国際情勢

宮崎正弘の国際ニュース・早読み

 評論家の宮崎正弘が独自の情報網を駆使して世界のニュースの舞台裏を分析

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宮崎正弘の国際ニュース・早読み <<トランプ、ダボス会議は欠席、国境の壁建設に集中

2019/01/12

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「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成31年(2019年)1月12日(土曜日)
        通巻第5951号  
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(休刊のお知らせ)地方講演旅行のため1月13日―15日が休刊となります  
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 H−1Bヴィザは発行を簡素化、高度技術者の移民は逆に円滑化する
  トランプ、ダボス会議は欠席、国境の壁建設に集中
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 ダボス会議直前となって、トランプ大統領はダボス会議に欠席すると発表した。(それどころじゃないって)。中国からの王岐山との会談は当然ながら「お流れ」となる。
 ダボス会議はお祭りに過ぎないというわけだ。

 他方、政府機関の一部の業務閉鎖がつづき、民主党の議事妨害によるメキシコとの壁建設費用56億ドルをめぐって、ホワイトハウスと議会の熾烈な攻防戦は長引きそうな空気である。

 トランプは「民主党が予算案を認めるまで、この措置(政府機関一部閉鎖)は続く」と野党との対決姿勢をあからさまにしているが、その一方で「H−1Bヴィザの円滑化」と提言した。

 H−1Bヴィザは、高度訓練者、熟練工のみならずphD取得者など学問の高い水準を誇る人たちに給付され、アメリカ市民権が取得しやすいという有利な条件が付帯する。
 コンピュータ、AI、医学、宇宙工学などの分野にH−1Bヴィザの対象者が多く、2017年度統計では75%がインド人、9%が中国人に対して発行された。

 同じ日、地球の裏側のポーランドではファーウェイ(華為技術)にガサ入れが行われ、中国人ひとりとポーランド人二人を逮捕した。「スパイ容疑」とされるが、ポーランド人は元情報部員、囮捜査の可能性も言われている。
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読者の声 ☆どくしゃのこえ ★READERS‘ OPINIONS
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(読者の声1)先に、淵田氏は、日本国内よりも米国で有名だと述べましたが、米国では、2010年、淵田の叙述には虚偽があるとの疑惑が提起されたようです。その主張者J・パーシャル氏([SHATTERD SWORD])
著者)は「淵田ほど、太平洋戦争研究に対して長期にわたる有害な影響を与えた者はいないのではないか」とさえ述べています。その主張は、内容的にはレベルが高いものではないと思いますが、論点としてはおもしろいものを含んでいます。同氏によると、主要な疑問点は次の3点です。
  1.  真珠湾での追加攻撃中止についての淵田の主張
  2.  ミッドウェー海戦時の「運命の5分間」の話
  3.  ミズーリ号上での降伏調印式に淵田が立ち会ったという点
(1)については、歴史上の『イフ』として、極めて重要、重大な問題でしょう。この追加攻撃中止については、早くから国内でも論議されてきたし、実際にも、第航空戦隊の山口多聞司令官は「第二撃準備完了」という信号を機動部隊旗艦赤城に送り催促しています。
淵田氏の主張には時間経過後の自己美化のようなものがあるのかもしれませんが、私にはその主張が全くの虚偽だとも思えません。ただし淵田氏は、当時中佐という地位でしかありません。たとえ主張できたとしても、その発言の実効力は限られていたことは言うまでもないことでしょう。
 なお、サムエル・モリソンが、On the tactical level、the Pearl Harbor Attack was wrongly concentrated on ships rather than permanent installations and oil tanks. On the strategic level it was idiotic. On the high political level, it was disastrous. と評したことはよく知られています。
 
(2)については、海戦敗北後の事後的な問題とは言え、淵田氏の著書『ミッドウェー』(初版は昭和26年)が広く各国語に翻訳され、長い間、ミッドウェー海戦の基本的文献とされてきただけに、極めて重大な問題点でしょう。
私はこの「運命の5分間」説については虚偽であろうと考えます。
しかしこの「運命の5分間」説については、既に『文藝春秋』昭和24年10月号で、草鹿龍之介氏が「運命の海戦」と題して記述されています。これほどの大ウソを、元大佐(海戦時中佐)に過ぎない淵田氏が単独で捏造できるとは考えづらく、草鹿氏をはじめとする上層部との共謀であったのではないか。
そして淵田氏にとって、こうした虚偽捏造が大きな空虚感となり、その後のキリスト教回心への要因の一つとなったのではないかという推測は、十分に合理的でしょう。

(3)については、代表団以外の日本人で、報道員でもない者が乗艦を許されたわけがないというパーシャル氏の主張には一応の説得力がありますが、私は何らかの形で、淵田氏が昭和20年9月2日のミズーリ艦上にいたことは間違いないのではないかと思います。
マーチン・ベネット氏(『WOUNDED TIGER』の著者)は、ミズーリ号上の淵田氏らしい人物が写った写真を公開しています。
淵田氏は自伝でも明確にその実地体験、観察について述べており、虚偽だとは思えません。ホラ吹きという評価もあった淵田氏とは言え、このような単純な事実について虚偽を述べる意味はあまりないように思われます。
また事項的には淵田氏の個人的問題に近く、探究する意味はあまり大きくないと考えます。
以上のように見ると、J・パーシャル氏の「淵田ほど、太平洋戦争研究に対して長期にわたる有害な影響を与えた者はいないのではないか」という主張は、あまりにも誇大であるように私には思えます。
それは、パーシャル氏が日本語理解力が無いこと、淵田氏が日本よりも米国内での方が有名であると言われることに起因するのではないでしょうか。
パーシャル氏の主張にはベネット氏が反論を加えています。ただし、ベネット氏は、上記の運命の5分説についても淵田叙述の虚偽性を否定しておられますが、この点については私と意見が異なります。この点も、ベネット氏が日本語文献に接していないことが最大の要因であろうかと考えます。
 いずれにせよ「あの戦争」については、戦勝国、占領軍等が作り上げた意図的捏造、宣伝等、東京裁判における責任回避等のための日本側による事実の隠匿、糊塗等が多く、まだまだ解明するべき問題が残されているように思います。
(CAM)



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(読者の声2)「同性愛タブーの起源と未来 LGBTに関する小考察」
新年早々の平沢勝栄代議士のLGBTについての発言が、物議を醸したとのことだ。
昨年の杉田水脈代議士の「生産性」論文と、それへの小川栄太郎氏等による擁護文を載せた「新潮45」の廃刊の一連の問題が、まだモヤモヤしたまま燻っている感がある。
筆者は取り敢えずその論争の内容から少し離れて、同性愛に限って少々その起源と未来について考えてみたい。
先ず、禁忌(タブー)にはそれぞれ起源があると思われる。例えばイスラム教徒が豚を食べないのは、主に伝染病を避けるためだという説は有名な例だ。
 起源を辿ると、同性愛を禁じたのは、古代ユダヤ教の時代に於いて殲滅戦を含む民族間の領地争いが激しく「産めよ増やせよ」が正義だったからではないか。また、時代が飛ぶが特に近代国民国家の総力戦に於いて、国民からなる軍隊の規律を保つ必要があったからだろう。
 してみると、遠い未来に目を向ければ、仮にその是非はともかく生殖手段の主流が人工授精と遺伝子工学となり、戦争がAI・ロボット・電子戦になった場合には、禁忌の根拠が希薄になると思われる。
 今はその過渡期であり、そのためLGBT問題について、擁護・推進派と抑制・消極派の両者でモヤモヤ感が消えないのではないかと感じられる。
 ザックリとしたことを書いたが、以上は比較的人畜無害の考察かと思う。この観点から筆者は、同性愛については特段に否定も肯定もしない中立の立場であるが、最後に別の観点から少し踏み込んだ意見をご紹介したい。
 筆者の知人に、同性愛に関して「ア●●セックスについては、衛生上の観点から、特に深刻な感染症対策として、法的に罰則付きで禁止することは出来まいか」と真面目に考えている者がいた。
このようなプライベートな領域に、法が立ち入ってよいかということについては、その知人は「禁止にするのは被せ物をしなかった場合に限り、異性間の同行為についても適用する」等の条件を付ければ、深刻な感染被害と流行の相当な危険性を伴う行為の禁止として十分に立法可能であり、それが巡り巡って同性愛者を含むLGBTに対する社会の恐れや偏見を減少させるのではないかと語っていた。
 その実効性はともかく、筆者も一考には値するかと思い、蛇足ながらご紹介させて頂いた。
(佐藤鴻全)



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(読者の声3)真珠湾事件と山本長官、攻撃隊指揮官淵田美津雄中佐の話ですが、最近いろいろ批判が多い。しかしこれは国際政治として見る広い視野と高い視点そして新しい情報が必要です。これらがないと日本人同士の一人相撲歴史観からいつまでも抜けることが出来ません。
 日米戦は何故起きたのか。それはルーズベルトの日本敵視です。理由は支那満州進出の邪魔だったからです。これは戦前の米国の国策の延長で日露戦争以後から始まっていました。しかし米国のアジア観は間違いが多く、米国のアジア政策がベトナム戦争を含めて失敗続きである事はご存じの通りです。日本は大変な被害と迷惑を受けました。
 真珠湾作戦は英国の軍事専門家に拠れば、歴史的大勝利であり世界の軍事史の金字塔としていずれ正しく評価されるだろうと述べています。燃料タンクを攻撃すべきだった、などという大勝利にケチを付けるのは、外国で云ういわゆる「勝利を盗む」常套手段ですから騙されてはなりません。それに日本軍がハワイを占領してもどうなるというものではなく、原爆まで開発されるのですから高い視点でみることです。新しい歴史情報を使いましょう。
淵田中佐は戦後敗戦のショックでキリスト教の牧師になりました。大東亜戦争の激烈な戦闘で死線を何度も越えた戦士の感慨は、体験者以外には分かりませんから素人があれこれいえるものではないと思います。山本長官の非難は近年始まりました。戦後は陸軍悪者論でしたが、今は海軍も有罪になりました。日本軍人は全部悪です。裏に日本人同士を争わせ再軍備を妨害する外国の宣伝工作を感じます。日本人なら騙されてはならないでしょう。日本の軍人は世界一立派でした。
 敗戦の理由が日本人が思い上がっていたからというのは白人と同等という考えを思い上がりと云っているのです。人種差別ですから反省は不要です。
 戦争時には何処の国でも戦意高揚は当然です。誇りがないと戦えないからです。日露戦争では非難されなかったのは勝利したからです。日本海海戦の三笠艦長の訓示を紹介します。・・・鎭海湾から対馬海峡を戦闘海域に向かって南下する戦艦三笠では戦闘を控え「総員後甲板に集合」の号令が艦内に伝わった。伊地知艦長は12インチ砲塔中段から訓示を始めた。「本官は最後の訓示をする。諸氏の命はただ今もらい受けたから承知ありたい。本官も諸士と生命を共にすることはもちろんである。今から遙かに聖寿の無窮を祈りあわせて帝国の隆盛と戦いの門出を祝福するために諸氏と共に万歳を三唱したい。」言い表しがたい感激が若い私の総身をふるわせたことは67年を経た今でも忘れられない。
 日本の敗戦の原因は原爆の開発が出来なかったからです。戦前日本に原爆があれば日米戦争自体が起こらなかったと、パキスタンの大統領が言っています。
 東條英機の辞世は「我往くもまたこの土地に還りこむ、国にむくゆることの足らねば」です。これは日本民族に対する再度立ち上がれという捲土重来の遺言です。
 今再び危機を迎えた日本は、明治人の高い危機感と強い団結を復活する時が来ました。はやく自虐の一人相撲歴史観から抜けたいものです。大東亜戦争の因果関係を世界的な視野で分析した歴史本としては、拙著「黒幕はスターリンだった」(落合道夫著。ハート出版)があります。
   (落合道夫)
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「一帯一路」は「末路」なのに、日本は「協力する」と前向きなのは危険すぎないか?
 ●ニカラグア運河、ペネズエラ新幹線などは正式に中止
 ●インドネシア新幹線、マレーシア新幹線など中断、挫折
 ●CPEC(中国パキスタン経済回廊)危機、パキスタン債務不履行か
 ●マレーシア、スリランカ、モルディブ、そしてマダガスカルで親中派元首が落選
 
 対抗して日米豪印はインド太平洋共同軍事訓練
 米豪は南太平洋のマヌス島に軍事基地を建設合意
 「インド太平洋」プロジェクトへ米国は600億ドル
 豪NZなどが「南太平洋インフラ投資銀行」設立へ
 英仏海軍は共同で南シナ海「自由航行」作戦に合流
 ペンス演説は「対中準宣戦布告」に等しい
―――こんなときに日本は「シルクロードに協力し、日中通貨スワップを復活する」
===日本は西側に背を向けた姿勢をみせているが、はたして正気なのか?
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西村眞悟の時事通信  西村眞悟の時事通信  西村眞悟の時事通信
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西郷南洲は今も生きている
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 旧臘、NHKの西郷南洲の生涯を描いた大河ドラマが終わった。私はそのドラマの、西郷が奄美大島の龍郷に配流され、そこで龍愛子(愛加那)さんと出会うまでは観たが、以後は観なかった。その理由は、原作者とNHKが、私が感じる西郷南洲の実像を描ききれるとは思えなかったからだ。要するに、我が心の西郷をNHKに歪められるのが嫌だったのだ。
 もとより、私が完璧なる西郷像を有しているのではない。しかし、西郷から受けた忘れ得ない魂の呼応は持っている。それを大切にしたい。だから、NHKは、観なかった。
 振り返れば、西郷南洲のことを、ほぼ毎日思い浮かべる幾多の日々を経てきたように思える。
 私にとって、このような人は、西郷さんと乃木希典閣下、しかいない。そして、時々、楠木正成公だ。
 私が、会えば必ず西郷南洲のことを語り、時に涙ぐむので、司法修習生の時から教えを受けた故小寺一矢先生が、「眞悟、あいつ、死ぬ気でおるんちゃうか」と心配していた、と亡くなった後に同期から聞いた。
 毎年、薩摩の南洲墓地に参っている。沖永良部と奄美大島で西郷さんを偲んだ。奄美大島は、何度も行ったが、そのたびに、龍郷にある愛加那さんの「龍愛子」と刻まれたお墓に参っている。
 ここ二年、南洲墓地に参るときには、鹿児島神社に参り、山下剛宮司が、薩摩琵琶で奏でる西郷南洲の最後の戦いを勝海舟が詠んだ「城山」に心耳を傾ける。薩摩琵琶は、弦楽器だと思っていたが、戦いの場面は打楽器になる。
「明治ととせの秋の末」、即ち明治十年九月二十三日の晩、翌午前四時に総攻撃を開始すると官軍から西郷軍に伝達があった。
 そして、官軍は山に海軍軍楽隊を上げて洋楽を奏で花火を上げた。西郷軍は、南洲以下諸将が、洞窟前に集まり、残った食料や焼酎を分け合い、決別の宴を開いた。益森三四郎は、喉を振り絞って馬方節を謡いながら馬方踊りを踊った。
山中には、薩摩琵琶のなんともいえない音調が深夜に至るまで響いていた。
 安政五年(一八五七年)生まれの後藤新平は、児玉源太郎台湾総督の下で府民生局長として台湾のインフラ建設に辣腕を振るい、初代満鉄総裁を務め、関東大震災後の大規模な帝都復興計画を立案実行した人物で、そのスケールの大きさから「大風呂敷」とあだ名された傑物であるが、少年時代に西郷南洲を垣間見た。それは主人(新政府高官)のお供をして霞ヶ関付近を歩いている時だった。すると向こうから薩摩絣と兵児帯姿の大きな図体の男が歩いてくる。
 それを見た主人がハッとうずくまって礼をしたので、自分も慌てて主人の横で地面に手をつけて礼をした。
 すると、その大男はのっしのっしと歩いてきて、
「お暑うがすなあ」
と挨拶して悠然と歩いて行った。
低い声で「あれはどなたですか」と尋ねると、「あれが西郷南洲」と教えられた。後藤は、その時のことを、後年、次のように繰り返し語っていたという。
 「英雄とか偉人とかいうものは、ちょうど名画家の傑作のようなもので、たった一瞬ハッと見ただけでも、それが終生忘れられないものだ。俺もあのときの『お暑うがすなあ』と、あの粗い薩摩絣とが、いまも頭にこびりついてるところをみると、西郷さんという人も、偉い人であったに違いない。」
 また、西南の役終結一ヶ月前の激戦の山中で、目の前を歩く西郷を十六歳の少年兵が目撃した。そして、大正十年に六十歳になったこの少年兵が次のように語った。
 先生は、みなが私学校帽と称していた帽子をかぶり、草鞋脚絆に一刀を帯び、前を悠然とお通りになったが、満面のびやかな笑みを含み、眉の間に血色をおどらせ、そして我々が恭しくささげた礼を、にこやかに受けられた。
 その態度は、まるで平和な山野に狩りにでも出ている時の人のようで、何処から官軍の弾丸が飛んでくるかわからぬ危険に直面している人とは見えない。この世にまたとない大英雄の風采偉容とは、こんな人かと、そぞろに崇敬の念を禁じ得なかった。
 以上、「大西郷の逸話」西田實著より。

このように、二人の少年が、たった一度だけ目の当たりに見た西郷から強烈な印象を受けた。また福沢諭吉の親戚で慶應義塾で英語を学んだ豊前中津藩士増田曾太郎は、六十三名の藩士を率いて西郷軍に加わっていたが、軍解散の指令が出た際、西郷に会ったことのない他の仲間を全員郷里に帰し、自分だけ西郷軍残って戦死する。その残る理由を次のように仲間に語った。
それは、
「一日先生に接すれば一日の愛生ず。三日先生に接すれば三日の愛生ず。親愛日に加わり、去るべくもあらず。今は善も悪も生死を共にせんのみ。」
であった。
 明治維新後に、西洋の教育を受けた増田曾太郎も、いざとなれば、日本人にしか分からない魂の衝動に駆られたような理由を友に語って、西郷と生死を共にしてゆくのだ。呆然とするほどの、西郷の人を死に向かわせる魅力と言う以外にない。
 では、その西郷はどのような風貌だったのであろうか。西郷は、その写真を遺さなかったので明確に知ることはできないが、東京の上野に立つ西郷の銅像が、その風貌を最もよく伝えていると思う。
 西郷の二度目の流罪地である沖永良部にある西郷の資料館には、徳川幕府が西郷を捕縛するために各地に配布した西郷の「人相書き」が遺されている。それを見ると、まさに上野の西郷像と同じである。この像は、高村光雲が西郷の弟を初めとして生前の西郷と接した人々から風貌を聞き取り造りあげたものだ。また浴衣に兵児帯と草鞋の西郷の像の姿であるが、糸子夫人は、不満だったように伝えられている。しかし軍服や勲章というあらゆる世俗の地位を示すものは一切なく、山野のなかで犬を連れて歩く西郷の姿こそ、西郷らしい。この像の姿は、西郷の従弟の大山巌元帥の提案に基づくものだと言われている。
 
大山巌は、六歳の小稚児の時から薩摩特有の少年教育制度である郷中で、十四歳年上の西郷南洲に鍛えられ成長した。西郷から生涯消えない最も深い影響を受けた。この最も西郷を知る大山巌元帥が、上野に立つ浴衣で犬を連れた西郷像を決めた。大山巌は戊辰の戦いの後欧州に派遣されジュネーブで学ぶ。そして、西南の役の開戦に先立ち、西郷と行動を共にしようとするが、西郷は珍しく、烈火のように怒ってそれを許さなかった。
そして、明治十年九月、大山は西郷を討つ立場で城山にいた。それから、二十八年後の明治三十八年三月、大山は、日露戦争において我が国の存亡をかけた世界陸上会戦史上最大の決戦となった奉天大会戦において、二十四万九八百名の日本軍の総司令官として我が国を勝利に導いた。西郷は、西南の役の前、大山を最もよく知る者として、生きて苦難に勝ち日本を守れと、大山を追い返したのか。
 大正五年、死を間近にした大山は、昏睡状態に陥る。
その時、大山は、「兄さ、兄さ」と言った。
付き添っていた妻の捨松は、大山に言った。
「貴方、やっと、西郷さんに会えたのですね」
 
 話を戻し、西郷の「遺訓」を見る。その「遺訓」には、上野の像は、この一日の西郷を抜き出して上野に立たしたのではないかと思われる次の一節がある。

「翁に従て犬を駆り兎を追ひ、山谷を跋渉して終日猟り暮らし、一田家に投宿し、浴終わりて心神いと爽快に見えさせ給ひ、悠然として申されけるは、君子の心は常に斯くの如くにこそ有らんと思ふなりと。」
森信三先生は、「この一節あることによって『遺訓』全体が真に生きてくると思うのであります。・・・すなわちこの一節によって『遺訓』全体に深い立体感が与えられるのであります」と、昭和十四年に満州の建国大学で学生に語られた。誠に心にしみる。そして、上野の像を、この一節の日の西郷の姿にした大山巌元帥と彫刻家高村光雲に敬意を表する。
 
 この西郷南洲の「遺訓」は、戊辰の役で、西郷に倒された庄内藩士達が、はるばる東北から薩摩の西郷に会いにきて筆録したものだ。このこと自体、底知れない西郷の人を引きつける力を示すものである。それ故、庄内藩士達の筆録は、現在においても出版され続けている。
この「遺訓」の中に、西郷が泣く場面が記録されている。西郷は、維新によって突然転がり込んだ権勢に溺れる新政府の連中が、「家屋を飾り、衣服をかざり、美妾を抱え、蓄財を謀る」状況を語り、「今となりては戊辰の義戦も偏に私を営みたる姿に成り行き、天下に対し戦死者に対して面目無きぞ」と語りしきりに涙を流すのだ。
 また、西郷は、この以前にも、薩摩まで維新直後の新政府の状況を報告しに来た弟の西郷従道から、その権勢に溺れる連中の様を聞き泣いている。
 
ここに、西郷が、西南の役に至る理由と、明治十年九月二十四日払暁、城山の洞窟から出て官軍が包囲して狙い撃ちされるなかを岩崎谷に向けて歩き始めた理由がある。即ち、西郷は、楽に死ぬのではなく、弾丸と刃によって戦死しなければならないと思っていたのだ。
そうでなければ、天下に対し戦死者に対して申し訳がないぞ、と。如何なる時でも死んでいった仲間を忘れなかった。これが西郷だ。
 それ故、西郷は、弾丸霰のなかで、何度も自裁を促す別府晋介に対して、その都度、
「まだ、まだ」と歩き続けた。そして、遂に弾丸は二発同時に、西郷の股と腹に当たった。そのとき、西郷は、始めて別府晋介を顧みて
「晋どん、晋どん、もうこん辺りでよか」
と言って、跪坐し双手を合わせ遙か東天の天子を拝した。別府は、その西郷に歩み寄り、
「ご免なったもんせ」と叫ぶなり、一刀のもとに西郷の首を斬りおとした。西郷南洲享年五十一歳。別府晋介は、「先生の御最後、先生のお供をする者は皆こい」と絶叫しながら突撃して、乱戦のなかで斃れた。享年三十一歳。
 この西郷南洲とは何だったのか。
 茫漠として表現しようとする願いを放棄せざるを得ない。ただ言えることは、勲章をぶら下げた維新の元勲達の名が、みな忘れられても、日本人が日本人である限り、西郷南洲の名は、忘れられることはない。
西郷は武士の最後の者だ。西郷は、西洋の文明が如何に押し寄せても武士であった。武士であるということは、西郷は、百四十年後の現在に至るまで、日本人の在り方を我らに示し続け、日本国の道義を示し続けている存在だということだ。
「遺訓」に言う。
○命もいらず、名もいらず、官位も金もいらぬ人は、始末に困るもの也。
○正道を践み國を以て斃るるの精神なくば、外国交際は全かるべからず。彼の強大に畏怖し、円滑を主として、曲げて彼の意に従順すると時は、軽侮を招き、好親却って破れ、終に彼の制を受くるに至らん。
○文明とは道の普く行わるるを賞称せる言にして、宮台の荘厳、衣服の美麗、外観の浮華を言ふには非ず。世人の唱ふる所、何が文明やら、何が野蛮やらちとも分からぬぞ。予嘗て或人と議論せしこと有り、西洋は大和の野蛮じゃと云いしかば、否な文明じぞと争ふ。否な野蛮じゃと畳みかけしに、何とて夫れ程に申すにやと推せしゆえ、実に文明ならば、未開の國に対しなば、慈愛を本とし、懇々説諭して開明に導く可きに、左はなくして、未開蒙昧の國に対する程むごく残忍の事を致し己を利するは、野蛮じゃと申せしかば、其の人口をつぼめて言無かりきとて笑われける。

 城山に戻る。
西郷の首と胴体は、二つとも官軍に収容された。
その首を洗わせて、山県有朋が、両手で受け取り、西郷南洲の顔を見つめた。その状況を江藤淳が次のように書いている(「南洲残影」文藝春秋刊)。
 「このとき実は山県は、自裁せず戦死した西郷南洲という強烈な思想と対決していたのである。陽明学でもない、『敬天愛人』ですらない、国粋主義でも、拝外思想でもない、それらすべてを越えながら、日本人の心情を深く揺り動かして止まない『西郷南洲』という思想。マルクス主義もアナーキズムもそのあらゆる変種も、近代化論もポストモダニズムも、日本人はかつて『西郷南洲』以上の強力な思想を一度ももったことがなかった。」
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お問い合わせ:西村眞悟事務所
TEL:072-277-4140 E-mail:sakaioffice@n-shingo.com
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『習近平の独裁強化で、世界から徹底的に排除され始めた中国』(徳間書店、1080円) 
『連鎖地獄 日本を買い占め、世界と衝突し、自滅する中国!』(ビジネス社、1188円)
『金正恩の核ミサイル 暴発する北朝鮮に日本は必ず巻き込まれる』(育鵬社、1512円)
『日本が全体主義に陥る日  旧ソ連圏30ヵ国の真実』(ビジネス社、1728円)
『吉田松陰が復活する』(並木書房、1620円)
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<宮崎正弘の対談・鼎談シリーズ> 
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宮崎正弘 v 宮脇淳子『本当は異民族がつくった虚構国家 中国の真実』(ビジネス社) 
宮崎正弘 v 西部 邁『アクティブ・ニヒリズムを超えて』(文藝社文庫、778円)  
https://www.amazon.co.jp//dp/4286199231/
宮崎正弘 v 渡邊惣樹『激動の日本近現代史 1852−1941』(ビジネス社)  
宮崎正弘 v 藤井厳喜『米日露協調で、韓国消滅!中国没落!』(海竜社、1296円)
宮崎正弘 v 石平『アジアの覇者は誰か 習近平か、いやトランプと安倍だ! 』(ワック)
宮崎正弘 v 室谷克実『米朝急転で始まる中国・韓国の悪夢』(徳間書店、1296円)
宮崎正弘 v 渡邉哲也『世界大地殻変動でどうなる日本経済』(ビジネス社、1404円)  
宮崎正弘 v 福島香織『世界の中国化をくい止めろ』(ビジネス社、1404円)
宮崎正弘 v 河添恵子『中国、中国人の品性』(ワック、994円) 
宮崎正弘 v 高山正之『日本に外交はなかった』(自由社、1080円)
宮崎正弘 v 馬渕睦夫『世界戦争をしかける市場の正体』(ビジネス社、1188円)
宮崎正弘 v 小川榮太郎『保守の原点』(海竜社。1620円) 
宮崎正弘 v 石平、福島香織『日本は再びアジアの盟主となる』(宝島社、1296円)
宮崎正弘 v 田村秀男、渡邊哲也『中国経済はどこまで死んだか』(産経新聞出版)         
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(休刊のお知らせ)地方講演旅行のため1月13日―15日が休刊となります
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宮崎正弘のホームページ http://miyazaki.xii.jp/
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(C)有限会社・宮崎正弘事務所 2019 ◎転送自由。転載の場合、出典明示
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創刊日:2001-08-18  
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