国際情勢

宮崎正弘の国際ニュース・早読み

 評論家の宮崎正弘が独自の情報網を駆使して世界のニュースの舞台裏を分析

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宮崎正弘の国際ニュース・早読み

2008/02/17

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「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 
平成20年(2008年) 2月17日(日曜日)
通巻 第2087号 
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((( 今週の書棚 )))

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廣瀬陽子『強権と不安の超大国・ロシア』(光文社新書)
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 カフカスの南に蟠踞するイスラム系民族の情念と愛郷精神、キリスト教系との対立。
ロシアへの怨念とイスラム・スーフィズムに果てしなく広がる興味

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 ロシアの現実や行く末を、モスクワやサンクトペテルブルグの軸から論ずるのではなく、カフカスという異端の視点から眺め直し、ロシアの政治の現実と舞台裏を鋭角的に、そのKGB的強権政治の本質を抉っている。
 新しい女性論客の登場だ。
 ロシアを別の角度から論ずる人は、「モスクワ中心史観」派からは異端視されがちだが、故・秋谷豊、山内昌之、イスラムの関連では佐々木良昭の各氏の活躍がある。
 クレムノロジストというのは、鉄のカーテンで締め切られたクレムリン宮殿の権力闘争のゆくえを分析する専門家だった。
米国にはコンドレーサ・ライス(現国務長官)を引き合いに出すまでもなく、リチャード・パイプス(レーガン政権)、タルボット(クリントン政権)らソ連の専門家が外交助言を繰り返してきた。
ゴルビーが登場し、ソ連が解体され、ロシアの“くびきから離れた筈”だった国々には秘密警察の桎梏は希釈されても、つぎにはナショナリズムを強権政治に利用するという新しい苦痛が待っていた。
資源戦争が激化し、ロシアに反旗を翻せば手痛い仕打ちを受けた。
モルドバも、グルジアも経済制裁に沈んだ。
 アゼルバイジャンとアルメニアの紛争では、ロシアはアルメニアに肩入れしながらも、じつは資源ルートや鉱区の権益を手に入れた。

 評者(宮崎)は旧ソ連で、まだ行っていないくにが五ケ国ある。グルジア、アゼルバイジャン、アルメニア、そしてモルドバとトルクメニスタンである。しかし専門家ではないので、なかなか取材のチャンスがなく、行きたいという意志はあっても、機会がなかった。
 くわえてこの列に「未承認国家」が四つある。
 モルドバに反旗を翻す『沿ドニエストル共和国』、アゼルバイジャン国内の『ナゴルノ・カラバフ共和国』、グルジアの領土内にありながらロシア軍が駐留し、サアカシビリ政権の統治が及ばない「アブハジア共和国」と「南オセチア共和国」だ。
いずれもNHKスペシャル取材班がようやく入国できたか、どうかというややこしい地域である。
 著者の廣瀬陽子さんが専門にカバーする対象がこのカフカス。
それもアゼルバイジャンに留学し、ぐるりと、これらの「元ソ連」で「反ロシア」的なくにぐにを命がけで回ってきた。
手に汗握る旅行のなかの危険。ミステリアスな人々。女性の単身旅行では、物騒で、治安のわるい地域ゆえ、学究専門家でなければ、とても観察に赴く気力も起きない場所ばかりで、その知的で冒険的な観察行にまずは乾杯。

 日本人にとっても、ロシアは“恨み骨髄”のくにである。
 盗んだ北方領土を自分のもとだと言い張り、満州からは日本の設置した工業施設を根こそぎ持って行き、ついで日本人エンジニアも拉致した。
 当時の帝国軍人は公式統計でも67万人。ソ連に抑留された。うち7万人前後がシベリアで重労働の過労と飢えにより死んだ。
 ロシア各地に立つオペラ座などの立派な建物は殆どが日本の軍人が建てた。
この国を信用して資源開発をすすめてきた日本の財界も、最近「サハリン2」プロジェクトでは煮え湯を飲まされて、唖然となった。
ロシア人とまじめに付き合っていては損ばかりする。
だが地政学上、中国の背後にある軍事大国であり、我々はロシアを政治的に利用せざるを得ないディレンマがある。
 しからば、直接的にロシアの脅威と嫌がらせと、信じられないほどの政治干渉に曝され、ことあるごとに経済制裁を受けながらも、グルジアもアゼルバイジャンもモルドバも、いかにして戦ってきたか。
 日本人作家で、この分野に挑んだ人は少数である。熊谷某という作家が、チェチェン問題に挑んだくらい、英国ではジョン・ルカレが、真っ先にテーマに挙げたのだったが。。
 バルト三国はヨーロッパと海で繋がっているので、まだしも。陸続きの中央アジア・イスラム圏五カ国は、欧米への接近ままならず、結局はロシア型専制政治に舞い戻った。 
 カフカスはチェチェンに代表されるように果敢な戦いを挑む少数民族が、一方において山岳に跳梁跋扈し、国内国を形成している。その情念、その民族主義と愛郷精神、その怨念とスーフィズムに、果てしなく興味を惹かれる。
 本書を熟読してこれまで分かりづらかった地域の謎が解けてきた。

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<< 訃報 >>
正慶孝氏(明星大学教授。評論家。元『中央公論』編集部)
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 「正慶孝さん 67歳(しょうけい・たかし=明星大学教授、政治経済学専攻)1日、心臓発作のため死去。葬儀は9日午前11時、渋谷区西原2の42の1の代々幡斎場。喪主は妻昭子(あきこ)さん」。(毎日新聞 2008年2月5日)。

   ▲
 正慶孝さんが突然お亡くなりになって、約半世紀以来の学友の一人として、残念で仕方がないです。
2月8日(金)のお通夜に行ってまいりました。
親しい方が多く見え、名残を惜しんでいました。「歩く百科事典」と宮崎さんも命名したように、正慶さんは博覧強記、百科全書派(アンシクロペディスト)と名付けたくなる方でした。
正慶さんを評して「意味論の達人」という方もいて、お話する度、こちらの頭も鍛えられるように錯覚しがちでした。
2月1日(金)、新宿のゴールデン街にある「花の木」のバーで、親しい方々と飲んで地下鉄の駅に入って家路につこうとする時、心臓発作に襲われて急死したと人から聞きました。
(YK氏の感想)


((( 宮崎正弘の追悼文 )))
 昭和48年前後と記憶しますが、初めて正慶孝さんと出会った場面は加瀬英明氏主宰のなにかのパーティでした。
平河町の北野アームズの十階で、やけに外国人が多かった。
 当時、『中央公論』の編集長は島村力さんで、銀座が好きな人で、のちに拓殖大学教授になった。島村さんとは韓国へ一緒に取材したこともあり正慶さんを交えて、そんな話をしたように記憶します。
その後、正慶さんは中央公論のなかで、「WILL」(経済ビジネス中心の大型判。当時は中央公論が出していた。現在の花田紀凱氏主宰の『WILL』とは別)編集部に移動され、ほぼ毎月のように何かを書けと言われ、励んだものです。昭和56年前後のバブル時代には、よく経済の分析を寄稿しました。
小生が当時書いたロボット革命の本や「資源戦争」に関して興味を惹いたようです。
正慶さんは中央公論編集者の傍ら、哲学解説書の本を書かれ、その博覧強記にはいつも圧倒されましたが、ダニエル・ベルの翻訳と解説も正慶さんが遺した大きな仕事でしょう。(ダニエル・ベル著、正慶訳『二十世紀文化の散歩道』、1990年、ダイヤモンド社刊、同『21世紀の予感  現代の問題を未来の視点から読む』、ダイヤモンド社、91年)。

あれはたしかホテルオークラでのポール・ボネのパーティのときに上記の分厚い本を頂きました。
しかも当該書籍の半分が正慶さんの解説でしたっけ。
その後、アカディミズムの世界へ転身、明星大学教授となられ、さて面白い本は何時出るのか、と期待していたところでした。
最近の三、四年ほどは憂国忌にも皆出席。意外と三島ファンでもあった。近代思想を解説する正慶さんが、情念の世界にも通じているのは意外でした。
維新の志士群像は誰でも知っていることですが、かれの博識は板垣退助、三島通庸ら自由民権運動の闘士たちにおよび、その出身地から学校、人脈など人生の軌跡にやたらと該博なことでした。
作家の中村彰彦氏ら共通の友人と飲むと、この話でときに盛り上がる(ト言うより宴席は荒れたりしました)。
光文社時代の正慶氏と仲間だった高田清さんがなくなる前まで毎年やっていた“神楽坂忘年会”でも必ず正慶さんと同席、小生が「この人が、かの『歩くエンサイクロベディア、正慶ニカ』です」と参加者に紹介するとまんざらでもない表情でした。
 最後に飲んだのは、まさにその新宿ゴールデン街の名物バア「花の木」で、昨年師走、恒例の「自由」社の忘年会のあと、二次会に十数名の有志(勇士?)が繰り出し、カラオケ大会。それから正慶教授と二人で広田和子さん経営の『花の木』での「三次会」へ。
そこで昔の芸術論などを酒の勢いで議論したものでした。
合掌
宮崎正弘
 
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宮崎正弘全著作一覧 (これまでの127冊の著作リストを閲覧できます)
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  • 名無しさん2008/02/19

    中身の濃い短稿にいつも驚いております。このような海外の情報に接する度に、わが国の小児病的な政治屋、評論屋に対する憤りを禁じ得ません。

    pantera rosa

  • 名無しさん2008/02/17

    第2087号にありますように、ロシアの無謀さは、常軌を逸した非情なものです。当時の拉致被害者は200万人を超えるのではないかと、いわれています。暴行された女性の帰国に際して、堕胎するのが大変な数で、苦労したと、昔産婦人科医が述べていました。元陸軍参謀も、ロシアだけは信用するなと口をすっぱくして、警鐘を鳴らしていました。

    残念なのは、これらの教訓が、平成の御代にも活かされず、サハリン2プロジェクトで煮え湯を飲まされ、北海道沖で不法拿捕や銃撃に遭っても何もしない政府の存在です。