国際情勢

宮崎正弘の国際ニュース・早読み

 評論家の宮崎正弘が独自の情報網を駆使して世界のニュースの舞台裏を分析

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宮崎正弘の国際ニュース・早読み

2004/06/10

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「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
 平成16年(2004)6月10日(木曜日)
         通巻 第845号
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「人質外交」を北朝鮮より巧妙に展開する中国
    台湾奇美実業いじめに見る近未来のビジネス俯瞰図
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 小泉首相が二回目の平壌入りはまるで朝貢の典型だった。

 空港に局長クラスしか出迎えず、ホスト役の金正日を逆に吹きさらしのロビィで賓客の筈の小泉首相が恭しく待ち、しかも会談はたったの一時間半、核問題をろくに論議せず、あげくにホストを丁重にお見送りし、さらにジェンキンズの説得に首相自らが一時間もかけるというポンチ絵が展開された。

 ひとえに武力解決ができない不能国家が陥った外交の隘路だが、これは山賊に土下座する図を世界に晒したことになり、巨大な身代金を支払う結果をみせつけることになった。この「人質外交」の効果を、ひ弱な日本が、かえって独裁者に教唆したことにもなるだろう。
歴史に特筆されるべき日本の恥辱である。

 巧妙な、より高等な人質外交を展開し始めたのは北京である。

 5月24日、北京は唐突に「中国内で商売をしている”台商”が「台湾独立」を支持することは歓迎できない」と言い出した。

 正確に書くと中国台湾弁公室スポークスマンの張銘清が記者会見で述べたもので、このときは所謂「台商」が誰なのか名指しはなかった。

 ついで5月31日、人民日報が名指しの非難を開始する。
 「緑色台商」である許文龍は「独派大老」だ、と言うのだ。
 「緑」は民進党のシンボル、台湾与党を意味する。台商というのは大陸へ進出した台湾企業、その経営者を意味する。そして「独派」とは「台湾独立支持派」であり「大老」とはいうまでもなく大ボスである。

 3月20日の台湾総統選挙で、「台商」の多くは国民党支持を鮮明にした。
  いや、せざるを得なかったと言うべきだろう。かれらの本心はともかく中国大陸で大々的なビジネスを展開する以上は北京に阿諛追従しなければならないからだ。
 
 台湾プラスチックの王永慶、エバグリーンの張栄発など国際的ビジネスマンらがその代表格で、そのうえ、投票日までに大陸在住20万人の台湾企業幹部は「国民党に投票するために」一時帰国すると喧伝された(実際には五万人前後が帰国したものの、本当に国民党に入れたか,どうかは疑問である)。

 6月6日、北京は許文龍率いる奇美実業の大陸における工場にあたらな銀行貸し出しを認めず、事実上の閉鎖ともとれる制裁措置を発表した。

 奇美グループは鎮江など中国各地にも電子部品などの工場をもつ。とくにLCM(液晶モヂューム)の大工場を折江省・寧波に建築している。
 資金調達を大陸の銀行から行ってきたが、これで開店資金の目処が立たなくなった。

 北京の許文龍いじめは、じつは8年前からである。
 
 1996年、李登輝前総統が初の民主選挙に臨んだおり許文龍は徹底的に応援した。北京は李登輝を「台湾独立の親玉」とみなし、投票直前にミサイルをとばして脅した。

 2000年、許は陳水扁総統の誕生におおいに貢献した。
  中国は「文攻武嚇」(言葉で非難し軍事力で脅す)で臨み、国民党が分裂していたため、台湾独立を標榜した民進党が勝利した。
許は両政権の国策顧問を務めた。北京は許を「独派大老」とみなす。そればかりではない。許文龍が親日派の台湾代表であり、日本の植民地時代を正面から評価していることを中華思想に固まる北京は許し難いのだ。これは同時に日本に仕掛けている中国の間接的な心理戦争の一環なのだ。

 直後、奇美実業の中国工場では原料の輸入手続きで意味不明の差し止め事件が起きた。原料を輸入できないと工場は稼働しない。一種の政治的嫌がらせである。続いて工場長が冤罪で起訴され、なんと懲役十年。
 この露骨な奇美実業いじめは、国際的にも大きく報道されたが、日本の多くのマスコミは黙殺した。

 結局、許文龍は2004年総統選挙で表立っての陳水扁支持ができなかった。

 そればかりか、自らの企業のトップを引退に追い込まれたのである。
 台湾の有力紙「自由時報」(6月7日付け)に拠れば、許文龍は6月15日の株主総会で奇美実業本体の会長職を辞任し、基金会(美術館などを経営)と病院の経営のみに携わると発表した。

 さて、この台商いじめは冒頭に書いた北朝鮮の人質外交の成果と本質的に同じである。

 台湾企業が大陸に楽天的に投資し、巨大な工場をもつことは、そうした財産が大陸に人質に取られることと同義である。

 いかに中国大陸での工場展開で労賃が安くとも、政治リスクを考えない投資は危険だ、と李登輝前総統が口を酸っぱくして訴えてきた。
 しかしビジネスマンは目先の利益、巨大なマーケット、競合的戦略行使という、その業界のもつ宿阿からも大陸進出を続けざるを得ない。

 さてさて結論は北朝鮮でも中国でもない。日本のことだ。

 日本企業は大工場を中国のそこいら中に建てた。トヨタも日産もホンダも。松下も三洋もシャープも。そして新日鐵が象徴するようにハイテクを中国に運ぶ。
 これらの投資はいずれ或る時期に、政治的人質化する。そのとき核ミサイルも空母も原潜もない日本の選択肢とは北京に土下座するしか手段がないだろう。
朝貢とは独裁者から無理難題を押し頂いてせっせとカネを運ぶことである。宗主国に一方的に貢ぐ行為である。

 その近未来の悪夢を、今回の台商事件は明瞭に示唆しているのではないのか。
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(資料)米誌『フォーブス』が選んだ世界企業のなかで中国関係の大企業のランキングは下記の通り
 
 〈「フォーブス2000」世界大企業ランキング 中国企業〉
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55位 中国石油(石油、天然ガス)  1137位 利豊行(貿易)
81位 中国石化(石油、天然ガス)  1159位 中華開発金融控股(銀行)
112位 中国移動(香港)(電気通信) 1169位 台湾大哥大(電気通信)
144位 和記黄埔(総合)       1192位 裕元工業(住宅用品)
202位 中国電信(電気通信)     1199位 仁宝電脳(ハード装置)
312位 国泰金控(保険)       1200位 瑞麗科技(半導体)
326位 中銀香港(銀行)       1209位 第一金融控股(銀行)
360位 台湾中華電気通信(電気通信) 1210位 台新金融控股(金融業)
383位 中国聯通(電気通信)      1226位 華南金控(金融業)
400位 台積電(半導体)       1241位 中国アルミ業(材料)
429位 新鴻基(金融業)       1277位 華夏銀行(銀行)
527位 長江実業(金融業)      1308位 友達光電(ハード装置)
554位 富邦金控(金融業)      1314位 宏基電脳(ハード装置)
573位 中海油(石油、天然ガス)   1331位 華潤創業(総合)
574位 南亜塑膠(化学)       1422位 彰化銀行(銀行)
589位 台塑石化(石油、天然ガス)  1447位 明基中国(ハード装置) 
592位 中電控股(公益事業)     1456位 新世界(建築)
597位 中国人寿保険(保険)     1485位 電気通信盈科(電気通信)
613位 宝山鋼鉄(材料)       1548位 聯想集団(ハード装置)
628位 中信金控(銀行)       1577位 Esprit控股(零售業)
641位 国泰航空(運輸)       1582位 ?昌電機控股(資本貨物)
655位 鴻海精密工業(ハード装置)  1583位 北京大唐電力(公益事業)
705位 太古集団(金融業)      1589位 建興科技(ハード装置)
739位 台湾中鋼(材料)       1627位 深セン発展銀行(銀行)
748位 招商銀行(銀行)       1668位 台湾中小企業銀行(銀行)
755位 香港地鉄(運輸)       1670位 大同股ブン(総合)
773位 中信泰富(総合)       1682位 ヤン州煤業(材料)
774位 兆豊金控(金融業)      1713位 国浩集団(金融業)
781位 華能国際(公益事業)     1735位 上海汽車(耐久消費財)
811位 香港電灯(公益事業)     1743位 駿威汽車(耐久消費財)
830位 聯華電子(半導体)      1778位 江蘇高速(運輸)
860位 恒基地産(金融業)      1821位 奇美電子(ハード装置)
885位 九龍倉(金融業)       1822位 新光金融(保険)
897位 東亜銀行(銀行)       1842位 広東電力(公益事業)
921位 台湾化学繊維(化学)     1874位 中遠集団(運輸)
941位 浦発銀行(銀行)       1879位 台湾電気通信(電気通信)
961位 広達電脳(ハード装置)    1892位 中国農業銀行(銀行)
980位 台塑(化学)         1899位 中華汽車(耐久消費財)
1063位 華碩電脳(ハード装置)   1902位 大新金融(銀行)
1090位 民生銀行(銀行)      1941位 永隆銀行(銀行)
1111位 中国人保財険(保険)    1973位 南方航空(運輸)
1127位 中華煤気(公益事業)    1976位 建華金控(銀行)
     〔北京娯楽信報2004年4月2日〕
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