国際情勢

宮崎正弘の国際ニュース・早読み

 評論家の宮崎正弘が独自の情報網を駆使して世界のニュースの舞台裏を分析

全て表示する >

宮崎正弘の国際ニュース・早読み

2008/02/23


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 
平成20年(2008年) 2月23日(土曜日)  弐
通巻第2098号  臨時増刊号   
△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△

 コソボ独立宣言の衝撃 (第2弾)
  米国大使館焼き討ちをやらせた背景は何か?
****************************************

 ▲ 多民族が混在するモザイク国家の宿命

 セルビアの諸都市、とくに首都ベオグラードの至る所にある看板は、次の文字が躍る。
 「コソボはセルビアのもの」。
 
 冷戦終結直後に筆者はベオグラードに行ったことがある。
チトーが各国から国賓を迎えるために鳴り物いりで建てた、いかめしくも荘厳なメトロポールホテルに宿泊したが、タイルがはげおち、床は凸凹で湾曲し、エレベータは蹴飛ばさないと動かなかった。
 食堂だけは中世ヨオロッパの貴族社会を伺わせる雰囲気があった。食事もまずくはなかった。市内にはぼったくりのタクシーが横行していた。

 パリを思わせる表通りから一歩、裏道にはいると、猜疑心に満ちた目をした民衆が、固まって物臭そうに暮らしていた。或る公園はアルバニア系のホームレスが、或る公園にはクロアチア系の乞食が固まっている。猜疑心の噴出は、他民族への恨みの輝きをおびていた。不気味な雰囲気を感じた。
 とても同じ都市に住む「国民」のアイデンティティがあるとは思えなかった。

 セルビア正教系(ギリシア正教の流れ)の教会に入る。ちょうど結婚式をやっていたが、外国人に『出て行って』と追い立てる仕草、売店で十字架のアクセサリーを土産に買おうとしたら「異教徒には売らない」と峻拒され、驚かされた(詳しくは拙著『世界経済裏道を往く』(1992年、ダイヤモンド社刊)。

 それから十六年を閲し、チトーのこしらえたユーゴスラビア連邦は、スロベニア、クロアチア、ボスニア、マケドニア、セルビア、そしてモンテネグロと別れ、最後に残ったコソボが独立を宣言したのである。

 この間、幾多の戦争と虐殺とNATOの空爆があり、結局、コソボには16000のNATO軍の駐留となった。この西側の軍事力の保護のもとにアルバニア系住民が九割をしめるコソボは独立を宣言したのだ。

 しかしコソボはセルビアにとっては一つの自治州だから、国家意識から言っても、独立は絶対に容認できない。
本来ならセルビアは戦争を仕掛けるべきだろうが、かろうじて止めているのはNATOの空爆の記憶が鮮明だからである。理性ではない。打算からである。
92年から95年にかけてのボスニア&ヘルツェゴビナ独立戦争では、NATOと米軍機が78日間、連続してセルビアを爆撃した。

 当時、ボスニア外相は米国ユダヤ系PR会社と契約し、セルビアのミロセビッチ大統領をヒトラーと同一視させたうえ、市場の爆破事件を自作自演して、セルビアの所為だと宣伝につとめ、映像を世界に流してミロセビッチ大統領の悪印象を高めた。
おなじギリシア正教の立場から、スラブ系民族主義の立場からもセルビアを支援していたロシアは政治的混迷の時期で、部分的な軍事支援しか出来なかった。


 ▲国際政治の隙間を絶妙に突いた

 コソボの独立は、いわば国際政治のドサクサに巧妙に便乗し、しかもEU諸国を十分に根回ししたあげくに弱体化したセルビアの隙を突いた。
 
 台湾独立問題と置き換えれば、中国がいずれ経済的に混迷し、国際的に孤立したとき、台湾が欧米、ロシアを十分に根回したうえで独立を宣言すれば、国際社会は認めざるを得なくなるだろう。
 北京は戦争に打って出るほどの蛮勇はなく、激しく台湾とそれを支援する諸国を罵倒するだけで終わる可能性がある。

 だから台湾の新聞をみると、日本ではおよそ想像できないほど大々的に、連日コソボをめぐる報道がなされている。

 たとえば台湾最大発行部数を誇る『自由時報』(2月18日付け)の一面トップは「新国家誕生 科索沃独立」とある。(「科索沃」はコソボ)。
同紙は翌日(2月19日付け)も「美英法徳義 承認科索沃」(米・英、フランス、ドイツ、イタリアがコソボを承認)。
 
 セルビア(寒爾維亜)のナショナリズムは激しい反米デモを行い、在ベオグラード米国大使館、ならびにクロアチア大使館に火焔瓶を投げて炎上させた(この写真は世界のマスコミが一面カラーで伝えた。日本のマスコミだけが二面で扱った)。
 米国大使館は25日まで閉鎖された。
 英国とトルコ大使館もねらわれた。

 21日にはセルビア人20万人の反米デモが電光石火に組織され、デモ隊の一人が死亡、150名が負傷するという事件に発展した。
 マクドナルドや欧米系銀行店舗も略奪の対象となった。

 セルビアのタディッチ大統領は訪問先のルーマニアで記者会見し、国民に冷静を呼びかけて「暴動はむしろコソボをセルビアから遠ざけてしまう」と理性的に訴えた。
 国連はただちに緊急安保理事会を招集し「最大限の言葉でセルビアを非難する」声明を採択した。


 ▲ロシアの対応、台湾の反応

 他方、ロシアの鵺的な動きは複雑怪奇である。
 ロシア上下両院議会は「コソボ独立は領土保全という国際法の一つの原則に違反している」と共同で声明を発表し、「国連安保理事会にコソボ独立を認めないよう働きかける」と言った。

 旧ソ連圏ではカザフスタンとアゼルバイジャンがロシアの動きに同調した。グルジアは奇妙なほど複雑な国際情勢をかかえながら、コソボ独立には反対と言った。

 グルジア国内に存在する、いわゆる未承認国家の「アブハジア自治共和国」のバカプシ「大統領」は、「南オセチア自治州」のココイトイ「大統領」とともに、モスクワで記者会見し、プーチン大頭領に「両国のグルジアからの独立を早く求めよ」と迫った。ココイトイ『大統領』は、「我々にはコソボよりも明確な独立への法的基盤がある」と語った。
 
グルジアのサアカシビリ政権の実効支配が及ばないアブハジアと南オセチアは、ともにロシア軍が駐屯し、事実上の独立国家だが、『未承認国家』である。
 ともに大統領がモスクワにいることも注目するに値する。
いわば“モスクワのロボット”たちだ。

一方でコソボ独立に反対するロシアが、他方ではグルジア内の二つの『未承認国家』の独立を求めるというわけだから二律背反である。グルジアは、こうした文脈からコソボ独立には反対し、沿ドニエステル共和国をかかえるモルドバも反対している。

 セルビアの狂信的ナショナリズムは、同国内のアルバニア系住民に向けられ、また早々とコソボを承認した国々の代表部や企業に向けられて、しばらく暴力沙汰が続くであろう。それが西側マスコミに極めて悪い印象を与えるのも事実だろう。

 おりから総統選挙の終盤戦にはいった台湾で、この事態の推移を真剣かつ誠実に見極めようとする努力は、どの国よりも強い独立シナリオのシミュレーションの研究に役立つかもいれないという強い動機があるからだ。

○◎み△や◎ざ◎き○△◎ま◎さ△ひ◎ろ◎○
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

(お知らせ)宮崎正弘のHP、下記を更新しております。コソボ関連図書の書評です。
http://miyazaki.xii.jp/column/index.html
       ◎○◎○◎
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
    ♪
(読者の声1) 貴誌2096号の中で「しなの六文銭」氏が(読者の声1)で佐藤優氏の発言を、
「。。。また吉田松陰の行動哲学の裏にも陽明学の思想は脈々と波打っており、一度アカデミックなくびきをはずされた朱子学は、もとの朱子学が体制擁護の体系を完成するとともに、一方は異端のなまなましい血のざわめきの中におりていき、まさに維新の志士の心情そのものの思想的形成にあずかるのである」
と書かれましたが、私の腑には落ちません。
松陰先生は何事も先入観なく博く学び、そこから自分の判断で世界観を築きあげた方ですから、朱子学も陽明学も学ばれたはずです。
しかし松陰先生の行動哲学の裏にも陽明学の思想が脈々と波打っていたと私には思えません。
松陰先生は山鹿流兵学者です。
そして山鹿流の開祖の山鹿素行を先師と呼び非常に尊敬し、素行学の先学たちを求めて、教えを請いました。
山鹿素行先師は自身の学問を聖学と呼び朱子学や陽明学などを超えて、聖人の学問を直接に学ぶことが自身の学問であるとしました。
この考えの先にあるのは当然、易姓革命などなくまたその必要性すらない日本こそ中朝であるとの考えであり、そこからの自然の帰結として至るのが尊王思想です。
だからこそ易姓革命論の首魁とも言うべき孟子を学び、孟子の素晴らしさを重々理解
し「講孟余話」を著しながらも易姓革命論者にならなかったのです。

ついでに述べると日本では易姓革命論を忌避するため孟子が学ばれてこなかったという俗論がありますが、これはまったくの迷妄です。
日本における孟子受容史研究の先覚者であり第一人者の井上理順(いのうえ まさみち)鳥取大学名誉教授によると、日本では孟子は古くから学ばれてきており、易姓革命論も忌避されていなかったそうです。
代々学者の家柄であった清原氏の文書が京都大学の清家文庫に収集されています。
その中に歴代の天皇陛下への御進講のテキストがありますが、孟子の易姓革命論に関する部分は削除されていません。
それに反して、死葬に関するところは削除されています。

松陰先生の行動原理の中核には山鹿素行先師の聖学と軌を一にするものがあったと確信いたします。
陽明学からの影響があったとしてもそれは区々たるものでしょう。

しなの六文銭氏の論考からは外れますが、日本における荀子の受容過程の本格的な研究が待たれます。
浅学非才の私の知る限り日本において古来荀子は重んじられてきていませんでした。にもかかわらず大日本帝国憲法には荀子臣道編から採った「輔弼」という日本では殆ど使われてこなかった表現が使われています。
私は他に「輔弼」という表現が使われた例を一度しかみていません。
私は、明治憲法を創った人たちが敢えてこの表現を採ったところに重大な意味があると確信しています。
誰か学識のあるかたが学問的、文献的に実証していただくか、あるいは私の誤解であることを明確にご指摘いただきたいと切に希望いたします。
    (ST生、神奈川)


(宮崎正弘のコメント)。。。。。。。。。。
 話をぶっ飛ばせますが、正式の孔子と孟子の末裔は台湾でご存命です。蒋介石と一緒に、まさに「人間国宝」として渡海したのです。最近は故郷の山東省にかえりたい、だから馬英九に入れると言っているようですが。。。。。
 さらに話を飛ばせますが、福田首相が師走に訪中のおり、山東省の曲阜(孔子のふるさと)へ立ち寄りました。あそこで孔子77代末裔だと名乗って書画を売りつけているオッさんが居ます。偽毒偽菓子偽玩具偽薬偽餃子偽農薬偽バイアグラ、そして偽孔子の末裔。。。



   ♪
(読者の声2)昨年、来日された李登輝(前台湾総統)が、石川県人を評しています。
 金沢を訪れた印象を語られた言葉の中で、
「金沢の雰囲気を知り、このまちが多くの偉大な人物を生んだ理由が良く分った。進歩の中に伝統を失わず、の精神があったからだ」
これを聞いた時は、さすがに、心を揺さぶられました。
    (FF子、小平)


(宮崎正弘のコメント)そうですか。存じませんでした。それより金沢―台北間に国際定期便が今春から就航予定と聞いております。
 石川県は台湾で巨大ダムをつくり、いまも尊敬される八田與一の故郷ですから交流が深く、毎年、八田さんの命日には小松空港からチャーター便がでるほどです。

      ● ○ ◎
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  
   ♪
(サイト情報) ヒル国務次官補は2月17日からアジア歴訪を開始し、2月20・21日と日本を訪問した。外務省の西宮伸一北米局長や斎木昭隆アジア大洋州局長らと会談し、北京での米朝協議の概要などを報告。
(1) ヒル国務次官補の今回のアジア訪問の発言、記者会見など。 
Assistant Secretary Hill: Travel to Asia 、U.S. Department of State 
http://www.state.gov/p/eap/trvl/2008/100980.htm 
(2) 今年のヒル国務次官補の東アジア・太平洋問題に関しての発言、記者会見 2008 Six-Party Talks 、Bureau of East Asian and Pacific Affairs, U.S. Department of State 
http://www.state.gov/p/eap/regional/2008/ 
   ▲
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
    ♪
<< 今月、これからの拙論 >>

(1)「来世は中国人に生まれたくない」(『週刊朝日』3月1日号、26日発売)。
(2)「親日派が台湾からいなくなる日 総統選挙はどうなる?」(『新潮45』三月号20枚、発売中)
(3)「中国産食品が日本から消えるとこうなる」(『週間SPA』、2月26日号)
(4)「撫順洗脳機関のすさまじさ」(『撃論ムック 拉致と侵略の真実』、発売中)
(5)「北京五輪は大丈夫か?」(『宝島』別冊。発売中)。
(6)「中国の雪災害と軍隊」(『月刊日本』、四月号、本日発売)
(7)「ダボス会議と中国」(『共同ウィークリー』、二月下旬号)
(8)「日本、かくも軽き存在」(『自由』四月号巻頭30枚、3月10日発売)
       ▽
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

(((  宮崎正弘の新刊 ))) 
  『崩壊する中国 逃げ遅れる日本』 (KKベストセラーズ、1680円)
   3刷は3月上旬に出来!
       △
((( 宮崎正弘のロングセラーズ )))
http://miyazaki.xii.jp/saisinkan/index.html
『中国は猛毒を撒きちらして自滅する』 (徳間書店、1680円)
     ♪
『2008年 世界大動乱』 (改訂最新版、1680円。並木書房)
『世界“新”資源戦争』 (阪急コミュニケーションズ刊、1680円)。
『中国から日本企業は撤退せよ!』 (阪急コミュニケーションズ刊)
『出身地でわかる中国人』 (PHP新書)
『三島由紀夫の現場』 (並木書房)
    △
宮崎正弘全著作一覧 (これまでの127冊の著作リストを閲覧できます)
http://miyazaki.xii.jp/tyosyo/index.html
       ◎◎ ◎◎ ◎◎
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
宮崎正弘のホームページ http://miyazaki.xii.jp/
◎小誌の購読は下記サイトから。(過去4年分のバックナンバー閲覧も可能)。
http://www.melma.com/backnumber_45206/
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(C)有限会社・宮崎正弘事務所 2008 ◎転送自由。ただし転載は出典明示のこと。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

規約に同意してこのメルマガに登録/解除する

メルマガ情報

創刊日:2001-08-18  
最終発行日:  
発行周期:ほぼ日刊  
Score!: 99 点   

コメント一覧コメントを書く

この記事にコメントを書く

上の画像で表示されている文字を半角英数で入力してください。

※コメントの内容はこのページに公開されます。発行者さんだけが閲覧できるものではありません。 コメントの投稿時は投稿者規約への同意が必要です。

  • 名無しさん2008/02/23

    台湾の「独立」は日本の「独立」でも有ると考えています、「だらしの無い日本」こそ一本立ちをする姿勢でも見せて欲しい。