておられるかただと拝察していたので、機会があれば、
 是非ともお目に掛かりたいと願っていたところだった。
  開高さん、そして、司馬さんと、日本文学界は二人の巨匠を失った。
  そのお二人の、せめて足先に触れる事ができたら:と念じつつ、言葉の積み木を
 組み上げては壊している毎日である。

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創刊日:2001-09-20  
最終発行日:  
発行周期:随時。  
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