国際情勢

宮崎正弘の国際ニュース・早読み

 評論家の宮崎正弘が独自の情報網を駆使して世界のニュースの舞台裏を分析

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宮崎正弘の国際ニュース・早読み

2004/06/20

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「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成16年(2004)6月21日(月曜日)
           通巻 第852号
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 サウジ王室がこのまま安穏と存続する可能性はあるのか?
  迫る石油危機、イスラム原理主義政府。世界に拡がる不安
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 サウジアラビアで外国人を標的とした爆弾テロや銃撃、誘拐が頻発している。
 同國は人口2400万人だが、20%弱の840万人が外国人労働者。とくに3k現場はモロッコ、印度、パキスタン、バングラデッシュからの出稼ぎが占める。
 
 また10万人が日本を含む西側の技術者である(日本人は550名前後)。このうち六万五千人は英米からの石油技術頭脳労働者、ほぼ全員がサウジアラビアの石油を独占する国有企業「サウジアラムコ」との契約である(米国務省は米国籍が35000人と発表した)。

  彼らはサウジ国民との接点が殆ど無く、厳重に囲まれた壁の中の、まさに長崎出島のような「居住区」で暮らしている。
 ただし、そのなかではアルコールは自由、米欧のCATVは見放題。女性はビキニ姿で居住区内を歩こうが何もお咎めはない。

 アルカィーダが最大の庇護者でもあったサウジ国内でテロを開始した直接原因は、サウジ当局がテロリスト一斉摘発に転じて以降である。
 かれらはサウジを静かに乗っ取ろうとしていたが、遠大な計画を早期達成計画と置き換えたのだ。

 9・11テロ事件では犯人19人の容疑者のうち15人がサウジ出身だった。米国の同盟国だったサウジがテロリストの温床だったとは!

 米国は強硬に「テロリスト摘発」を要請したが、サウジ王室は種々の理由からアルカィーダに手出しできなかった。
というよりサウド家にとって「反米」は国是であり、ちょうど江戸幕府が攘夷を呼号する浪人の狼藉をとめられなかったように、イスラム保守派はアンタッチャブルな存在だったから寧ろ対米交渉の梃子として政治的にも温存してきたのだ。

 なにしろ王室のなか、秘密警察、軍とくに諜報部のなかにさえ、アルカィーダの同調者、秘密メンバーがおり、テロ対策の情報が筒抜けになる恐れがあった。


 ▲サウド王家の方針転換

 しかし昨年5月、アルカィーダに連なるイスラム過激派が首都リヤドで大規模なテロを計画していた事実が事前に発覚、ついにサウジ当局はイスラム保守派に隠れていたテロリストの一斉摘発に踏み切る。
 
 この間、03年5月12日にリヤドで爆弾テロ、11月にはリヤドのアラブ人居住区で自爆テロが起きた。
 
 ウサマ・ビンラディンの狙いは駐留していた米軍をサウジから追いだすことにあった。このため95年にはリヤドでの爆弾テロ、96年のアルホバル爆弾テロ。ところが駐留米軍は、イラク戦争の過程でラムズフェルト国防長官主導により昨年8月にサウジから撤退した。

 その後、過激派は「アラビア半島からすべての異教徒を駆逐する」と目的をエスカレートさせ、さらにはサウジ王室を敵にしたのである。
 
 4月、リヤドの内務省庁舎爆破テロが起きた。これは象徴的である。王室に牙をむいたことになるからである。

 5月29日、武装グループが石油関連企業と外国人居住区を襲撃、外国人7人を含む16人を殺害。このときサウジ警備当局はまじめにテロリストに反撃しなかった。
 6月6日、英BBC放送のテレビ・クルーが銃撃されカメラマンが死亡、有名キャスターが重症を負った。
 6月8日、防衛関連企業に勤める米国人男性が何者かに銃撃された。
 6月12日にはアメリカ人が銃撃され、死亡した。犠牲者は石油関連プロジェクトの電子機器会社に勤める米国人男性だった。
 またロッキード・マーチンのアパッチヘリコプター技術者ポール・ジョンソン二世が拉致され、届けられたビデオにジョンソンの囚人服は米軍がグアンタナモ基地に拘束しているイスラム過激派が着用と同じ服だった。
 6月18日、ジョンソンは殺害された。ただちにサウジ特殊部隊はテロリストの隠れ家を襲撃し犯人たちを射殺した。


 ▲軍事部門の指導者ムクリンは射殺されたが。。。。
 
 テロリストは現在、外国人や石油施設を標的にしているが、究極的目標はサウド家王室の打倒である。
 なぜならサウド家の財政は石油に依存しているうえ、石油の油田管理と発掘、採掘、精製、販売などはアラムコを経由して、欧米メジャーに依存している。財務、マーケッティングも欧米の専門家が行っている。

  同国の歳入の90%は石油である。
 テロリストがドル箱の石油パイプラインまでを攻撃目標にしだしたのは、国家の石油収入を激減させればサウジ王室の政治が麻痺すると考えているからである。

 石油施設は井戸、パイプライン、精製所および港湾である。外国人は集中して、こうした石油産業の中枢におり、警備は厳重を極める。したがって過激派は警備の薄い居住区に目標を定めたのだ。

 さて、サウジ国内にこうした過激思想に固まったテロリストはどれくらいいるのか?

 米軍情報筋に詳しい『STRATFOR』誌は「指令系統は三つの層で構成されている」と分析した(同誌6月15日付け)。

 表面的な軍事部門の統括者はアブデル・アジズ・アル・ムクリンだった(かれはジョンソン氏殺害事件主犯格とみられ、18日に射殺された)。

 ムクリンはアフガニスタンで軍事訓練を受け、アルジェリア、ボスニア、ソマリアで闘ったほか、北アフリカから欧州の秘密ゲリラ拠点への武器密輸の元締めと見られた。
アパッチヘリコプター技術者ポール・ジョンソン拉致事件の主犯格で、当局はムクリンを第一の「お尋ね者]として手配してきた。

 だが、ムクリンが死亡しても、テロリスト組織は極めて複雑でかつ多様な側面を持ち、これがアルカィーダ細胞だと一概には決めつけられない状態である。

 細胞はそれぞれが秘密メンバーとなっており、たとえばA細胞はB細胞を知らない。ネットワークは緩やかで、それぞれが作戦によって共同戦線を張ることがある。70年代のアラブ・ゲリラや中国の秘密共産党時代の組織と似ている。

 指導層は経験豊かな長老もしくは軍事のベテランで構成され、そのメンバーのなかには宗教学者、部族の長老、商人やビジネス・エリート、軍、特別警備隊、情報部などサウジ政府の軍の同調者が含まれる。
 当初、この指導層は600人から1000人規模と見積もられたが米軍の虱潰し作戦が奏功した所為で現在300人程度だろうという。

 指導層に直属するといわれる「軍事組織」はウサマ・ビンラディンに忠誠組が多く、あのアフガンで01年までにハードな軍事訓練をうけ、チェチェン戦争を閲した戦闘のベテラン揃い。
  一時、四万人がアフガンで訓練を受けたとされるが、このうちの一万一千人がサウジへ帰国した。
 軍事レベルのメンバーはおよそ5000から6000人と見積もられているが、そのうち八割がサウジ国内に逼塞し、次の命令を待っているという。

 この下部に存在するのが新人ルクルートのネットワークである。
 イラク戦争を米軍の侵略とみる若者達はアルカィーダに同調的であり、潜在的に数万の若者が、いつでも戦闘に加わる可能性がある。宗教学校の生徒や政府職員を首になった若者だ。

 これらテロリストの訓練キャンプは所在が不明なうえ、たとえ判明しても訓練不足で軍事戦闘能力にかけるサウジ軍では対抗できない。まして地方の部族はサウジ王家に反感を抱いているためゲリラに同調的なのだ。
 

 ▲サウジの石油が日本に来なくなる日

 サウジ王室はすぐに転覆はしまい。
 しかし米国の信頼を失い、国内にはアンチ王室の原理主義ゲリラが跳梁跋扈し、くわえて石油施設とエンジニアが狙われたとなれば石油増産による欧米日協力体制の構築など、日々困難になりつつある。

 ましてやテロ頻発以来、アラムコから多くの欧米人技術者がサウジを去った。かれらは親英米的なクエート、ドバイ、アラブ首長国連邦に新しい職場を求めた。それというもの米国国務省が防衛専門チームのサウジ派遣に躊躇したからで、いまやサウジ国内の外人居住区は警備当局そのものがアルカィーダに内通する幹部が多くて、安全保障上、危険この上ない。

 6月3日、日本外務省はサウジアラビアへの渡航に関して「危険情報」をだした。危険情報とは「渡航の是非を検討してください」というレベルで、渡航中止勧告ではない。

 サウジ王家は風前の灯火、しかし問題は石油の安定供給が破壊されるとき、西側の安全保障は超弩級の衝撃に見舞われるだろう。日本にそのときに備えたシナリオがある?
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(サイト情報)米国議会に対中政策を進言する超党派の諮問機関「米中経済安保検討委員会」(U.S.-China Economic and Security Review Commission)が2004年次報告書を議会に提出。報告書は中国が日本を抜いてエネルギー第2位の消費大国になり、その対策に中東のイランやスーダンにWMD関連の技術を移転していると指摘、今後の米中関係を懸念している。
?報告書フルテキスト(pdf, 296p): "2004 Annual Report to Congress," by U.S.-China Economic and Security Review Commission, June 15, 2004: 
http://www.uscc.gov/researchreports/2004/04annual_report.PDF
?プレスリリースと報告書概要: Press release & Key findings:
http://www.uscc.gov/pressreleases/2004pressreleases/04_06_15annual_report.htm
もしくは、
http://www.uscc.gov/pressreleases/2004pressreleases/04_06_15annualreport.pdf
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