国際情勢

宮崎正弘の国際ニュース・早読み

 評論家の宮崎正弘が独自の情報網を駆使して世界のニュースの舞台裏を分析

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宮崎正弘の国際ニュース・早読み

2004/07/20

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「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成16年(2004)7月20日(火曜日)
             通巻 第872号
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  デビアスのダイヤモンド独占システムが崩れつつある
   史上最強のカルテルにイスラエルの豪商レビ・レビエフが殴り込んだ
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 誰でしたっけ?
「ダイヤモンドは永遠なり」と言ったのは。そういえばイアン・フレミングの007シリーズにも、そういう題名の作品があった。

 異変はまず米国で起きた。
 デビアス(De Beers)社が米国市場に60年ぶりのカムバックを果たす見通しがでたのだ。
 嘗てデビアスは米電機大手GEと「共謀」して工業用ダイヤモンドの価格操作を展開した容疑で訴えられていたが、裁判で米司法省と司法取引が成立する見通しとなった。

 米国では独占禁止法が徹底しているためオッペンハイマー一族は米国への入國さえ認められなかった。
 デビアスは有罪を認め、一千万ドルの罰金を支払う。


 ▲日本でも直営店舗を開業

 ついで日本での異変。
 デビアスLVジャパンは都内デパートに直営店を開業した。それも三つ同時に伊勢丹新宿本店、松屋銀座店、高島屋東京店でダイヤモンドの販売を開始。これはロンドンの直営店舗につぐもので高級ブランドが飛ぶように売れる日本市場に新しい照準を絞り込んだともいえる。

  しかしそこまでデビアスが低姿勢に転換した背景にはよほど複雑な事情があるに違いない。

 デビアスは1888年にセシル・ローズが創設した(拙著『ユダヤ商法と華僑商法』(オーエス出版刊)を参照)。
 19世紀末にデビアスは世界のダイヤモンド産出量の九割を独占するまでに業績を伸ばした。
 以後、新しいダイアモンド鉱山の発見が続いて独占率は落ち込むものの鉱山からの原石購入を独占し、マーケットでの巧妙な価格操作に拠り、世界最大のダイヤモンド・カルテルを築き上げる。
  
 ドイツ系ユダヤ人、アーネスト・オッペンハイマーは若き日にロンドン有数のダイヤモンド会社から南アフリカに派遣され、キンバリー鉱山で十五年間、ダイヤモンド選別に従事した。

 ロシア革命の年(1917)にオッペンハイマーは金鉱経営に米国資本を導入、「アングロ・アメリカン」を設立した。
 このアングロアメリカン社が南アの金、ナミビア(当時はドイツ領南西アフリカ)のダイヤモンド鉱床の独占権を獲得し、南部アフリカのダイヤモンド生産の二割を寡占した。
 オッペンハイマーの独創とは「ダイヤモンドの価格安定」である。要するに原石から卸し、第一次販売、流通システムの独占体制構築を目指し、1931年に前人未踏のメカニズム=CSO(中央販売機構)を設立するのである。

 ダイヤモンド原石の生産、流通、販売過価格の一切をデビアス一社が制御し、このため世界中のシンジケートは同社の手加減ひとつでどうにでもなるという「輝かしき」時代が続いた。


 ▲ダイヤモンド「カルテル」の仕組み

 90年代の冷戦終了直後までオッペンハイマー一族のダイヤモンド独占体制は確固として揺るぎなく、全世界のダイヤモンド原石の80−85%はCSOが握ってきた。

 とくに宝石用原石はCSO傘下の「ダイヤモンド・パーチェシング&トレーディング社」の手で、重さ、色、透明度、スタイルに識別され、分類された原石は「サイト・ホルダー(メンバー)」のみに一方的に売り渡されてきた。
 この「サイト・ホルダー」の資格は経営状態、経営姿勢、血統、デビアスへの貢献度などの基準で、これまたデビアスが一方的に選定する。
 かれらがデビアスから”下賜”されるダイヤモンドを切断し、研磨し、加工する。とくに研磨産業はと言えばNY、テルアビブ、アントワープが三大拠点。
 いずれもユダヤ人の影響が強い。

 ところが80年代に、一度ダイヤモンド市場がバブルに巻き込まれて崩壊し、350社あった「サイトホルダー」が僅か百社になった。
 なにしろ「サイト」といわれる取引日には会員だけがロンドンに参加して、しかも一方的に市場の分析結果を通じてデビアスが原石を割り当てるのである。

 買い手であるにも拘わらず「サイト・ホルダー」は供与された原石、価格に異議を唱えることができない。それほど強固なカルテル、デビアスはダイアモンドの帝国であった。
 完全な価格操作で世界のダイヤモンド市場の需給バランスが保たれ、史上稀な仕組みが機能した。それ故に世界のダイヤモンド価格は安定してきた。

 ところが世界各地でダイヤモンド鉱山が次々と発見され、アンゴラ、中央アフリカ、シオラレオネ、オーストラリア、ロシアに拡がる。

 アフリカの戦争が拍車をかけた。
 コンゴ、中央アフリカ、アンゴラの内戦はデビアスの独占体制を側面から破壊してゆくのだ。
 とくにシエラレオネなどの戦争は別名「ダイヤモンド戦争」といわれ、アルカィーダまでが取引に介入、まるでダイヤモンド争奪ゲームになった。 

 シエラレオネの反政府軍「革命統一戦線(RUF)」は、ダイヤモンド鉱山一帯を軍事占領し、密かにダイヤモンドを売却し、かわりに武器を調達した。
 この買い付けにロシアやウクライナのマフィアが急行、替わりにロシア製武器が夥しく流入、隣国リベリアもこのダイヤモンド取引に容喙し、大統領一派の汚職の元凶ともなった。 

 なんとシエラレオネ政府は95年、南アフリカの傭兵を招き入れ、政府軍を再建。その報酬として「戦争の犬」たちにダイヤモンドの採掘権を与えた。
 同国から輸出されるダイヤモンドはデビアスのメカニズムを経由しない。殆どが密輸で、主としてベルギーに運ばれ研磨されていた(カットのスタイルでアントワープとNY、テルアビブの識別ができる)。


 ▲独占体制にアキレス腱があった

 ダイヤ市場独占によって膨大な利益を上げてきたデビアスにとって、アフリカ産のダイヤモンドの独自的な流通は目障りであり、当初、同社が講じた策とは、供給量増加によるダイヤの値下がりを防ぐための「高値買い取り」だった。
  そうやって相手を潰すのだ。

 オッペンハイマー一族は創始者のアーネストは死去したが、「息子のジョナサン、孫のニックが株式を引き継いでおり、依然として資産45億ドル、デビアスの40%の株主、アングロアメリカンの45%の株主」(英誌『エコノミスト』、7月17日号)。

 だが次々と発見されるアフリカのダイヤモンド鉱脈、そこで生産された原石の全てを高値で買い取ることは、もはや困難である。

  冒頭にのべた米国司法省との司法取引に前後して、デビアス独占体制を揺さぶる、もう一つ重大な動きがでた。

 6月28日、イスラエル豪商のレビ・レビエフがナミビアにダイヤモンドの鉱山を買い取り、しかもレビ直接の研磨工場を現地に立ち上げ、ヌジョモ大統領を招待したのだ。
 この工場は従業員550名、アフリカ最大、しかもナミビア大統領に近いレビは、政府とデビアス合弁の鉱山会社さえ、デビアスとの絶縁を進言している!
 
 冷戦終了とアフリカ内戦、ダイアモンドの密輸が供給バランスを破壊し、独占のメカニズムが大きな音響とともに崩れ始めた。
 
 ましてデビアス自体は研磨をしていない。
 研磨はサイトホルダーの仕事だったからで、この独占産業にレビ・レビエフは、土足で入り込んだことになる。
 もとよりダイヤモンド研磨業者としてのレビはすでに資産20億ドル、アルメニア、ウクライナ、印度にも研磨工場を持つ。レビ自身はウズベキスタン出身。トルコ系ユダヤ人ではないか、と囁かれる。


 ▲豪州やカナダや露西亜にもダイアモンド鉱脈が次々と

 過去十年の間に豪州、カナダ、ロシアでダイヤモンド生産の大企業が登場、いまではデビアスの世界占有率は55%にまで落下した。

 レビはこの間に独自の戦略を行使する。
 デビアスのサイトホルダーでもありながら独自のルートをアンゴラとナミビアで開拓し、とくにアンゴラではUNITA(反政府ゲリア)の支配地域にあったダイアモンド鉱脈がデビアスが独占していたのをひっくり返した。UNITAは冷戦時代、米国が支援したが、終了とともに米国に見捨てられた。
 そこでアンゴラ政府軍は、ゲリラ組織=UNITAの討伐に成功し、しかもアンゴラ大統領ドス・サントスとレビは親しい。

 さらに極め付きの異変がロシアで起きた。レビはなんとプーチン大統領に近づき、ロシア国営ダイヤモンド鉱山、研磨工場を保有する「アルロサ」を買収、民営化、ここからダイア原石をいくらでも入手できる立場を得たのだ。
 デビアスは「研磨は最新細微の技術であり、ナミビアやボツアナが現代のテクニックに追いつくのは容易ではないだろう」と反論しているが、事実上、デビアスの世界市場独占体制が崩れたのである。

 レビエフはさらに迅速に動いた。
 ナミビアについでボツアナ政府に接近し、アフリカ最大の研磨工場建設を打診、契約切れとなるデビアスとの金鉱発掘権をねらう。ボツアナ(南アの北側、ブッシュマンの國)にも豊富なダイヤモンド鉱脈がある。

 防御にまわったデビアスは販売面で先手を打った。
 デビアスはかの「LVMH」と契約し世界の有名店舗でデビアス・ブランドのダイヤモンドを販売する。
 LVMHとは言うまでもなくルイ・ビュトン、クリスチャン・デイオール、シャネル、イヴ・サンローランなど世界の一流品を束ねる会社である。
 
 対抗してレビエフは、世界の有名ブランドである「ブルガリ」と契約し、”レビエフ”ブランドのダイヤモンド販売にも乗り出す。

 ダイヤモンド市場に異変が起きるのはこれから。本格的な市場争奪戦となるわけだから価格は大きく崩れる可能性が高い。

 デビアスの”迷発明”のひとつは日本での映画コマーシャルだった。かの悪名高いコピィとは、「婚約指輪は給料の三カ月分」。
(誰がそんなことを決めたんだ!)。

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◎「新日本額」公開講座のおしらせ◎

拓大日文研主催の公開講座「新・日本学」が今秋開講されます。年齢、性別、学歴にかかわらず、「日本」に関心のある方ならどなたでも受講できます。小生も拓殖大学の客員教授として、一講を担当いたします。
受講お申し込みは「拓殖大学オープンカレッジ課」です。ふるつてご参加下さい。
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拓殖大学日本文化研究所所長よりご挨拶
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 国際化の只中で、日本文化をその根本から見直し、それをいかに自覚し、いかに表現するか。豊かな感受性を再確認しつつ、それを論理的に再構築すること、そして、それを異文化圏の人々に説得的に表現するにはどうしたらいいのか。それらが新日本学の趣旨であり、目指すところであります。
 戦後長きにわたってわが国の歴史と文化がおとしめられ、国民は普遍的な愛郷心や愛国心すら抱くことが困難な状況に陥っていました。しかし、もう、そんな時代ではありません。本講座はわが国の来し方行く末を政治・経済・社会・文化を含む総合的視野から考察し、新しい多角的な「日本学」を打ち建てようとするものです。
 国際社会の最前線で活躍するビジネスマン、ジャーナリスト、これから世界に羽ばたこうとしている学生たちが、異文化の人々に自国文化を自信をもって語り、ときに強く主張するときに、必ずや役立つ講座になると信じております。
 
             拓殖大学日本文化研究所所長 井尻千男
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【受講資格】年齢、性別、学歴にかかわらず、「日本」に関心のある方ならどなたでも受講できます。
【カリキュラム】10月5日より毎週火曜日午後6時30分〜8時30分

開講式/所長講話〈日本的自我の根本構造〉──美意識と倫理学(井尻千男)
大化改新と国体論の祖型(高森明勅)
御製について──明治天皇から昭和天皇(山内健生)
中国人と日本人・比較文化論(宮崎正弘)
朝鮮人と日本人・比較文化論(呉 善花)
海洋国家台湾と日本(黄 文雄)
散華の思想・日本の栄光と孤独(工藤雪枝)
東京裁判史観─自虐史観との戦い(藤岡信勝)
米国と日本・その過激なる歴史(藤井巌喜)
被占領期の日本政治──保守本流の問題点(遠藤浩一)
憲法と教育基本法改正への道筋(高坂節三)
日本的汎神論の世界──父性と母性(呉 善花)
日本的勤勉の精神──正三と梅岩(神谷満雄)
近代史像の再構築──江戸と明治(藤岡信勝)
近代史像の修正──比較植民地学(黄 文雄)
チベット人の見た日本文化(ペマ ギャルボ)
日本人における公と私──明治の復古革命以降(高森明勅)
ローマ人の見た日本文化(ロマノ ヴルビッタ)
日本精神史における「自由」(小堀桂一郎)
所長講話〈共同体の復活〉──国づくりの原理/閉講式(井尻千男)

【開講時間】午後6時30分〜8時30分
【会  場】拓殖大学文京キャンパス・国際教育会館
【募集人員】70名程度
【受 講 料】全20講義40,000円
【受講申込期間】平成16年9月8日(水)〜平成16年9月24日(金)
 ※先着順で定員になり次第締め切ります。
【出願書類】㈰受講申込書(縦3cm×横2.5cm以上の写真を添付する)。また写真1葉(受講証用として縦3cm×横2.5cmを添付する)
【提 出 先】(郵送ないし直接持参)
 拓殖大学オープンカレッジ課「新日本学」係
 〒112−8585 東京都文京区小日向3−4−14
 窓口時間:午前10時〜午後5時(土曜日は午後3時まで)
 ●お問い合わせ 03-3947-7166
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(お知らせ)小誌は7月24日から8月5日まで海外取材のために休刊します。◎
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◎宮崎正弘の新刊◎
『中国財閥の正体―その人脈と金脈』(扶桑社、1600円税込み)
『中国のいま、三年後、五年後、十年後』(並木書房、1500円+税)
『拉致』(徳間文庫、590円+税、以下同)
『ネオコンの標的』(二見書房、1500円)
『ザ・グレート・ゲーム』(小学館文庫、476円)
『胡錦濤 中国の新覇権戦略』(KKベストセラーズ、1460円)
『いま中国はこうなっている』(徳間書店、1500円)
『迷走中国の天国と地獄』(清流出版、1500円)
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創刊日:2001-08-18  
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