国際情勢

宮崎正弘の国際ニュース・早読み

 評論家の宮崎正弘が独自の情報網を駆使して世界のニュースの舞台裏を分析

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宮崎正弘の国際ニュース・早読み(トヨタのイメージ悪化は仕掛けられていた)

2010/08/25


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 「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 
      平成22年(2010)8月25日(水曜日)弐
        通巻3045号 <休刊前特大号>
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 ゴールドマンサックス、BPと並んでトヨタが「世界三悪企業」?
  なぜ日本企業は広報(情報戦略)にこれほど脆弱なのか
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 ▲大山鳴動してネズミ一匹
 
トヨタがいわれなき「リコール騒ぎ」に突如、巻き込まれ、悪のイメージを振りまかれ、米議会に社長が呼びつけられて謝罪までして、おどろくなかれ、トヨタが原因の事故はなかったという結果がでた。
あのマスコミの集中砲火はトヨタをまるで殺人犯扱いした。

カネ目当ての悪徳弁護士と偽消費者らしき人が組んだとしか思えない、奇妙な裁判に平行して事故究明が続けられた結果、トヨタは欠陥車をつくっていなかったことが明白となったのである。
では、この責任を誰がとるのか?

 トヨタのリコール問題は09年九月に一度浮上した。
おりからGMが倒産し、アメリカ人はスケープゴートを求めていたとも考えられる。
GMはその企業経営悪化の原因が技術革新を怠って、現場を見ないトップらが呼号した能率アップと業績上昇だけの経営と、自家用飛行機を贅沢に乗り回した経営者もさりながら左翼労働組合の怠慢、傲慢にくわえ、途方もない年金、諸手当の累積が経営を圧迫していた(JALも似ている)。そのGM批判をすり替えるにも、トヨタは格好の攻撃材料として使われた。

 GMは政府管理から僅か一年半で黒字転換し、株式の再上場を射程に入れ、ことしの中国国内での生産を150万台と豪語し始めた。
時系列に幾つかの事件とどたばた劇のタイミングをたどれば、ひとつの方程式=「トヨタを悪者にする」という、したたかな情報戦略が浮かび上がる。

 企業イメージがいたく傷つけられたトヨタは、まだ地球的規模で経営と販売がふらふらしているが、これも饒舌を多としない企業風土、三河武士の伝統からくる硬直した気質なのだろう。


 ▲危機管理能力が問われた

 しかしBPとゴールドマンサックスの評判が悪いのは身から出た錆であり、トヨタを同列に論じて貰っては大いなる不満が残る。
 だが欧米ジャーナリズムは意図的にそれをやるのだ。

 ヘラルドトリビューン紙(8月23日付け)は「ゴールドマンサックスはバンパイアと『ローリングストーン』誌に叩かれたように投資家の生き血を吸って太り、司法取引に応じて五億五千万ドルを支払う。BPはメキシコ湾岸で米国石油市場最悪の事故を引き起こしても過小にみつもって発表したため株価が暴落し、そのうえ天文学的保証金に応じる。トヨタはまた。。。。。」と書き出した。

 危機管理能力が問われたのは言うまでもないが、トヨタ以外の企業は、広報担当のベテランがその都度、記者会見で『弁明』をせず、論理的に自己正当化を試みる一方で、かならず明るい未来を語り、そう簡単には責任を認めない。ときには強気で会見に臨み、イメージを死守し、ひいては株価を守る。
 だがBPもゴールドマンサックスも、それが裏目に出た。

 BPの場合は事故発生同時「たいしたことはない、湾岸への流失は一日1000バーレル程度」と損害の過小評価をしていた。2010年4月21日だった。
このためオバマ政権の初動が遅れ、フェンスを緊急に輸入しても湾岸の原油汚染は広がって、最後には一日60,000バーレルが流れ出した。
 国を挙げての損出となり、BPは再起不能に近いといわれるまでの財務状態に陥った。

 ゴールドマンサックスの場合は08年リーマンショック直後から株が暴落を始めたが、AIU救済で納税者の救済措置をはたらきかける背後で、インチキを繰り返したことがばれて、本格的な株価下落は2010年4月17日からである。

 トヨタに代表される日本企業はまず記者会見で謝罪する。これは保証を約束したと同義語であり、責任をみとめることであり、それは日本人であれば美意識に基づくことがわかるが世界はわかってくれない。
日本の常識は世界の非常識、企業も国家も謝罪するということは負けを認めることなのである。

 
 ▲PRの本義とは

 トヨタは議会証言でトヨタはシロだと強弁するところを謝罪してしまった。2010年1月21日の議会証言だった。
直後からトヨタ株は半値近くまで暴落した。だが。「トヨタはその後、社をあげて誠実に対応したので消費者の疑惑が薄まり、イメージは一番先に回復した」とヘラルドトリビューン紙は一転して論調を変えた。
「車の性能と燃費効率を再確認し、その安全性が壊れていなかったことに消費者は安堵した」と。

 PRというのは PUBLIC RELATION(社会との関わり)のこと、日本ではPRは単に「宣伝、広告」と勘違いされているが、ひろく「弘報」(広報を含むイメージの創成と維持)を意味するのである。

だから欧米の企業ではこの部署にはベテラン広報マンと弁護士がチームとなって対応する。日本も国際化時代に突入してしまった以上、同じ対応をとる必要がある。日本企業は往々にしてこの重要作業を電通などに委託している。

 陰謀があったとは言わないまでも、トヨタのイメージが大きく毀損され、この間隙をぬって、実に逞しく売り上げを伸ばしたライバル自動車メーカーがあることは紛れもない事実であろう。
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(編集部より)小誌、明日から一週間ほど休刊になります。
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 読者の声 どくしゃのこえ DOKUSHANOKOE 読者の声
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(読者の声1)貴誌3044号、貴見に「かつてドルを守るために34兆円もの介入をおこなった国が自分の国の通貨を守るのに為替介入をしないのだ」
 とあります。
この一行を読み、無念さに思わず落涙しました。
ちょっと前朝鮮銀行を救済するために一兆円、拉致家族と引き換えに1兆円、ODAは止めたが別の出資銀行から湯水のように融資。はたまた60年前の古証文を持ち出し、「どうしてくれるんだ」と怒鳴り込まれる。
ご先祖様が泣いておられます。中曽根さんからこちら、やはり国内基盤が弱い指導者は、外国からも見透かされます。
海外首脳と並んでの写真代やお土産代も高くつきます。会見の「視聴率」も金次第と言うことにならなければ良いと思います。
(桃太郎 岡山県)


(宮崎正弘のコメント)これほど無能の閣僚が勢揃いした政権も史上空前でしょう。鳩山不況から菅恐慌へと事態が悪化しています。



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(読者の声2)8月は図書館でも戦争関連の本が目に入ってきます。そんな中で面白かったのが「外人部隊の女」  スーザン・トラヴァース (著), 高橋 佳奈子 (翻訳)   新潮社 (2003/9/25)。
『著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)「1909年、ロンドン生れ。十代で両親とともに南仏に移住。第二次世界大戦の勃発に触発され、看護師としてフランス赤十字に参加。1940年、フィンランドに派遣された後、フランス外人部隊に身を投じ、激戦のアフリカおよびヨーロッパに赴任。その功績をたたえられ、戦功章のほか、レジョン・ドヌール勲章を受章。現在、パリ南郊に在住」。
内容(「MARC」データベースより)
地雷だらけの砂漠でロンメル軍団に包囲された自由フランス軍。脱出作戦の鍵は、外人部隊に属するひとりのイギリス人女性が握っていた-。第二次大戦でロンメルのアフリカ軍団と渡り合った英国人女性による驚愕の手記。』
内容紹介は下記のブログによくまとめられています。
http://blog.hangame.co.jp/B0000029651/article/23292977/

「彼女が最も愛した人物。それはド・ゴール将軍率いる自由フランス軍外人部隊第13准旅団の司令官であり、後にフランス軍最高司令官となるマリー=ピエール・ケニーグだった。彼女は、ケニーグ准将専属の運転手として、司令官の赴くところ全てに同行し、身の安全を最優先に確保する責務を与えられていた。」 
彼女は運転手兼愛人なのですが、あくまでも上官と部下の関係。しかもケニーグが昇進し将軍になるともう遠い存在になってしまう。ラブストーリーとしても面白いのですが、著者の鋭い観察眼が当時の雰囲気をよく伝えています。

カイロでのつかの間の休暇。
あるナイトクラブでステージに上がった喜劇役者が、ロンメルを馬鹿にするような行進を見せると、外人部隊の将校達は静まり返った。「ロンメルを馬鹿にしたということは、我々を馬鹿にしたも同然だ」
ある少佐が叱責する。
「ロンメルとアフリカ軍団は最大限の敬意を受けてしかるべき、素晴らしい兵士達だ。彼らと闘った我々にはわかる」
その言葉に対して、拍手喝采が起きた。
エル・アラメイン戦直前のカイロは英国の旗が下ろされ、公文書を焼く煙が立ちのぼり、ドイツ語で飾られたケーキが準備されるなどまさに風前の灯。実際の戦力や補給を考えるとドイツ軍を過大評価の感もありますが、ロンメル戦車軍団がいかに恐れられていたかがわかります。
第二次大戦勃発時に遡ると、ドゴールの自由フランス軍、アフリカの植民地でリクルートしようと軍艦を派遣するもヴィシー政府軍に大砲で追い返され、外人部隊に合流する植民地軍、腰のベルトにフライパンからソースパンまで下げた黒人兵。
傑作なのはチャドの兵隊、売春婦の一団と呪術師まで引き連れている。エリトリアでイタリア軍を破り、レバノン・シリアでヴィシー政府軍を破って休戦。ヴィシー政府軍の兵士に自由フランス軍に合流するか本国へ送還されるか選ばせるが一人を除き全員帰国を希望。パリのレジスタンスは神話化されていますが、ヴィシー政府側の反英・反ドゴール感情も相当なもの。その後リビアのビル・ハケイム(ビル・アケム)ではロンメル軍団を相手に15日間も持ちこたえ、最後は弾薬も尽き、闇夜に敵陣を縫っての撤退。
三重の包囲陣を突破して3700名中7割が生還という奇跡的な大脱出に成功。この半月でイギリス軍は態勢を立て直しエル・アラメインの勝利につながるのですが、エル・アラメイン以降、自由フランス軍は囮というか陽動作戦部隊の役割しか与えられません。主役はあくまでイギリス軍+イギリス連邦(カナダ・豪州・南ア・インドなど)の軍。

この本で面白かったのが、上流階級で暮らした著者の食へのこだわり。美味しいワインにソーセージ・チーズ・デザートのお菓子まで付くイタリア軍の糧食の素晴らしさに何度も言及していますが、イギリス軍とフランス軍の対比もわかりやすい。
牛肉の缶詰をそのまま、あるいは温めるだけのイギリス軍の調理人、対するフランス・インドシナ(たぶんベトナム)の調理人は缶詰+有り合わせの具材で美味しいシチューを作り、さらに砂漠のカタツムリで極上のエスカルゴ料理まで作り出す。
 各国軍の評価も面白い。
街では粗暴でドラブルメーカーの豪州兵、戦場では勇猛果敢で尊敬されている。ラッキーストライクとジャズが好きなアメリカ兵は能率的で服装もこざっぱり。しかしアメリカ船の荷役は黒人兵で彼らは上陸も許されないところに人種差別を見る。イギリス軍とアメリカ軍の将校はフランス人嫌いでなにかと嫌がらせをする。
 連合国軍が勝利し、イタリアからフランスへ船で戻り、かつて常連だった高級クラブへ。自由フランス軍の将校がフランス解放を祝って祝杯を奢ってくれと頼むも拒否され追い出される。金持ちには戦争も関係ないのですね。
   (PB生)
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 樋泉克夫のコラム 樋泉克夫のコラム 樋泉克夫のコラム
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樋泉克夫のコラム
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【知道中国 437回】                      
――タイ中協力タイ高速鉄道網建設、着工へ向け動き出すのか


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 どうやらタイ中鉄道網整備・建設は実行段階に入ったようだ。ここ数日の動きを追ってみると、

■18日、北京駐在のタイ大使は、タイ中協力に拠るタイ国内鉄道網整備・建設の方向が2週間以内に固まり具体的に始動することになるだろうと語っている。総事業費8000億バーツ規模の一大プロジェクトの第一弾は、やはり首都と東部臨海工業地帯とを結ぶバンコク・ラヨン線になるとのことだ。

じつは05年前後からマプタプットに鉄鋼生産で中国の上位に位置する首鋼集団、バンパコンやラカバンには中国最大手バイク集団の嘉陵集団や江門裕摩托集団、上海汽車、今春北欧のボルボを買収した吉利集団など大手自動車メーカーなども進出。まさに東部臨海工業地帯は中国企業の東南アジア進出のための一大拠点と化した感なきにしもあらず。であればこそ、中国がバンコク・ラヨン線に高い関心を持つはずだ。それにしても85年9月のプラザ合意以後、日本の製造業が大挙して東部臨海工業地帯に押し寄せ、一大活況を呈した頃が夢幻のように思い出される。

 伝えられるところでは、同大使は中国における最近の鉄道技術の長足の進歩ぶりを高く評価すると共に、先月半ばに訪中したステープ副首相と中国側の鉄道部長との間で計画は基本合意に達し、両者は今年頭に発足した中国ASEAN自由貿易区にとっても、タイの鉄道整備・建設がプラス効果を上げるという基本認識で一致したとのことだ。

また同大使は!)自由貿易区という大きな枠組みの中での対中貿易の拡大、!)タイは西南中国とASEANを結ぶ陸・水・空路で結ぶ回廊であり、それゆえに自由貿易区発展の基盤となる、!)既に完成している中国発タイ・マレーシア経由でシンガポールを結ぶ3本の陸上ルートに加え鉄道網整備・建設も着々と現実化している――以上を強調すると同時に、一連の措置でASEANと中国は「双贏(ウイン・ウイン)」の関係を築くことになるとの見方を示した。

■20日、タイ中合資鉄路委員会のコーッサック主席は中国側技術団はタイを訪問し、タイを縦断する東北タイの基点であるノンカイから南タイのソンクラーまでの鉄道建設路線につき技術評価調査を実施することを明らかにすると同時に、20日には中国側との基本的話し合いを実施した。

 タイ政府筋に拠れば、すでに中国側は4億ドルの資金に加え資材・人員の準備に取り掛かっているとのことだ。とはいえタイ側に若干の問題が残る。先ず法律だ。現行法を厳密に解釈するなら外資の鉄道経営への参加は認められないゆえに、今回のタイ中高速鉄道建設は違法とまではいえないまでも法に抵触していることになる。閣議了解、国会承認を取り付けるためには若干の時間が必要であり、覚書調印は当初予定された9月5日より延期となるだろうが、今年中の覚書調印は可能との見方が強い。

 ■20日夕刻、ハノイで開催中のメコン河サブリージョナル会議(GMS。漢語では「大湄公河次区域会議」)において、この地域に国境を跨いだ鉄道網の建設を目指すことが議決された。因みに瀾滄江=メコン河は源流のチベット高原から河口のメコンデルタまで全長で4800キロ。中国南西部、ミャンマー、タイ、ラオス、カンボジア、ヴェトナムの流域住民は約3億人。
 現況のまま推移するなら、この地域の鉄道は中国標準を適用、となるのか。《QED》


 次は借款方式だが、これも中国側の積極姿勢からして、おそらくタイ側の条件を認める形で決着するのではなかろうか。

 いずれにせよ両国の関係は07年に合意された「中タイ戦略的共同計画」に基づいて策定された「2010年の両国取引総額500億ドル」の目標に向かって進められている。09年の中国側のタイへの投資は1億ドル。今(10)年上半期をみると電力、エネルギー、太陽発電などを中心に15億人民元規模。過去10年間、中国側は総額で65億ドル規模の投資を触法ともこの条文に抵触していることとなる


 タイではクーデターを「革命」、クーデター実行勢力を「革命団」と表現するが、革命団は革命(=クーデター)を進める過程で憲法を停止し国会を解散する一方、「革命団布告」を次々に公布して国内秩序の維持に努める。じつは前回(06年9月)クーデターの際に交付された「革命団布告」は依然として効力を持つうえに、「58号布告」は外国資本のタイ国内での鉄道経営への参加を禁じているのだ。純然たる法解釈に従えば今回のタイ中高速鉄道建設は、この布告に抵触していることとなるのだ。
 
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 ▲バブル破綻が近い 

上海など大都市の不動産バブル破裂は近い。それというのも一般国民の平均年収の4,5倍が通常の住宅価格であるにもかかわらず、上海、杭州、北京などでは20、30倍を遥かに超えている。かつての日本やアメリカの例からみれば、いつ不動産バブルが破裂しても不思議ではない危険水域に入った、という主張だ。

 だが、経済的側面を超えた観点から改めて仔細に眺めれば、“膨張経済”の恩恵薄い地方は、その地政学的特性と歴史的背景をテコにより活性化した経済政策を模索する。その一例が「泛北部湾経済合作区」だろう(なお本連載:09.10.15号を参照されたい)。

 ■「泛北部湾経済合作区」が秘めた“優位性”

北部湾は時計回りに広西チュワン族自治区沿岸、広東省の雷州半島、海南省、ヴェトナム北部沿岸に囲まれ南シナ海に繋がる広大な海域である。この北部湾を「泛北部湾経済合作区」とし、78年12月の改革・開放政策決定以来の中国経済を牽引してきた経済圏――珠江三角洲、長江三角洲、環渤海湾――に続く「第4の経済圏」として国家プロジェクトに指定すべしとの考えが本格的に浮上してきたのは、2007年3月のことだった。

当時、全国人民代表大会出席のため北京入りしていた全国人民大会代表で広西自治区主席の陸兵は、「昨年、ASEAN関係各国首脳が表明したところでは、彼らは海路、空路に拠る物流ルートの開設を希望し、国境を跨いでの鉄路、公路、港湾施設の建設を通じて中国との合作の道を模索している。

党中央、国務院など指導部は広西沿海の開放・開発と泛北部湾の経済合作を高度に重視すると共に高い期待を寄せている。それゆえ北部湾経済区の開放・開発は単に広西だけの問題ではなく、国家全体の発展という大情況に深くかかわると同時にASEAN諸国との善隣友好・共同発展にも関連しているのである」と強調していた。

同じく全国人民大会代表で広西自治区党委員会書記の劉奇葆は当時、「広西が備えた最大の優位点は豊富な資源はもちろんだが、じつは北部湾経済区は華南経済圏、西南経済圏、さらにはASEANの3者を結びつける地点に位置し、我が国の東部、中部、西部を結合させ、中国とASEAN、泛北部湾、泛珠江三角洲など内外の地域合作において他には代え難い戦略的要衝に位置する。

中国とASEANとの次地域(サブリージョナル)の合作も、一面的な『陸上合作』から双方向性を多元的に備えた『海陸合作』の要となる」とし、泛北部湾経済合作区の国家プロジェクトへの昇格を強く求めたのだ。

当時の報道によれば、!)物流インフラの建設・整備:高速公路(南寧を基点に中越国境の友誼関経由でヴェトナムと、欽州・北海経由で広東省湛江)と鉄路(広西沿海鉄道の整備拡充、高速鉄道の南寧・広州線と南寧・湖南線の建設、南寧・昆明線の複線化)。!)港湾設備の整備・拡充(06年末段階で、広西沿海の港湾は166ヶ所。このうち1万トン級船舶接岸可能は29ヶ所、総取扱量は5000万トン前後)。!)石化、パルプ、エネルギー関連施設建設(120万キロワット発電可能な北海火力発電所第1期工事完成、共に240万キロワットの発電能力を持つ欽州、防城両火力発電所第1期工事着工、1000万トン原油処理能力を有する欽州精製施設着工)――などが、広西自治区政府当局が掲げるセールス・ポイントだった。

 ■泛北部湾経済合作をめぐる国際関係
 
このような広西自治区政府当局の積極姿勢に対し、胡錦濤主席は「広西沿海の発展を新たな局面とすべし」と、また温家宝首相は「泛北部湾経済合作推進という大きな文章を書き上げよ」と積極支持を表明すると共に、06年からはじまった「十一五(第11次5ヵ年計画)」で泛北部湾経済区を西部大開発計画における3つの重点開発目標の1つに繰り入れるなど総事業費1000億元の広西鉄道整備・建設計画を承認している。

さらに北部湾を囲む両国四方(ヴェトナム北部沿海と中国の広西、広東、海南、北部湾地区)にとどまらず、近隣のマレーシア、シンガポール、インドネシア、ブルネイ、フィリピンを包括した泛北部湾経済合作区に拡大すべきとの方向を打ち出した。

 こういった方向に沿って、早くも06年10月の第3回中国・ASEAN商務・投資サミット、07年1月の第10回中国・ASEAN首脳会議において、温首相は中国政府を代表し正式に「泛北部湾経済合作の可能性を積極的に討論すべし」と表明したのだ。

 このような中国側の積極姿勢に対し、シンガポール、フィリピン、ヴェトナム、ブルネイなどが積極支持の方向を打ち出す。かくて中国にヴェトナム、マレーシア、シンガポール、インドネシア、フィリピン、ブルネイ、タイのASEAN7ヶ国政府関係者による「泛北部湾経済合作論壇」が発足したのである。

 タイの場合、当初は泛北部湾経済合作論壇に参加してはいなかったが、外交チャンネルを使って参加希望を表明し、09年の第4回泛北部湾経済合作論壇に初参加を果たした。

■動き出す南寧・シンガポール間の鉄道建設

回を重ねること5回目、今(10)年の泛北部湾経済合作論壇は8月12、13の両日、かつて中越懲罰戦争の際はヴェトナム侵攻の最前線基地となり、いまや中国とASEANと接点として重要な役割を担う南寧で開かれた。

まるで今年の論壇開催に合わせるかのように、12日、中国政府鉄道部は南寧・シンガポール間の鉄道建設を積極的に推進することを表明した。それによれば、同路線の建設が導くことになる南寧・シンガポール経済回廊は中国・ASEANの経済合作のみならず、西部大開発戦略に大きく寄与するとのことだ。

鉄道部経済企画研究院の林仲洪副院長は、2020年には中国・ASEAN間の陸路での物流は8860万トン(うち、4680万トンが中国からの輸出分)に達し、取扱量は年平均で13%増、貿易総額は8000億ドルで年平均11%の伸びを予想する。

林に拠れば、南寧・シンガポール線は南寧から南下し憑祥で国境を越えてヴェトナム入りし、ハノイ、ホーチミン、プノンペン、バンコク、クアラルンプールを経由してシンガポールまで。全長5000キロで、中国側の新設距離は200キロ弱。ホーチミンからプノンペンを経てタイ国内線に接続する区間で整備・新設を要する距離が435キロ前後。将来的にはハノイから枝分かれしてヴィエンチャン、バンコク経由でクアラルンプール、シンガポール線も想定される。この2路線が完成した暁には、中国側の貴州、広西、湖南、広東の各省の既存路線と接続することで中国南部と「中南半島(=インドシナ+東南アジア大陸部)」とを一体化させた物流ネットワークが動き出すことになる――とのことだ。

一方、全国政治協商会議委員で経済委員会副主任の孫永福は、中国部分の建設に関しては基本的には当局の了承をえており、すでに中国鉄道部は関係各国との間で調整に入るなど南寧・シンガポール線の建設には積極姿勢で取り組んでいることを明らかにしている。

じつは09年12月、国務院は「広西経済社会発展を促進するための若干の意見」という文書において、「より積極的に泛北部湾経済合作を支持し、合作の基盤と機構を創設し、南寧・シンガポール経済回廊を建設する」との路線を明確に打ち出していた。ということは、泛北部湾経済合作論壇は、まさに中国による中国のための中南半島改造、いや新たなるASEAN抱え込み策ということにはならないだろうか。

■第5回泛北部湾経済合作論壇と泛北部湾区域経済合作市長論壇 

今回の論壇を取り巻く環境は、それまでの4回とは大きく異なっている。というのも、中国とASEANとの間の自由貿易協定が結ばれ、自由貿易区が正式発足してから初の開催だったからである。

主な出席機関をみると、中国側からは国家開発改革委員会、交通運輸部、商務部、中国人民銀行、海関総署、国家旅遊局などの中央部門に加え、広西、海南、広東の地方政府。これに対しASEAN側からはタイ商務省、国立シンガポール大学東亜研究所、マレーシア戦略研究所、フィリピン発展研究院、インドネシア戦略・国際研究院などが参加――この陣容だけをみても、この地域における泛北部湾経済合作というテーマの比重が高まっていることが想像できるはず。

その一端は、簡単な経済統計を見ただけでも判るだろう。たとえば09年における中国にとっての対ASEAN貿易は総額で2130億ドル強。そのうち泛北部湾経済合作論壇に参加している7ヶ国とは2084億ドル強で、中国の対ASEAN取引の97.84%を占めている。また広西と論壇参加7ヶ国の貿易総額は50億ドル弱ながら前年比24.17%の伸びをみせ、広西とASEANの取引総額の99.33%という圧倒的比率を占めているほど。

広西自治区副主席の陳武は「専門家会議、政府合作機構、南寧・シンガポール経済通道(ルート)論壇などの組織化、中越国境経済合作区建設と広西北部湾開放・開発の促進を通じ、南寧・シンガポール経済通道をASEAN・中国(10+1)という大きな枠組みのなかの次区域合作目標とする方向で話し合いが進んだ」と論壇を総括していた。

ところで今次論壇開催中に、広西北部湾国際港務集団と海口港(海南省)、広州港、シンガポール万邦航運公司、タイRCL宏海箱運公司、カンボジアのシハヌークビル港、シンガポール港の間で合作提携が合意されたとも報じられている。

ここで注目しておきたいのが、論壇と同時期に同じ広西自治区の北海市で中国に加えタイ、ヴェトナム、カンボジア、フィリピンなどASEAN加盟4カ国の15都市から市長、省長、市長代理などが参加し泛北部湾区域経済合作市長論壇が開催されたことだろう。

市長論壇を主宰した北海市の連友農市長は、「泛北部湾区域の都市間の合作は中国・ASEAN自由貿易区において重要な働きを発揮すべきであり、互恵互譲を軸とした合作システムの許で相互の産業の合作を進めることで互いの貿易規模の拡大が達成できる」と語っていた。
――拱手傍観とまでいわないが、日本が政権交代の“後遺症”と“副作用”に苦しむ間に、中国とASEANとの間に大きな変化が起きつつあることは確かなようだ。
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(休刊のお知らせ)小誌は海外取材のため8月26日―31日を休刊します。
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<< 編集後記 >>

(某月某日)また急に中国へ行くこととなって準備に追われる。インターネットで航空券を購入し、ホテルも予約し、ついで海外旅行保険もネットから手続き。全部終わるのに一時間程度かかるのは選択する時間が長いからだ。それでも旅行代理店へ行ってアレンジするより遙かに早い。JTBが全国で支店をたくさん閉店した理由がわかる。
 ところが八月末は上海も広州も飛行機の座席がまったくとれない。
(れれれっ。何故?)
 20万円とか正規料金のビジネスクラスか、台湾乗り換えとかの迂回コースの切符はとれるが、直行便の割引運賃は「満席」の表示が各航空会社、延々と続くのだ。ま、直前の予約だから仕方がないにせよ。
 不況の日本からではない。好況の中国から日本へやってくる人の夥しいことが原因だと初めて気がついた。
(そうか、中国人が座席を占領しているからか)
 二時間ほど悪銭苦闘の結果、そうであれば、死角の香港から入ろうと思い直して、香港便を予約するとすぐにとれた。ただし真夜中着。帰りは真夜中現地発、羽田早朝着の便しか空いてなかった。うなりをあげて日本観光にやってくる中国人の団体ブームの陰で個人旅行が受けているとばっちり。いや、航空会社にとっては嬉しい悲鳴?


(某月某日)新刊の再校ゲラをなんとか脱稿。出版社へ届けた足で中野へ。某病院へ入院中の三十年来の親友を見舞う。いや、見舞いという生やさしい事態ではなく、生命の灯をひたすら燃やしているが、すでに一ヶ月、意識がない。
独身を通したので付きそう人がいない。友人たちが交替で見舞う。頑張れよとカーテン越しに声をかけて病院を辞去した。炎天下、冷房の効いている病棟とはいえ暑さは応えているだろうなぁと考えると涙が頬をつたう。


(某月某日)大学時代のクラスメートで名古屋在住のNが上京したので、南池袋のM宅で飲み会。ビールから始めてワイン、シャンペン、焼酎、日本酒と際限なく始まり、M夫人の手料理に舌鼓を打っている間に、東京に嫁いだNの長女も参加。で、その雰囲気を書くのでなく、Nの娘がもたらした話題は近年のキャリアウーマンの実情だ。
 じつに彼女の大学時代の女性同級生十人のうち結婚組はたったの三人。バツイチがふたり、残り五人はまだ結婚したことがない。三十六歳。つまり七割が独身なのである。
 理由はいろいろ言われているが、年収二千万近い独身キャリアもいて都心に投資用マンションを二軒とかが自慢。うぅーん、人生を考え違いしているのではないか。Nの娘は早くに結婚して子供二人。この組の悩みは子育てと保育園の確保など。
 若い日本女性の際限のない希望、三十代の後半になってやっと「婚活」にエンジンをかけるのは良いが、そのときは子供を産むにもつらい肉体のかげりが進行しているだろう。だから少子化はさらに激甚に進み、日本の人口動態はもっと歪(いびつ)になるだろうと考えるとキャリアウーマンの独身人生はむしろ哀れを誘う。
一年半ほど前に或る女性編集者が結婚した折のスピーチを思い出していた。
 「昔、イギリスの知識人が『結婚は人生の墓場』と言ったが、ユダヤの格言にもあるように『離婚のために費やすエネルギーを人生の他のことにかける方が良い』のではないか」。発言おえてから、なんとも結婚式にふさわしくないスピーチをしたものかと恥じた。
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創刊日:2001-08-18  
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