国際情勢

宮崎正弘の国際ニュース・早読み

 評論家の宮崎正弘が独自の情報網を駆使して世界のニュースの舞台裏を分析

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宮崎正弘の国際ニュース・早読み

2005/11/03

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「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 
平成17年(2005年)11月3日(木曜日)
     通巻 第1282号
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文化の日、全国的に天気も晴れの様子ですね。
本日は「ニュース解説」はありません。書評を三本お送りします。
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<<今週の書棚>>

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柘植久慶『中国の本当の危なさを知らない日本人』(PHP)
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 冒険作家の柘植さんから、何回か中国からの絵はがきを頂いて、それも結構な奥地、マニアックな場所から。太平天国の舞台を歩いているとの挨拶が添えられていた。
さすがは元外人部隊。体力はちっとも衰えないでご活躍が続くと思っていたが、それは三国志の旅(『三国志合戦事典』(PHP刊))などに結実した。
 余力を駆って、今度は中国論に挑戦である。
 一気に通読、いやはや面白いのだ。冒険作家の取材とは、こういう視点から各地に行って、ものを見てくるのかと感心させられる場面もいくつかあるが、銀行アナリスト、官僚エコノミスト、証券ストラテジストらの定点観測とはまったく違った中国経済へのアプローチが迫力に溢れ、しかも意外性に富み、有益な情報が満載なのである。
 大学生の失業の実態から、エイズ、水不足などについてはマスコミでも多少は語られるようになったとはいえ、柘植流の現地報告は一風変わっている。
どこが変わっているか。
かれはアフリカの奥地コンゴ、アルジェリアで外人部隊として参戦し、さらにはラオスでも特殊部隊として実際に戦争を闘ってきた。
戦争では食糧確保、水の確保、自分の力によっての本能的サバイバル技術が生きるか死ぬかの岐路を分ける場面が多い。
この法則から中国を眺めるだけではなく実際に現場を歩いて、多くの中国人と議論をした独特な“触感”が活かされている。
 不良債権、ノンバンクの破綻、生産拠点としての魅力崩壊、モラルハザードなど、全ての問題を「本能的」な直感をもとに議論しているところにも本書の魅力とダイナミズムが横たわっている。
 そして結論的に2008年オリンピックを待たずとも中国の崩壊が始まり、やがては三国に分裂していくだろうが、そのプロセスで進出した日本企業は人質化するだろうと、不気味な予測も説得力がある。
 だが、やっぱり柘植さんの異彩が放たれているのはテロ、サイバー、スパイ、兵器に関しての詳細な叙述であり、ある時はサンフランシスコの中国領事館の真ん前のホテルに双眼鏡片手に三日間張り込んで、実際のシリコンバレーにおける中国のスパイの動きまで克明に書き込んでいる。
おそらく次の小説につかうための取材だろうが、そういう意識から副次的にうまれてきた中国のルポゆえに、「えっ。本当?」という信じがたい情報にも納得がいくのである。
 この書評で、わたしは珍しく一カ所の引用のしていないのは、紹介するより、実際に手に取られた方が良いと判断できるからだ。


   ♪
上竹原康宏『一筆啓上 香港より』(文藝社)
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 著者の上竹原氏は、なんと36年間もの長い長い海外勤務を終えて、ようやく帰国された。赴任地は香港、シンガポール、台湾など。
 その貴重な海外経験のおりおりに綴った、聞きしにまさる現地での驚きの数々をエッセイ風に一冊に纏められた。
 評者(宮崎)がまず驚かされたのは山西省奥地の乳児売買。
 ある時、私も広州からの飛行機で、三十数組のアメリカ人夫婦が、赤ちゃんを買い取って(養子縁組して合法に)、米国へ集団で連れかえるという“異様な”光景を目撃したことがある。
中国にはいまも、赤ちゃんを売るシステムが存在することは広く知られていたが、山西省の山奥寒城村では、平均年収が2200元。赤ちゃんは数千元から一万元で、ちゃんと「出生証明書付き」で売られるという。
 農村で二人の赤ちゃんを産むのは以前から常識的だが、二人目が女子の場合、多くの農家は売ってカネに替えるという。だから貧困の農村にもテレビがある!
 香港には「ユダヤ人からカネを稼ぐ」人達がいる。
「利」にさとい中国人は「香港における資本主義下の華人であろうと、現共産党政権下にある中国人であろうと変わりません」と上竹原氏。
 華人ネットワークを利用して、商品を右から左へ動かしてすぐにカネにする商才は、ユダヤ人以上だと、現場の経験が幾重にも生かされた著者の証言が続く。
 シンガポール、マレーシアにも華僑ネットワークが根強いが、ここには印僑(海外インド人商人)のネットワークも強い。
 「中国系が三人寄るとギャンブルを始め、マレー系が三人寄るとバンドが始まり、インド系が三人寄ると組合を結成する」などという箴言が各所にちりばめられている。華僑商法を理解するのに大いに参考になる。


   ♪
王敏『中国人の愛国心』(PHP新書)
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 「愛国無罪」のくにが「歴史認識」に拘るというのは中国人が体質として持つ精神構造のゆがみからであるのだが、著者は一応、そう指摘しつつも、「それは日本人と思考回路が違うから」と弁明する。
 (回路がちがえば愛国暴力は、いつでも無罪なんだ?)
 愛国の根源は、中国人に儒教の精神が生きているからだと最初からぶったまげるような論理から本書は展開されている。
儒教精神? それが生きているのは日本であっても、それがうまれた中国ではない。仏教は印度にうまれたが、仏陀の足跡は殆ど印度にはないように、儒教精神なるものを中国人がいまも持ち続けているのは仏教的道教的な変遷をへて、変形し、さらに革命後おかしくなった残骸、形骸のようなものである。
付近を見回されたし。
日本の地下鉄車内で悠然とタバコを吸うのはだれ? バスの中、新幹線で辺り構わず大声で携帯電話に怒鳴っているのは誰? 先週、一流ホテルのエレベータのなかでどかどか乗り込んできた中国人の団体客は、そのなかで「ガァー。ペッ!」とタンを吐いた。同情していた日本人はあまりのことに目を白黒するばかり。
これが、しかし、豊かになった中国人の日常の立ち居振る舞いである。儒教精神?なにか寝言ではありませんか。
むろん中国の各地に孔子像が建てられたりはするが、山東省曲阜の孔子の総本山はお守りを求める観光客で俗化されてはいても、儒教の教えを説いた『大学』も『中庸』もおざなりである。売店では孔子様の尊い教えを説く書籍なんぞより、名物の酒を買う長い列ができている。
 「愛国教育」はあっても「反日教育」はない、と中国の外務大臣も、駐日大使も言明したが、それは「中国の教育は自強をめざしている」ために「『教育』そのものが『愛国』であり、そもそも『愛国教育』から教育は(中国では)始まったといえる」と王女史は本書のなかでいう。
 したがって「杜甫や屈原などが立派な知識人と見られているのは、彼らが国を思う気持ちを籠めた詩を読んでおり、愛国者と考えられているからだ」そうな。
 わたしは屈原の入水した屈原墓林にも入ったけれど、驚くなかれ参詣者は十人にもみたなかった。湖南省長沙から炎天下にバスで揺られ、タクシーを乗り継いで入った場所で、儒教を信じるという中国人の数の少なさに驚いたのだ。
 魯迅は共産党に祭り上げられて「文豪」になったが、かれ自身は「革命、革革命、革革革命」と叫んで逝った。革命後、中国共産党が魯迅を神格化したのは、愛国教育の教材で利用のしがいがあるからである。
 以下、近代まで日本をしらなかった中国、文化を重んずる中国、その中国で国民党への再評価が開始され、日本の川端康成が教科書に載った、といって「中国は反日一辺倒ではなく、変わりつつある」と結論する。
 どうやら本書は反日デモ以来、極度に中国への不信感が増大した日本への、一種老獪なる「弁明の書」であるようだ。
 しかし日本敵視をやめて、「新思考外交」を唱えた人達は? 党の嘘つき宣伝機関の中央宣伝部を粉砕せよ、と主張した北京大学助教授の運命は? 日本人と分かっただけで半殺しにされた日本人留学生が交番に訴えたら「色恋沙汰」で済ませようとした中国の官憲は?
 基本にある党支配の論理、党の奴隷としての教育、外交的すりかえとしての反日など、本質的な論議は一切ネグレクトされているのが本書の特色である。いや、本書はひょっとして高級な知識論争を装った、あらたな対日宣伝文書かも知れないなぁ。
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(読者の声)最近、鳥インフルエンザの脅威、猛威がマスコミを賑わしております。思えば貴誌の報道が一番早かったようですが、その後、この方面の後追い解説がありませんね。もう少し突っ込んだ解説が欲しいのですが。
というのは、私の赴任する台湾で先週も「中国からの「密輸」された鶏肉」が鳥インフルエンザのウィルスに感染しており大問題となりました。中国からの肉類の輸入は要注意です。
    (UI生、台湾)


(宮崎正弘のコメント)小誌は「早読み」とで題号にもありますように早期警戒的情報が主眼です。
ということは鳥インフルエンザが世界の話題となって日本のマスコミが大きく伝え始めた時点で、小誌の役割はおわっているわけで、今後は病原菌の特性、ウィルスの新型、或いは新薬のときなど、真っ先に報じたいと考えております。
       ◎ ○ ◎
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<< 宮崎正弘の最新刊 >>
『朝鮮半島、台湾海峡のいま、三年後、五年後、十年後』(並木書房、1575円)
http://www.nippon-nn.net/miyazaki/saisinkan/
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<< 宮崎正弘のロングセラーズ >>
『中国よ、“反日”ありがとう』(清流出版刊、1400円+税)
『瀕死の中国』(阪急コミュニケーションズ刊、1600円+税) 
http://deserveit.jp/am/asin/4484052083.html
      ☆
『中国のいま、三年後、五年後、十年後(改訂版)』(並木書房、1575円)
『世界経済のいま、三年後、五年後、十年後』(並木書房、1575円)
『中国財閥の正体―その人脈と金脈』(扶桑社、1600円プラス税)
『拉致』(徳間文庫、590円+税、以下同)
『ザ・グレート・ゲーム』(小学館文庫、476円)
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創刊日:2001-08-18  
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