国際情勢

宮崎正弘の国際ニュース・早読み

 評論家の宮崎正弘が独自の情報網を駆使して世界のニュースの舞台裏を分析

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宮崎正弘の国際ニュース・早読み

2009/08/25


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  「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 
      平成21年(2009年)8月25日(火曜日)貳
         通巻第2689号  (特大号)
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(もくじ)

「極東ロシア見てある記」(その1)粕谷哲夫
「樋泉教授のチャイナ論」
「読者の声」
(本号はニュース解説がありません)
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Азиатско-Тихоокеанское экономическое сотрудничество
極東ロシア見てある記
ウラジオストック見聞記  (1)
                          粕谷哲夫

はじめに

8月2日〜8月6日で極東ロシア(ウラジオストックとナホトカ)を訪れた。宮崎正弘さん、高山正之さんとほか2名、合計4名の小集団である。

旅行者の断片的な見聞や感想には不確かなものが多いので、できるだけその裏づけを試みた。それにはネット以外にはない。事実ネットにお世話になった。

ウラジオストック (Владивосток)地名の由来 について  
Wikiから引用しておく。

明治時代には浦塩斯徳(又は浦潮斯徳)と当て字され、「浦塩(浦潮)/ウラジオ」と略した。気象通報ではかつて「ウラジオ」と略称で呼称されていたが、現在は「ウラジオストク」と呼称されている。
中華民国(台湾)では「ナマコの入り江」を意味する中国(清帝国)領時代の名称、海参崴(繁体字:海參崴)(ハイシェンウェイ)と呼ぶ。中華人民共和国ではロシア語の音写である符拉迪沃斯托克と呼ぶことが一般的である。 (Wiki から)

そもそも、ウラジオストックは<東方(востокボストーク)を征服する(ウラジВлади)>という意味である。プーチンは、ウラジミール・プーチンであるが ウラジミールは何と<東方を征服せよ>の義である。もっともミールには<東方>のほかに<平和>という意味もあるようだ。

ウラジミールというファーストネームは、ロシアでは一般的なもので、レーニンもウラジミールである。ウラジミール・ボブレニョフ、ウラジミール・ドクトレンコなどたくさんいる。

なおナホトカ(Находка)は<発見>、ガイドによれば、<(偶然見付けた)良いもの>ということのようだ。棚ボタ的に、偶然、ロシアが見付けた天然の良港という意味が実感される。

ウラジオストック、ナホトカが連想させるものは、日露戦争、シベリア鉄道、白系ロシア、スタルヒン投手、モロゾフ製菓、異国の丘、岸壁の母、ラーゲリなど多様である。



自動車はほとんど日本の中古車 そしてプーチンの執念

ウラジオストック空港から中心市街地は約30kmの距離だが、緑の森林を抜ける高速道路は快適であった。しかし半分ぐらいから混雑はひどくなってくる。その日は日曜日であったので行楽帰りの車のようであった。すでに現地時刻は午後10:00を回っているが、まだ明るい。(このことは追って述べる)

この混雑をなす乗用車、軽トラック、ワンボックスカーの95〜99%は日本車。本来左ハンドル・右側走行の道路を右ハンドル車がひしめく姿は異様というほかない。パトカーもすべて日本車で右ハンドル。ほとんどが日本から輸入の中古車であるが、やはり性能がいいのであろう。

プーチン首相は 「これはロシア人が毎年自動車に費やす莫大な金が外国の経済のために使われていることを意味している」として、国内自動車産業強化と輸入の阻止の必要性を強調してきた。とりわけ圧倒的シェアの日本の右ハンドル・中古車の輸入を阻止しようと考えてきた。右ハンドル車は事故の危険があるという屁理屈も援用した。しかし業者の抵抗も大きくなかなか、その思いを実現できずにした。

しかし昨年12月5日一刀両断、プーチンは自動車の輸入関税率改正に関する政令に署名し、2009年1月11日からロシアの中古車輸入税率を暫定的に9月まで引き上げることにした。この決定でウラジオストックでは中古車の輸入関税引き上げに対する抗議活動が起こり、参加者や取材中の報道関係者など数百人が拘束されたとAFPは報じている。

日本からのロシア向け中古自動車は、ここ数年急速に伸び、2008年で約56万台輸出されている。その大半は極東ロシア向けであろう。2005年には極東管区の通関統計では24万台(ウラジオ領事館広報)であるから文字通り急激な伸びである。昨年はロシア向け中古自動車輸出用のRORO船(乗用車約250台が積載可能の先載先降型)も就航し始めていた。

1〜9月まで暫定的に引き上げていた輸入車の高関税措置が、さらに9か月間延長される。プーチンの強い意志から見てこれは半恒久的な措置になるであろう。

さらに追い討ちをかけるように9月からは、(輸入日本車をターゲットにした) 右ハンドル車に対する保険・車検などの差別的コスト付加などの措置を決定しており、事実上、日本車の中古車輸入の息の根を止めようとしているという。

日本海沿岸の輸出業者には壊滅的な打撃を受け、悲鳴を上げている。日本だけでなく、ロシアサイドも中古車輸入にかかわるものが20万人もいるという。

ロシア向け中古自動車の輸出港は、伏木、富山、金沢、七尾、舞鶴、福井、秋田、浜田、三隅、江津などなど多岐にわたっている。余談だが、日本からロシアへの中古車輸出にはパキスタン人が多くかかかわっているふしぎなげんしょうもあるようだ。


50万台規模の中古車が行き場を失うのはたいへんなことである。日本の中古車価格にも大きな影響があるだろう。
地方の衰退の議論にこんな話は出てこないのというも不思議である。

ロシア国産車は「自国製品への信用の無さ」が災いして、サンクトペテルブルクで組み立てられているトヨタ・カムリですら長期在庫となっている模様。ちなみに、全体の4割が「ロシア組立外国車の品質は低い」と考え、実際に外国車を所有している人に至っては実に64%が、ロシア国産・外国産両方所有の人でも53%がロシア車の品質が低いと考えているという。@Cool Blue!  
http://minkara.carview.co.jp/userid/210033/blog/12786062/

きちんとした部品でも組立工のワークマンシップに信用がなければが国産車80%シェアの目標の現実は難しいであろう。金曜日製造のアメリカの教訓もある。


中古車というと汚れた車を連想しがちだが、日本の中古車は新車同様に見える。所有者はやっと手に入れた車を愛でるように扱っている。手入れが行き届いている。ポンコツまったく見当たらない。性能も劣化しているとは思えない。

空港から街に入る道でロシア製か道の真ん中で、車体の真ん中から二つに折れた大型の無蓋トレーラーを反対車線で見た。走行方向が反対でよかった。

右ハンドルの業務用の中古もたくさん走っている。日本の会社名をそのまま残している小型トラックも走っている。 「○○産業」や「△△造園」はどうということもないが、宮崎さんは、「北方領土を返せ!」 街宣車の中古版をロシアで見たことがあるという。爆笑問題である。

強権国家では、なにごとも「上に政策あれば、下に対策あり」で、難しく考えることではないのかもしれない。とはいえ今後の展開は見ものである。



APEC 2012 @ルースキー島(ロシア島) саммита АТЭС во Владивостоке

APEC総会は、2009年はシンガポール、2010は横浜 2011はアメリカ、そして2012年はウラジオストックである。

「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 平成19年(2007年)  9月19日(水曜日) 通巻 第1928号(9月18日発行) 増大号には 

『2012年APEC首脳会議 :開催地に決定し大規模開発が予定されるウラジオストク』とある。 

ウラジオストックといっても、開催現場はルースキー島である。ウラジオストックはムラヴィヨフ=アムールスキー半島の先端にあり、ルースキー島はその沖合いにある。マレー半島にたとえれば、シンガポールに当たるのがルースキー島である。

宮崎さんがルースキー島の現場工事の進捗状況を視察に並々ならぬ意欲を抱いていた理由が改めてわかる。

2012年の ウラジオストク APEC と 2014年のソチの冬季オリンピックは近未来ロシアの2看板イベントである (中国の2008年北京オリンピックと2010年上海万博のように)。

この地域は長年軍事の要衝であったため、民生分野の開発とは無縁であった。島はウラジオストックからフェリーで一時間半ぐらいの距離にある。

風光明媚の惚れ惚れする島である。この島の観光開発をきちんとすれば多くの避暑旅行者か来るだろうと直感した。プーチンもそう考えたらしい。

中国主導の「東アジア経済圏」だの「東アジア共同体」などの議論がかまびすしい中、ロシアもアジア・太平洋に楔を打ち込み一矢を報いたい。その最大の楔が、<2012APEC ウラジオストック>であるともいえる。

このAPECの開催にあわせて、ルースキー島を大々的に開発し、国家の威信を高めたい。ここに高級ホテル、ビジネスセンター、遊園地、高級住宅、ゴルフクラブなどを建設し、一大リゾートセンターに変貌させるという。APEC関係だけで9千億円規模の予算である。東京湾アクアラインより少ないが、ロシアの開発としては巨大プロジェクトであろう。この計画の見取り図や図面は文末に付しておいたので見ていただきたい。

ウラジオストックとの間に二本の大きな橋が架ける (この工事にIHIも参加しているという話もあるが、確認はしていない)。この陸地部分の橋脚工事は進んでいるが、海上工事はまだである。

国家の威信というのであれば、プーチンはもっと頻繁に極東を訪れるべきであるが、中古自動車の輸入規制に対する国民の不満もあって彼の足は極東へは遠のいているという。

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ウラジオストック港フェリー・ターミナルからルースキー島にむかう。ウラジオ港は日露戦争のバルチック艦隊がそこを目指して日本海を航行していた重要な軍港である。1980年代までは、ウラジオ軍港は厳しい情報管制の下にあった。しかしいまは写真撮影も自由である。軍艦は2隻しか見えない。

フェリーには客も自動車も結構乗っている。途中「運河」というターミナルに立ち寄り、ルースキー島・ターミナルに向かう。「運河」というのは島の中の陸続きの天橋立のよう部分を切って、ショートカットして運河状にしたからだそうだ。

そのルースキー島のターミナルにつくと、なんと<天狗納豆 老舗の味>と両サイド全面にデカデカと描かれた有蓋トラックが目の前にある。ご愛嬌に一同爆笑。日本の中古車は日本人より先を行っている。

フェリー・ターミナルで待機していたミニ・バスで、APEC 施設建設現場に向かう。

この島の道路は未舗装で、雨の後であったこともあってひどい泥んこ道である。車軸が折れるのではないか思われるほどの揺れ。かなり行ったところで耐えかねて、帰りも同じこの道を通るのかと質問すると。「ダー(Yes)」だ。暗澹たる気持ちになる。途中、架橋につながる大型道路の建設などが林の中に荒っぽく展開されている。大型ダンプが泥道を行きかっている。建設機械もほとんど日本製の中古のようだ。大揺れの車の窓から住友重機という字が読めた。

やっと着いた建設現場はなんとウラジオストックが目の前に開ける至近距離の対岸であった。泥道経由はだいぶ遠回りしたことになる。APECに向けた工事は始まっているものの、果たして間に合うのか。森林を切り開いたり地盤を整備している段階である。ホテルのTVでは政府高官が工事は順調に進んでいることを訴えていたが、それが正しいのかどうか、素人にはなかなか判断はできない。

写真を撮ったり、建設現場をいろいろ見ているうちに、帰りの予定のフェリーには間に合わなくなった。特にあの泥道では時間の計算もできない。ウラジオストック側の本ターミナルで予約の車が待っているので、遅れるわけにはいかない。急遽そこから行程を変えて「運河」駅から乗船することになった。何のことはない、「運河」駅は建設現場から僅かの距離であった。この島の構造は複雑で直線距離と地上の距離では大きな差がある。このルースキー島にある有名な要塞跡の見学ができなかったのも納得する。この島には時間の余裕が必要である。

この島の複雑な地形を知るには、<隣国ロシアを知ろう・ロシア経済情報ナビ>の地図がいい。ご覧あれ。
http://www.jsn.co.jp/library/map/map07.html


帰路のフェリーの中で、7〜8個の勲章を両胸につけた80歳の退役女性兵士に会った。今はこの島で独り老後を過ごしているそうだが、ときどきウラジオストックにやってくるそうだ。ブレジネフの別荘建設にもかかわったなど面白い話を誇らしげに語っていた。年金は月300ドルぐらいだという。通訳は、少なすぎるというが、どんなものだろうか。ソ連の崩壊をどう思うか聞きたかったが、多くの乗客が狭い船室で聞き耳を立てている。くどく聞くわけにも行かないので、甲板に出た。潜水艦博物館が徐々に大きく見えてくる。

このAPEC 関連プロジェクトの完成の姿は以下のロシアのサイトのURLにきれいに描かれている。ご覧あれ。

http://apec2012.ru/content/?s=181
動画

http://apec2012.ru/content/?a=327&s=169&p=1
http://apec2012.ru/content/?a=602&s=169&p=1
http://apec2012.ru/content/?a=399&s=169&p=1
http://apec2012.ru/content/?a=385&s=169&p=1


訪問時には知らなかったが、ルースキー島では水上原子力発電所計画があるようだ。チェルノブイリに懲りて放射能は水に流せということはないだろうが、日本への影響は無視できない。日本にはほとんど知られていないのが不思議である。日本の安全技術が役立つのではないか。

ところで、二年前の宮崎メルマガでは報道文の引用の後にご自分のコメントを以下のように書いている。平成19年(2007年)9月19日(水曜日)の話である。文字通りものすごい 《早読み》 ではある。これを先に引用すれば、無駄な説明は要らなかった。


9月5日〜9日にかけてシドニーで開かれたAPECの閣僚・首脳会議で、2012年のAPEC首脳会議がウラジオストクで開催されることが決定した。そして、ロシア政府は2兆5400億円を投じる「極東・バイカル湖東方開発計画」をこのほど確定している。これは旧ソ連時代は軍事閉鎖都市だったウラジオストクを「極東の首都」(ラブロフ外相)に変ぼうさせ、「欧州の窓」としてサンクトペテルブルクを建設したピョートル大帝のように「アジアの窓」を築こうとするものだ。

恐らく近い将来に、ロシア極東地方の行政の中心は現在のハバロフスクからウラジオストクに移されることになるだろう。ロシア極東の南の果てという地理的条件は行政の中心として決して有利ではない。ブラゴベッシェンスク、ウラジオストク、コムソモーリスク・ナ・アムーレから夜行列車で一晩で到着できるハバロフスクの方が有利であることは間違いない。しかし、地理的不便さを承知でウラジオストクを開発するという政府の強い意志は、不凍港ウラジオストクを大都市にすることで西太平洋でのロシアのプレゼンスを高めたいという意図を感じさせる。ハバロフスクよりも中露国境から遠いことも要因の一つかもしれない。

更に注目すべきなのは、地球温暖化の影響で近い将来に北極海航路を通常船舶が可航になる可能性があることである。その場合、サンクトペテルブルグからバルト海・北極海・ベーリング海・太平洋・日本海を経てウラジオストクに至るロシアの沿岸航路はアジアとヨーロッパを結ぶ海の大動脈になる可能性がある。ただ、問題になるのは秋から春にかけて猛烈な低気圧が滞留することの多いベーリング海やオホーツク海である。ペトロパブロフスク・カムチャッキー港や千島列島の小港湾、根室・釧路・苫小牧・函館などの港が悪天候時の避難先として重要性を高めることになるだろう。

APEC2012からみのルースキー島の開発は、シベリア鉄道の開通以来のウラジオストックにとって画期的、歴史的な大事業ではなかろうか。宮崎メルマガは今後も節目、節目にかならず報じてくれるであろう。
             (続く)
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樋泉克夫のコラム

――新しい“国共合作”なのか
 

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 清朝末期、日本に留学した多くの中国の若者の中に日本の新劇に魅せられた一群がいた。誰もが解る芝居で世の中を変えよう。舞台から現実社会が抱える問題を訴えよう。新劇に刺激された彼らは、これを話劇と称し中国に持ち帰った。
毛沢東は「話劇なんぞは日々の生活を描いているだけだ。毎日、我々は話劇を演じているではないか」と話劇を好まず、伝統芝居の中心である京劇を専ら“溺愛”し続けたようだが、話劇は確実に中国社会に根付き浸透していった。
共産党もまた、話劇を使って世の中を変革することの重要性を訴えると同時に、49年以降は自らの正しさを舞台の上から民衆に語りかけた。政治宣伝である。

 現在、中国では多くの話劇団が活動を続け、いまの中国社会が抱える深刻な問題を告発しようという動きをみせる。だから話劇の舞台に中国社会の現実が微妙に反映されているとも考えていいだろう。そこで話題にしたいのが、9月9日に杭州で浙江話劇団によって初演される予定の『渓口往事』という新しい演目だ。

 渓口とは浙江省奉化県渓口鎮のこと。この芝居の筋運びの詳細は目下のところ不明。だが、蒋介石が第一夫人の毛福梅との間に儲けた長男の蒋経国を主人公に、渓口鎮を舞台に彼と彼を取り巻く人々の生き様を描いている、とか。いずれ台湾公演も行われるだろう。

 ここで、いまという時点で、話劇の舞台に蒋経国を登場させる背景を考えてみたい。
 たとえマイナス・イメージで捉えられようと、どう考えても大陸における知名度では蒋介石のほうが格段に上のはず。
毛沢東の足跡を振り返り共産党の役割を際立たせるうえで最も効果のある“敵役”だ。さらに中国の学界では抗日戦争時の振る舞いを中心にして台湾以前の蒋介石を改めて評価する動きすら生まれてきた。ならば蒋介石を主人公とした芝居の方が観客の“受け”がよさそうなものだが、敢えて蒋経国である。

 蒋経国は若き日に国民党政治に敢えて強く異を唱え蒋介石に敵対した。
ソ連に留学し後に共産党幹部となる若者たちと机を並べて共産主義革命のイロハを学んだ。いわば第一、第二世代の共産党指導者とは同窓なのである。
共産党敵視政策を推し進めたのは蒋介石でこそあれ、蒋経国ではなかった。蒋介石と共に台湾に渡った「老兵」の中国への探親(里帰り)を80年代末に解禁したことが、結果として現在の両岸交流への道を切り開いた。

一方、台湾の立場で見れば、蒋介石死後、約束されていた総統の椅子に就きながら、「蒋家の政治」を自分の世代で終らせることを宣言し、事実、そのポストが本省人の李登輝に渡るよう準備していた。
蒋経国の後ろ盾がなかったなら、李登輝による“台湾の民主化”はありえなかっただろう。

まさに死せる蒋経国が生ける国民党守旧派を沈黙させたのだ。「台湾に40年以上も住んだのだから、自分も台湾人だ」と、日本の敗戦を機に台湾に乗り込んできて以来の国民党政権の一連の台湾住民蔑視政策・措置に起因する省籍対立の解消に努めた。
国民党の独裁体制を支えていた党禁(野党の存在を許さず)と報禁(報禁)を晩年になって解禁し、民進党の合法化への道筋をつけることとなった。

これに付け加えるなら、現総統の馬英九は青年時代に英語秘書として蒋経国に仕えていた。
 中国では芝居もまた政治である。『渓口往事』が大陸における蒋家王朝見直しのシグナルなのか。はたまた両岸交流の深化を図る統一戦線工作の一環なのか。
いずれにせよ両岸関係を考えるうえで、こういう芝居が演じられるようになった背景は等閑視できない。
《QED》

(ひいずみかつお氏は愛知県立大学教授。京劇、華僑研究で知られる)
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(読者の声1)第2688号に載っていたウォーレン・バフェットの予言の中に、「バナナ共和国」という表現がありましたが、その意味(ユーモア?)が分かりません。解説をお願いできないでしょうか?
(TT生)


(宮崎正弘のコメント)この場合は「農業第一次産業しかなく、しかも外国資本がプランテーションを支配しているような小国、財政も安定しないふらついた国」という意味でしょうか。
最初はホンジュラスですが、現代アメリカの認識ではドミニカとか、プエルト・リコとか、ジャマイカという印象でしょうね。米国も戦闘機などの兵器産業以外、農業が基幹産業ですから喩えると分かりやすい。自嘲的比喩になります。



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(読者の声2)さきに貴誌で明智のことがでていました。ところで、明智光秀に関する土岐氏ゆかりの著者の本があるとか、どの本かご教授願えますか。
     (AB生)


(宮崎正弘のコメント)高知に坂本姓が多いのも明智一族(土岐は居城の坂本城で象徴的な名前に変えた。長曽我部が彼らをかくまう)の末裔のようです。
さて末裔のひとり明智憲三郎氏が書いたのは、
『本能寺の変 四二七年目の真実』で、プレジデント社刊行、現在三刷り、売れているようです。

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