国際情勢

宮崎正弘の国際ニュース・早読み

 評論家の宮崎正弘が独自の情報網を駆使して世界のニュースの舞台裏を分析

全て表示する >

宮崎正弘の国際ニュース・早読み

2005/10/28

△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△
「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 
平成17年(2005年)10月28日(金曜日)!)
       通巻第1274号 臨時増刊増大号 
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「企業買収屋が英雄になった」(後編)
     伝統文化を毀損する異常なM&Aの流行
**************************************** 

 ▲それにしても何故?
 
新興各社はどうしてこうも性急に放送事業の買収を狙うのか?
 アメリカに典型的な手本がある。
 新聞、雑誌、映画、CD、DVD、そしてソフトウエアのコンテンツ産業がIT産業に結合し、メディアを包括してゆく動きは、過去十数年のアメリカのメディア産業地図の変化そのものだった。
 
四大テレビネットワークの沿革を見よう。
 ABCは96年にディズニーが買収、ところがディズニー本体の経営がうまくいかず売却先を探す日々。
 CBSはWH(ウエスチングハウス)が買収したものの異業種ゆえにうまくいかず、その後、通信大手のバイアコムが買収してCBSを分社化した。
 NBCはマイクロソフト傘下だったが、その後、GEが統合し、さらにユニバーサル映画もくわえて「NBCユニバーサル」に。
 CNNはタイムワーナーが買収、その背後からAOLが買収し、「CNN・タイムワーナー・AOL」となる。
 
こうしたアメリカの戦国乱世を目撃した、日本の新しい経営者らは、自らの企業の未来をアメリカ通信産業に重ねたのだ。
 
しかし現実の苦言を呈しておくなら、ABC、CBS、NBCはそれぞれが経営がふらふらとなって失速状況。AOLは一千億ドルの赤字をかかえ、タイムワーナーは再びの分社化を歩み、結局は離合集散を繰り返すM&A攻防戦は仲介者と投資家を儲けさせただけに終わったのだ。
 
 
 ▲TBSの対応

 さて「ほりえもん」におちょくられたフジテレビの惨めな失敗以来、放送業界はかなり真剣にM&A対策を講じてきた。
 とくに敵対的買収の風土が希薄な日本では会社定款に従来なかったポイゾンビル条項などがくわえられた。

 すでにTBSは5月に、敵対的企業買収の防衛策として日興プリンシパルに800億円規模の新株予約権を発行することを決めていた。
 乗っ取り屋が敵対的買収手段を講じて、もし、TBSの発行済み株式数の20%超の株式を取得した場合、或いはTOB(株式公開買い付け)に踏み切ったりした場合を想定しており、そうした場合は日興プリンシパルが予約権を行使して株式を取得する。
 
こうすると株数が増え、買収を狙う側に打撃となり、被買収側が毒をもって毒を制することになり、避妊薬とかけて「ポイゾンビル」と言われるのだ。
 一時的に日興プリンシパルが大株主に浮上するが、結果的に敵対的買収者の持ち株比率を下げるという仕組みである。

 すでに実績も多く、日本のタワー・レコードが経営陣による企業買収(MBO)で米親会社から独立したときも日興プリンシパルが資金面で支援している。
 
また産業再生機構の支援を受けたカネボウとカネボウ化粧品の2次入札でも日興プリンシパルはコーセー(日本第三位の化粧品メーカー)と組んだ。
 かのライブドアとフジテレビジョンのニッポン放送争奪戦でも終盤戦で和解をお膳立てしたのは日興プリンシパルだ。

  だが防衛策どころの話ではなく、事態はさらに複雑化する。
 楽天がTBS株を大量取得し、経営統合を提案した直後、ライブドア(堀江貴文社長)がTBSに協力を申し出たことは述べた。
 ライブドアは、楽天がTOB(株式の公開買い付け)など敵対的買収行為に出てきた場合、TBSの要請があれば、株を持つ用意があるとした。
 
もっともほりえもんの売名行為は常習だから、TBSは慎重、楽天は「あれは目立ちたいだけではないか」と冷ややかだった。
 
ライブドアは、一方で通販大手のセシールを200億円前後で買収して話題をまいたばかりだが、じつはライブドア・フィナンシャルホールディングスも不動産担保ローンの「ビィー・ジャパン(東京・新宿、藤沢信義社長)」を買収、投資額は数十億円。消費者ローンのサービスにも打って出てきた。まるでダボハゼ商法のごとし。ほりえもん神話は崩れていない。


 ▲株式専門家の忠告

 株式評論家の三原淳雄氏は言う(同誌ネットコラム、10月14日付けより)。

 「またもや阪神電鉄やTBSの買収騒ぎに日本中が大騒ぎになっているが、この馬鹿騒ぎを見ていると、もはや日本には確固とした国としての軸足が失われてしまったのではないか、もしかしてその軸足があるとすればそれはカネになってしまったのではないかという感すらおぼえさせられてしまう。 
 こんなゼニカネばかりで日本が大騒ぎし、天下のNHKまでもニュースの時間の半分を使って報じているのだから、公共放送と呼ぶのは間違いではないかとすら思ってしまう。
 日本が馬鹿騒ぎしている間にも、中国は宇宙に有人ロケットを打ち上げ、米国と覇を競っているし、パキスタンでは大地震で大騒ぎとなっているのに、この二つの大事件から学ぶ姿勢すら失っている日本の現状を、もし先祖が生き返ってきたとしたら、慨嘆して再びあの世に帰りたくなるだろう」と。
 
 
 ▲野球ファンの反応

 末端のグループにも問題が発生した。
 TBS傘下のプロ野球「横浜ベイスターズ」の買収にUSENが名乗りを上げ、これまた野球ファンの不快感に囲まれ世論が硬化した。
 野球協約では複数球団の株式保有などを原則禁止しており展望は疑問だらけだが、USENは横浜の主催試合のインターネット中継を計画した経緯がある。関係者はプロ野球について「ブロードバンド上のコンテンツとして非常に魅力がある」と語っている。
 
 TBSはネットやM&A(企業の合併・買収)戦略で独自路線を打ち出した。
 手始めにレンタルビデオ大手のカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)との共同出資会社の増資に応じ、番組とDVDやネット連動の新事業を始める。楽天とは提携せず、ネット事業を伸ばす体制を固めた。
 TBSはCCCとの共同出資会社「TCエンタテインメント」が実施した二億億円の第三者割当増資に応じ、51%の株主となる。
 これにはTBSグループの毎日放送、CCCに近いサイト構築のアイ・エム・ジェイも出資に応じた。

 楽天は焦りだした。
 「TBSが買収防衛策を発動すれば、全株主が(TBS役員を相手取って株主代表訴訟を)起こすのではないか」と司法闘争にも打って出る構えを見せる一方で、グリーンメール(高値買い戻し)狙いを否定するために「当面はTBSと友好的な交渉を進めていく方針であり、TBS株を売って撤退することはない」と明言した。「無一文になってもやり遂げる」とも。

 しかし楽天には無理な資金繰りが祟っており軍資金の問題がつきまとう。
 三井住友銀行など4つの取引銀行が総額八百億円の追加融資枠を設定することで合意したが、すでに楽天は10月25日段階でTBS株を継続して買いつづけており、19%を取得、合計1100億円を投じている。
 敵対的買収風土のない日本で、これ以上邦銀が楽天に融資し続けることは考えられず、のこるシナリオは外資である。

 外野席もうるさくなった。野球ファンが騒ぎ出して楽天の味方も減ってしまったのだ。
 テレビ朝日の広瀬道貞会長は「両社の経営路線や価値観が異なり、トップ同士の意見が合わない。これでは統合の効果は得られまい」と述べ、楽天の戦略に疑問を示した。
 経団連も楽天の三木谷は「爺い殺し」と言われるほどだったが、様変わり、奥田禎会長以下がさかんに批判を始める。

 ベンチも陣容が強化された。
 TBSと楽天の攻防を巡り、両社に対応策や資金調達などについて助言する「指南役」が出そろった。
 TBS側には日興シティグループ証券と日興プリンシパル・インベストメンツに王者、野村証券。
 一方、楽天側は大和証券SMBCと契約を結んだ。

 海外勢ではTBSに米メリルリンチ、楽天には米ゴールドマン・サックス。それぞれ大手投資銀行がつき、泥沼試合の色彩を日々濃厚にした。とくにユダヤ人が経営陣に多いゴールドマンサックスは、99年にボーダフォンが独通信大手マンネスマンを買収したときの助言企業でもあり、「あくまでもディール(取引)だ」と主張している。
 そのうえポールソン会長じきじきに日帰りで来日し、三木谷社長と面会しアドバイスしているほど。ゴールドマンサックスは、この楽天のマネーゲームに本気なのである。米国本社が異様な力を入れているのだ。

  また楽天側のアドバイサーたちは「AOLとタイムワーナーの合併がうまくいかなかった」という格好の失敗サンプルを提示し、ネットのコンテンツ、放送、通信の融合が必ずしも円滑にいかない旨の反対論を構築している。
 逆に言えば、こうしたアドバイザーはマネー重視の専門プロ。交渉が難航すればするほど利益があがり、国益とか公共性とか、そうした倫理問題は二の次、双方が簡単に引き下がれない立場へ追い込まれたことを意味するだろう。


 ▲日本国も本気で対応に動きだした

 国が動いた。
 民間放送局に対する外国企業の出資規制を強化した「放送、電波両法」の改正案は10月26日に参院本会議で可決、成立した。

 現行法では外国企業が直接保有する株の合計比率を「外資比率」と見なし、議決権ベースで20%未満に制限しているが、改正後は、外国企業の日本法人などによる持ち株比率も外資比率に算入し、子会社などを通じた間接支配を規制対象とする。

 例えば外国企業が50%出資する日本国内の子会社が、ある放送局の株を20%取得するとした場合、同外国企業の放送局の持ち株比率は10%と見なされるようになる。すでに外国企業が本体として保有する株の合計が10%を超えていれば、子会社分も加え外資の合計比率が20%を超えてしまい、認められない。

 今回の改正はライブドアとフジテレビによるニッポン放送株の争奪戦が発端、ライブドアが米国リーマン・ブラザーズ証券から資金調達したことが国会で深刻に問題視され、自民党内から「外資の実質的な買収を防ぐためにも、間接支配も制限すべきだ」との声が上がっていた。


 ▲アメリカの乗っ取り屋たちの結末
 
 かくて日本におけるM&A活劇の華やかな時代は突如開幕し、ふらりと閉幕へ向かいつつある。
 小が大を乗っ取る楽しさは、嘗て80年代のアメリカで顕著だった。

 乗っ取り王ピケンズは性懲りもなく日本にまで遠征し、小糸製作所の筆頭株主へ躍り出た。
 カール・アイカーンは、TWA航空を乗っ取り、みずから経営の乗りだした。同社は数年を経ずして会社更生法を申請した。
 これらの乗っ取り王の内部情報に預かり、インサイダー取引で巨額の利益をあげたのが理論家で、投機家のアイバン・ボウスキーらだった。

 またこれらの乗っ取り王に資金を提供したのがジャンクボンドの発明者マイケル・ミルケンだった。
 名前からも用意に連想できるようにピケンズをのそいて全員がユダヤ人。かれらには「合法なら何でも挑戦しよう」というアングロ・サクソンの伝統を「合法すれすれ」のレベルから「より黒に近いゾーンでも展開しよう」と高度の法律テクニックを用いた。

 だが、社会的には異端者扱い、いくらアメリカが資本の論理で振り回されるとはいえ、不正義は不正義であり、法律違反は厳しく追及される。
 ボウスキーもミルケンも塀の中へ入り、生き延びたピケンズを待っていたのは離婚、自社の倒産、そして強度のストレスからくるうつ病との闘いだった。

 日本でも乗っ取りはそれほど古い商いではなく、横井秀樹も糸山英太郎も、いや東急をおこした五島某も、国際工業の小佐野賢治も西武の堤康二郎も業績を伸ばしたのは乗っ取りが基本だった。

 不正義な、アンフェアな乗っ取りは社会的制裁をやがて受けるだろう。
         ◎○◎○◎
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
      ☆ ☆ ☆ ☆
<< 宮崎正弘の最新刊 >>
『朝鮮半島、台湾海峡のいま、三年後、五年後、十年後』(並木書房、1575円)
http://www.nippon-nn.net/miyazaki/saisinkan/
      ☆ ☆
<< 宮崎正弘のロングセラーズ >>
『中国よ、“反日”ありがとう』(清流出版刊、1400円+税)
『瀕死の中国』(阪急コミュニケーションズ刊、1600円+税) 
http://deserveit.jp/am/asin/4484052083.html

『中国のいま、三年後、五年後、十年後(改訂版)』(並木書房、1575円)
『世界経済のいま、三年後、五年後、十年後』(並木書房、1575円)
『中国財閥の正体―その人脈と金脈』(扶桑社、1600円プラス税)
『拉致』(徳間文庫、590円+税、以下同)
『ザ・グレート・ゲーム』(小学館文庫、476円)
           ☆ ☆ ☆ ☆
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
◎宮崎正弘のホームページ http://www.nippon-nn.net/miyazaki/
小誌の購読は下記でご友人・知己・メル友の代理登録もできます。
http://www.melma.com/backnumber_45206/
(↑この左欄。過去4年分の小誌バックナンバーが閲覧可能です)。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(C)有限会社・宮崎正弘事務所2005 ◎転送自由(転載は出典を明記のこと)。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

規約に同意してこのメルマガに登録/解除する

メルマガ情報

創刊日:2001-08-18  
最終発行日:  
発行周期:ほぼ日刊  
Score!: 99 点   

コメント一覧コメントを書く

この記事にコメントを書く

上の画像で表示されている文字を半角英数で入力してください。

※コメントの内容はこのページに公開されます。発行者さんだけが閲覧できるものではありません。 コメントの投稿時は投稿者規約への同意が必要です。

  • コメントはありません。