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日頃、何気なく使っていることわざや故事成語が、どんな時代背景のもとで生まれたのか? 出典となった史書をひもときつつ、詳しく解説します。気が付けば、中国の歴史に詳しくなっているかも!? 

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故事成語で見る中国史(12)蛇足

発行日:11/22

故事成語で見る中国史・第12回

日頃、何気なく使っていることわざや言い回しの多くは、
中国の歴史に出典を求める事ができます。
耳馴染んだ言葉がどのような時代背景で生まれたのか?
歴史書の原典をひもときながら詳しく解説します。
現代にも生きている言葉から、中国史を浮かび上がらせてみましょう。

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蛇足(だそく)

あっても益のない余計な物事。あっても無駄になるもの。(広辞苑)

用例:「こんな蛇足をなすような事ばかりしているから、
      一向に効率があがらないのだ」

※スピーチなどで、一般によく知られている事や、
  余談などを付け加える時にも、謙遜して「蛇足ですが〜」と言います。

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(出典)【戦国策・斉策】より
楚有祠者。賜其舍人卮酒。舍人相謂曰、数人飲之不足、一人飲之有餘。
請畫地為蛇、先成者飲酒。一人蛇先成。引酒且飲。
乃左手持卮、右手畫蛇曰、吾能為之足。未成、一人之蛇成。
奪其卮曰、蛇固無足。子安能為之足。遂飲其酒。為蛇足者、終亡其酒。

(書き下し)
楚(そ)に祠(まつ)る者有り。其の舍人に卮酒(ししゅ)を賜(たま)う。
舍人相(あい)謂(い)いて曰く、数人之(これ)を飲めば足らず、
一人(いちにん)之(これ)を飲めば餘(あま)り有り。請(こ)う、
地に畫(えが)きて蛇(へび)を為(な)し、先ず成る者酒を飲まんと。
一人の蛇先ず成る。酒を引きて且(まさ)に飲まんとす。
乃(すなわ)ち左手(さしゅ)に卮(し)を持ち、
右手(ゆうしゅ)に蛇を畫(えが)きて曰く、
吾(われ)能(よ)く之(これ)が足を為(な)さんと。
未(いま)だ成らざるに、一人の蛇成る。其の卮(し)を奪いて曰く、
蛇固(もと)より足無し。子(し)安(いずく)んぞ能(よ)く
之(これ)が足を為(な)さんと。遂(つい)に其の酒を飲む。
蛇足(だそく)を為(な)す者、終(つい)に其の酒を亡(うしな)えり。

(語注)
○祠:春の祭り。
○舍人(しゃじん):雑務を司る側近。
○卮酒(ししゅ):大きな杯(さかずき)に盛った酒。
○子(し):男子の敬称。あなた。
○安(いずくんぞ):どうして。

(現代語訳)
楚(そ)の国に春の祭りをする者がいて、近侍(きんじ)の者たちに
大きな杯(さかずき)に盛った酒を振る舞った。近侍の者たちは
「数人で飲めば足りないし、一人で飲めば余ってしまう。ここはひとつ、
地面に蛇の絵を描いて、最初に描き上げた者が酒を飲むということにしよう」
と話し合いました。一人の者がまず蛇を描き上げ、
酒を引き寄せて飲もうとしながら、左手に杯を持ち、右手で蛇を描き続けて
「私は足まで描く事ができるぞ」と言いました。しかし、
まだ足を描き終わらぬうちに、他の人が蛇を描き上げ、
杯を奪い取り「蛇にはもともと足などないのだ。あなたにどうして
足を描く事などできようか」と言って、結局その酒を飲んでしまった。
蛇に足を描き足した者は、とうとう酒を失う事になった。

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(解説)

諸侯がしのぎを削る戦国時代、様々な需要に応ずるように、
諸子百家(しょしひゃっか)と呼ばれる諸学派の隆盛を見ました。
その中に「縦横家(しょうおうか)」という一派があります。
国際情勢を分析して独自の外交戦略を説き、
必要とあれば自ら外交交渉の任にあたる人々の事です。

縦横家がめぐらせた策略は、『戦国策』という書物に生き生きと記されています。
後に『史記』を編纂した司馬遷(しばせん)も、『戦国策』を大いに参照しました。
『戦国策』は、それぞれの国ごとに項目を立ており、
その中の「斉(せい)」の国の策には、次のようなエピソードが残っています。

楚(そ)の将軍・昭陽(しょうよう)は魏(ぎ)を討伐すると、
今度は矛先(ほこさき)を転じて斉の国に襲いかかる気配を示しました。
斉の閔王(びんおう)は大いに心配して、
陳軫(ちんしん)という人物に相談しました。陳軫は、昭陽と同じく楚の人で、
諸国を遊説(ゆうぜい)してまわっていた縦横家(しょうおうか)です。
陳軫は「ご心配なさいませぬよう、攻撃をやめるよう説得して参りましょう」
と言うと、閔王の使者となり、昭陽のもとに
説客(ぜいかく)として赴きました。(※1)

魏を討って意気揚がる楚軍に赴いた陳軫は、昭陽にまみえると、
まず恭(うやうや)しく戦勝のお祝いを述べました。
それから昭陽にこう尋(たず)ねました。「楚の国の法律では、敵軍を打ち破り、
敵将を殺した場合、その功績に対してどのような官爵が与えられるのでしょうか?」
昭陽が答えて曰く、「官は上柱国(じょうちゅうこく)となり、
爵は上執珪(じょうしつけい)となります」
陳軫が重ねて「それよりも高貴な位には、どのようなものがありましょうか?」
と尋ねると、昭陽は「その上には、ただ令尹(れいいん)があるのみです。」
令尹というのは、いまで言えば総理大臣にあたります。

当時、楚の令尹には、すでに他の人物がついていました。
その事をふまえて、陳軫は「さらに手柄を立てたからといって、
楚王があなたを昇格させて令尹を二人にする、という事はありますまい。
ここだけの話ですが、あなたの為にたとえ話をして差し上げたいのですが、
よろしいでしょうか」と言い、次のような話をしました。

「楚の国で春の祭りをした者がおりまして、その者は、
大きな杯(さかずき)に酒を盛って、近侍(きんじ)の者たちに振る舞いました。
近侍の者たちは互いに顔を見合わせると、「数人で飲めば足りないし、
一人で飲むには多すぎる。ここはひとつ、地面に蛇の絵を描いて、
最初に描き上げた者が酒を飲むというのはどうだろう」と話し合いました。

やがて、一人の者がまず蛇の絵を描き終えました。
そして酒を引き寄せて飲もうとしますが、杯を左手に持ったまま
誇らしげに「オレは足まで描けるぞ」と言うと、
右手で蛇の足を描き足しはじめました。
しかし、描き終わる前に他の人が蛇を描き上げ、
「蛇にはもともと足などついていないのに、描けるものか!」と言うと、
杯を奪い取って酒を飲んでしまいました。」

陳軫は「蛇に足を描き足した者は、結局、酒を飲むことができなかったのです」
と言い、こう続けました。「今、昭陽殿は楚の宰相となって魏を攻め、
敵軍を打ち破り、敵将を殺し、八つの城を攻略したうえ、
さらに斉を攻めようとなさっております。斉の国では、昭陽殿を非常に恐れており、
これだけでもあなたの名声は十分に高まりましょう。
しかも、もし斉と戦って勝利を収めたとしても、
これ以上昇進できる官爵があるわけではありません。
戦うたびに勝ったからと言って、ほどよいところでとどまる事を知らない人は、
その身は死ぬことになり、爵位は後任の者に帰する事になってしまうのです。
それはちょうど、蛇に足を描き足すようなものです」
昭陽はそれを聴くと、「なるほど、もっともな事だ」と納得して、
軍を解いて楚に引き上げて行きました。
陳軫が披露したこの逸話から、しなくてもよい不必要な事をすることを
「蛇足(だそく)」と言うようになりました。

「蛇足」はユーモラスでよくできたエピソードではありますが、
これだけの説得で勇猛な将軍が戦略を変えたというのは、
いくらか不思議に思えるかも知れません。あるいは
陳軫が説くまでもなく、「勝ちすぎない方がよい」という処世訓が、
社会通念となっていたのかも知れません。

『老子』にも「満足する事を知る者は辱めを受けない。
適度なところでとどまる事ができる者は、危険を回避して、
命を長らえる事ができる」という言葉があります。(※2)
戦争に勝ちすぎれば相手から激しく憎まれ、手柄を立てすぎれば、
主君や上司にかえって危惧(きぐ)を抱かせるハメになってしまいます。
陳軫や昭陽も、陰謀渦巻く宮廷や軍隊に長年身を置いた強者です。
さればこそ、敵国のみならず、自国の味方もまた自分を陥れる機会を
狙っているのだという事を、身を以て知っていたに違いありません。

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(※1)『戦国策・斉策』によると斉の閔王(びんおう)の時代の事ですが、
『史記・楚世家』では楚の懐王の六年の事とされています。
『史記』の記述に従うならば、斉は閔王ではなく、
威王の三十四年(前323)という事になります。
(※2)『老子・第四十四章』に“知足不辱、知止不殆、可以長久”と見えます。
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発行者だより φ(.. )

余計なものがついている事が「蛇足(だそく)」なら、
肝心なものが欠けているのは「画竜点睛(がりょうてんせい)を欠く」、
ともに絵にまつわる成語で、ちょうど対(つい)をなすようですね。
ところで、インターネットの普及に伴い、様々な情報を
いながらにして手に入れる事ができるようになりましたが、
膨大な情報の氾濫(はんらん)に見舞われると、
何が蛇足で何が蛇の本体なのかを見失いがちです。
ややもすると、「蛇足」なうえに「画竜点睛を欠く」なんて事にも
なりかねないような、漠然とした不安を覚える昨今。
それはさておき、楚の人が、蛇にいったいどんな足を描き足したのか、
ちょっと見てみたいような気もしますね。
それでは、また☆(2001.11.22)

次回予告「馬耳東風(ばじとうふう)」

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