国際情勢

宮崎正弘の国際ニュース・早読み

 評論家の宮崎正弘が独自の情報網を駆使して世界のニュースの舞台裏を分析

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宮崎正弘の国際ニュース・早読み

2007/03/27



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「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 
平成19年(2007年) 3月27日(火曜日)  貳
通巻第1751号 
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<< 今週の書棚 >>
  
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鳥居民『近衛文麿「黙」して死す』(草思社)
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 一見して小説的な題名。歴史推理小説のような期待をもって読み出したら、すこし違う。かの近衛公は陰謀によって自死に追いやられた。つまり戦争責任をすり替えようとして元内大臣木戸幸一、GHQ調査分析課長のE・ハーバード・ノーマン、そして都留重人が何かを隠蔽したのだ。
 それが一体、なんなのか?
 昭和20年12月、近衛文麿は巣鴨への出頭を命じられ、その前に一切を語らずして自決した。
「謎」は永遠に闇に葬られ、そして61年が経った。
 現代史家の鳥居民氏は、膨大な資料を渉猟し、この謎に果敢に挑んだ。
 詳細は本書を読んでいただくことにして、しかしこの本になぜ都留重人なる戦後岩波偽知識人の権化みたいなおっさんのことが出てくるのか、不思議だった。
 その謎はすぐに解けた。
 義理の叔父に内大臣・木戸幸一をもった都留重人は戦前、ハーバード大学留学中に左翼のノーマンと親友だったのだ。
二人はまぎれもなく共産主義に憧れる左翼思想の同士だった。
 そして叔父の権力を利用して、都留は交換船で米国から帰国後、わずか三ヶ月で兵役解除となっていた。しかも外務省嘱託となった。背後に叔父の手配。
 他方、共産主義者ノーマンは本名がエドガートン・ハーバード・ノーマンという。
カナダ人牧師の息子として軽井沢で生まれ、都留とは逆に交換船でカナダへ帰った。戦争中、ハーバードへ留学し、そこで都留と知り合った。上海でであった尾崎某とゾルゲの場面をどういうわけか、評者(宮崎)は連想してしまった。
 戦中のノーマンは羽仁五郎、丸山真男らと親しく、また戦後は渡辺一雄、加藤周一ら偽文化人と濃密に交流した。
 とりわけ羽仁が閑をもてあましていたので、ノーマンは明治維新に関しておしえてくれ、と毎日通った。かれの西郷、山県極悪論は、つまるところ、羽仁五郎という偽知識人が洗脳したのだ。
 今日のNYタイムズのオオニシ記者も、あの反日の悪意は何処かで刷り込まれて洗脳されているとしか思えないように。
 スターリンがカナダ経由で送り込んだ第二のゾルゲが、ひょっとしてノーマンであったかも知れない。
 だから戦後、カナダ外務省から特派され、強運なことにマニラで日本上陸を準備していたGHQ幹部らと知り合った。そのノーマンの生半可で出鱈目な日本史の知識さえ、GHQには新鮮に見えた。GHQは、ノーマンが日本語に堪能なことにも注目し重宝するという最悪の誤断をしてしまった。
 ところがノーマンは大東亜戦争の責任に内田良平や頭山満らを加えていた。かれらが戦時中、すでに死去している事実さえ知らなかった。
このころノーマンはソ連の諜報機関とコンタクトがあった、とされる。
やがてマッカーシーの赤狩りで、共産主義者=ノーマンの正体が暴露され、1956年に赴任先のエジプトで飛び降り自殺。都留のFBIへの供述が遠因となったらしい。
 都留重人はこのあたりのことを自叙伝にそらとぼけた書き方をしている、と鳥居氏は言う。
しかしノーマンは、そのメチャクチャな論文のすべてが邦訳され全集が日本ででている。カナダでは殆ど誰も知らない外交官が、日本では戦後の平和ボケの時代に希有の人物となって戦後史の一部をいまなお飾っている。
嗚呼、“不思議のくに、ニッポン”(ポール・ボネ)
 カナダの外務省は、いまだにこのエドガートン・ハーバード・ノーマンに関する多くの機密文書を封印したままである。



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西部遭『核武装論』(講談社現代新書)
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 核武装論議は、本格的な防衛論をするりと老獪に回避してきた日本で、ようやく緒についた観があるが、レベルが国際的とはいえず、短絡的軍事論、マニアックな国防論、感情論、そして情緒的拒否論などが渦巻く。
 本書ではいきなり凄いパンチを西部さんから浴びせられる。
 「我が国の1950年代後半からの十年間ばかり、岸信介時代、池田勇人時代、そして佐藤栄作時代(の前半)において、核保有はーー「小型核の戦術兵器」といった限定はつけられましたがーー合憲的である、との発言が散見されました。しかし均(なら)して言えば、冷戦期間中ずうっと、我々はアメリカの「核の傘」の下にまず逃げ込み、次にそこで(防衛問題については)思考の昏睡を続けていただけのことです」(76p)。
 思考の昏睡!
なるほど。その通りだ。
 本書は明らかに核の選択の必要性を説くカテゴリーに入るのだろうが、保守の論理からの国家論というより論理的構築、思考回路の理性が表面に出てくるという意味で異色の書である。
 西部氏の講演がとくにそうだが、聞いているとなんだか、頭が良くなった錯覚に陥る。ところが講演が終わって、或いは書物を読んで、ハタと思い至るのは国家百年を論ずる始源的感動が稀薄なことである。論理が全面に突出し、精神論ではないからだろう。
 言ってみれば修辞学の美酒に酔わされてしまうのだ。
 だが本書は、従来の西部修辞学のパラダイムを越えて、リアルな事実関係を突く方法が多用されている。
 「(日本人が)核被害の恐怖について本当に実感しているというのなら、ヴェトナム、ボスニア・ヘルツェゴビナ、アフガニスタン、イラクなどにおける(通常兵器によるものとはいえ)、非戦闘員への大量殺戮にたいして、現代の日本人が鈍感極まるのは不思議な光景と言わざるを得ません。要するに、『平和を叫んでいれば戦争を避けられる』といった調子のパシフィズム(平和主義)に、『唯一の被爆国』という文句も寄りかかっている」からである、と喝破する。
 パシフィズムは欧米において往々にして卑怯者という意味でも使われる。
 日本人は核の傘というボロ傘に守られている裡に、それを米国の「善意」と誤解して、あるいは善意に曲解して、思考停止になった。
 西部流にいえば「ひょっとして防衛意識の『爆縮』と核分裂は1945年の大敗戦時にすでに生じてしまったのかも知れません」(17p)。
 要するに「核に対抗するには核しかない」のであり、ミサイル防衛などという技術論はまやかし(フェイク)でしかない、というのが西部修辞学のなかにしっかりとはめ込まれた本書の論理的結語である。
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(読者の声1) 貴誌1750号に「ウズベキスタンのサマルカンド市内のバザールで、キムチを売っていた。売り子はどう見ても朝鮮族。なるほど1930年代、スターリンによる民族隔離政策の名残りが、土着の異民族との共存関係をもたらしていた」
との記述があります。
私が現地に行った時に聞いたのは、満州等で『日本軍』兵士だった彼らがスターリンによって強制連行され、この地に連れて行かれたのだと聞きました。
つまり、戦後の’45〜’50年代。
日本人は殆んど皆が帰国しましたが、彼らはそのまま彼の地へ残ったそうです。朝鮮戦争の時期と重なりますから、多分それが理由だったんだろうなと、その時は思いました。当時はアシアナ航空でしたが、今でもソウルから直行便が飛んでいると思います。
 話は変わりますが、ウズベキスタンといえばナボイ劇場をご存知でしょうか。
当時の日本人が建設に関わったそうです。
現地のガイドさんにはこう言われました。
  「私たちは貴方たち日本人を大変尊敬しています。この地には日本人(朝鮮人も含む)だけでなく、ドイツ人捕虜もたくさん来ました。やはり建築関係などに従事したのですが、この劇場以外の構造物は後の大地震で全て倒壊しました。この劇場はビクともしなかったのです。」
先輩方の偉業に思わず目頭が熱くなりました。
http://homepage2.nifty.com/silkroad-uzbek/works/2001/04_yuuzuru_nagata.html
    (MS生、茨城)
 

(宮崎正弘のコメント) ウズベキスタンばかりか、遠くムルマンスク、ウラライナあたりまで日本の捕虜が運ばれ建設に従事しました。
オペラ座も、そうでしょうね。小生もその建物、サマルカンドで見たことがあります。
朝鮮族の強制移住はその前で、いまも30万人前後がウズベキスタンに暮らしております。韓国は受け入れ政策ゼロ、つまり「棄民」です。
満州族は、革命後の毛沢東がスターリンにならって殆どを新彊ウィグル自治区へ強制移動させている筈です。トルファンで、満族を多数見たことがあります。
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 『朝鮮半島、台湾海峡のいま、三年後、五年後、十年後』(並木書房)
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『三島由紀夫“以後”』(並木書房)
『三島由紀夫はなぜ日本回帰したのか』(清流出版)
『三島由紀夫の現場』(並木書房)
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  • 名無しさん2007/03/27

    鳥居民『近衛文麿「黙」して死す』(草思社)は未読ですが、昨年読んだ工藤美代子『われ巣鴨に出頭せず』(新潮社)が提起した問題を、鳥居流にさらに展開したものでしょう(工藤氏には10年ほど前に出した『悲劇の外交官』(岩波書店)というノーマンの評伝があり、そこで都留・ノーマン・近衛関係は指摘されています)。少なくとも、工藤氏の指摘する都留、ノーマンラインが、直前までマッカーサーの信頼を受けているかに見えた近衛に大逆転をもたらしたものといえるでしょう。いずれ鳥居氏の本も読むつもりですが、ただそのようなことがなくても、近衛はいずれA級戦犯として起訴され極刑は免れなかったでしょう。近衛にはそれだけの責任があります。といって小生は東京裁判をそのまま肯定するものではありません。真珠湾への道を冷静に検討すれば、米国側にも戦争責任があるといえるし、「A級戦犯」ではなくて「戦争責任者」という言葉を用いるようにしたいと考えています。