国際情勢

宮崎正弘の国際ニュース・早読み

 評論家の宮崎正弘が独自の情報網を駆使して世界のニュースの舞台裏を分析

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宮崎正弘の国際ニュース・早読み

2005/07/25

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「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成17年(2005年)7月25日(月曜日)貳
      通巻1196号
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<<今週の書棚>>

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竹内修司『幻の終戦工作 ピース・フィーラーズ 1945夏』(文春新書)
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 文字通り“幻”に結果としてはおわった、或る終戦工作の物語だ。しかし幾百のミステリー小説より本書が遙かに面白いのは何故だろう? 

 1943年1月24日、カサブランカで記者会見したルーズベルト(FDR)大統領は「無条件降伏」なる“条件”をつけた。
これが「呪縛と」なって双方の和平が遅れた。
 それから一週間してガダルカナル陥落。「その翌日、スターリングラードでは30万のドイツ軍が壊滅し九万余が降伏した。四月には連合艦隊司令長官山本五十六が戦死した。九月にはイタリアが無条件降伏した」。
 同年11月、ルーズベルト、スターリン、チャーチルが蒋介石をまじえてカイロで密談、つぎに「英米首脳がスターリンとテヘランで会談して、連合国側の優位を世界に誇示した。テヘランでは、ドイツ敗北後の対日ソ連参戦が、密かに約束された」。筆者はこのように淡々と一切の感情を配して終戦までの歴史を叙する。
 こういう時期である。日米間に和平工作のルートがいくつか開拓されたのは。
 ソ連を仲介とする工作やら、自分から売名で乗り込んでいった終戦工作など、幾つかの和平工作は記録に残った。「パッケ工作」「リスボン工作」「ヴァチカン工作」さらに「ダレス工作」があり、後者は二つのルートがあった。
 これまで省みられなかったのは「バーゼルのBIS駐在の銀行理事北村孝治朗、同行為替部長吉村侃および同行顧問ヤコブソンとダレス」を結ぶ人脈ルートだ。
 ダレス工作の歴史の裏側である。
 銀行員?ヤコブソンって誰?というのが一般の反応であろう。ところが、当時のBISは、国家機関の出先であり、ヤコブソンの米国の信頼度は極めて高かった。
 しかも「このルートにおける終戦工作がもっとも成功確立が高かった」のだ。
もし「成功していたとすれば、原爆投下もソ連参戦もなく、本土のあまたの空襲による損害も免れていた」だろうと竹内氏は言う。
しかしながら、「当時の日本の指導者たちの情報感度の鈍さ、国家観念の固着、柔軟な発想の欠如、人命尊重の感性の希薄さ、国際的視野の狭さ、リスクをあえて冒す勇気の乏しさ、決断力の不足」によった、と竹内氏は鋭く問題点をえぐり出した。
 
 さるにても、なぜ舞台がバーゼルなのか。
スイスは当時も永世中立国であるがゆえに情報があつまりやすく、交通の要衝でもあったため各地から人も集まりやすく、さらには国際的機関が蝟集し、ようするに裏工作に適していた。諜報合戦の主舞台だった。
おりからイタリアが降伏し、ドイツが敗色濃く、ヒトラー暗殺未遂事件が起きる頃、和平工作は本格的に開始された。OSS欧州支部のトップがダレスだった。OSSは後にCIAに改編される組織である。
 このルートで最初の条件とは「無条件降伏の修正。陛下御安泰、憲法不変、満州国国際管理、朝鮮台湾は日本領土として残る」だった。
この条件は徐々に冒頭の?国体の維持と?明治憲法の存続、という二点に絞られていき、暗号電報が本国と米国とを行き交う。英国やロシアのスパイにも防諜され、漏洩していた可能性は残る。
 この和平工作の進捗は、結局、日本の指導者の勘の鈍さで成立せず、しかし、米国の最高指導者の耳には達していた。日本では天皇の耳にとどいていた可能性はひくい、と竹内氏は推定している。
 詳細はくどくど説明するよりは夏休みの読み物として本書にあたって頂いた方が良い。 終戦工作を、この工作のモデルに添ったかたちの小説にしたのは松本清張『球形の荒野』である。

 最終条件をつめたのはポツダムだった。ツェツェリンポフ宮殿でトルーマンとチャーチルとスターリンがひそひそと、ときにゴルフ、乗馬、ポロに興じながら日本の降伏条件を論じた。
 十数年前、このポツダムへ評者(宮崎)も、ベルリンからタクシーを雇って行ったことがある。
 ヤルタのリバーディア宮殿も見たことがあるが、敗戦条件をきめるという歴史の瞬間をかたちつくったツェツェリンポフ宮殿を是非見ておきたかったのだ。緑豊かな、公園の中には川がながれ、広大な敷地にはゴルフ場がある。この雄大な緑とのどかさに、かの終戦条件の過酷さが何故出てくるのか? しかもチャーチルは会議中に選挙で政権基盤を失った帰国し、蒋介石は参席せず、スターリンがきわめて有利となった。でてきたポツダム宣言にもられていた過酷さとツェツェリンポフ宮殿の優雅さはひどく乖離したものだった。
 竹内さんは元『文藝春秋』編集長。いま大学で教鞭を執られながら現代史の謎に歳月をかけて挑まれた。労作である。
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(休刊のお知らせ)小誌は地方講演旅行のため、7月27−28日付けを休刊します。
(誤植の訂正)前号で「磐南総研」が「盤」南総研と誤植しました。訂正します。
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『瀕死の中国』(阪急コミュニケーションズ刊、1600円+税) 
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『世界経済のいま、三年後、五年後、十年後』(並木書房、1575円)
『中国財閥の正体―その人脈と金脈』(扶桑社、1600円)
『拉致』(徳間文庫、590円+税、以下同)
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