文学

本格派小説家のエッセー

「第三章へ」「コザが燃えた夜」「桐の小箱」を上梓した小説家が  出版前に送る珠玉のエッセー。

全て表示する >

小説家のエッセー

2001/11/17

              約束
 健ちゃんが行ってしまうんだ、北海道へ。
 健ちゃんとは幼稚園のときからの友達なんだ。初めてのお友達っていう
やっさ。5年生になってクラスは隣になったけど、部活のサッカーで一緒
に練習してた。健ちゃん、入部してすぐレギュラーだもんね。ボクは控え。
だって、おたふく風邪で、学校、長いこと休んだから、仕方ないよ。6年
生になってボクもデフェンダーで仲間入りさ。健ちゃんみたいに得点でき
るポジションじゃなかったけど。
 夏休みになって、母さんが言ったろ。「塾にいきなさい」って。だから、
渋々、健ちゃんとサッカー部の監督してる宮崎先生に退部したいって言い
に行ったさ。あの先生、「そうか、惜しいなー」って、健ちゃんだけ見て
言ったね。
 2学期が始まった。ファミコンは日曜日だけと母さんと約束して勉強した
けど::。
 3学期になった。
 あのことがあってから、つまんないんだ。イジメにあってるのかって?
そんなんじゃないよ。耐寒マラソンでのことさ。今年は上位入賞したら東
京に行って全国大会に出場できるんだ。だから、前の日の放課後、健ちゃ
んとチャリ漕いで下見したんだ。折り返しのパン屋で。
「ここまでは、お互い、気にせずに思いっきり走ろうぜ」と健ちゃん。
「いい位置につけて、逃げ切るんだ。つらい後半になるから,励ましあって
いこうぜ」とね。
「ここで待つんだね、どちらが先になっても」
「そういうこと」
 校内マラソンのあの日、ボク、全速力でスタートしたんだ。健ちゃんを
待たせたらわるいと思ってたし。
 パン屋の前で宮崎先生が立って順位を数えてた。ボクを見て「6位だぞ」
つて、びっくりしながら教えてくれた。ちょっと手を上げて先生に応えな
がら健ちゃんを探し見たけど、遅れたらしく、いないんだ。
 ハアハアと息を切らせながら足踏みして待ったんだ。
 5人、7人::、どんどん先を行く。いらいらしながら待ち続けたね。
「どうした、おなかでも痛くなったのか」宮崎先生が訊いてきた。
「待ってるんです、健ちゃんを」
「あいつなら2位で通過したぞ」
 一瞬、頭の中が真っ白になったね。
 泣き出しそうになるのを堪えながら走り出したんだ。
 30位にも入れなかった。健ちゃんは5位。東京行きはダメだつたけど。

 あの日から、憂鬱になったんだ。学校に行くのが嫌で嫌で。
 健ちゃん、ボクを避けるみたいにするようになったけど、昼休みに1度だ
けボクのクラスに来て,「すまなかった」と、恥ずかしそうに言ったね。ボ
ク、黙ったままでなにも言わなかったんだ。お父さん、お酒を飲んで晩くな
った晩、決まってボクを叩き起こして、言うんだ。「友達と約束したら、男
というもの、どんなことがあっても、守るんだぞ,いいか」って。

 春休みに入った。
 今日が健ちゃんたちの引越し日。
 朝早く、来たんだ、健ちゃんが。
「あの日から.ずーっと、気にしてたんだ。あのとき、夢中で走り抜けてし
まって、折り返してしばらく走った後で思い出したんだけど::」
「::」
「引越しする前に、きちんと謝っておきたかったんだ」
 健ちゃん、べそをかきながら1度も貸してくれなかったファミコンのカセッ
ト、三つもあげるって言うんだ。なんだかそのとき、ボク、これからとてもさ
びしくなってしまうんだなって思うと、急に悲しくなったんだ。
 北海道って、寒いんだってね。遠い所なんだってね。
 無理やりにカセットを手渡すと、健ちゃん,なにも言わずに背を向けて、うつ
むきながら帰って行く。ボクだってさびしくなるんだぞ。
 曲がり角で、健ちゃんが振り返ったんだ。
「もう1度、約束しようぜ」
「:::」
「大きくなって,大学に行くようになったら、そのと
きは、きっと、同じ学校にしような。今度は絶対に忘れないから」











 

規約に同意してこのメルマガに登録/解除する

メルマガ情報

創刊日:2001-09-20  
最終発行日:  
発行周期:随時。  
Score!: - 点   

コメント一覧コメントを書く

この記事にコメントを書く

上の画像で表示されている文字を半角英数で入力してください。

※コメントの内容はこのページに公開されます。発行者さんだけが閲覧できるものではありません。 コメントの投稿時は投稿者規約への同意が必要です。

  • コメントはありません。