国際情勢

宮崎正弘の国際ニュース・早読み

 評論家の宮崎正弘が独自の情報網を駆使して世界のニュースの舞台裏を分析

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宮崎正弘の国際ニュース・早読み

2007/02/09


 ◎ 小誌通巻1700号突破記念増大号第三弾!
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「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 
平成19年(2007年) 2月9日(金曜日)   
通巻第1702号  
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ウクライナ語か、ロシア語か。纏まらない国語論争
 ウクライナの真の独立は、コトバで達成は不可能なのか?
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 十数年前、キエフの国立劇場で素晴らしいオペラを鑑賞したことがある。
 冒頭で、ロシア語の通訳が「えっ」と悲鳴に近い驚きを示した。
 「このオペラ、ウクライナ語でやっている。まったく分からない」と言ったのだ。
小生も、えっ、スラブ兄弟国でもコトバがそんなに違うの、と思った。
 
 いまの中国にしても北京語、上海語、福建語、広東語の四大言語大系は、まったく相互理解が出来ない。だから共産党はテレビを独占したときに、北京語を全土に強要した。
 少数民族ばかりではない、広東でも上海でも、北京語を使わなければ行けなくなったのだ。

 台湾と比較してみよう。
 戦前、台湾では日本語教育が行われたために「多桑世代」(トウサン世代という)の台湾人は流暢な日本語をあやつる。
といってもいまや70歳台後半の台湾人だけだが。
 戦後、蒋介石がやってきて日本語を禁止し、日本映画の輸入も制限し、かわりに北京語を教育現場におしつけた。北京語が「国語」になった。

 半世紀の歳月が流れ、その結果、奇妙な言語の断層が台湾文化に現れた。
いまや台湾人の若い世代は北京語を操り、中年から上の世代は台湾語を喋り、かなりの国民が両方を駆使する。
しかし台湾語は基本的に喋りコトバ、正式なテキストがなく、文法の解明に不透明な部分があり、学校やマスコミに溢れるのは北京語である。

 いつだったか黄文雄氏とつれだって台湾大学へ講演に行ったおり、黄さんは、最初から最後まで意図して台湾語で講演した。驚くなかれ、聴衆の20%近い若者が台湾語を理解出来なかった。
聞きに来ていた台湾マスコミの記者らは、外省人が多い所為かも知れないが、それにしても、小生は個人的にすこし衝撃を受けた。(ところで小生の講演は日本語で、北京語の通訳。質疑応答は殆どが英語だった)。


▼ウクライナ選挙では争点にならなかった

 さてウクライナ。
 言語論争は選挙のたび、繰り返し現れているが、およそ30ある論点のなかの24位にランクされるほど注目度は低い。要は国語がウクライナ語であることは間違いないにしても公用語としてロシア語を憲法で規定するか、どうか。

 ウクライナはロシア寄りの国土の半分が親ロシアでロシア語が通じる。
 西よりに住むウクライナ国民はウクライナ語しか分からない人が多い。統計では20%の国民が両方を流暢に喋り、40%が互いに理解できる。ということは残りの40%はウクライナ語か、ロシア語しか喋ることが出来ない。

 にも関わらず選挙で重要な論点にならないのは何故か。各政党が、むしろ言語論争を巧みに回避している結果だからか。
 2000年、2004年選挙では「ウクライナ語を国語、ロシア語を第二外国語に」と憲法で規定しようというのが論点だった。

 ウクライナ政治は底流として西側志向だが、経済的にロシアに束縛されており、ガス供給の生命線はロシアによって抑えこまれ、しかも国土の半分は親ロシア的国民やソ連時代の旧世代がNATO加盟も、EU入りなどの「自由化」を極度に嫌っている。
 まさに左右の決断がすぐには出来ない曖昧な立場の堅持がウクライナ政治の根幹にあるとすれば、言語もまた、暫時曖昧政策を続けるのであろう。
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(お知らせ1)本日(2月9日)午後一時から二時45分ごろまで、ラジオ日本「ミッキー安川のずばり勝負」に宮崎正弘が生出演します。
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(お知らせ2)連休中、小誌は休刊となります。次号は2月13日付けです。
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(読者の声1)通巻1700号突破、まことにお目でとう御座います。
ところで、私は過去三年ほどの貴誌の愛読者ですが、古いバックナンバーも、閑があるとずぅーと過去のものをたどって閲覧しております。
で初歩的な質問ですが、バックナンバーの閲覧は192号からで、その前のものはどうやって閲覧できますでしょうか?
   (愛読者 K)


(宮崎正弘のコメント)ときおり同様なご質問を頂きます。たしかにバックナンバーの閲覧は六年前の2001年9月20日付けの192号からのようです(07年2月8日現在)。
 それ以前のものの閲覧方法ですか? 申し訳ありません。どういう方法があるのか、分かりません。おそらく収容キャパを越えているので自動的に前の号から順に消去されているのではありますまいか。
手元にも印刷して残しているわけではないので、それ以前のバックナンバーは、当方では遡及不能です。悪しからず。




(読者の声2)いつぞや宮崎さんが「中国を旅行すると、どういうわけだかあの国の風景や、雰囲気にすぐに溶け込んで、健康状態もよくなるみたいです」と言われ、つづけて「日頃アタシェ・ケースをもつのもイヤなのに、重い鞄をさげて一日数キロを歩いても、なぜか分からないけど、中国では平気なのですね」と喋っておられた。ラジオでしたか。
 となると宮崎さんは反中国派とは言えないんじゃありませんか?
 これは実感ですか?
    (TARO、横浜)



(宮崎正弘のコメント)小生はいつも明言しておりますが、中国共産党が嫌いで、非難批判を繰り返しておりますが、中国及び中国人を嫌ったことは一度もありません。「親中派」でないことは明確ですが「反中国」ではありません。
 現代中国の魅力は、文明的にそして、文化的に想像を絶する迅速さで変化しており、人間が意識の変革に追いつけない。とくに旧世代は取り残され、若いひとは跳んでいる。 
 そういうあたり、日本のようにある意味で落ち着いてしまった国と比較すると、はてしなくエクサイティングなんです。
中国人の大半が「我、常に戦場に在り」という緊張感を背負っているカラかも知れません。
 もうひとつの理由は、もはや小生も還暦を過ぎてそう若くないので、重いカメラを何台もさげての戦場通いがいやになったからでしょうね。潜在意識の中では。
 戦争中のベトナムやイラクのファオ半島なんぞ、となりに兵士の死体がありました。 
 いまおもえばぞっとします。
飛躍しますが、開高健の『輝ける闇』は、こういう文脈で最高傑作です。何回読んでも涙がでます。開高は駄作ばかり多いけれど、これは例外でしょう。



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(読者の声3)クルーズドの映画「南京」上映会に参集。結構のっぺりした仕上がりの作品でした。
アイリス本で有名な素裸の赤ん坊がひとり線路脇にいる写真、これを撮る前に大人がこの赤ん坊を抱えて撮影の準備をしている映像や、これ又あちこちで使われている十人以上の一族郎党を皆殺しにされ茫然と佇む老女の写真、その場面の映像など結構知られたネタを不用意に使っています。
靖国神社や日の丸斉唱、天皇陛下万歳シーンあり、その前後に無残に放置された中国人の死体、生きていても焼け爛れたり、肉を削がれたり、ひどく裂傷を負った中国人を映し出して、観客にそれらすべてを日本軍の仕業と思い込ませる。
最後に南京事件の死者数は25万人とのテロップが流れ、“南京事件の犠牲者を忘れない ”というアイリス本にある辞が刻まれていました。不束ながら短略なご報告まで。
   (HN生、神奈川)


(宮崎正弘のコメント)そうですか、実際に見た人から初めてのコメントを頂きました。
東中野修道さんの反論のなかの写真の合成や、季節はずれ、場所の異なるもの、どうやら日本軍ではなくて、中国的処刑など、あらゆる偽写真による反論は、論理を活字でならべるより、直截で印象が強い。
映画による反論は尚更でしょう。
 「南京の真実」映画製作委員会には記者会見いらい、ものすごい反響が連日寄せられています。「このままでは戦友に申し訳なく、このまま死ねない」と老人年金を送ってくれる90歳の元兵士もいるそうです。
 日本精神は廃れず。
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(資料)

<< 李登輝・前台湾総統の信念は不変 >>

 台湾で発行されている香港系の『壱週間』誌に発表された李登輝・前台湾総統のインタビュー記事を根拠として「李登輝は中国に媚びて台湾を裏切った」という非難がインターネットなどに発表されている。たしかに、このインタビューの見出しを見ると、そのような誤解もありうる。しかし、インタビューの内容を読むと、李登輝さんの考えに大きな変化はないことがわかる。李登輝さんの話によると、この記事自体があまり正確ではないようであるが、この記事を根拠に「李登輝は裏切った」というのは曲解であることが明白なので、ここに日文訳を紹介する。(R・K)
  ♪
台湾『壱週刊』2007年2月1日号
〔李登輝単独インタビュー〕

●私は大陸(中国)を訪問したい。台独を棄て、中国資本を引き入れる

 前総統李登輝はこれまでずっと「台湾独立のゴッドファーザー」と見られてきたが、1月29日に本誌の単独インタビューを受けたとき、彼は「自分は台独のゴッドファーザーではない。統一か独立かの論争は台湾ではすでに『ウソの問題』となりはて、ブルーとグリーンの陣営の闘争工具と成り下がっている」、「私はこれまで一度も台独を主張したことがなく、台独を追求する必要も、もはやないと考える」と公開で表明した。
 4時間にわたるインタビューのなかで、彼は「私の中国訪問を望んでいる人が、じつは中国にはたくさんいて、もし行ければ5千年前(訳注:2千5百年前の間違い)に孔子が列国を周遊した道をたどってみたい」ともらした。李登輝は、自ら統独(統一と独立)と両岸の問題に対する見方を新たに方向付けただけでなく、陳水扁は「ウソをつく人間」、「現在こそ黒金(腐敗社会)だ」、馬英九は「肝っ玉なし、迫力不足」だと、そっけなく評した。
 去年12月の台北、高雄市長選挙で台聯が大敗したので、前総統李登輝の国内政界に対する影響力はほとんどなくなったと見られたが、2ヶ月もたたない間に彼は元総統府秘書長の黄昆輝に台聯党主席を継がせ、党再編を行い、路線を中間左寄りに向かわせ、また党名も「台湾民主社会党」に改め、出直すつもりでいる。

●大陸に行きたいが、実現は簡単でない

 1月29日午後、李登輝は自宅の翠山荘で本誌の取材を受けた。「台独のゴッドファーザー」李登輝は、「じつは大陸(中国のこと)にはたくさんの団体と個人が、彼に中国を見に来て欲しいと誘っている。大陸に行ければ、5千年前に孔子が列国を周遊したルートを一通り回ってみたいな」と初めてもらした。「私が大陸に行けば、捕まえられるかどうかわからない。まあ、捕まえないだろう」と冗談を言うのだ。

 李登輝は続けて言う。「出エジプト記のルート、シルクロード、孔子の周遊ルート、日本の奥の細道は、いずれも世界に知られたロードだ。これらを生涯に機会があったら、まわってみて感想を書いてみたいな」。彼はこれらのルートを書いた日本語の写真つき解説書を持っていた。「孔子公の列国周遊ルートには詳しいよ」。
 大陸訪問は、彼の84歳の体が耐えられることの他に、現実の考慮もしておく必要があることはよくわかっているので、「現在、たくさんの人々が大陸を訪問しているが、もし個人の権力のための大陸訪問なら、私はしたくないね」と話した。

●台独を否認、中国資本に開放

 李登輝は本誌の取材中、世間の彼に対する反中国の印象を大幅にひっくり返した。彼は統独(統一か独立か)の立場を明白に示した。「私は台独ではないし、これまで一度も台独を主張したことはないよ」。両岸の関係については「大胆に中国資本の台湾導入を開放し、大陸の客に台湾を観光させるべきだ」、「大陸の人たちはみな特務だと見るべきではない」と主張した。

 統独と両岸の問題の他に、李登輝は政治指導者の人物についても品定めをした。総統陳水扁は「ウソつき人間」、国民党主席馬英九は指導者としては「肝っ玉がなく、迫力も不足だ」、彼が12年近くも相手にした対岸の前指導者江沢民は「言葉多く、やった仕事は少ない」、現任指導者の胡錦涛は「言葉少なく、黙々と仕事をやる」と、それぞれを評した。
 しかし、国民党名誉主席連戦は直接批評しなかったが、彼が政務委員のとき連戦の父親の連震東と事務室をともにしたことを思い出し、「この台湾人は官途につくのがうまくてね、私も見習うに値するんだよ」と笑った。

 彼が執政していたとき、本誌も世間が彼の黒金(腐敗)政治を批判していることに言及したことがあると言ったら、彼は「黒金は当時と現在、どっちがひどいの。現在の黒金のほうがひどいじゃないか」と反問した。「国安(国家安全局)の機密帳簿」に言及すると、彼はすぐ「実際は、国安に機密帳簿はないよ。帳簿はすべて一つ一つはっきりしている」と話し、陳水扁がこの件と国務機密費とを同列に論じているのを退けた。
 
●統独の問題はすべてウソ

 彼は台湾の生き残りを非常に心配している。藍と緑(ブルーとグリーン)両陣営の泥仕合が市民に禍を及ぼしていることについて、「早急に解決しないとダメ」、一つの危機だと認識している。彼の話のなかで、黄昆輝が改組する「台湾民主社会党」が演じる中間力に対する期待、そして同時に自分が政界の超然的地位を取り戻し、両岸関係および年末の立法委員選挙と08年の総統選挙における影響力をもう一度掌握することをほのめかした。

 李登輝はインタビューが始まるとすぐ、「台独のゴッドファーザー」と見られていることについて訂正した。「多くの人たちは私に対してそのような見方が非常に強いが、見てくれよ、わたくし李登輝の言論集25篇のどこに、私が台独を強調した文章があるのか」。言論のいくつかが台独に言及したことがあるとしても、主として台湾の民主化に関心をもつことにあっただけだ」と釈明した。

 「私が台独を追求する必要はない。台湾は事実上すでに一つの主権独立した国家だからだよ」。李登輝はさらに、執政当局が現在も「台独」を追求する主張をしていることにも反対している。「台独追求は後退であるだけでなく、危険なやり方だ。このようなやり方は、台湾を降格して未独立国家にさせ、台湾の主体性を損なわせるだけでなく、アメリカや大陸方面から多くの問題を引き起こすからだ」。

 李登輝は率直に話す。「民進党が『台湾独立を追求する』ウソの問題を製造すると、国民党は『反台独』の御旗を祭りあげる。実際は両陣営とも、統独を利用しているだけだ。毎日、統独をしゃべるが、どれもウソだよ。どちらも権力闘争に夢中だ。いまの台湾は民主化が停滞している。みな争いに夢中、これでは一番かわいそうなのは庶民だよ」。

●台湾新憲法、票だましのワザ

 「国民党は外来政権だ」とかつて言ったことはあるが、と李登輝はインタビューで初めて強調する。「いわゆる『外来政権』は事実上もはや存在しなくなった。現在は『台湾主体意識』の問題しかない。『本土』の問題も、もはやない。外省人や台湾人も、もはやない。台湾には族群問題はないのだ」。
 両岸関係の方面についても話す。「特殊な国と国との関係」が「両国論」と省略化され、はなはだしくは「台独」に間違えられたことについても、李登輝ははっきりさせた。「もともと両国論は私の本意ではなかった。私の言い方は『特殊な国と国との関係』であって、これは台独を主張しているのではさらさらない」。
 
「国際法上の台湾の主権の位置づけは過去に判例のない、はっきりしない状況だったので、蔡英文を英国に行かせ、9名の国際法専門家に『台湾はいったい一つの国家なのか』を教えてもらった。その結果、半数がそうだ、半数がそうではない、という分かれた答えだったので、台湾と大陸にある二つの独立政治実体の間の特殊な関係を説明するために、当時のインタビューで『特殊な国と国との関係』と言ったのである。

 「台湾はとっくに主権が独立しており、目下の重点は台湾を如何に国家として正常化させるかにある。たとえば、憲法第4条の国家固有の国境などの問題を改正するには、憲法修正または公民投票の方式を通して解決せねばならないが、現在はほとんどやれないでいる。民進党は『言うこととやることは別』で、憲法修正を使うと敷居が高すぎ、公民投票も困難累々、それでまだ『新憲法』を叫んでいる。それでは庶民だましだよ」。
 
●疎通する場がないから、両岸は解決難

 李登輝は、両岸が目下疎通する場が全然ない状況を非常に心配している。「私の執政時、両岸の疎通を制度化させるために国統会を成立させ、国統綱領をつくり、双方の交流を始めた。後に綱領に基づいて陸委会、海基会を設立し、疎通の場をつくった。そのほかに辜汪会談があって、両岸が対話した。これは両岸の最もよい場だった」。

 そこで李登輝は批判する。「しかし政権交代後、両岸にはコミュニケーションの場が一つもない。以前は政府間の交流が密接だったが、今は民間が自分達で密接に交流している」。

 「2001年以後、両岸は一つの交流の場であるWTOを使えた。たとえば、タオル、タイルなどの貨物の反ダンピングはWTOで話し合いができる。しかし、執政党はこの場を利用せず、中国の役人がいかにも怖くてたまらない。これでは台湾人民の生き残りのチャンスを確保できないではないか」。
 「両岸疎通の場が欠けているから、人民の経済生活にも影響している。私の12年の執政時、両岸の政治と経済活動は相当安定し、経済成長も少なくとも7,8%はあった。人民はその12年間で少なからず金を儲けたが、両岸の疎通が途絶えると、人民は金を儲けられず、あの12年間に儲けた金を使い出している」。

●積極開放、出る一方

 実際の両岸政策の方向について李登輝は話す。「民進党政府がとった『積極開放』は『出て行くロードを一本開放したが、戻ってこない』。しかも彼らの政策はしょっちゅう変わる。積極開放が積極管理に変わる。あきれるよ。台湾全体が一桶の水のように、水は流れてゆくばかりで、入ってこない。これで人民は生活できるのか」。
 李登輝は話す。「在任中に出した『戒急用忍』は大陸と関係を持つなということではない。経済はもともとツーウエイなのに、民進党はそれをワンウエイに変えてしまった。台湾の中国への経済依存度がアンバランスをもたらしたことに直面している今、退くのはもはや実質的に困難だ。だから中国との経済貿易アンバランスは、改めて検討しなくてはならない。このままワンウエイに資金、人材、技術を流失させてはならない。中国の資金を如何に引き入れるかの問題も、考えなくてはならない」。

 彼は香港を例に取った。「香港は1997年の主権返還後、経済情況は非常によくなかったが、2003年と翌年に中国と香港の双方が関係を結び、大勢の大陸の観光客を香港に来させて、物を食べ、物を買い、株式も香港で上場させたら、経済はよくなった」。

 李登輝はそこで、「大胆に中国資本を引き入れ、大陸人民を観光に来させるべきだ」と主張する。「大陸からの人間をみな特務と見てはいけない。そんなに肝っ玉がないようでは、何がやれるの。開放して彼らを来させて消費させ、台湾も世界のブランドが集まる場所にすればいい」。

●江沢民を批判、胡錦涛を持ち上げる

 李登輝の中国に対する態度が批判から開放に変わったことが、中国の現在の指導者の胡錦涛に対する評価にも具体的に反映した。胡錦涛は水利を学んだから、比較的に実務的だと言う。「言葉少なく、無駄話せず、黙々とやる。対台湾の統戦はソフトで強引な行動はとらず、台湾人民を崩れさせる。江沢民のように、言葉が多く、やることは少ない」とは違う。江沢民の『江八点』は何をやったのか。何もやってないよ。脅かしだけだ」。

 李登輝は分析する。「胡錦涛は08年の北京オリンピックと10年の上海博の前には、台湾に極端な手段はとらないはずだ。しかし、12年になると胡錦涛は交代させられる。その次の中国指導者がどう出てくるかはわからない。そのとき、両岸にまだ利用できる疎通の場がないと、非常に危険なことになる。08年に新しく就任する台湾の総統が、すばやく疎通するパイプと場をつくることを期待するしかない」。

 国内の経済政策について、李登輝は話す。「執政当局は目下経済政策に方向性がないから、投資者には投資できる新しい事業がない。今、銀行にはカネがジャブジャブだぶついている。1,2千万元のカネを銀行に預金しに行くと、銀行は要らないというのだ。その意味は、台湾には投資するチャンスがなく、方向がないからだ」。
 しかし、実際に台湾は材料とバイオテク方面で非常に大きな空間を発揮できると、彼は指摘する。「たとえば、母校のコーネル大学には私の名義で設立したナノ研究所があり、政府もカネがあり、投資して株主になれるが、利用の仕方がわからないでいる。政府は新しい産業投資奨励法を制定し、台湾の企業家が中国大陸で儲けたカネを戻らせて、はじめて台湾人民の生活を改善できる」。

 李登輝は、蒋経国時代に国内の石油化学のなかの下流の工場の整理再編を助ける仕事をしたことがあるので、石油化学工業にも詳しい。「たとえば、台湾プラスチックの6工場に政府は20万トンの水を供給したことがあり、現在は80万トン使っている。濁水渓ダムは供給十分であり、用水価格も一般水価格の三分の一だ。台プラは一年に何億も儲かっている。政府が台プラを助けたから、台プラはいま大いに儲かっているのだから、社会にお返しをするべきだ」。

●陳水扁はウソつき、受けて立たない

 国内の政治情勢に話が及ぶと、李登輝は昨年3月からずっと台湾が現在直面している危機存亡の問題を考えてきたと話す。「藍緑陣営の泥仕合の情況下では、今年から来年までに何か中間力が出現することを期待するしかない。黄昆輝が引き継いだ台聯が改組後、中間左寄り路線に移動し、台湾の新しい中間力になることに希望を寄せる」。

 陳水扁に話が及ぶと、李登輝の批判は遠慮しない。陳水扁はウソつきだとはっきり言う。どうしてかというと、扁・宋会合のあと扁が批判を受けると、それは李登輝が提案したから宋に会いに行ったと言い訳をしたからである。「非難されると、一人の老人のせいにする。事実でないし、受けて立つこともしない」。
 李登輝は今、扁と連絡がないことを否定しない。「彼が三立テレビのインタビューで何を話したか、私は聞きたくもない。人をよこしても、私は相手にしない」。本誌記者が彼に陳水扁執政7年の評価を求めると、「いや、いや」と断った。

●公義を堅持、扁支持は拒絶

 国務機密費について、李登輝は語る。「国務機密費事件を、阿扁は機密外交だと弁解する。しかし、外交は総統と関係があるが、総統府とは全然関係がないのだから、どうして国務機密費まで持っていけるのか。彼は当初、一審判決が有罪であれば降りると言ったが、後に危ないと見るや、任期終了後に自己弁護すると言い出す。今、彼はまた機密外交の内情は死んでも言えないと言い出す。これでは、どうやって自己のために弁護するのか」。

 李登輝は、自分は陳水扁と違うと言う。「私には神があり、神の思し召しには背けない。昨年、扁打倒ブームが起きたとき、一部の長老教会の台独派牧師が扁支持を公にしたので、ある家庭礼拝で彼らに話した。神の目には、牧師も信者も同じだ。生前に公義の精神を本当に維持するかどうかは、死ぬ前にだれでも審判を受けるのだと」。

●馬は肝っ玉がないので高く出る

 国民党主席を担ったことがある李登輝は、08年に総統選挙に出る可能性が高い馬英九を評す。「馬は確かに肝っ玉がない。馬は仕事を最後まで堅持しなくてはならないときに、批判を受けると、最後まで堅持できなくなる。気迫不足だね。これではいずれ、彼は問題を引き起こすよ」。

 「馬先生のいい点はクリーンだが、高すぎる話はせず、高すぎる標準はつくらない方がいい。降りられなくなるからだ。クリーンは当然やるべきだが、話さない方がいいときもある。馬については、彼がどうやり抜くかを見なければ、彼がいい指導者になれるかどうかわからない」。
 彼はまた、「馬英九はカリスマをやりすぎている」と言う。「総統になるにはカリスマづくりに凝る必要はない。あんなテレビや新聞には構わず、誠心誠意に自分の仕事をやり、正直に庶民と向き合えばいいし、庶民と政治のことを話せばいいのだ」。

●蘇・謝と会い、書を贈る

 民進党の蘇貞昌、謝長廷なども続々、彼に教えを乞いにきて彼の支持を求めている。「彼らはいずれも私に支持を求めたいが、私は彼らを支持するとは言えないから、彼らとは、指導者の条件について話すしかない。彼らに何冊かの本を上げ、家に帰って読めというだけ」。李登輝がいう本当の新世代の台湾の指導者の条件とは、国家観念を持ち、国家のために働きつづけ、次代のために努力する考えがなければならず、選挙の勝敗のためではないのである。しかし、新しい指導者には、このような考え方がどうも欠けているのだ。

 李登輝は言う。「多年政治に携わってきたが、最も満足に感じないのは、台湾が民主化したあとも、台湾人はどうも幸せを感じていないようだということだ。そして、執政当局が終始両岸の危機を正視していないことについて、「総統府の連続ドラマが面白いから、それを考える時間がないのだろう」と笑った。

  (これは資料として貴重な記録です。「台湾の声」から転載しました)
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<宮崎正弘の中国・台湾、北朝鮮関係著作>
 
『中国から日本企業は撤退せよ!』(阪急コミュニケーションズ刊、最新刊)
 『中国人を黙らせる50の方法』(徳間書店刊)
 『出身地でわかる中国人』(PHP新書、増刷出来)
 『中国よ、反日ありがとう』(清流出版)
 『朝鮮半島、台湾海峡のいま、三年後、五年後、十年後』(並木書房)
 『拉致』(徳間文庫、残部僅少)

<宮崎正弘の三島由紀夫論三部作>
『三島由紀夫“以後”』(並木書房、残部僅少)
『三島由紀夫はなぜ日本回帰したのか』(清流出版。絶版)
『三島由紀夫の現場』(並木書房、最新刊)
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(C)有限会社・宮崎正弘事務所 2007 ◎転送自由。ただし転載は出典明示のこと。
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